新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.647、2007/7/26 13:26 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm

【相続・遺産分割調停・遺産分割審判・寄与分】

(質問)私の父が昨年亡くなりました。母はすでに亡くなっており、子供は3人です。父親の財産は、自宅であった都内の土地50坪ほどと建物、また預貯金です。私は長男ですが、両親と同居していたわけではありませんので遺産を三等分すればよいと考えていましたが、次のような問題が生じています。どのように解決すれば良いのでしょうか。

(問題点):
1 父親の死亡後、弟の一人が借金の返済のためどうしても2000万円必要なので、早く分割してほしい。2000万円早く手に入ればそれ以上の要求はしないので早くして欲しいと言っています。
2 もう一人の弟は、父親が私に1000万円貸していたのでそれも相続財産になるはずだと、言っています。私は、そんなお金は借りたことがありません。
3 その弟は、父親の所有していた絵画数点を生前父親から借りて弟の自宅に飾っていました。私が、その絵画も相続財産なので分割の対象となるといったところ、そのような絵はないと言い張っています。
4 さらに、その弟は父親の死亡する1年前から父親の面倒をみるということで父親と同居していましたが、父親の面倒を見たということで相続財産について寄与分を主張しています。

(回答):
父親が死亡した場合、第1順位の相続人は子供です。子供の間での相続分の割合は同じですので、子供が3人いれば3分の1ずつ相続分があることになります。そして、父親が死亡した時点で相続により、父親の財産は相続人に相続分の割合に応じて帰属することになっています。ただ、後日遺産分割協議が相続人間でおこなわれた場合は相続の時点にさかのぼって遺産分割協議どおり特定の遺産を相続した相続人が、直接相続したことになっています(民法909条)。これが、民法の相続に関する原則です。

1 (1)そこで、まず問題点の1についてですが、借金の返済で2000万円至急必要な弟さんも相続財産について3分の1の権利を有しています。これは、先ほど説明したとおり遺産分割協議が成立しなくても権利としては認められます。また、預貯金については、法律上は銀行や郵便局に対する金銭の返還請求権という債権とされています。そして、これらは分割が可能な債権とされていますので相続人が複数いる場合は相続人の人数に応じて分割されることになっています。ですから、預金等が6000万円ある場合は、その3分の1の2000万円を、借金で困っている弟さんは遺産分割前でも、銀行に自分が相続したことを証明すれば払い戻しを請求できます。この場合、戸籍謄本だけで相続の発生(父親の死亡、妻が既に死亡していること、子供の人数)が証明できますから、それらの書類とさらに自分の実印と印鑑証明書を持って銀行に行って2000万円を手にすることができます。なお、銀行の実務は相続人全員の印鑑を要求しています。しかし、預金債権が分割債権であることは、最高裁判所の判決もあり確定しているところですので、銀行は相続人の一人からの請求を拒否できないことになっています。もし、銀行が支払いを拒否する場合は弁護士に依頼して請求してもらうことができます。

(2)次に、預貯金等が少なく3分の1にすると2000万円に足りない場合について説明します。この場合、弟さんは遺産分割協議をしないと返済のための現金を用意できません。不動産については遺産分割協議前でも3分の1の権利を有していることは、先ほど説明した民法の原則のとおりなのですが、この場合不動産はほかの兄弟と共有となり持ち分3分の1だけでは処分して現金とすることは現実に難しいからです。もちろん、不動産業者などで持ち分でも買い取る人がいないわけではありませんが買いたたかれて不当に安い金額にしかならないのが現実です。

そこで、遺産分割協議を速やかに行い弟さんの借金の返済に協力するのがほかの兄弟としても取るべき方法といえます。しかし、遺産分割の協議について意見が分かれる場合は、協議成立に時間がかかりすぐにでも返済したい弟さんに協力することはできなくなってしまいます。このような場合、他の相続人としては何らかの方法で2000万円を用意し、その代り弟さんからは、自分の相続分はないという書類をもらうことにより解決することができます。自分で書面の作成が出来ないようであれば弁護士に依頼することもできます(費用は5万円程度でしょう)。このような書面があれば後日遺産分割の調停が家庭裁判所で行われても当事者から除外されますので、相続分がもっとあるなどと主張されることはありません。なお、同様の手段として相続の放棄をしてもらうことも考えられますが(民法915条)、家庭裁判所に相続の発生したことを知った時から3カ月以内に放棄する旨申し立てる必要があることから通常は放棄の手続きは取りません。

2(1)次に父親があなたに1000万円貸し付けていることを弟さんの一人が主張している件について説明します。あなたは借りていないということですが、仮に借りていたとすると、父親のあなたに対する1000万円返せ、という債権があることになりその債権は預金と同様ほかの弟さんに3分の1づつ帰属することになります。また、遺産分割の協議の場合は1000万円の財産として遺産分割の対象となります。

しかし、あなたはそのようなお金は借りていないということですから、相続財産か否か相続人間で意見の違いがあることになります。このような場合は、家庭裁判所では債権があるかないか、債権が遺産か否かは判断できません。権利の有無に争う意がある場合は裁判(訴訟)手続きで決める必要があるとされています。そのため、地方裁判所において、そのような権利があるのか否か訴訟で判断することになります。調停はあくまで話し合いですから、遺産か否か相続人間で意見が分かれると分割の対象とはできないことになります。通常は遺産分割の調停が成立しないと審判という手続きになるのですが、この手続きも訴訟手続きではないので、相続財産か否かは判断できないことになっています(権利の有無を決めるのは訴訟手続きと言って公開の法廷で、証拠や証人の尋問により裁判官が決めることになっています。これに対し審判の手続きは権利があることを前提に遺産をどのように分けるのが公平かという観点から判断する手続で、非訟事件と呼ばれています)。

