新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.630、2007/6/1 14:47 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm

[民事・不法行為・婚姻関係破綻後の不倫関係・破綻の判断基準・不倫慰謝料の消滅時効進行開始時期]

質問: 妻子ある男性から「妻とは離婚してあなたと結婚したい」と、交際を申し込みされました。男性は誠実な人で、私も好意を持っていますが、離婚前に交際することは慰謝料請求の原因であると聞いたことがあります。男性が離婚するのを確認してから交際すべきでしょうか。

回答:確かに離婚前に交際すると、配偶者からの慰謝料請求を受けるおそれがありますが、既に夫婦関係が破綻しているような事例では慰謝料請求権も否定されることがあります。

解説:
1、婚姻関係にある者と肉体関係を伴う交際を行うことは、社会的に認知された婚姻制度を侵害し、他方配偶者の婚姻生活の平穏を侵害することですから、古くは「姦通罪」として刑事処分の対象でもありましたが、時代の変化に伴い刑事処分は廃止され、民事上の賠償義務のみ現在でも認められています。「夫又は妻としての権利を侵害」する行為であると裁判所も認めています。

昭和54年3月30日最高裁判所判例
「夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持った第三者は、故意又は過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によって生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の被った精神上の苦痛を慰謝すべき義務があるというべきである。」

2、しかしながら、既に婚姻関係が破綻していたような場合など、あらゆる場合に、この慰謝料請求権を認めるべきかどうか、慰謝料請求権を制限すべき場合は無いか、長く議論の対象となってきました。下級審判例も集積されていきました。そして、重要な最高裁判例が2つ示されました。

平成6年1月20日最高裁判所判例
「夫婦の一方の配偶者が他方の配偶者と第三者との同棲により第三者に対して取得する慰謝料請求権については、一方の配偶者が右の同棲関係を知った時から、それまでの間の慰謝料請求権の消滅時効が進行すると解するのが相当である。けだし、右の場合に一方の配偶者が被る精神的苦痛は、同棲関係が解消されるまでの間、これを不可分一体のものとして把握しなければならないものではなく、一方の配偶者は、同棲関係を知った時点で、第三者に慰謝料の支払いを求めることを妨げられるものではないからである。」

平成8年3月26日最高裁判所判例
「甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。けだし、丙が乙と肉体関係を持つことが甲に対する不法行為となるのは、それが甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであって、甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には、原則として、甲にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとは言えないからである。」

3、平成6年の判例は、公害訴訟などでも問題となる「継続的不法行為の消滅時効の起算点」という難しい論点にも関係する判例です。不法行為の請求権は「損害及び相手方を知った時から3年(民法724条)」で時効消滅することから、交際相手の配偶者が交際関係を知ってから3年経過後に慰謝料請求をされた場合、たとえその時点で交際関係が継続していたとしても、3年以上前の不貞行為については、消滅時効の主張をすることができるということです。勿論、慰謝料請求をしてから3年以内の不貞行為についての損害賠償請求をすることは可能ですが、夫婦関係が破綻してから3年以上経過しているような場合では、最も重要な交際開始時の行為についての不法行為責任は問えない場合があると判断したことになります。

4、平成8年の判例は、従来認められてきた不倫慰謝料請求権の根拠について、「婚姻共同生活の平和の維持」という権利を侵害されたからであると判断し、既に婚姻関係が破綻しているような事例では、慰謝料請求権が認められないと解釈しました。つまり、ただ単に、配偶者のある男性と性行為をしただけではなく、そのことによって、夫婦関係の平和を乱したことが、慰謝料請求には必要であると解釈したのです。前記昭和54年の判例は婚姻関係が破綻する前に肉体関係を持った場合についてのものであると判断しました。

5、それでは、「婚姻関係の破綻」とは、どのような状態でしょうか。平成8年の判例では、夫が別居する目的で夫婦関係調整調停を家庭裁判所に申し立てたが妻が出頭せず取り下げられた後、翌年別居し、その数ヵ月後に肉体関係を持った事例で、「婚姻関係は既に破綻」していると認定しました。最終的には、事例ごとの個別判断になりますが、@夫婦関係が冷め切っている、A別居状態である、B家庭裁判所の調停を経ている、C家庭内暴力(DV=ドメスティックバイオレンス)がある、などの事情がある場合には、「婚姻関係の破綻」が認められやすくなると思われます。慰謝料請求の裁判では、証拠によって破綻を認定しますから、夫婦の別居を証明する夫婦それぞれの住民票や、夫婦間の手紙やメモ、夫婦関係が冷め切っていることを認識している証人、DVの証拠として医師の診断書や患部の写真など、確認した方が良いでしょう。注意して頂きたいのは、別居しているからといって必ず破綻しているわけではないということです。別居していても双方の連絡が継続して関係修復への努力があるような場合には直ちに破綻しているとは言えないでしょう。裁判所で争いになった場合には、全ての事情を総合的に判断することになります。

6、ご質問の点について法的な立場では上記のような説明になりますが、勿論、離婚成立前に交際することは倫理的には好ましくありませんし、法的にも「婚姻関係の破綻」を認定できるかどうかは、単純な問題ではありません。複数の証拠を拝見しないと弁護士としての意見を申し上げることもできないとおもいます。男性が真実に婚姻関係の修復はできないと考えているなら、婚姻関係の清算をするために妻とよく話し合いをするか、家庭裁判所の調停手続を先に行うべきであるとも思われます。「妻とは離婚することになっている」と男性が言っていても実際には夫婦関係を修復したいという希望を持っている場合もあります。相手の男性に小さな子供が居る場合は、子供にも精神的な影響があります。男性に対して「それならきちんと手続きしてから交際しましょう」と言ってみることもひとつの考え方であると思います。手続について不明な点がある場合は、お近くの法律事務所に相談してみると良いでしょう。

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