新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.689、2007/10/23 17:22 https://www.shinginza.com/qa-fudousan.htm

【不動産・借地借家法】

質問:私は,昨年分譲マンションを購入したばかりなのですが,来年から3年間地方に転勤することになりました。転勤の間だけ,マンションを他人に賃貸したいのですが,そのようなことはできるのでしょうか。

回答:
1.はじめに
通常の賃貸借契約によってマンション等の建物を賃貸した場合,借主は,借地借家法という法律で保護され,貸主が期間満了の1年前から6か月前までの間に契約の更新拒絶をしなければならず(同法26条),しかも「正当事由」がないと更新拒絶は認められず,契約は自動的に更新されることになってしまいます(同法28条)。そこで,あなたのように転勤の間だけ建物を賃貸したい場合には,通常の賃貸借契約ではなく,定期建物賃貸借契約を締結することになります(定期建物賃貸借契約に基づく,契約期間の満了により終了する借家権を,通常の借家権と区別して「定期借家権」といいます。)。定期借家権は、契約で定めた期間が満了した際には契約は更新されることなく終了し,正当事由も不要ですので,立退料等の支払いもいりません。

従来の借家法においても、一時使用貸借という特別の契約を結ぶことにより期間満了により更新しないという契約を締結することはできました。しかし、その場合も本当に一時使用なのか否か争いが生じると、裁判を起こして一時使用か否かを判断してもらうという手続きが必要になるため、本当に一定期間だけに限って賃貸することは大家にとっては期限が来ても裁判をしないと返してもらえないという危険を除去することはできませんでした。そこで、そのような場合は即決和解という裁判所の手続きを利用して賃貸をするという裏技のような方法をとることもありました。しかし、住宅事情も改善され転居が容易になったという社会情勢も考えて、もっと一時使用での賃貸物件を用意できるようにしようということから、定期借家契約を新設することになったのです。そこで、次のような要件が必要とされています。

2.定期借家権の要件
定期借家権が認められ,期間満了による賃貸借契約の終了を主張するには,以下のような要件が必要とされています。
@賃貸人の書面による事前の説明義務(同法38条2項)
賃貸人は契約の前に「定期借家権は更新がないこと」かつ「期間の満了により賃貸借が終了すること」について書面を交付して説明しなければなりません。借家人としては、更新がないのであれば借りないという場合が普通でしょうから、借家人を保護するため、更新ができないことを契約の際、書面で明らかにし、かつその書面を交付することが要件とされました。ですから契約の際には、交付する書面の写しを作成し、その写しを受領したむねの賃借人の署名捺印のある受領書等を用意しておく必要があります。
A公正証書による等書面で契約すること(同法38条1項)
公正証書などの書面で契約を締結しなければなりません(公正証書でなくても構いませんが,後日のトラブルを避けるためには,公正証書にしておくことが無難でしょう)。ただし、公正証書にしても建物の明け渡しについては公正証書だけでは強制執行はできないことは注意してください。
B 定期借家権の期間満了時の通知(同法38条4項)
1年以上の期間を定めた定期借家契約の場合は期間の満了による終了を賃借人に通知期間内(期間満了の1年前から6か月前まで)に通知しなければなりません。もっとも,通知期間の超過後であっても,通知をすれば,通知をしたときから6か月の経過をもって契約の終了を主張できます。

以上の要件を満たせば、定期建物賃貸借契約と認められますから、大家さんとしては賃借人が期限が来ても立ち退かない場合は、契約の終了を理由に立ち退きを請求できます。但し、居住者が任意に立ち退かない場合は、面倒でも訴訟を提起する必要があります。訴訟を提起するのでは従来の一時使用と変わらないのでは、との疑問があるかもしれませんが、一時使用の場合は、一時使用か否かが争いとなり、裁判が長期化していたのですが、定期借家契約の場合は、以上の要件を満たしているか否かという問題だけですので、裁判が長期化するおそれはないと考えられます。それでも裁判や強制執行までの時間を考えると期限を切って建物賃貸することは危険が伴うことは否定できません。

3.その他注意点
@ 期間内解約権(同法38条5項)
居住用賃貸物件(床面積が200u未満)の場合、賃借人が転勤、療養、親族の介護、その他やむを得ない事由により、生活の本拠を移転する必要がある場合は、解約の申し入れができ、1か月後に賃貸借は終了します。
A 賃料の改定特約(同法38条7項)
定期建物賃貸借において、借賃の改定に係る特約がある場合には,借地借家法が定める賃料の増額,減額に関する請求(同法23条)はできなくなります。
B 抵当権者との関係
投資用不動産ローンではなく、マイホーム用の住宅ローンを組んでいる場合は、通常、返済期間中に第三者への賃貸をすることを禁ずる条項が盛り込まれています。マイホーム用ローンは、マイホーム不動産の購入者の返済事故率の低さに着目して利率が設定されていますので、これを第三者に賃貸することは、契約の趣旨に違反することになってしまうからです。そのような場合は、契約違反となり、期限の利益を喪失し、一括返済を求められるリスクもありますので、ローン当時の契約書類を調査検討することも必要です。

≪参考条文≫

借地借家法
(建物譲渡特約付借地権)
第二十三条  借地権を設定する場合においては、第九条の規定にかかわらず、借地権を消滅させるため、その設定後三十年以上を経過した日に借地権の目的である土地の上の建物を借地権設定者に相当の対価で譲渡する旨を定めることができる。
2  前項の特約により借地権が消滅した場合において、その借地権者又は建物の賃借人でその消滅後建物の使用を継続しているものが請求をしたときは、請求の時にその建物につきその借地権者又は建物の賃借人と借地権設定者との間で期間の定めのない賃貸借(借地権者が請求をした場合において、借地権の残存期間があるときは、その残存期間を存続期間とする賃貸借)がされたものとみなす。この場合において、建物の借賃は、当事者の請求により、裁判所が定める。
3  第一項の特約がある場合において、借地権者又は建物の賃借人と借地権設定者との間でその建物につき第三十八条第一項の規定による賃貸借契約をしたときは、前項の規定にかかわらず、その定めに従う。
(建物賃貸借契約の更新等)
第二十六条  建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。
2  前項の通知をした場合であっても、建物の賃貸借の期間が満了した後建物の賃借人が使用を継続する場合において、建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときも、同項と同様とする。
3  建物の転貸借がされている場合においては、建物の転借人がする建物の使用の継続を建物の賃借人がする建物の使用の継続とみなして、建物の賃借人と賃貸人との間について前項の規定を適用する。
(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
第二十八条  建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
(定期建物賃貸借)
第三十八条  期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない。
2  前項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。
3  建物の賃貸人が前項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする。
4  第一項の規定による建物の賃貸借において、期間が一年以上である場合には、建物の賃貸人は、期間の満了の一年前から六月前までの間(以下この項において「通知期間」という。)に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない。ただし、建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から六月を経過した後は、この限りでない。
5  第一項の規定による居住の用に供する建物の賃貸借(床面積(建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては、当該一部分の床面積)が二百平方メートル未満の建物に係るものに限る。)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から一月を経過することによって終了する。
6  前二項の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。
7  第三十二条の規定は、第一項の規定による建物の賃貸借において、借賃の改定に係る特約がある場合には、適用しない。

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