新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.677、2007/10/5 13:20 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm

【家事・親子】

質問:夫と不仲になり4ヶ月前から別居し、別居直後から別の男性と交際しています。夫との離婚協議が難航していますが、別居後の男性との間に子供ができました。現在妊娠4ヶ月です。男性は、離婚協議が終わったら私と結婚する約束をしていますが、子供の戸籍を正しく記載してもらうにはどうしたら良いでしょうか。

回答:
1.まず、貴女は、現在、別居中とはいえ、婚姻期間中もしくは離婚直後(離婚後300日以内)に出産することになりますから、戸籍上の子供の父親は、法律上の夫が記載されることになりますので、その点をご了解下さい。民法772条により、婚姻期間中又は離婚後300日以内に子供が生まれた場合は、法律上の夫(又は元夫)を父親として出生届けを出さなければ受理されません。婚姻期間中であれば子供は夫婦の戸籍に入籍し(戸籍法18条)、離婚後であれば婚姻時の姓を名乗っている親(父親の事が多いです)の戸籍に入籍します(民法790条、戸籍法18条)。子供の入籍には、子供の親権者が誰であるかは影響しません。出生届は、出生後14日以内に、近所の市区町村役場で行うことができます。出生届を出しませんと、子供は「無戸籍児」「無国籍児」となってしまい、通学や社会保険など様々な不都合が生じてしまう恐れがあります。貴女にとっては、日本国籍は空気のような意識することのないものかもしれませんが、子供にとっては、法的保護を受けるために必要な大切な権利ですので、必ず届出を行うようにしてください。

民法第772条(嫡出の推定) 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
同条2項 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
戸籍法第49条  出生の届出は、十四日以内(国外で出生があつたときは、三箇月以内)にこれをしなければならない。
同条2項 届書には、次の事項を記載しなければならない。
一  子の男女の別及び嫡出子又は嫡出でない子の別
二  出生の年月日時分及び場所
三  父母の氏名及び本籍、父又は母が外国人であるときは、その氏名及び国籍
四  その他法務省令で定める事項
同条3項  医師、助産師又はその他の者が出産に立ち会つた場合には、医師、助産師、その他の者の順序に従つてそのうちの一人が法務省令・厚生労働省令の定めるところによつて作成する出生証明書を届書に添付しなければならない。ただし、やむを得ない事由があるときは、この限りでない。
第五十二条  嫡出子出生の届出は、父又は母がこれをし、子の出生前に父母が離婚をした場合には、母がこれをしなければならない。
同条2項 嫡出でない子の出生の届出は、母がこれをしなければならない。
同条3項 前二項の規定によつて届出をすべき者が届出をすることができない場合には、左の者は、その順序に従つて、届出をしなければならない。
第一 同居者
第二 出産に立ち会つた医師、助産師又はその他の者
同条4項 第一項又は第二項の規定によつて届出をすべき者が届出をすることができない場合には、その者以外の法定代理人も、届出をすることができる。
第五十三条 嫡出子否認の訴を提起したときであつても、出生の届出をしなければならない。

2.民法772条は、民法制定当時(明治29年)の医療技術や社会風俗を基礎として、定められましたが、その後の離婚率の上昇や、医療技術の進歩により、形式的には前夫の子として嫡出推定されるけれど、明らかに事実に反すると見られる事例も多くなりました。本条の改正が議論されていますが、子供に利益に作用する場合もありますし、婚姻制度の本質に関わる問題ですので、ある程度の時間を要すると思われます。法務省では、平成19年5月から、離婚後に妊娠したことが医師の証明書により確認できるときは、運用により、嫡出子としない出生届(母親の戸籍に入籍できる)を受理できる旨、通達を出しました。

