新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.525、2006/11/13 15:22 https://www.shinginza.com/qa-sarakin.htm

〔任意整理・不当利得返還請求〕
質問:私は、10数年以上前から消費者金融より借入・返済を繰り返しています。取引履歴を調査し、利息制限法の利率で引き直し計算をしてみると、既に過払いとなっていました。消費者金融とその返還について、交渉しておりましたが、応じてくれません。そこで、不当利得返還請求訴訟を提起しましたが、消費者金融より既に過払金が生じてから10年以上経過しているため、消滅時効が完成しているので、援用しますと答弁書で主張されました。過払金の消滅時効は完成してしまっているのでしょうか。

回答:
1、ご自分で金融会社と交渉、訴訟をしているようですが、訴訟は民事訴訟法上本人訴訟が建前ですから、何もおかしいことではありません。手続き上分からなければ、裁判所の職員にお尋ねすることをお勧めします。理論的なことでアドヴァイスいたしますので参考にしてください。まず消滅時効とは、一定の期間の経過により、権利が消滅することを言い、権利を行使することを得る時より進行し、所有権以外の権利は、消滅時効にかかります。借入金債務の消滅時効は、通常は10年(民法167条1項)ですが、商事債権の場合は、5年(商法522条)となります。株式会社・有限会社等の消費者金融の貸金債権は、原則として商事債権となりますが、本件のような利息制限法所定の制限利率を超えた利息・損害金が支払われたことによる不当利得請求債権(過払金)については、法律の規定によって発生する債権であり、商事取引関係の迅速な解決のため短期消滅時効を定めた立法趣旨からみて、商行為によって生じた債権に準ずるものと解することも出来ないため、その消滅時効期間は、商事債権ではなく、民事上の一般債権として10年と解釈されています(最判昭55.1.24、民集34-1-64)。
2、あなたの場合、相手方である消費者金融は過払金発生より10年の期間経過をしているため、消滅時効の完成を主張し、援用しているようですので、過払金の消滅時効が完成しているか否か検討したいと思いますが、あなたと消費者金融の消費貸借契約の契約内容が具体的に分からないため、近時、主流となっていますリボルビング契約(包括契約に基づいて、定めた一定の限度額の範囲内で繰り返し貸付・返済が行われるもの)を前提に、過払金発生後も借入・返済を繰り返していたと仮定し、解説致します。
3、結論から申し上げると、その主張が認容されるかどうかは別として、あなたとしては、まず、@過払金と借入金の充当の問題として争い、@が認められない場合、次にA過払金の消滅時効の起算点を争う、B消滅時効援用を信義則違反として争う方法が考えられます。
4、まず、@から検討すると、既に生じている過払金は、その後新規借入した借入金に当然に充当されているので時効消滅の対象にならないと主張するわけです。これは、本件のようなリボルビング方式の金銭消費貸借契約を、継続した貸金業者、借主間の取引として、一体(取引の個数を単一)として評価し、当事者の合理的意思解釈に基づけば、通常、借主は借入総額の減少を望み、複数の権利関係が発生するような複雑な事態が生じることは望まないと考えられ、貸主側から考えても包括契約である以上、借主に対する返還金を新たな債務に充当することは貸主の合理的意思にも反しないと考えられます。従って、過払金が生じた後、同一の金銭消費貸借契約において、新規借入金が生じた時には、既に発生している過払金は当該新規借入金に充当されるべきであると主張するのです。このことで、時効消滅を主張されている過払金は、新規借入金と充当(又は、相殺)されることになりますので、消滅時効によって消滅することを回避でき、時効の問題とならない訳です。この充当に関しては、多くの判例で認められ、あなたが主張するのに最も適していると思います(大阪高判平14.12.27、東京高判平16.9.28、名古屋高判平17.2.23、大阪高判平18.1.25、東京高判平18.5.10)。
5、次に、上記充当が認められない場合、Aの過払金の消滅時効の起算点を争う点についてですが、消滅時効は前述致しましたとおり、権利を行使することを得る時より進行する(民法166条)とされています。この点、過払金返還請求権は期限の定めのない債権であるため、その発生と同時に権利行使が可能であると考えられます。しかし、リボルビング契約については、継続的な一連の取引と評価出来るため、過払金返還請求権は弁済毎に個別発生する債権ではなく、一連の債権とみるべきで、一連の取引が終了した時点において、時効が進行すると主張することが出来ます。(大阪地判平18.1.26)ただ、この主張については、意見が分かれており、過払金返還請求権の消滅時効は、個々の弁済が行われる都度、個別に進行すると考える方が素直な解釈であるとの説もあり、必ず裁判所が採用してくれるかどうか断言は出来ません。
6、最後に、B消滅時効援用の信義則違反ですが、違法な高利による利息を取得するため、積極的に取引を継続していながら、消滅時効を援用することは信義誠実の原則に反しており、許されないと主張するということです。(大阪高判平17.1.28)この主張は民法の一般条項をもとにするものですので、あくまで最終手段であり、裁判所で採用されるか疑問が残ります。
7、以上のように、ご質問頂きました消費者金融の消滅時効の主張に関しては、あなたは反論出来るのではないかと思われます。もっとも、このように消費者金融が過払金返還請求訴訟において、争ってきている場合には、具体的に弁護士や司法書士にご相談されることをお勧め致します。

≪参考条文≫

【民法】
第百六十六条  消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。
2  前項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を中断するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。
第百六十七条  債権は、十年間行使しないときは、消滅する。
2  債権又は所有権以外の財産権は、二十年間行使しないときは、消滅する。

【商法】
第五百二十二条  商行為によって生じた債権は、この法律に別段の定めがある場合を除き、五年間行使しないときは、時効によって消滅する。ただし、他の法令に五年間より短い時効期間の定めがあるときは、その定めるところによる。

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