新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.553、2006/12/29 14:56 https://www.shinginza.com/qa-sarakin.htm

【民事 名義貸し】
質問:私(A)の友人Bさんは,金融会社会社から借り入れをしようとしたところ,以前債務整理をしたことがある関係で,借り入れをすることができませんでした。そこで,Bさんは私に対し,「お金を借りるのに,名前を貸してくれないか。返済は責任をもって私がするから。カードを作って渡してくれるだけでいい。Aさんに迷惑がかかることはない。」などと言ってきました。本当に,私に迷惑がかかるようなことはないのでしょうか。また,保証人となる場合と何か違いはあるのでしょうか。

回答:
Bさんがきちんと返済を続けている限りは直接的な迷惑がかかることはないといえますが,Bさんの返済が滞った場合,Aさんが直接返済の請求を受けることになります。また,そもそも,カードは貸与や譲渡が許されないものとされているのが通常で,契約違反になりますし,それどころか犯罪行為となる可能性すらあります。名義貸しは絶対にやめましょう。保証人との主な違いは,主債務者になるか,保証債務の債務者になるのかという点です。これに起因する具体的な差異は解説で述べます。

解説:
1,名義貸しのリスクについて
(1)「単に名前を貸すだけだから。」「返済は依頼をした人がするから自分には関係ない。」などと安易に考えて,名義貸しをしてしまったという方からの相談をお受けすることが度々あります。名義貸しをした場合,名義を貸してしまった方の多くは,「お金を借りたのは名義を借りた人」という認識をもっているようですが,法律上は原則としてそうではありません。

(2)Aさんの名義で金融会社と契約(金銭消費貸借契約)をしている以上,金融会社との関係で債務者となるのはあくまでAさんです。この点,Aさんとしては「借金の返済はBさんの責任において行われるものであり,自分ではその支払いをする必要がないと考えていた。あくまで自分は名前を貸しただけで,契約当事者になった覚えはない。」とおっしゃるかもしれません。しかしながら,裁判所では「(内心でそのように思っていたとしても,それは)単に消費貸借契約を締結するに至る動機にすぎないものであり,消費貸借契約を締結する意思そのものを否定することはできないといわざるを得ない。」と判断される可能性が高いといえます(福岡地裁平成12年(レ)第135号事件参照)。したがって,Bさんが返済を滞らせた場合,債権者である金融会社は,法律上の債務者であるAさんに対して請求をしてきます。逆に,Bさんは金融会社との関係では契約関係がないため,金融会社としても原則としてBさんに対して返済するよう請求することはありません。Aさんも,金融会社に対して,「Bさんに請求してくれ。」という主張をすることは困難であるといえます。

(3)また,仮に裁判で争った結果「(Aさんには)消費貸借の当事者として契約する意思がなかった。」と認定されたとしても,次に金融会社から「あたかも当事者であるかのような外観を作出したことに基づく責任」を追及されることになるでしょう(いわゆる表見法理などと呼ばれるもの。民法109条等類推)。この表見法理(外観法理)は,真実とは異なる外形が存在する場合に,その外形作出に対して帰責性(負うべき責任)のある人間は,その外形を信じて取引関係を結んだ者に対して,その信頼どおりの責任を負わせるべきだ,という考え方です。この理論からすると本問では,(Aさんは当事者ではないにしても)当事者であるかのような外形それ自体は存在しており,また,その外形作出についてAさんに帰責性がある以上(自分名義で契約をしてカードを作成し,Bに対してそのカードの使用を許可している),Aさんが契約の当事者であると信頼した金融会社を保護する必要があるということになります。したがって,金融会社がそのような主張をし,裁判でこの主張が認められてしまうと,Aさんは結局,契約当事者であると認定された場合と同様の責任を負うことになります。さらに,例えば「20万円借りたいからカードを貸してくれ」と頼まれたので仕方なくカードを貸したところ,100万円の借り入れをされてしまったというような場合,カードを貸した側としては20万円までしか借り入れを許可していないのだから,責任を負うとしてもせいぜい20万円までというのが原則ですが,表見法理(民法110条類推)により,100万円全額について支払義務を負わされる可能性もあります。

(4)AさんとBさんの法律関係がどのようなものであるかは,個別具体的な場合によって様々だと思いますが,いずれにしても,Aさんが金融会社から返済を請求された場合に取りうる方法としては,まずはAさんが金融会社に対して返済をしたうえ,Bさんに対して返済した額の支払請求(求償請求)をするというのが一般的な方法と言えるでしょう。

