新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.511、2006/11/7 16:38 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm

[家事・親子]
質問:16年間の婚姻生活に終止符を打ち、離婚をすることになりました。話し合いの中で、夫は子供2人(15歳、3歳)の親権を譲らないと言っています。私は働いておらず、経済力がないので親権が取れないと夫が言うのですが、本当でしょうか。また、一度決まった親権者を変更することはできますか。

回答:
1.未成年の子は親の親権に服し(民法818条1項)、父母が婚姻中は、原則として夫婦共同で親権を行います(同法818条3項)が、離婚したときには、父母の生活基盤が分かれるので、子の親権者をどちらか一方に決める必要があります(同法819条1、2項)。親権とは、子供に対する監護及び教育をする権利であり、親権を行う者は、この権利とともに義務を負うことになります(同法820条)。親権の内容は、大別すると身上監護権と財産管理権とがあります。
 ・子を養育する身上監護権
     養育・世話、監護・教育権(民法820)
     居所指定権(民法821)
     懲戒権(民法822)
     職業許可権(民法823)
     身分行為の代理権(民法775.787.791.797.804.811.815.833等)
     身分行為の同意権(民法737)
 ・子の財産を管理する財産管理権(民法824)
     法律行為の代表
これとは別に、親権の中で監護権という権利を独自に分離し認めた場合に、親権のうち、身上監護権の部分を行使し、実際に子の養育に当たることのできる権利を言います。
2.親権者を指定する手続は、(1)協議離婚の場合、離婚届と同時に親権者を指定して戸籍の届出を行うことになり、親権者の指定は、父母の協議によります。協議が調わないとき、協議ができないときは、父または母の申立により家庭裁判所が協議に代わる審判をします。(2)調停・審判・裁判離婚の場合はそれぞれの手続の中で決定され、審判・裁判離婚の場合は、審判官・裁判官が指定します。監護者の決定は、親権者とは別に、子を実際にどちらの手元で育てるかの問題です。即ち、親権者が自分の手元で育てるのか、それとも親権者でない方の親が育てることにするのかという問題であり、親権者が育てる場合には、親権者とは別に監護者を決める必要はありません。
3.親権者・監護者指定の判断基準は、子の利益、子の福祉の観点から父母側の事情と子側の事情をもとに決定されます。
  @父母側の事情
   ・健康、精神状態、性格異常、生活態度、経済状態(資産、収入)、家庭環境、住   居、教育環境
   ・子に対する愛情の度合い
   ・現在、将来の環境状況
   ・監護補助者の有無、補助の程度・方法
   ・父母の再婚の可能性、離婚の有責性
  A子側の事情
   ・子の年齢と意思
     0〜10才 ・・・母親の方が強い
    10〜15才・・・子の心身の発育状況により子の意思を尊重
    15歳以上 ・・・子の意思を尊重(審判前に必ず子の陳述を聞く必要あり)
親権者、監護者とも、母が指定される割合が年毎に増加しており、平成3年時点でいずれも80%を越えています。母が別居時に子を監護・養育している場合が多く、特に問題がなければ母が指定されているものと思われます。
4.以上より、あなたの場合、働いていないので経済状況からして親権は困難、と言い切ることはできず、その他の事情も加味して検討しなければなりません。実家の援助を受けるとかあなたがパートで働きに出るなどして、経済的に子供を育てることができるのであれば、経済状況は取り立てて問題とはならないと思われます。その他の事情にもよりますが、子側の事情として、3歳の子供についてはおそらくあなたが親権を取れると思われますが、15歳の子供については、その子の意思を確認してから決めることになります。話し合いで決まらない場合は、調停、審判等で決めることとなりますが、その際の判断基準は上記のとおりです。
5.親権者の変更
子の利益のため、必要があるときは、子の親族(多くは親権者でない父又は母)からの申立によって親権者を変更することができます(民法819 E)。親権の変更が認められた例としては、「協議離婚に際し父が親権者となったが、生活が安定せず、未成年の子は知事の行政処分により児童福祉施設に収容された。母からの親権者変更申立を認容」(東京高決S54.5.9)したものがあり、親権の変更が認められなかった例としては、親権者である父が死亡し、母が親権者変更を求めたケースで、「母は離婚後9年余り子と交渉がなく、子は父の後妻と真実の母子同様の安定した生活関係にあり、現在の生活の継続を希望しているとして、母の申立が却下された」(大阪家裁S53.6.26)ものがあります。親権者である父が死亡すると、親権者がいないことになり未成年後見が開始しますから(民法838)後見人の選任の問題となり、親権者の変更という問題は生じないとも間がられますが、その場合も民法819条6項を準用して、親権者の変更により生存している他方の親を親権者にすることができるというのが実務、判例の立場です。変更の基準としては、親権者の養育監護の現状に問題がある場合は変更が認められやすく、特に問題がなく、監護の現状の変更を伴うことになる場合は、子の生活の安定、特に精神面の安定という観点から、親権者の変更は認められにくいということになります。

