新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.773、2008/3/12 14:27 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm

【商事・家事・株式・相続・株式の準共有・会社法106条(旧商法203条2項)・中小企業の事業承継】

質問:私は,昭和30年代に鉄工所を起こし,今では親族を中心に株式会社の形態で経営しています。世間で後継者不足が深刻化する中,幸いにも3人の子供たちのうち長男(現在,常務取締役)が後を継いでくれる目処が立っています。会社の株式の67パーセントを私が持ち,33パーセントを長男が持っていますが,私の株式の相続はどうなるでしょうか。妻に先立たれているので,相続人は,長男,次男(公務員),長女(専業主婦だが夫が当社従業員)の3人だけです。約22.3パーセントずつ均等に法定相続されるのであれば,長男が単独で過半数(55.3パーセント)の株式を持つことになるので安泰かと思いますが,問題はありますか。

回答:
1.貴方がお亡くなりになったあとのことなので、相続人の協議によることとも思いますが、御長男に株式の過半数を取得させ会社の経営の安泰を計るという希望は、実現できるかどうか不確定です。
2.と言うのは、法定相続により株式を相続分に従い御長男が取得しても、実際の遺産分割協議及び、株式の名義書換を終了するまでは、法定相続した株式を会社に対して主張することは出来ないからです。
3.その理由は、金銭の相続と異なり、株式の法定相続の場合は、遺産分割協議終了、株主名義書換までは全部の株式(67%)は共同相続人の準共有関係になり(民法264条)会社法106条の規定により、共有者の代表者1人しか議決権を行使することが出来ませんし、代表者は株式の価格により決定されますので、他の相続人との関係で過半数を維持できるかどうか不明であり、必ずしも御長男が過半数の株式を取得して株主権を行使できるとは限らないからです。
4.他に相続財産がある場合には、相続が紛糾し予期せぬ事態が継続する場合もありえるわけです。はっきりとした遺言により、御長男に相続させる株式の数を明らかにしておくことが大切です。

解説:
1.(問題の所在)貴方は、御長男に相続により会社の過半数の株式を取得させ会社の経営の安泰を計ろうとしていますが、株式を法定相続した場合の所有関係を明らかにする必要があります。貴方は当然に相続財産たる67%の株式が相続開始により分割されて、各相続人に帰属すると考えているようですが、必ずしもそうとは言い切れません。金銭は、価値が同一であり特定できませんから、相続発生により相続分に応じて当然に各相続人に帰属します。しかし、株式は会社の社員としての地位を意味しますので、1人で複数の株式を有することが出来、細分化している1つ1つの株式が内容において同一であっても、金銭と異なり各々個別的に特定できるものであり(これは、株券が発行されているか関係はありません。株券が発行されていれば番号があり明らかですが、株券は株式を表象するものであり、株券発行前でも同様です)相続発生と同時に相続分に応じ各相続人に当然に帰属するか問題があるからです。又、仮に相続により当然に分割帰属されないとすると、全ての株式について共有関係となってしまい、会社法106条の規定により「株式が二以上の者の共有に属するとき」に該当し、各相続人単独では株主権を行使できないことになり、御長男の地位が必ずしも安泰とは言えなくなるからです。

2.(結論)結論から言うと、株式の場合、相続発生により当然に相続分に従い分割されません。遺産分割により、遺産分割協議を終えそれに従い名義変更するまでは、会社との関係では共有関係(所有権以外の共同所有ですから、準共有になります。民法264条)になります。

3.(理由)以下理由を御説明いたします。
@株式とは、株式会社の株主すなわち社員たる地位を言います。したがって、1株の権利内容は同様であっても、株主の地位は株主により個別的に特定されていますし、株主として各々別個のものです。株主は1人で同一内容の株式を複数所有することができますし、株主名簿には「株主何某1000株」としか記載されていませんから、特定されていないようにも思いますが、そのように解釈できません。株券が発行されれば、各株式に番号が付され各株式の特定が具現化しますが、株券は株式を単に表象する有価証券ですから、その実体は元々特定されていると理論上認められるからです。