(5)そもそも金融会社との契約によって交付(貸与)されたカードを第三者に譲渡ないし貸与すること自体が金融会社との関係で契約違反になる可能性が高く,そのこと自体,許されるものではありませんし,消費貸借契約の当事者となる以上,「お金を返す気が全く無いにもかかわらず,お金を借りた(借りるのを許可してしまった)。」ということになると,お金を騙し取ったのと同じように扱われる恐れもあり,詐欺罪等の犯罪が成立してしまう可能性も皆無とは言い切れません。

(6)なお,法律的なお話ではありませんが,金融会社等から金銭の借り入れをした場合,その取引情報は個人信用情報機関に登録されます。そして,支払いが滞ると,そのような状況も情報機関に登録されることになります。仮に本件のように名義貸しをして,名義を借りた人が支払いを滞らせた場合には,名義を貸した人が支払いを滞らせたものとして信用情報機関に登録されることになります。なぜなら,金融会社との関係では,借主はあくまで名義貸しをした人だからです。金融機関等は,融資をする場合,信用情報機関に登録された情報を融資審査の参考にすることがありますので,名義貸しをし,名義を借りた人が支払いを滞らせることにより,名義を貸した人が借り入れたお金の支払いを滞らせたという情報が登録されてしまうと,結果として名義貸しをした本人がお金の借り入れを必要とするときに,審査が通らずに困ってしまうという可能性もあるのです。

以上のとおり,法律上のリスクのみならず,事実上のリスクも決して小さいものとはいえませんので,名義貸しは決してすべきではありません。

2,保証人との違いについて
上述のように,(金銭消費貸借契約において)「名義を貸す」ということは,名義を貸した人が金融会社との関係で借主,すなわち債務者になるということです。保証人になる場合にも,金融会社と保証契約を締結することになり,保証債務を負うことになりますが,あくまで主債務者は別の人です。両者の具体的な差異についてですが,主債務者は「お金の借主」として,一次的な返済義務があるのに対し,保証債務者は,主債務者が返済をせず,かつ,みるべき資産もないという場合にはじめて支払い義務を負う立場にある,すなわち,二次的な返済義務があるにすぎないという違いがあります(民法452条,453条)。もっとも,実際上,保証人になるという場合,単なる保証契約であることはむしろ少なく,連帯保証契約とされていることが圧倒的に多いといえます。この「連帯保証契約」を締結してしまった場合には,ほとんど主債務者とかわらない,重い債務を負うことになってしまいますので(民法454条),契約締結時には契約書面などを十分に吟味し,契約内容をよく認識しておく必要があります。次に信用情報の点についてですが,名義貸しをした場合には,上にも述べたように,名義を借りた人が返済を滞らせた場合,信用情報機関に「名義貸しをしたその人」が支払いを滞らせたものとして情報が登録されてしまうのに対し,保証人になった場合には,あくまで主債務者が支払いを滞らせたとう情報が登録されるに過ぎず,保証人にとって直接的な不利益が生じることはありません(もっとも,今後の取り扱いで変更がなされる可能性もありますので,詳しくは関係機関に問い合わせる必要があります)。

3,以上のように,名義貸しをすべきでないことは当然として,保証契約を締結する場合にもその責任の重さを十分に認識し,また,契約内容についてもよく理解しておくことが重要です。なお,名義貸しをしてしまったが,そのことを金融会社も知っていた,あるいは,むしろ金融会社からすすめられて名義貸しをする羽目になったなどという場合には,金融会社からの支払請求を拒める可能性もありますので,そのような状況でお悩みの場合には,弁護士等の法律家に相談することをおすすめします。

≪参考条文≫

民 法
第百九条  第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。
第百十条  前条本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。
第百十二条  代理権の消滅は、善意の第三者に対抗することができない。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。
第四百五十二条  債権者が保証人に債務の履行を請求したときは、保証人は、まず主たる債務者に催告をすべき旨を請求することができる。ただし、主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき、又はその行方が知れないときは、この限りでない。
第四百五十三条  債権者が前条の規定に従い主たる債務者に催告をした後であっても、保証人が主たる債務者に弁済をする資力があり、かつ、執行が容易であることを証明したときは、債権者は、まず主たる債務者の財産について執行をしなければならない。
第四百五十四条  保証人は、主たる債務者と連帯して債務を負担したときは、前二条の権利を有しない。
第四百五十五条  第四百五十二条又は第四百五十三条の規定により保証人の請求又は証明があったにもかかわらず、債権者が催告又は執行をすることを怠ったために主たる債務者から全部の弁済を得られなかったときは、保証人は、債権者が直ちに催告又は執行をすれば弁済を得ることができた限度において、その義務を免れる。

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