新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.731、2007/12/25 17:15 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm

【民事・相続・遺言】

質問:母方の祖母が亡くなりました。私の母はすでに亡くなっており、相続人は私とおじだけです。相続財産として土地がありますが、祖母が亡くなってから、土地をおじと私の母に「相続させる」という遺言が見つかりました。ただ、私の母は祖母が無くなる前に亡くなっています。この遺言はどのような効力がありますか。私が土地を半分もらうのに支障はないでしょうか。

回答:
1.このような遺言の効力について
昭和62年6月30日法務省民事局回答は、「相続させる」という遺言の文言であっても、このような遺言は、遺贈と同様に扱うこととし、例えば、「あなたのお母さんが先に亡くなった場合には、あなたに相続させる」、というような文言が無い限りは、遺贈についての994条1項と同様に考えて、あなたのお母さんに関する部分の遺言の部分は無効であるとして扱うべき、としています。その後の下級審判例も、本件と同様のケースにおいて、遺言者の死亡以前に、相続人が死亡している場合に、代襲相続人に特定財産を相続させる旨の記載が無い限り、遺言の該当部分は無効であるということを前提に判断をしていました。(札幌高決昭61・3・17、東京地判平6・7・13、東京地判10・7・17、東京高判平11・5・18など)

ところが、近時、東京高裁平成18年6月29日の判決で、同様のケースで遺言の該当部分を相続分の指定(民法902条)と判断し、代襲相続人の相続分の指定として認めるとする判断がなされました。両者の結論は相反するものです。現時点で法務省民事局の回答は変更されていませんし、最高裁の判断も示されていませんので結論としては微妙といえます。

2.遺言が部分的に無効だとした場合の結論
おじさんについての遺言は有効ですから、おじさんは遺贈を受けることにより不動産の2分の1の持ち分をまず取得し、次に無効となった遺言の対象である土地の2分の1の持ち分については、通常の法定相続分に従い、おじさんとあなた(お母さんの代襲相続人)の4分の1ずつの共有となり(民法898、900条)、結果としては、おじさんが4分の3、あなたが4分の1の共有ということになります。もちろん、この結論は法定相続の場合の結論です。遺産は相続人全員の遺産分割協議により話し合いで最終的に決まりますから、相続分2分の1についてどのように分割するかは相続人の話し合い(「遺産分割協議」といいます)で決めることができます。

また、おじさんが遺贈を受け取得した2分の1の持ち分については特別受益として持ち戻して計算することになります(民法903条)。仮に相続財産がこの不動産だけだったとすると持ち戻すことによって不動産の4分の4が相続財産となりおじさんの相続分は4分の2になり遺贈を受けた4分の1を差し引くと相続分は4分の1となり結局おじさんの取得できるのは4分の2となります。従ってあなたの相続分も4分の2となります。なお、持ち戻しは遺産分割協議においてあなたが主張しないと認められませんから、あなたの主張がない限りは4分の3がおじさん、4分の1があなたの共有持ち分となります。

3.遺言が有効とした場合の結論
この場合は、相続分の指定としてその効力が認められ、おじさんとあなたの相続分は各2分の1の共有となります。

解説:

1.遺言に「相続させる」という文言がある場合、遺産分割方法の指定と解するのが、言葉の解釈としては妥当と思われます。しかし、他方で民法は、特定物の遺贈についても認めており(民法964条)相続とは別個に、相続人に特定物を遺贈する場合も、相続させるという文言を使用することも考えられることから遺贈と解することも可能です。そして、遺贈と考えると民法994条1項は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡した場合、遺言は無効としていることから、このような遺言は無効となってしまいます。そこで、遺産分割方法の指定なのか、遺贈なのか問題となります。

