新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.660、2007/8/31 13:20 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm

【相続・相続人の範囲・順位・相続分】

質問:私は,20歳の学生ですが,面識もないまったく音信不通だった父方の叔父さんの莫大な財産すべてを今回相続する事になりました。叔父さんは,小さい時事情があって学校も出ないで働きに出てかなり苦労したらしいのですが,金融業を始め結婚もせずに一代で財産を築いたとのことです。信じられない複雑な気持ちなのですが,遺産相続について相続人の範囲と順位,相続分等について一般的なことを教えて下さい。

回答:
1.貴方が叔父さんの財産をすべて相続するになったのは貴方に法律上相続権があるからです。すなわち,貴方の叔父さんは結婚していませんから,お子さんもいなかったのでしょう。叔父さんは苦労の末金融業で成功していますからご高齢であると思いますので叔父さんのご両親すなわち貴方のお祖父さんも既に他界され,叔父さんのご兄弟である貴方のお父様も何等かの事情でお亡くなりになったと思います。妻,子供,両親がいなければ,叔父さんすなわち被相続人のご兄弟が相続するのですが,貴方のお父様のように被相続人よりも相続人が先に死亡した場合は代襲相続という制度により甥子である貴方に法律上相続権が認められるのです(民法889条887条2項)。

2.貴方も叔父さんとはいえ面識もない親類の財産を引き継ぐ事で信じられない複雑な気持ちになるのはもっともでしょうから,相続の内容を個別的に解説する前にまず相続制度の趣旨をご説明致します。日本における社会制度の構造は私有財産制(憲法29条)と私的自治の原則(契約自由の原則 大前提であり憲法,民法の直接明文の規定はありません)から成り立っています。国民は,自分で働き蓄積した財産を個人的に所有し自由に処分する事が出来,財産処分は,個人の自由意志により形式も,内容も自由に定めることができるのです。このようにわが国は資本主義社会の前提として自由主義的社会制度を採用し国民にとり公正で,公平なそして公共の利益に合致する社会秩序を実現しようとしているのです。人間は必ず死期を迎えますから,死んだ後の財産処分も所有者の自由であることは私有財産制から当然であり,遺産は,所有者が遺言という一定の形式で自由に誰に対しても処分できるのです(遺言自由,優先の原則)。

ただ,遺産は,性格上家族,親族の法律上評価が難しい精神的,財産的援助により形成されるものであり,残された家族親族の生活の保持も社会制度上必要ですから公平上遺留分という制度により遺言自由の原則を一部制限しているのです。しかし,何等かの事情で遺言がないような場合どのように残された財産を処理するか問題になります。基本的には私有財産制の原則から,財産の所有者の推定的意思を基本として,遺産形成に対する親族の推定的な精神的,財産的寄与,残された親族の生活維持という種々の理由から法定相続制度が作られているのです。すなわち,被相続人の合理的意思解釈としては,特別に遺言がない以上家族である妻,子供に遺産を渡したいと思うのが通常であり,独身であれば両親,兄弟に承継させたいと推定できるわけです。又一般的に人間の成長は,家族,親族の有形無形の保護,援助の下に成し遂げられるのであり遺産は,残された遺族の生活も考えこれらの親族に分配するのが被相続人の本意に合-致し適正,公平と考えられます。

従って,被相続人の推定的な意思に反するような相続人すなわち欠格事由を有する相続人(891条,相続に関し犯罪行為を行ったもの),廃除された相続人(892条,被相続人を虐待した者)については,相続権は認められないのです。更に法定相続人がなく被相続人の合理的意思が及ばないような場合にはやむを得ず遺産は国庫に帰属することになります。相続が発生した時,すでに被相続人は存在せず意思内容を確認できませんし,財産問題で関係者に紛争が生じると社会問題になりかねませんから,法は,第三者の利害も考慮し法律関係の明確化のため,被相続人の合理的意思を解釈し戸籍制度を基本にして明確かつ形式的に規定されています。一般的に,被相続人の合理的意思を考慮し,相続人は,被相続人と親族関係が近い者がなるべきで,また,被相続人と親族関係が近い者ほど,先順位で,多くの相続分が認められるべきであると考えられておりますので,民法の規定も,そのような考えに従って規定されています。以下個別的にご説明いたします。