平成19年5月7日 法務省民事局
婚姻の解消又は取消し後300日以内に生まれた子の出生の届出の取扱いについて
平成19年5月21日から,婚姻の解消又は取消し後300日以内に生まれた子の出生の届出の取扱いが,次のとおり変更されました。
1  「懐胎時期に関する証明書(出生した子及びその母を特定する事項のほか,推定される懐胎の時期及びその時期を算出した根拠について診断を行った医師が記載した書面をいいます)」が添付された出生の届出の取扱いについて
(1)届出の受理について
婚姻の解消又は取消し後300日以内に生まれた子について,「懐胎時期に関する証明書」が添付され,当該証明書の記載から,推定される懐胎の時期の最も早い日が婚姻の解消又は取消しの日より後の日である場合に限り,婚姻の解消又は取消し後に懐胎したと認められ,民法第772条の推定が及ばないものとして,母の嫡出でない子又は後婚の夫を父とする嫡出子出生届出が可能です。
(2)戸籍の記載について
(1)の届出が受理されると,子の身分事項欄には出生事項とともに「民法第772条の推定が及ばない」旨が記載されることになります。
2  「懐胎時期に関する証明書」が添付されていない出生の届出の取扱いについて
従前のとおり,民法第772条の推定が及ぶものとして取り扱われることになります
(前婚の夫を父とする嫡出子出生届でなければ受理されません。)。

3.取扱いの開始について
(1) この取扱いは,平成19年5月21日以後に出生の届出がされたものについて実施されます。

(2) 既に婚姻の解消又は取消し時の夫の子として記載されている戸籍の訂正については,従前のとおり,裁判所の手続が必要です。

(3) しかし、本件では、婚姻期間中に妊娠していますから、上記の通達は適用されず、子供の出生届は、法律上の夫を父親として届出をする必要があります。子供の戸籍は、嫡出子ですので、婚氏を称する配偶者の戸籍に入籍されます(戸籍法18条)。女性が婚姻により姓を改めた場合は、夫の戸籍に入籍することになります。

(4) このようになった後で、子供の戸籍上の父親を、法律上の夫から現在の交際相手に変更するには、法律上の夫の協力を得て嫡出否認を主張する方法(嫡出子として推定される親子関係を否定する方法)と親子関係不存在を主張する方法(戸籍には子供として記載されていても、事情により本当は嫡出子として推定するのが無理な場合に親子関係を否定する方法)があります。ここで注意すべき点は、裁判所が、推定される嫡出子について、「子の身分関係の法的安定を保持する必要」があるので、原則として嫡出否認の訴えによらなければ親子関係の存否を争うことはできない、と解釈していることです(最高裁判所平成12年3月14日判決)。子供の嫡出子という身分を奪う手続きなので厳格に解釈すべきであると考えているわけです。

(5) このように子供の戸籍に関しては複雑な取り扱いとなりますので、貴女が離婚協議中ということであれば、後日子供の戸籍を訂正するための手続きに必要となることが予想されますのですので、夫との間で、手続きの方法や、子供の父親が誰であるかについても協議確認し、書類に残しておくと良いでしょう。

(6) そこで次に嫡出否認の手続きについて説明います。まず、嫡出否認の調停(家事審判法23条2項)を提起することになります。これは前夫が、子供もしくは親権を行う母に対して申し立てるのが原則ですが、母親から夫に対する申立があった場合でも、夫がこれに応じる場合は合意に相当する審判をすることができると解釈されています。申立期間は,民法の規定により前夫が子供の出生を知ったときから1年以内となっておりますので,この点はご注意下さい(ただ、事情によっては、「嫡出推定を受ける関係にある事実を知ったとき」、あるいは「否認原因となるべき事実を知ったとき」とする例もあるので、この期間を過ぎてしまっても、あきらめずに家庭裁判所に申し立てることをおすすめします)。この調停において,当事者双方の間で子供が前夫の子供でないという嫡出否認についての合意ができ,その原因事実について争いがなく、かつ,家庭裁判所が必要な事実の調査等を行った上で,その合意が正当であると認められれば,合意に従った審判がなされます。なお、この審判の際に、親子関係がないことを明らかにするために、血液型やDNA鑑定等の鑑定を行う場合もあります。この場合、原則として,申立人が鑑定に要する費用を負担することとなります。