A又、個別特定がないということになると、遺産分割、名義書換前の譲渡、担保、権利行使について、相続したどの株式を各相続人が行使しているか不明となり、混乱し、二重譲渡、二重の権利行使を認める事態になり不都合です。

B更に、1株の権利内容は同価値であっても、株主の地位は、取得した株式に基づくものですから、どの株式を相続するかによって、株主としての地位に不公平を生ずる可能性があります。例えばA株式には、「自分が株主である」と主張する第三者が現れるかもしれませんし、B株式には「自分は質権を有している」と主張する第三者が現れるかもしれませんが、他方C株式には誰も異義を唱えないかもしれません。このように株式には、現金と異なり、個性がありますので、遺産分割協議により具体的に分割するのでない限り、株式数で法律上当然に分割されるとすると、不公平を生ずるおそれがあるのです。したがって、株式が相続された場合には、遺産分割により個別具体的にどの株式をどの相続人が有するか決めない以上、相続財産である株式は準共有の状態のままであり、社員たる地位を各相続人が相続分に応じ単独で承継する事は出来ないのです。

Cこれに対して、金銭は当然に分割されます。と言うのは、金銭は各々の価値が同一であり個別特定が不可能であり、権利行使する点おいて性質上特定個別化する法的意味が存在しないからです。銀行等に対する金銭債権について、判例も同様に解釈しています。尚、詳しくは当事務所事例集bR88、bU47号参照してください。

Dしたがって、相続された場合には、遺産分割により個別具体的にどの株式を各相続人が有するか決めない以上、社員たる地位を各々承継する事は出来ません。会社としても相続財産としての株式の具体的承継人を確定できませんから、株主としての権利行使に対して対応ができない事になります。これは、株券が発行されているかどうかに関わりません。遺産分割が出来るまでは、各株式(株式は議決権等請求権の集合体であり所有権ではありませんから)を相続人全員が共同で所有する関係準共有になるのです。法106条の「共有」という概念には勿論準共有を意味しますから、当該規定により各相続人の相続分による個別権利行使はできないことになります。

E判例も同様に解釈しています。
東京高等裁判所昭和四五年(ネ)第三一四〇号、同四八年九月一七日第十一民事部判決(各株主総会決議取消請求事件)  株式の性質上相続により当然分割にはなりえないと判断しています。判決内容は次のとおりです。「複数の株式を有する被相続人につき相続が開始し、相続人が数人ある場合、右株式が当然に分割されると解すべきではない。
 何故ならば、複数の株式を分割するとしても、一箇あるいは数箇の株式を共同所有するという関係は、換価しない限り依然として残存することを認めざるを得ない場合の起り得ることが避けられない(このことは、例えば、一〇〇〇株の株式を配偶者と二人の直系卑属が相続するという場合を想定してみても容易に理解できる。)から、金銭債権とは異なり数量的にも常に可分であるとはいえず、したがつて、複数の株式であつても可分性を有する財産権とみることはできないのである。仮りに、各相続人が整数の株式を取得することができ右のような事態は避け得られる場合であつたとしても、株券の発行されている本件のような場合(株券発行済であることは当事者間に争いがない。)、当該株券に化体された株式が複数であり(これが通常であろう。)、かつ、その株券も複数であるときは、各相続人が取得した株式がいずれの株券に化体されているのか確定できず、そのままでは株式の移転も譲渡もできないという不都合な事態が生ずる。相続人の相続分に対応する複数の株券があり、各株券記載の株式数が同数であるという極めて稀な場合であつても、ある相続人の取得すべき株券については、他に権利を主張するものの出現することもあり得るのであつて、当然に株券がそれぞれ各相続人に帰属することとなると相続人間に利益の均一性を欠くおそれがある。」