3.まず,相続人の範囲と順位についてですが,相続人には,血族相続人と配偶者たる相続人があります。血族相続人は,@子(民法887条1項),A直系尊属(民法889条1項),B兄弟姉妹(民法889条1項)で,以上の順序の順位に従って相続人となります。自分に子供がいるのに親,兄弟まで遺産を承継させたいという合理的意思が被相続人になかったと考えられるわけです。また,その趣旨から家族の中核であり遺産に有形無形の寄与をした配偶者は,常に相続人となり,これらの血族相続人と並んで相続人となります(民法890条)。例えば,@被相続人に妻と子と母と兄がいるが,父が既に死亡している場合,妻と子が相続人,A被相続人に妻と母と兄がいるが,子がおらず,父が既に死亡している場合,妻と母が相続人,B被相続人に妻と兄がいるが,子はおらず,両親が既に死亡している場合,妻と兄が相続人となります。また,C被相続人に子と母と兄がいるが,妻と父が既に死亡している場合,子だけが相続人,D被相続人に母と兄がいるが,結婚しておらず,父が既に死亡している場合,母だけが相続人となります。

4.なお,配偶者は,法律上の配偶者に限られ,内縁の配偶者は含まれません。被相続人の合意的意思からは保護の必要性もあるでしょうが,相続人の範囲については,相続問題が生じた場合に,まず検討される最も基本的かつ重要事項で,混乱を避け社会秩序維持のために法律関係の明確化が強く要請されますので,戸籍による明確な基準によって区別される必要があるからです。内縁の配偶者には遺言制度を利用する必要があります。

5.また,血族相続人は,正確には,@子とその代襲相続人(民法887条2項,3項),A直系尊属,B兄弟姉妹とその代襲相続人(民法889条2項)となります。代襲相続とは,例えば,被相続人の子が,相続の開始以前に死亡しているとき,その者の子(被相続人の孫)がこれを代襲して相続する場合のことをいいます。これは,被相続人の合理的意思を基本とし相続人が相続していたら,自らも承継しえたであろうという直系卑属の期待利益を保護する制度で,血縁の流れに従って,被相続人の財産を上から下へ受け継がせようとする制度です。貴方はこの制度により相続権を取得する事になるわけです。よって,例えば,E被相続人に妻と孫と母と兄がいるが,子と父が既に死亡している場合,妻と孫が相続人,F被相続人に妻と「ひ孫」と母と兄がいるが,子と孫と父が既に死亡している場合,妻と「ひ孫」が相続人,G被相続人に妻と甥(兄の子)がいるが,子はおらず,両親と兄が既に死亡している場合,妻と甥が相続人となります。但し,H被相続人に妻と「甥(兄の子)の子」がいるが,子はおらず,両親と兄と甥が既に死亡している場合,妻だけが相続人となり,「甥の子」は相続人となりません。兄弟姉妹の代襲相続人は,その者の子(被相続人の甥,姪)に限られ,孫はなりません(民法889条2項は,民法887条2項のみ準用し,民法887条3項は準用していない)。昭和37年の民法の一部改正では,兄弟姉妹の場合も,子の場合と同様,無限に代襲相続が認められておりましたが,被相続人の合理的意思としてもそこまで推定する事は妥当性に欠けますし,笑う相続人を生むとの強い批判があったことから,昭和55年の民法の一部改正により,兄弟姉妹の代襲相続人は,その者の子(被相続人の甥,姪)に限られることになりました。本件で言えば,貴方が被相続人からみて甥子の子供であれば相続権がないことになるわけです。

6.また,血族相続人は,@子とその代襲相続人,A直系尊属,B兄弟姉妹とその代襲相続人ですが,直系尊属は,親等の異なる者の間では,その近い者が先順位となります(民法889条1項)。例えば,I被相続人に妻と母と祖母と兄がいるが,子はおらず,父と祖父が既に死亡している場合,妻と母が相続人となり,祖母は相続人となりません。

7.次に,相続分については,被相続人の推定意思,家族の被相続人に対する一般的貢献度を総合評価し,@子及び配偶者が相続人であるときは,子の相続分及び配偶者の相続分は,各2分の1(民法900条1号),A配偶者及び直系尊属が相続人であるときは,配偶者の相続分は,3分の2,直系尊属の相続分は,3分の1(民法900条2号),B配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは,配偶者の相続分は,4分の3,兄弟姉妹の相続分は,4分の1(民法900条3号)となります。また,子,直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは,各自の相続分は,相等しいものとされます(民法900条4号)。よって,例えば,相続人が妻と子2人の場合,妻の相続分は,2分の1,子2人の相続分は,各4分の1(2分の1×2分の1)となります。