2.そもそも、「相続させる」という遺言が相続分の指定なのか、遺贈なのか解釈が問題となったのは、次の点にありました。まず、不動産の相続登記に必要な登録免許税が相続なら不動産価格の6/1000、遺贈だと25/1000となっていることから、「相続させる」という文言を使って本来は遺贈であっても登録免許税の安くなるような遺言書を作成するという実務(特に公証人が作成する公正証書)が行われていたこと、また、遺贈としてしまうと、所有権移転登記をするためには、遺贈義務者である相続人全員と受遺者の共同申請になるという登記実務があったため、「相続させる」という文言が使用され、このような文言を登記原因とする「相続登記」を登記実務でも認めていました。

ところが、このような相続の登記を認めていたところ、裁判所が登記抹消請求等の事案で、遺言で「遺贈」と明示しないかぎりは、その遺言は遺産分割方法の指定(ないし、相続分の指定を伴う遺産分割方法の指定)であって、遺産分割協議を経ない限りは物権移転の効果は生じない、従って、相続登記は無効という判断を前提とした判決を次々と出した時期があり、このような背景のもと、「相続させる」という遺言の文言は実質は遺贈と考えた方が良いのではないか、という問題が議論されるようになったのです。そこで、平成3年4月19日の最高裁判決は、「相続させる」との遺言は、特段の事情のない限り、「遺贈」ではなく、「遺産分割方法の指定」であるが、「何らの行為を要せずして、被相続人の死亡時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される」として、相続の登記が有効であるということで、その妥当性を計り、「相続させる」という文言については遺贈ではないということで決着がついた、と言われています。

3.とすると、一番初めに述べた民事局通達について、「相続させる」という遺言を「遺産分割方法の指定」(相続)と考えるなら、994条1項の問題ではなく、代襲相続の問題となるはずで、平成3年の最高裁判例と矛盾するのではないかという疑問が生じます。この点に関しては、この最高裁の判例も上述の通り、「相続させる」という遺言を「遺産分割方法の指定」(相続)としながらも「何らの行為を要せずして、被相続人の死亡時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される」として、遺贈とも捉えることができるような言い回しをしていることもあり、上記の民事局回答は平成3年の最高裁判例と明らかに矛盾するものではないと解されてきました。

実際、すでに紹介したように、その後の下級審判例も、本件と同様のケースにおいて、遺言者の死亡以前に、相続人が死亡している場合に、代襲相続人に特定財産を相続させる旨の記載が無い限り、遺言の該当部分は無効であるということを前提に判断をしていました。(札幌高決昭61・3・17、東京地判平6・7・13、東京地判10・7・17、東京高判平11・5・18など)これらの判例は、遺言を無効とするのに、上述した遺贈と同視できるという理由のほか、相続分の指定といっても遺言時にいない相続人(代襲相続人)に相続分を指定することはできないということを理由としています。

4.ところが、近時、東京高裁平成18年6月29日の判決で、同様のケースで遺言の該当部分を有効とし、代襲相続を認めるとする判断がなされました。この判決は、「代襲相続は、被相続人が死亡する前に相続人に死亡や排除・欠格といった代襲原因が発生した場合、相続における衡平の観点から相続人の有していた相続分と同じ割合の相続分を代襲相続人に取得させるのであり、代襲相続人が取得する相続分は相続人から承継して取得するものではなく、直接被相続人に対する代襲相続人の相続分として取得するものである。」とした上で、「相続人に対する遺産分割方法の指定による相続がされる場合においても、この指定により同相続人の相続の内容が定められたにすぎず、その相続は法定相続による相続と性質が異なるものではな」いから、「相続させる」という遺言について、その名宛人が遺言者より先に死亡していたとしても、代襲相続を認めることが、代襲相続制度を認めた法の趣旨に沿い、また、それが、被相続人の意思にも合致し、相続人間の衡平に資するのであり、かかる遺言を遺贈と解釈するのは妥当でないとしています。

従来の判例等は、実質的には、遺贈に関する994条1項との均衡を重視し、また、被相続人は、死亡した相続人の利益のためだけに遺産分割方法の指定をしたのであって、当該相続人が先に死亡したことで、この相続人が被相続人を相続することはありえなくなったとみるべきことなどを理由としていましたが、今回の判例は、逆に、上記最高裁判例が「相続させる」との遺言について、遺贈では無く遺産分割の指定(相続)としたこととの整合性を重視し、また、また、そのように解することが、代襲制度を認めた法の趣旨、被相続人の意思に合致し、相続人間の衡平に資するとしたわけです。

