新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.579、2007/2/14 11:57 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm

【民事、相続】
質問: 半年前に夫が亡くなりました。夫の遺産(相続財産)としては、自宅の土地建物及び預金があります。相続人は私と未成年(5歳)の男の子の2名です。突然のことだったので、遺言書は残っていません。息子はまだ幼いので、土地建物及び預金の名義をすべて私の名義にしたいと考えていますが、どのような手続をすればよいでしょうか。

回答:
1、遺言書がないということですので、現在、相続財産は、共同相続人である奥様と息子さんの共有ということになります。これをすべて奥様の名義にしたいということですから、奥様と息子さんの遺産分割協議によって、分割による相続持分、分割方法を決定する必要があります。しかしながら、ご質問のケースでは、息子さんが未成年ですから、自分自身で、有効に遺産分割協議を行うことはできません。また、息子さんの法定代理人(親権者)である奥様は、息子さんに代わって法律行為をする権限がありますが、今回の遺産分割協議に関しては、客観的に見て、息子さんとの利益が相反する関係にありますので、代わって遺産分割をすることはできません(民法826条)。

2、このような事案で、実務では従来から、『特別受益証明書』、『相続分なきことの証明書』という表題の書面を、未成年者に代わって親が作成し、未成年者を除いて遺産分割協議をするということが行われているようです。『特別受益証明書』、『相続分なきことの証明書』の本来の意味は、既に被相続人(ここでは夫)から遺贈又は婚姻、養子縁組、生計の資本としての贈与を受けており、その価額が、法定相続分の価額に等しく又はこれを超過するため、相続開始に伴って受領すべき相続分はないことを相続人自らが認める文書です。この文書には様式等の決まりはありません。

3、この文書の性質について争いはありますが、不動産登記実務においては、特別受益があった過去の事実を認めるに過ぎない(財産を放棄する意思表示を含まない)ものと考えており、遺産分割協議の場合とは異なり、未成年者に代わって相続財産の帰属について利益の相反する親権者において作成することも認めています(昭和23年12月18日民事甲第95号回答)。勿論、特別受益があったことが事実であれば、何ら問題はありませんが、多くの事例では、そのような事実がないにもかかわらず、手続費用を抑え、手間を省く趣旨で作成されることが多いようです。

4、ご質問のケースで、ご主人から息子さんに対して、贈与・遺贈等がなされた事実がないにもかかわらず、息子さんについての『特別受益証明書』等を奥様が作成し、すべての相続財産を自分の名義に変更したとすれば、内容虚偽の文書により実体に反する手続をしたわけですから、公正証書原本不実記載罪(刑法第157条)の構成要件に該当し、また、成長した息子さんが、後日その事実を知ったとき、遺産分割協議は成立していないとして紛争になる可能性があります。

5、では、今回のケースでどのようにしたらよいかと言いますと、遺産分割協議をする前提として、まず、息子さんの利益を擁護する『特別代理人』の選任を家庭裁判所に申立てます。そして家庭裁判所で選任された『特別代理人』と奥様との間で、遺産分割の協議をするということになります。

6、なお、特別代理人は息子さんの代理人ですから、息子さんの利益を擁護する立場にあります。幼いとは言え、息子さんにも相続権がありますので、すべての相続財産を奥様が取得するというのは、相続法の精神に反し、妥当ではありませんから裁判所もそのような遺産分割協議を認めることはないと思います。裁判所によっては、遺産分割協議書案を提出させて、その内容が未成年者の利益を一方的に害するものでないがどうかを確認した上で、特別代理人を選任する扱いをしているところもあるようです。本件のような場合は必ず法的専門家に事前に相談すべきでしょう。

≪参考条文≫

民法第826条1項
親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。

刑法第157条
公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿、戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ、又は権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

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