新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.651、2007/7/31 16:08 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm

【民事相続・相続人の不存在の場合の親族の葬式費用・墓守り費用はどのようにして請求できるか】

質問: 私の姪が先日亡くなりました。姪は、独身で子どももなく、両親も兄弟姉妹も既に死亡しています。役所の無料相談で相談したところ、相続人がいない場合なので、相続財産があれば相続財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てることが必要だと言われました。相続財産としては2000万円ほどの銀行預金があります。私は、葬儀代を立て替えて支払っていますので、預金の中から支払ってもらいたいと思っています。また、姪の両親や兄弟姉妹のお墓もあるので、私としてはこれも守っていきたいと考えていますが、費用もかかることなので思案中です。相続財産の銀行預金から将来の費用も支払ってもらうことができれば、私がお墓を守っていきたいのですが可能でしょうか。


回答:
1、相続財産があるのに相続人がいない場合、相続財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てることが必要となります。申し立てることができるのは利害関係人と検察官です。あなたは、葬儀費用を負担したということで利害関係人にあたります。家庭裁判所により選任された相続財産管理人は、相続財産と相続債権者(被相続人に対する債権者ですから、相続財産から見ると負債です。)の調査を行います。あなたは、葬儀代を立て替えたということですから、相続債権者として債権を届け出ることができます。また、将来のお墓を守っていく費用については、相続債権とはいえませんが、資料を出せば、裁判所に相続財産管理人の権限外の行為として相続財産からの支出を認めてもらうことができます。なお、将来のお墓の費用については、これまで、特別縁故者への相続財産の分与(民法958条の3)という方法も考えられていましたが、現在の家庭裁判所の考え方は死後の縁故は認めないということで、お墓を守っていくという理由だけでは特別縁故者にはあたらないとされています。

解説:
1、姪御さんが独身で子供もいないということであれば、ご両親が次順位の相続人になりますが、そのご両親も先に亡くなっているということですので、さらにその次の順位の者として兄弟姉妹、既に兄弟姉妹も死亡している場合は兄弟姉妹の子供(甥,姪)がいればその方たちが相続人となります。しかし、既に兄弟姉妹も亡くなり、その方たちに子供がいないということであれば相続人がいないことになります。

2、相続人がいない場合、民法951条の定めるところにより相続財産は法人となり、法人の財産を管理するために相続財産管理人が選任されることになります(民法952条)。民法951条には、「相続人のあることが明らかでないときは」相続財産管理人を選任すると規定されていますが、相続人がいないことが明らかな場合も当然にこの規定にあてはまることになります。

3、あなたは、亡くなった姪御さんの葬儀代を立替えていますので、利害関係人として家庭裁判所(管轄は相続発生の場所、相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。)に相続財産管理人の選任の申立てをすることができます。申立ての書類は家庭裁判所に用紙がありますから、その用紙に記入して作成することができます。ただ、申立ての際、被相続人が生まれた時からなくまるまでの戸籍謄本(除籍謄本)を全部そろえて添付する必要があります。これらの戸籍謄本等は、市区町村役場に行けば相続人の調査ということで請求できます。ただ、現状では、自分や家族以外の戸籍謄本を請求しても役所の窓口で拒否されることがあります。法律上は誤った扱いなのですが、役所の担当者レベルでは相続人の調査に必要なのでと説明しても他人の戸籍謄本については拒否する場合があります。このような場合は相続人の調査のために戸籍謄本を申請したのに拒否されたことを法務局にクレームとして申し出て、法務局から役所の担当者に連絡してもらうことになります。このようなことは面倒だということであれば、弁護士や司法書士に依頼することになります。弁護士や司法書士であれば職務上の請求ということで戸籍謄本の申請が認められます。ただし、単なる戸籍謄本の申請だけを弁護士等に依頼するということはできません。
 弁護士に依頼する場合は、代理人として家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立てることを依頼することになります。費用は、戸籍謄本の申請費用等の実費を別にして15万円から20万円程度かかると思われます。もっとも、この弁護士費用については、相続債権として相続財産からの支出が認められることもあります(弁護士を依頼する必要があった場合で、その金額が相当な金額である場合)。なお、相続財産管理人については適当な人を指名して裁判所に申し立てることもできますし(但し、東京家庭裁判所の場合は慣例として裁判所が弁護士を指名しています。)、裁判所に人選を任せることもできます。人選を任せられた裁判所は、通常弁護士を相続財産管理人に選任します。また、破産の場合などは申立てをした人が管財人の費用を予納しなければならないのですが、相続財産管理人の場合は、原則的に予納金は必要ないとされています(家事審判規則11条1項但書)。 但し、実務上(東京家庭裁判所の場合)は、被相続人名義の100万円以上の(金融機関の)預金がないようであれば、予納金納付を求められるようです。これは、相続財産管理人の費用(報酬)の原資を確保しておくためであると考えられます。相続人不存在により利害関係人が遺産管理人を求める場合というのは、遺産がある程度存在することが多いのですが、そのような遺産があることが窺われないようなときには予納金の納付が求められることになります。