この相違についてですが、私見にはなりますが、994条1項の趣旨、代襲制度の趣旨、相続人間の衡平、いずれも重要なのであり、結局のところ、被相続人が「○○に相続させる」という遺言を残した趣旨が、その相続人に相続財産を与えるが、その孫には与えないと言う趣旨なのかどうか、その遺言が有効か無効かは、遺言の解釈の問題に尽きてしまうのではないかと思われます。そして、無効と考える従来の判例も、「相続させる」という遺言について、少なくとも上記平成3年の最高裁判例以降は、遺贈と捉えるから無効というのではなく、「相続分の指定」と捉え、ただその実質は「遺贈」であるので、994条1項を類推適用する、ないし趣旨に鑑みて無効と考えていたのだと思います。

上記の高裁判例については、今回のように遺言で相続分の指定を受けたものが、被相続人より先に死亡した場合に、代襲相続を遺言に明示しない限り、当然にその部分については無効という紋切り型の判例の流れがあったところ、遺言者の意思を事例ごとに解釈して、その部分の遺言につき有効な場合がありうることを示した点について意味があるものと考えます。実際、上記高裁判例も、有効とする解釈をとることが、被相続人の遺言時の意思に反しないかを「念のため」検討するとして、問題となった公正証書遺言の作成後、かつ、当該公正証書遺言で「相続させる」とした相続人の死亡後に、被相続人が作成途中であった(印鑑がおされていなかった)自筆遺言に、代襲相続人である孫について財産を与える趣旨が読み取れたという事実を認定していますので、遺言者の意思を意識していることは明らかです。従って、当該遺言が、「相続分の指定」(相続)であることを理由に、当然に遺言は有効であり、また、相続であるから理論的に代襲相続をするということまでは言いきれないと考えられます。そうでないとすると、遺言時の解釈として、孫を排除する意思であったと思われるときに、どのような理屈でその部分の遺言を無効と考えるのか整合性の問題は生じると思われるからです。いずれにしろ、上告審の判断が待たれるところです。

5.もっとも、従来の判例の考え方をとっても、今回の判例の考え方をとっても、あなたのケースの場合、結論として、あなたは、土地の半分にあたる部分が相続分になるということは変わらないと思われます。というのは、従来の判例の考え方をとり、お母さんに対する部分の遺言が無効であると考えても、有効とされる部分の遺言によって、おじさんに与えられる土地の半分は「特別受益」(民法903条)により持ち戻しされることになり、結果、双方の取り分については、法定相続分と異ならないという結論が導かれることになるからです。特別受益については条文上「遺贈」が対象ですが、上記のような一連の判例の考え方は、「相続させる」という文言を遺産分割の指定(相続)ととらえつつも、遺贈的に考える訳ですから、「特別受益」と考えることは十分可能ですし、これまでの多数の裁判例もそのように解釈してきているようです。

≪参考条文≫

(共同相続の効力)
第898条 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
(法定相続分)
第900条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
1.子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする。
2.配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、3分の2とし、直系尊属の相続分は、3分の1とする。
3.配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、4分の3とし、兄弟姉妹の相続分は、4分の1とする。
4.子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。
(受遺者の死亡による遺贈の失効)
第994条  遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。
2  停止条件付きの遺贈については、受遺者がその条件の成就前に死亡したときも、前項と同様とする。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
(遺言による相続分の指定)
第902条 被相続人は、前2条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない。
2 被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前2条の規定により定める。
(特別受益者の相続分)
第903条  共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2  遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3  被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。
(包括遺贈及び特定遺贈)
第964条 遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。ただし、遺留分に関する規定に違反することができない。
(受遺者の死亡による遺贈の失効)
第994条 遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。
2 停止条件付きの遺贈については、受遺者がその条件の成就前に死亡したときも、前項と同様とする。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

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