新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.678、2007/10/5 13:34 https://www.shinginza.com/qa-fudousan.htm

【民事・不動産賃貸借契約の更新料】

質問:不動産賃貸借契約の更新料について、契約書に定めがないときにも支払う必要がありますか。また、契約書に更新料の支払の特約がある場合、その特約は有効ですか。さらに、更新料を支払わなかった場合、賃貸借契約を解除されてしまいますか。

回答:
1、貴方がお尋ねの更新料とは、一般的な定義から言えば不動産の賃貸借契約(借地、借家)が更新されるときに賃借人から賃貸人に支払われる契約を更新するための対価である一時金です。更新料については、民法にも借地借家法にも何ら記載はなく、法律上の規定はありません。東京を中心とした都市部において慣行的に更新料の授受がなされています。ただ、全ての賃貸借において慣行になっているわけではなく、大阪などの地方都市では更新料がないところもあります。更新料の法的性質には、学説上の争いがあり、賃貸人との友好関係を維持するための贈与であるとか、更新後の賃料が新規の賃料よりも低くなるので、その差額の補填であるとかなど主張されており、統一した見解は確立していません。

2、 先ず、不動産賃借権について「更新料」が問題となる背景についてご説明いたします。 そもそもは東京やその近辺での住宅事情が貸して市場であったことから貸家について期間満了のごとに更新料が支払われる場合が多く存在していたことが問題の発端と考えられます。また、借地の場合は貸した時点(昭和30年から40年代)では不動産の値段が安かったのに20年以上経過して土地が値上がりしたことから、土地の所有者としては土地からの収入を得たいということから更新料の請求が行われるようになったのですが、更新料を支払うという文言が契約書にない場合が多く、またかりに更新料を支払うという文言があっても金額が不明であったことから問題が生じたものと考えられます。

3、また、理論的にこの問題を考えると次のように考えられます。そもそも私人間の法律関係は、私的自治の原則の基本的内容である契約自由の原則が適用になりますから、両当事者が合意すれば更新料という名目でも本来自由に定める事が出来ますし、有効なはずです。又定めなければ何ら効力がないのが当たり前のことです。ではどうして問題になるのでしょうか。本来、不動産の利用、収益は、所有権、地上権のように目的物を直接(第三者の介在が不要)排他的に(同じ権利は成立しません。)支配利用する権利(法律上物権といいます。勿論自由に処分も出来ることになります)により行われるのですが、このような強力な権利を有する所有者(すなわち経済的強者といえるでしょう)は私有財産制、契約自由の原則からその様な支配権を、本来の権限を依然として保持しながら間接的支配権である債権に細分し第三者をして不動産を利用させることができるのです。

すなわち、借地、借家の賃貸借契約は、権利内容が強力な物権と異なり債権ですから目的物を所有者に利用を請求できるという意味で間接的にそして、同じ権利が他の権利と並存的に成立するという意味(理論上所有者は同じ債権を第三者に認め利用させることも出来るのです。)で排他性はありませんし、利用内容も所有者の都合により自由に決めることも出来るのです。勿論自由に処分も出来ません。しかし、この賃借権は通常の債権契約と異なる特性があり特別な取り扱いがなされているのです。すなわち、不動産賃借権は本来債権なのですが住居、営業等人間生活の基礎をなし日常生活を支える権利内容であり、その性質上生きてゆくための基本的権利、人権を内容としており長期的継続性が求められますから、経済的弱者たる賃借権者保護の必要性があり、人間らしい生活を確保するという法の理想から物権に準じた取り扱いがなされているのです。