4、相続財産管理人が選任されると、裁判所は、その旨を官報で公告します。法律の建前では、相続人が不明なので管理人が選任されたことを公告すれば、もし相続人がいるのであればそれを知って速やかに裁判所や相続財産管理人に対して自分が相続人である旨連絡することになるはずである、ということで処理を進めることになっています。その後、相続債権者や受遺者に対して債権などの届出をするよう公告することになっています。

5、最終的に相続人がいないことが確定すると(確定までには公告の期間等で相続財産管理人が選任されてから10か月以上かかります。)、特別縁故者に対する相続財産分与の申立てができることになります。この申立てについては期間の制限があります。家庭裁判所は、相続人がいるのであれば一定の期間内に申し出るように公告をするのですが、その申出の期間が満了してから3か月以内とされています(民法958条の3)。そこで、被相続人のお墓を守っていくということを理由に特別縁故者に対する相続財産分与の申立てができるか問題となります。この点、条文上は、「被相続人と生計を同じくしていた者」、「被相続人の療養看護に努めた者」を特別縁故者の例として挙げています。これらの例からすると、被相続人と生前からの特別な関係がなければならないことになりそうです。しかし、他方で特別縁故者がいない場合、相続財産は国庫に帰属することになること(民法959条)、そもそも特別縁故者の制度は、遺言が普及していない日本において、被相続人の生前の最終意思を推測して、相続財産を国庫に帰属させるよりも特別縁故者に分与させることとした制度であることから考えると、被相続人とすれば、自分の残した財産について、それを国庫に帰属させるよりも、自分のお墓を守ってくれる人に財産を分与してほしいと考えるのが通常であろうとも思われるので、将来お墓を守ること約束する人も特別縁故者と考えることもできます。

このように、法律上は、どちらの結論とすることも可能です。これを認めた裁判所の判断もありました。しかし、現在の家庭裁判所の扱いは、死後の特別縁故は認めないという立場に立っています。理由としては、お墓を守るというような考えが祭祀相続に繋がり易いことを挙げています。現実的なことでは、将来お墓を守ると言ってもそれは将来のことで本当に相続財産をお墓を守ることに使うか分からないということも理由に挙げられています。このような考え方に立つ家庭裁判所の扱いでも、将来のお墓の費用を相続財産から支出させるということは常識的にみても肯定されるべきことから、相続財産管理人の権限外の費用、相続債権ではないが相続財産からの支出が妥当な費用として、家庭裁判所の許可のもとに一定の金額の範囲内で支出を認めています。この場合は、相続財産管理人に対し、相続債権として届け出ることが必要ですから、相続財産管理人に対し、前もって連絡しておく必要があります。

以上が手続の概要です。裁判所に行かなければならないのは、申立てのときと必要に応じて調査官の調査がある場合の2回くらいです。相続債権については葬儀代等の領収書が必要ですが、お布施等領収書のないのが通常の費用については相当な金額であれば領収書なしで相続債権として認められますので、申立てを依頼する弁護士や相続財産管理人に質問して確認してください。

≪条文参照≫

(相続財産法人の成立)
第九百五十一条  相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
(相続財産の管理人の選任)
第九百五十二条  前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。
2  前項の規定により相続財産の管理人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なくこれを公告しなければならない。
(不在者の財産の管理人に関する規定の準用)
(相続財産の管理人の報告)
第九百五十四条  相続財産の管理人は、相続債権者又は受遺者の請求があるときは、その請求をした者に相続財産の状況を報告しなければならない。
(相続財産法人の不成立)
(相続債権者及び受遺者に対する弁済)
第九百五十七条  第九百五十二条第二項の公告があった後二箇月以内に相続人のあることが明らかにならなかったときは、相続財産の管理人は、遅滞なく、すべての相続債権者及び受遺者に対し、一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、二箇月を下ることができない。
2  第七十九条第二項 から第四項 まで及び第九百二十八条から第九百三十五条まで(第九百三十二条ただし書を除く。)の規定は、前項の場合について準用する。
(相続人の捜索の公告)
第九百五十八条  前条第一項の期間の満了後、なお相続人のあることが明らかでないときは、家庭裁判所は、相続財産の管理人又は検察官の請求によって、相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、六箇月を下ることができない。
(権利を主張する者がない場合)
第九百五十八条の二  前条の期間内に相続人としての権利を主張する者がないときは、相続人並びに相続財産の管理人に知れなかった相続債権者及び受遺者は、その権利を行使することができない。
(特別縁故者に対する相続財産の分与)
第九百五十八条の三  前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2  前項の請求は、第九百五十八条の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。
(残余財産の国庫への帰属)
第九百五十九条  前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。この場合においては、第九百五十六条第二項の規定を準用する。

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