新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.661、2007/9/3 18:11 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm

【相続・葬儀費用】

質問:この間父が亡くなりました。私が長男なので、とりあえず、喪主として葬式を行い、葬儀代等立て替えましたが、49日も過ぎて、遺産も含めて、すべてを精算しようと話し合いを始めたところ、葬儀代の負担どころか、お墓のことや、香典の扱いについて、もめはじめてしまいました。法律的にはどのような処理がなされるのでしょうか。

回答:
1.今回問題となっている仏壇・仏具・神体・位牌・お墓・永代使用権などは、祭祀財産と呼ばれます。被相続人の預貯金・不動産等の財産は相続財産として、相続の対象となります(896条)が、祭祀財産は、これら一般相続財産と区別され、慣習に従って、祖先の祭祀を主宰するものが承継するものとされています(897条)。相続の基本的な考え方は、ホームページNo660を参照してください。簡単に申し上げますと、被相続人の意思表示、すなわち遺言がない場合の法定相続の制度は、個人の財産所有処分を自由に認める私有財産制から被相続人の推定的意思解釈を基にして親族の有形無形の貢献、残された相続人の生活維持を総合的に評価して作られています。祭祀財産も被相続人の所有に属していた権利であり、特に意思表示がない以上、被相続人の合理的意思としてはその家族が代々継承してきた慣習を尊重する意思と判断し、平等分配である一般財産と区別し祭祀承継人を規定しているわけです。

祭祀を主宰する者は、口頭や遺言で指定されますが、この指定は、一定の関係のあるものであれば(例えば内縁の妻など。)、必ずしも相続人でなくてもかまいません。指定がなければ、まずは相続人間で話し合いがなされることが通常であると思いますが、話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所の調停や審判で、慣習等を考慮して決まります。そして、上記のような経緯を経て、祭祀の主宰者になった場合には、祭祀財産を承継し、また、実際に葬式を行った場合の費用も通常は祭祀の主宰者が負担するということになります。なお、祭祀の主宰者として遺言で指定されていたような場合でも、実際に、その者に費用を負担して祭祀を主宰する義務が生じるわけではありません。

2.以上を前提にすると、遺言等で祭祀の承継者が定められていなかったとしても、あなたが長男であること、実際に葬式費用を出費していること、等を考えると、最終的には調停・審判等で、あなたが祭祀の主宰者として認定される可能性は高いと考えられますので、それを前提としてまずは話し合いを行うとよいでしょう。そして、これを前提とすると、お墓については、あなたが権利を承継することになるでしょう。ただし、墓地の永代使用権は墓地の所有者との契約によって成立する権利で、寺院によっては、その寺院の檀家とならないと永代使用権を認めないというのが通常でしょうし、また、寺院に永代使用権を引き継いだこと届け出る必要があるものと考えられます。

3.また、香典については、葬儀の主宰者である喪主に送られたものと考えられ、やはり相続財産とは区別されるものと考えられています。したがって、香典の扱いについては、まず、あなたが立て替えた葬式費用にあて、葬式費用に当てた後、余りがあれば、喪主が自分の裁量によってその使い方を考えてよいということになります。また、これらは相続財産ではありませんから、これによって、相続分が減らされたりすることもないと考えてかまいません。例えば、お墓や、香典を受け取ったということを理由に遺産分割の際、持分を減らせという相手方の主張には、理由がないということになります。逆にいえば、葬式費用を負担したから、相続財産を多くよこせ、という主張にも法的には理由がないということにはなります。ただし、もちろん、誰かが祭祀主宰者となったとしても、葬儀費用は相続財産から支出する、あるいは、相続人が全員で負担する、などの話し合いができれば、その方が円満でしょうし、そのような話し合いが法的に否定されることはありません。

≪参考条文≫

(相続の一般的効力)
第八百九十六条  相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
(祭祀に関する権利の承継)
第八百九十七条  系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2  前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。

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