例えば、一定の条件により排他性が認められ(賃借権の登記、さらに土地の場合建物の登記、建物の場合引渡しで第三者にも主張対抗できるのです。民法605条、借地借家法10条、31条、債権なのに条件により直接的利用を一部認める判例、学説もございます。)、一旦契約を締結すると簡単に契約解消が出来ないこと(契約解除における信頼関係の理論、法定更新により簡単に解除は出来ません)、又、賃借権者に一方的に不利益な内容を締結できない事になっているのです(法律上賃借権の物権化といわれています)。これを所有者、賃貸人側から見ると所有権という強力な権利(所有権絶対の原則)の一作用として単に債権契約を結び貸し与えただけなのに目的物の使用収益、支配権が大幅に制限される事になります。そこで、経済的強者たる所有者すなわち賃貸人は、権利制限の一部補償、対価的な色彩を持つものとして「更新料」なるものを実際の契約を締結する場合に要求し、契約に明定されていなくても更新時に要求し社会取引上問題となってきたのです。従って、更新料の支払い義務の判断、有効、無効も以上の経緯から基本的に当事者の実質的平等を確保し真の契約自由の原則を実現するため経済的弱者である賃借権者の利益が損なわれないよう注意して判断されなければなりません。

4、そこで、賃貸借契約書に更新料の定めがないときに、賃借人に更新料の支払義務があるか問題となりますが、契約自由の原則通り更新料の支払について、法律の規定がなく、当事者間の合意もない以上、現行の法制度の下ではかかる場合には更新料の支払義務はないと考えられます。更新料の支払が、賃貸市場において完全に慣行化され、法律と同一視すべきほど慣習として定着している場合には、当事者の合理的意思を根拠に更新料の支払義務があると考えることもできますが、現時点では更新料についてそこまで慣習が成熟しているとは評価できませんので、そのように考えることは困難です。ほとんどの裁判例も契約書に定めが無い場合の更新料の支払義務を否定しています。賃借権者保護の視点から契約内容を厳格に解釈する必要があります。

5、更新料の特約、合意がないにもかかわらず、過去の更新の際に、何度か更新料の授受がなされた場合には、明文はないものの、継続的契約関係を前提としている以上過去の更新時に黙示の更新料の合意がなされたものと考えられますので、合理的な金額の範囲内で、更新料を支払う必要があるでしょう。賃借人も何度か納得して支払っている以上特に不利益な内容でなければ有効と解釈しても賃借人に不利益とはならないでしょう。

6、更新料の支払の特約がある場合、かかる特約が賃借人に不利なものとして、借地借家法9条、30条に抵触して無効とならないか問題となります。裁判例は、更新料の合意に一定の合理性を認めて、更新料の金額が適切な額であることを条件に、更新料の支払の特約の有効性を認めております。契約自由の原則から当事者が納得する限り基本的には有効ですが、不動産賃借権者の生活権保護の観点から契約更新の障害となる場合は無効と判断されるべきです。

@ 適切な更新料の金額について、借家の場合と借地の場合で異なります。借家の場合、裁判例からみて、賃料1か月分くらいが多いですが、多くても3か月分まででしょう。借家契約の場合、礼金として1〜2ヶ月程度支払うのが実情でしょうから、これ以上になると更新の妨げになる可能性があります。
A 借地の場合には、調停の状況などからみて更地価格の3〜5%くらいでしょう。借地人として更に数十年の利用が可能になるのですからやむをえない負担と思われます。裁判例が認定した合理性としては、更新料を支払うことによって、賃貸人と争うことなく、スムーズに賃貸借契約の更新ができるメリットがあることが指摘されています(東京高判昭58・7・19判時1089−49、東京地判昭48・2・16判時714−196、東京地判昭50・9・22下民集26−9)。
B 更新料の金額については、法律の規定はありません。裁判例でも、相当な金額である限り、有効であると認められており、借地契約、借家契約それぞれの特質を考慮して具体的に算定することになります。更新料の金額の具体的な算定については、借地の場合には、更地の価格、期待利回り、適正と考えられる地代、今の地代、借地使用の有効度、収益性、保証金や権利金等の額、近年の地価上昇率、地価上昇への地主の貢献度、公租公課などを基礎事情として総合的に判断して決めることになります。
C裁判所の調停の実務として、更地価格の3〜5%で調停がなされることが多いと言われています。借家の場合には、賃料の1、2か月分とされることが多いです。賃料の約6.35か月分を更新料とした借家契約について、3か月分を越える部分を無効とする判例があります(東京地判昭61.10.15判時1244−99)。ただ、不相当に高い金額を貸主から一方的に決められるような内容の条項は無効といえます。当事者間には更新料についての合意の成立に向けて真摯な協議を尽くすべき信義則上の義務があると考えられています。