F大阪地裁昭五六(ワ)四四四〇号、五四八八号、昭61・5・7民六部判決(株主権確認請求・株主総会決議無効確認等請求事件)の判決内容です。「しかしながら、株式は単に一定の配当を受領する権利或いは売却して代金を受領する権利というような金銭的価値だけを有するにすぎないものではなく、議決権などの会社の経営に関与する権利を含んだ会社に対する株主たる地位を表章するものであって、民法四二七条の適用がある可分給付を目的とする債権ではないから、株式を共同相続した場合、遺産分割によってその帰属が定められない限り、共同相続人の準共有に属するものと解するのが相当である(最高裁昭和四五年一月二二日第一小法廷判決・民集二四巻一号一頁)」。以上のように遺産分割協議前の株式の準共有については、判例上確立しています。

4、(準共有の株式の権利行使方法)次に、株式について共有(準共有)であるとすると共有状態での株式、すなわち株主として権利行使をどのように行うか問題になります。この点について会社法106条は、「共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。」と定めています。そこで、「1人を定め」と規定していますが、どのようにして決めるか文言上明らかでありません。

5、これについては、共有持分の価格に従い過半数を持って定めるべきであると解釈することができます。その理由を説明いたします。
@準共有関係の株式における株主としての議決権行使は、民法264条により、共有規定が準用されますから、民法251条「共有物の変更行為」民法252条「共有物の管理行為」「保存行為」のどれに当たるかという問題になります。管理行為に該当すると解釈すべきです。管理行為とは、共有物であれば、共有物の現状維持行為と異なり(これは保存行為です)目的物を利用、改良し共有物の価値を高める行為を言うのですが、株式の議決権行使は会社の発展のために行使され会社の価値を高め、ひいては所有者である社員の地位、価値を高める事だからです。変更行為とは処分を含みますが、議決権行使は社員権自体の内容の処分、変更を意味しませんので「変更行為」に当たるとは評価できません。したがって、持分の過半数と言うのは所有権の割合という事ですので、株式で言えば権利内容は出資した価格を意味しますから「社員権持分の価格」ということになります。更に、本来会社法106条の制度趣旨は、共有関係の各権利者各自に権利行使を認めると、手続きが混乱し会社としての対応が複雑になり、会社の運営発展に支障が生じることを防止するころにあります。そうであれば、準共有者が独自に権利行使できる「保存行為」とは解釈できませんし、変更行為とすると全員の同意が必要であり議決権の行使の実態を奪ってしまい会社の経営上不当な結果になってしまうからです。

A最高裁判所平成五年(オ)第一九三九号、平成九年一月二八日第三小法廷判決(社員総会決議不存在確認請求事件)も同様の判断をしています。判決内容は以下の通りです。「持分の準共有者間において権利行使者を定めるに当たっては、持分の価格に従いその過半数をもってこれを決することができるものと解するのが相当である。けだし、準共有者の全員が一致しなければ権利行使者を指定することができないとすると、準共有者のうちの一人でも反対すれば全員の社員権の行使が不可能となるのみならず、会社の運営にも支障を来すおそれがあり、会社の事務処理の便宜を考慮して設けられた右規定の趣旨にも反する結果となるからである。」

6、(本件の検討)以上から、数字上から言えば、法定相続の場合、御長男が当然に会社の株式を過半数確保できる保障はありません。他のご兄弟が、結束した場合、持分の価格で御長男を上回る結果になり遺産分割協議前であれば、共有の代表者として選任され67%の株式を有する事を理由に会社の経営を自由にする事が出来るからです。対応策としては、御長男の取得する株式の数を特定し、遺贈する遺言書を作成して置くことが必要です。又、他の財産があれば、遺留分規定に反しないように配慮しながら遺言書を作成する事が肝要です。不安であれば、弁護士と協議しながら相続対策について今から考える事をお勧めします。電話、メールでも御相談ください。

≪条文参照≫

会社法
(共有者による権利の行使)
第106条株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。

民法
(共有物の変更)
第251条  各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。
(共有物の管理)
第252条
共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
(準共有)
第264条
この節の規定は、数人で所有権以外の財産権を有する場合について準用する。ただし、法令に特別の定めがあるときは、この限りでない。

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