(7)これに対し、離婚後300日以内に生まれた子供であっても、夫婦が長期別居中で子供の母親との性的交渉がなかった場合など、夫が子供の親でないことが客観的に明白な場合で,前夫の子であるとの推定を受けない場合(推定の及ばない嫡出子である場合)は、家庭裁判所に親子関係不存在の調停を申し立てることができます。今までの主な判例を列挙します。

あ)離婚の届出に先立ち約2年半前から事実上の離婚をして別居し、全く交渉を絶って、夫婦の実体が失われていた場合に推定が及ばないとしたケース。最高裁昭和44年5月29日判決
い)妻が子を懐胎したと推認される時期に夫が出征していて未だ帰還していなかった場合に、推定が及ばないとしたケース。最高裁平成10年8月31日
う)妻が懐胎時期に他の男性との性的交渉も行っていた場合に、推定が及ぶ(親子関係不存在確認の訴えができない)としたケース。最高裁平成12年3月14日判決

(8) この調停においても、当事者双方の間で子供が夫の子供でないという親子関係不存在についての合意ができ,その原因事実について争いがなく、さらに,家庭裁判所が必要な事実の調査等を行った上で,その合意が正当であると認められれば,合意に従った審判がなされます。なお、この審判の際にも、事情によっては、関係者の血液型検査などがなされる場合があります。審判が出たら、審判書謄本及び確定証明書を添付して、市区町村役場に戸籍の訂正を申請することになりますが、審判が確定した日から1ヶ月以内に申請すること(戸籍法116条1項)となっていますので、ご注意下さい。

戸籍法第116条  確定判決によつて戸籍の訂正をすべきときは、訴を提起した者は、判決が確定した日から一箇月以内に、判決の謄本を添附して、戸籍の訂正を申請しなければならない。

(9) そして,いずれの調停においても,両当事者間で合意まで行きつかなかった場合には、家庭裁判所に、訴訟として、嫡出否認の訴えまたは親子関係不存在の訴えを提起することとなります。この点、従来、これらのような人事に関する訴訟は地方裁判所で行われてきましたが、平成16年4月1日に人事訴訟法の新設を含む人事訴訟手続法の改正により、調停で合意が得られず不調となった場合でも、引き続き、家庭裁判所で訴訟ができるようになりました。但し、この場合でも、母親から嫡出否認の訴えはできないと解釈されています。民法774条は「夫は子が嫡出であることを否認できる。」と規定している以上、法律解釈論としては夫以外は嫡出を否認できないことになります。これは、家族間の問題は第三者が口を挟むべきではないこと、母親との関係は分娩という自然行為から当然認められることから嫡出の否認と言う事態はかんがえられないこと、姦通罪があった民法制定当時には婚姻中に夫以外の子供を妊娠することは通常考えられなかったこと、嫡出子の身分は、子供及び法定代理人である母親にとって利益であるという旧来の考え方により、子供及び母親の側から嫡出子の身分を放棄する手続を民法が予定していないこと、が理由です。これを法の不備と考えるか、伝統的な家族制度を守るべきと考えるかは、議論の分かれるところでしょう。私見ですが、子供には生まれながらに、真実の父親を知る権利があると考えられ、戸籍の訂正もなしうるべきだと考えます。民法の改正が行われる前でも、DNA鑑定など科学的な立証方法が確立していることなどを主張立証し、法律解釈を通じて、法務局や裁判所の運用を変える様促す努力も必要と思われます。なお、一部、出生届を出さないままで、親子関係不存在確認の裁判を行い、母親の戸籍に入籍後、血縁上の父親からの認知、婚姻準正という手段をとる事例もあるようですが、手続中に子供が無戸籍となってしまいますので、当職としてはお勧めできません。

https://www.shinginza.com/oyakokankeifusonzai.pdf (参考申立書式)