7、次に更新料の不払いが賃貸借契約の解除事由になるかについてですが、結論としては、約束に期限までに更新料を支払わない、というだけでは解除事由にはならないとされています。不動産の賃貸借契約の解除に関しては、不動産賃貸借契約の個人の生活権に直結した権利であり、継続性が要請されますのでその特殊性から、賃借人の契約違反がなされても、それが背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、賃貸借契約の解除ができないとの信頼関係破壊の法理が判例として確立されています(最判昭44・4・24民集23−4−855)。したがって、更新料の不払いについても、この法理が適用され、更新料の不払いが、賃貸借契約の内容、対象不動産の価値、更新後の賃貸借契約の条件、期間、更新料の不払いの状況などを総合的に判断して、当事者間の信頼関係が破壊されたかどうかによって解除の可否が決まると考えられます。このことは借地契約でも借家契約でも同じですが、一般的に借地契約の場合には更新料が高額であり、契約期間が長いことから、信頼関係の破壊が認められやすく、借家契約の場合には逆に更新料も低額であり、期間も比較的短いことから、信頼関係の破壊は認められない傾向にあるといえます(東京高判昭54・1・24判タ383−106、東京地判昭50・9・22判時810−48)。

8、なお、賃貸借の期間が満了する場合の合意による更新について説明してきました。しかし、借地契約でも借家契約でも、契約期間満了時に、更新について必ず合意が必要ということではありませんし、新たに契約書を作成しなおすことは必ずしも必要ではありません。不動産利用権の性質から更新拒絶の通知をしない限り、従来と同じ条件で契約が(自動的に)更新されます。これを法定更新と言います(借地借家法5条、26条)。大家から契約を更新して契約書を作成するには更新料の支払いが必要であると言われた場合は、合意更新を求められている事態です。しかし、更新料等で納得ができないため合意できないときは、法定更新の制度がありますので、弁護士など専門家に一度相談してみると良いでしょう。

≪参照条文≫

民法
(不動産賃貸借の対抗力)
第六百五条  不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その後その不動産について物権を取得した者に対しても、その効力を生ずる。

借地借家法
借地借家法5条 借地権の存続期間が満了する場合において、借地権者が契約の更新を請求したときは、建物がある場合に限り、前条の規定によるもののほか、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、借地権設定者が遅滞なく異議を述べたときは、この限りでない。
借地借家法5条2項 借地権の存続期間が満了した後、借地権者が土地の使用を継続するときも、建物がある場合に限り、前項と同様とする。
借地借家法9条 この節の規定に反する特約で借地権者に不利なものは、無効とする。
借地借家法26条 建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。
借地借家法26条2項 前項の通知をした場合であっても、建物の賃貸借の期間が満了した後建物の賃借人が使用を継続する場合において、建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときも、同項と同様とする。
借地借家法30条 この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。(建物賃貸借契約の更新等)
(借地権の対抗力等)
第十条  借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる。
2  前項の場合において、建物の滅失があっても、借地権者が、その建物を特定するために必要な事項、その滅失があった日及び建物を新たに築造する旨を土地の上の見やすい場所に掲示するときは、借地権は、なお同項の効力を有する。ただし、建物の滅失があった日から二年を経過した後にあっては、その前に建物を新たに築造し、かつ、その建物につき登記した場合に限る。
(建物賃貸借の対抗力等)
第三十一条  建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。

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