8. 但し,同じ子であっても,非嫡出子の相続分は,嫡出子の相続分の2分の1とされています(民法900条4号)。嫡出子とは,婚姻関係にある男女間に懐胎・出生した子のことをいい,非嫡出子とは,嫡出子でない子のことをいいます。非嫡出子の相続分が,嫡出子の相続分の2分の1と規定している民法900条4号については,非嫡出子にとっては,努力してもいかんともしがたく,生まれながらに差別されているとして,法の下の平等を定めた憲法14条に違反し無効であるとの見解も多く見られるところです。しかし,最高裁平成7年7月6日大法廷判決は,10対5の多数意見で,民法の採用する法律婚主義の観点から,内縁の配偶者には相続権が認められておらず,また,非嫡出子と嫡出子との相続分に差異が生じることはやむを得ないところ,本条号は,婚姻関係から出生した嫡出子の立場を尊重するとともに,他方,非嫡出子の立場にも配慮し,非嫡出子に嫡出子の相続分の2分の1の相続分を認めることにより,非嫡出子を保護し,もって,法律婚主義と非嫡出子の保護の調整を図った規定であると解し,本条号の立法理由には合理的根拠があることを理由に,合憲と判断しております。よって,例えば,相続人が妻と嫡出子と非嫡出子の場合,妻の相続分は,2分の1,嫡出子の相続分は,3分の1(2分の1×3分の2),非嫡出子の相続分は,6分の1(2分の1×3分の1)となります。相続制度の基本である被相続人の合理的意思を根拠とする限り非嫡出子は嫡出子と同等の相続権を持つべきであると考えるのが自然と思われます。被相続人が非嫡出子を差別する合理的意思を有すると考える事はできませんし,非嫡出子は内縁関係の配偶者と異なり戸籍上(被相続人の戸籍にも記載されている)明確に被相続人の子として記載されていますから相続権が認められても社会的混乱がなく,他の相続人の利益を不当に害しないと考えられるからです。理論的に最高裁の少数説が妥当でしょう。多数説は道徳的問題を理由に相続の本質を忘れた論理になっている面があります。

9.また,同じ兄弟姉妹であっても,被相続人と父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹(半血の兄弟姉妹)の相続分は,被相続人と父母の双方を同じくする兄弟姉妹(全血の兄弟姉妹)の相続分の2分の1とされています(民法900条4号)。これは,被相続人の合理的意思から自然ですし,全血の兄弟姉妹の方が,半血の兄弟姉妹よりも,被相続人と血縁関係が近く被相続人への精神的,財産的貢献が大きいのが一般的であると考えられることから,より多くの相続分が認められることになるのです。また,代襲相続が生じた場合,例えば,被相続人の子が,相続の開始以前に死亡している場合,その者の子(被相続人の孫)の相続分は,公平上被相続人の子が相続すべきであった相続分と同じとされています(民法901条1項)。

10.貴方の場合,法定相続の制度趣旨から相続することに何も問題がありませんので,叔父さんの合理的意思を考え遺産をこれからの人生に有効に役立ててほしいと思います。一般的に相続問題が生じた場合には,相続人の範囲と順位,相続分の問題の他にも,様々な問題が生じる可能性があるため,相続問題に詳しい弁護士に相談することをお勧めします 。

≪参考条文≫

民法887条
1項 被相続人の子は,相続人となる。
2項 被相続人の子が,相続の開始以前に死亡したとき,又は第891条の規定に該当し,若しくは廃除によって,その相続権を失ったときは,その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし,被相続人の直系卑属でない者は,この限りでない。
3項 前項の規定は,代襲者が,相続の開始以前に死亡し,又は第891条の規定に該当し,若しくは廃除によって,その代襲相続権を失った場合について準用する。
民法889条
1項 次に掲げる者は,第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には,次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
1  被相続人の直系尊属。ただし,親等の異なる者の間では,その近い者を先にする。
2  被相続人の兄弟姉妹
2項 第887条第2項の規定は,前項第2号の場合について準用する。
民法890条
被相続人の配偶者は,常に相続人となる。この場合において,第887条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは,その者と同順位とする。
民法900条
同順位の相続人が数人あるときは,その相続分は,次の各号の定めるところによる。
1号 子及び配偶者が相続人であるときは,子の相続分及び配偶者の相続分は,各2分の1とする。
2号 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは,配偶者の相続分は,3分の2とし,直系尊属の相続分は,3分の1とする。
3号 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは,配偶者の相続分は,4分の3とし,兄弟姉妹の相続分は,4分の1とする。
4号 子,直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは,各自の相続分は,相等しいものとする。ただし,嫡出でない子の相続分は,嫡出である子の相続分の2分の1とし,父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は,父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。
民法901条
1項 第887条第2項又は第3項の規定により相続人となる直系卑属の相続分は,その直系卑属が受けるべきであったものと同じとする。ただし,直系卑属が数人あるときは,その各自の直系尊属が受けるべきであった部分について,前条の規定に従ってその相続分を定める。
2項 前項の規定は,第889条第2項の規定により兄弟姉妹の子が相続人となる場合について準用する。

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