(10) 合意に変わる審判や嫡出否認、親子関係不存在を認める判決を得て、戸籍の訂正がなされた場合には、子供は前夫の戸籍から除かれ、母親の離婚後に作られた戸籍に婚外子として記載されることになります。前夫の戸籍からはずれた後は、実の父親から認知してもらうことも可能となり、さらに離婚した妻と実の父親と結婚すれば、準正といって嫡出子となることになります(民法789条)。

民法第789条(準正) 父が認知した子は、その父母の婚姻によって嫡出子の身分を取得する。
同条2項 婚姻中父母が認知した子は、その認知の時から、嫡出子の身分を取得する。
同条3項 前二項の規定は、子が既に死亡していた場合について準用する。

(11) しかし、法律上の父親が、どうしても自分の子供であると主張した場合、合意に相当する審判ができないことになります。懐胎時期や生活状況などから、「推定の及ばない嫡出子」であると主張することが困難な場合も、嫡出否認の訴えの提訴権者が父親に限定されていますから、結局、父親との親子関係を否認することが困難となってしまいます。どうしても嫡出推定の排除ができない場合は、離婚後、現在の交際相手と再婚し、子供が6歳になるまでに、再婚相手と子供との間で特別養子縁組を行う手段や普通養子縁組を行うことも考えられます。

(12) 今回のケースでは、別居直後に妊娠されたということですから、推定の及ばない嫡出子であると主張することが困難である可能性があります。嫡出否認の訴えが必須であるケースの恐れもあります。前記の通り、離婚手続きが終了していないのであれば、離婚協議において子供の戸籍を訂正する手続きについても協議する必要がありますので、弁護士に相談・依頼するなどして、間違いの無いように手続きを進めることをお勧め致します。近くの法律事務所に相談されると良いでしょう。

≪参考条文≫

民法第817条の2(特別養子縁組の成立)  家庭裁判所は、次条から第八百十七条の七までに定める要件があるときは、養親となる者の請求により、実方の血族との親族関係が終了する縁組(以下この款において「特別養子縁組」という。)を成立させることができる。
2  前項に規定する請求をするには、第七百九十四条又は第七百九十八条の許可を得ることを要しない。
(養親の夫婦共同縁組)
第817条の3  養親となる者は、配偶者のある者でなければならない。
2  夫婦の一方は、他の一方が養親とならないときは、養親となることができない。ただし、夫婦の一方が他の一方の嫡出である子(特別養子縁組以外の縁組による養子を除く。)の養親となる場合は、この限りでない。
(養親となる者の年齢)
第817条の4  二十五歳に達しない者は、養親となることができない。ただし、養親となる夫婦の一方が二十五歳に達していない場合においても、その者が二十歳に達しているときは、この限りでない。
(養子となる者の年齢)
第817条の5  第八百十七条の二に規定する請求の時に六歳に達している者は、養子となることができない。ただし、その者が八歳未満であって六歳に達する前から引き続き養親となる者に監護されている場合は、この限りでない。
(父母の同意)
第817条の6  特別養子縁組の成立には、養子となる者の父母の同意がなければならない。ただし、父母がその意思を表示することができない場合又は父母による虐待、悪意の遺棄その他養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合は、この限りでない。
(子の利益のための特別の必要性)
第817条の7  特別養子縁組は、父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であることその他特別の事情がある場合において、子の利益のため特に必要があると認めるときに、これを成立させるものとする。
(監護の状況)
第817条の8  特別養子縁組を成立させるには、養親となる者が養子となる者を六箇月以上の期間監護した状況を考慮しなければならない。
2  前項の期間は、第八百十七条の二に規定する請求の時から起算する。ただし、その請求前の監護の状況が明らかであるときは、この限りでない。
(実方との親族関係の終了)
第817条の9  養子と実方の父母及びその血族との親族関係は、特別養子縁組によって終了する。ただし、第八百十七条の三第二項ただし書に規定する他の一方及びその血族との親族関係については、この限りでない。

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