(2)ですから、あなたの借金の有無について弟さんと意見が異なりあくまで弟さんがあなたの借金を主張するため、話し合いで解決できないという場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てても問題は解決しないことになります。弟さんがその点に固執する場合は地方裁判所に債権があること理由に訴訟を提起する必要があるのです。先ほど説明したようにお金を払えという債権は分割債権ですから、弟さんは自分の相続分に応じた金額を払えという裁判を起こすことになるでしょう。あるいは、確認訴訟と言って債権がありそれが相続財産であるということの確認を求める裁判を提起することも考えられます。 (3)なお、相続財産か否か争いがある場合、争いのない相続財産だけを対象に遺産分割の協議をすることもできます。また、その範囲で家庭裁判所の調停や審判をしてもらうことも可能です。ただし、争いのある相続財産が遺産の全体の大部分を占める場合は、まず裁判で遺産か否かを決める必要があることになり、そのような場合は家庭裁判所から一度調停の申立てを取り下げるよう求められることになると思われます。

3 次に、絵画の問題についてですが、この問題も2と同様遺産の範囲の問題となります。この場合はあなたが絵画が遺産に含まれることを主張していますからあなたから、弟さんに訴訟を提起して絵画が相続財産であることの確認を求めることになります。しかし、このような裁判はあなたが原告として絵画が現に弟さんの自宅にあることを主張証明する必要がありますから極めて難しい裁判になります。なお、弟さんが絵画を現在保管していないが父親があずけた事、後日返還する約束であった事などを主張立証すれば、弟さんに返還義務があることが認められ保管していないのであれば損害賠償の請求が可能となります。いずれにしろ、難しい裁判ですし、ただでさえ遺産分割で争いが生じていることを考えると裁判をする必要があるかいないかは十分な検討が必要と思われます。

4(1)次に、父親の介護を理由とする寄与分について説明します。寄与分については民法904条の2に規定があり、共同相続人の一部の者の行為によって相続財産が増加したり、維持(減額にならなかった)されたりした場合にはその共同相続人に寄与した分だけ多く遺産を相続させる制度です。現在の民法では法定相続分による相続が原則となっていますが、そうすると相続財産の形成過程に貢献した人もそれ以外の相続人と同じ分しか相続できないことになり不公平な結論になってしまうことから公平な遺産分割を実現するために認められた制度です。寄与分についても民法は相続人の協議を原則とし、協議ができない場合に家庭裁判所の調停、審判という手続きとなります。

(2)具体的な寄与分については、寄与分を主張する相続人が金額を提示して主張することになります。そのような主張を基に調停が行われますが、話し合いによる解決ができないと判断された場合は審判となります。寄与分の調停と遺産分割の調停は家庭裁判所の扱いでは別の事件とされますが、実際には一回の調停で二つの事件の調停が行われることになります。ですから理論上は寄与分の調停については成立し、遺産分割協議について調停が成立しない(「不調」といいます)ということもありえますが、通常は遺産分割の調停が成立しなければ、寄与分についても不調となります。

(3)寄与分の調停が不調になると審判の手続きになります。これは調停が不調であれば自動的に審判手続きになりますので、別途審判の申し立てをする必要はありません。

審判については、先ほど説明したように訴訟手続きではありませんから、証人尋問はおこなわれません。寄与分を主張する相続人は証拠書類等を提出することになります。ただ、証拠書類だけでは不明の場合、家庭裁判所の調査官が調査をして報告書を提出しそれを参考に裁判所が判断することになっています。調査官は各相続人の家まで出向き聞き取り調査を行うことになります。介護を理由とする寄与分の主張がある場合は、介護の必要性と具体的にどのような介護を行ったかという事実関係を調査することになります。介護保険法の関係で、介護が必要な人については要介護度が客観的に明らかとなっていますから、要介護度が明らかとなる書面を提出することになります。もちろん調査官は、審判の手続きに提出された資料を事前に見て現地調査に来ますから要介護度に関する書類は事前に裁判所に提出しておくこともできます。

調査官の調査の結果は「調査報告書」という書面として審判官(家庭裁判所の裁判官)に提出されますが、相続人に対して提出されることはありません。そこで、この書類を見るためには、記録の謄写という手続きを取る必要があります。各家庭裁判所に記録の謄写を担当するところがありますから相談してみてください。

(4)以上のように介護による寄与分については、まず、介護が必要か否かを判断することになります。

介護の必要性が認められると次にどのような介護がなされたのか具体的に判断しさらにその介護の行為を金銭的に評価する作業が必要となります。介護を人にたのんだ場合にかかる費用を、自ら労務を提供して介護することで費用の支出を防いだ、相続財産を維持したということになります。もちろん介護が必要で、そのため介護したとしてもそれが子どもとして当然の介護活動で特に金銭的な評価をする必要はないと判断されることもあります。要は、相続人間の公平を図る見地から特定の相続人だけが労力を提供したと言える場合に限り寄与分が認められることになります。

5 以上のとおり、遺産の分割についてはまず相続人全員での協議により解決することが大前提です。それが無理な場合は調停、審判となります。さらに相続財産の範囲に争いがあることになると通常の裁判も必要になります。時間的にもかなりかかることが予測されますので、速やかな解決を望まれるのであれば弁護士に相談されるのが良いでしょう。

≪参照条文≫

(遺産の分割の効力)
第九百九条  遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第九百十五条  相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
(寄与分)
第九百四条の二  共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
2  前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
3  寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
4  第二項の請求は、第九百七条第二項の規定による請求があった場合又は第九百十条に規定する場合にすることができる。


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