新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.680、2007/10/5 13:59 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm

【相続・無効と思われる遺産分割協議書がある場合遺産分割調停、審判が出来るか】

質問:私は子供の相続人となったのですが、亡くなった子供の配偶者と遺産分割の協議をしようとして連絡したところ、すでに遺産分割協議書を作ってあり協議は終了しているので今更話すことはない、といわれました。私は、そのような協議書を作成したつもりはないので、確認してみると確かに私の署名と実印を押した書類でした。しかし私の記憶ではこのような書類を作成したこともありませんし、相手と遺産について協議したことも全くありません。子供の財産ですから欲しいわけではありませんが、納得できません。できれば、話し合いで解決したいのですが、遺産分割協議書の無効を理由とする裁判をしないと解決できないのでしょうか。

回答:
形式上整っている遺産分割協議書があれば、相続に関する手続きは行うことができます。しかし、実際に遺産分割協議が行われていないということであれば、遺産分割協議は存在しないことになり改めて、遺産分割協議をするよう請求できることになります。その場合は、家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てることになります。遺産分割の調停が成立しない場合は、審判の手続きにより家庭裁判所で遺産の分割を決めることになります。もちろん、遺産分割協議書の無効を主張して訴訟を提起することもできますが、遺産分割の話し合いをしたいということであれば、家庭裁判所に遺産分割協議の調停を申し立てるのが良いでしょう。

解説:
1、人が亡くなると、その人に属して財産の主体がなくなりますが、民法では相続という制度を定めて、人が亡くなると同時に亡くなった人の財産は、自動的に相続人に移転することになっています(民882,896条)。誰が相続人になるかについても決められています(民886条以下)。この法律に基づいて相続人が複数いる場合を共同相続といいます。共同相続の場合、各相続人がどのような割合で相続するかも法律で決められていてこれを法定相続分といいます(889条、900条以下)。共同相続の場合、一応法定相続分という形で各相続人の財産を取得する割合は決まっていますが、具体的にどのようなに分割するかは共同相続人間の協議によることになっています。この協議は、共同相続人間での話し合いですので、法定相続分に拘束されるわけではありません。ですから、共同相続人の一部の人が全部相続するという分割協議もできます(民907条)。

まず、このような扱いが民法上共同相続の場合の扱いです。なぜこのような決まりになっているかというと、私有財産制を原則とする近代国家においては、死後の財産の処分についても生前所有していた者の財産処分の意思に従うのが、当然のことでそれを前提とすれば、遺言で亡くなる方が、死後の財産の処分を決めるのが原則となります。ですから遺言書がある場合は、第一に遺言書によって相続が決まることになります。しかし、遺言がない場合も予測して法律で決めておく必要があります。そこで、遺言がない場合は生前の財産所有者の意思を尊重し、たとえば国庫に帰属するというより、子供や配偶者あるいは父母、兄弟姉妹に相続させることを希望するのが通常であろうということで、法定相続人、法定相続分が民法で決められているのです。また、相続した以上は相続人が自らの判断でどのような割合や方法で分割するかは相続人各自の判断でおこなわれるべきことは、私有財産制度からは当然の結論ですから、具体的にどのように分割するかは相続人の協議で決めることになっているのです。

2、以上のことから、遺産分割協議がなされていない以上、法定相続分に従って各相続人が相続したままの状態ということになりますから、原則に戻り、各相続人は、遺産分割協議をするよう要求できます。また、相手が協議に応じない場合は、家庭裁判所に遺産分割協議を申し立てることができることになります。

3、ただし、ここで検討しておく必要がある問題は相手方が遺産分割協議書持ち出してすでに遺産分割協議は終了している、という主張をした場合家庭裁判所は、遺産分割が終了しているかいなか判断することができるか、遺産分割がされていないとして調停や審判を継続できるかという問題が出てきます。仮に、遺産分割協議があったかなかったか、という問題は地方裁判所で判断すべきであるという結論になると、家庭裁判所としては、調停の相手方がすでに遺産分割は終了しているという主張をすると、その点について地方裁判所で裁判が終わって遺産分割協議がなされていないことが明らかになってからでないと調停や審判ができないということになるからです。もちろん、遺産分割協議が有効か否かについては、地方裁判所で確認してもらう裁判はできること争いはありませんが、問題は家庭裁判所が調停、審判をする前提として遺産分割協議の有効か無効かを判断できるかという問題です。というのは、家庭裁判所には最終的に遺産分割協議が有効か否かを判断する権限はないからです。もし、家庭裁判所の判断で遺産分割協議は存在しないとして、遺産分割の審判をしても、別に地方裁判所で遺産分割協議が有効と判決されると地方裁判所の判決により、家庭裁判所の審判は効力のないものになってしますからです。

この点については、判例(仙台高裁 昭和34年(ラ)第93号)があり結論としては家庭裁判所が遺産分割の審判をする前提として、遺産分割協議書が有効なものか否か判断し、無効なものであれば、遺産分割の審判をできることになっています。難しい問題ですが、家庭裁判所が家族間の問題を訴訟の手続きではなく解決するために設けられた制度であることを重視すると、判例のように家庭裁判所が自らの調査により遺産分割協議書の有効性を判断できるとする判例の立場は肯定できるものと思われます。これを否定する考えは、後日、訴訟の場で遺産分割協議が有効と判断されると混乱が生じることを配慮しているのですが、遺産分割の問題を家庭裁判所で解決したいという相続人の意思を家庭裁判所が拒否するのはやはり家庭裁判所の機能や存在理由(個人の尊厳と両性の本質的平等を基本として家庭の平和と健全な親族共同生活の維持をはかることを目的として家族間の紛争を合目的的裁量的な処分により迅速、公平な解決を図る)を否定することになると考えるべきでしょう。

4、以上のとおり、遺産分割協議書が存在していても、これを否定する相続人は家庭裁判所に遺産分割の調停、審判を申し立てることができます。義理の息子さんと地方裁判所で訴訟をするより、先ずは家庭裁判所に調停を申し立てる方が良いでしょう。

≪参考条文≫

民法
(相続開始の原因)
第八百八十二条  相続は、死亡によって開始する。
(相続に関する胎児の権利能力)
第八百八十六条  胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
2  前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。
(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
第八百八十九条  次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一  被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二  被相続人の兄弟姉妹
2  第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。
(相続の一般的効力)
第八百九十六条  相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
(法定相続分)
第九百条  同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一  子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二  配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三  配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四  子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
(遺産の分割の協議又は審判等)
第九百七条  共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。
2  遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。
3  前項の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。

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