≪参照条文≫
民法
(親権者)第八百十八条  成年に達しない子は、父母の親権に服する。
2  子が養子であるときは、養親の親権に服する。
3  親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う。ただし、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が行う。
(離婚又は認知の場合の親権者)第八百十九条 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
2  裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。
(監護及び教育の権利義務) 第八百二十条  親権を行う者は、子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。
(居所の指定)第八百二十一条  子は、親権を行う者が指定した場所に、その居所を定めなければならない。
(懲戒) 第八百二十二条  親権を行う者は、必要な範囲内で自らその子を懲戒し、又は家庭裁判所の許可を得て、これを懲戒場に入れることができる。
2  子を懲戒場に入れる期間は、六箇月以下の範囲内で、家庭裁判所が定める。ただし、この期間は、親権を行う者の請求によって、いつでも短縮することができる。
(職業の許可) 第八百二十三条  子は、親権を行う者の許可を得なければ、職業を営むことができない。2 親権を行う者は、第六条第二項 の場合には、前項の許可を取り消し、又はこれを制限することができる。
(財産の管理及び代表)第八百二十四条  親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。
(嫡出否認の訴え) 第七百七十五条  前条の規定による否認権は、子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行う。親権を行う母がないときは、家庭裁判所は、特別代理人を選任しなければならない
(認知の訴え)第七百八十七条  子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は、認知の訴えを提起することができる。ただし、父又は母の死亡の日から三年を経過したときは、この限りでない。
(子の氏の変更)第七百九十一条  子が父又は母と氏を異にする場合には、子は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その父又は母の氏を称することができる。
2  父又は母が氏を改めたことにより子が父母と氏を異にする場合には、子は、父母の婚姻中に限り、前項の許可を得ないで、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その父母の氏を称することができる。
3  子が十五歳未満であるときは、その法定代理人が、これに代わって、前二項の行為をすることができる。
4  前三項の規定により氏を改めた未成年の子は、成年に達した時から一年以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、従前の氏に復することができる。
十五歳未満の者を養子とする縁組)第七百九十七条 養子となる者が十五歳未満であるときは、その法定代理人が、これに代わって、縁組の承諾をすることができる。
2  法定代理人が前項の承諾をするには、養子となる者の父母でその監護をすべき者であるものが他にあるときは、その同意を得なければならない。
(養親が未成年者である場合の縁組の取消し)第八百四条  第七百九十二条の規定に違反した縁組は、養親又はその法定代理人から、その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし、養親が、成年に達した後六箇月を経過し、又は追認をしたときは、この限りでない。
(協議上の離縁等)第八百十一条  縁組の当事者は、その協議で、離縁をすることができる。
2  養子が十五歳未満であるときは、その離縁は、養親と養子の離縁後にその法定代理人となるべき者との協議でこれをする。
3  前項の場合において、養子の父母が離婚しているときは、その協議で、その一方を養子の離縁後にその親権者となるべき者と定めなければならない。
4  前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項の父若しくは母又は養親の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
5  第二項の法定代理人となるべき者がないときは、家庭裁判所は、養子の親族その他の利害関係人の請求によって、養子の離縁後にその未成年後見人となるべき者を選任する。
6  縁組の当事者の一方が死亡した後に生存当事者が離縁をしようとするときは、家庭裁判所の許可を得て、これをすることができる。
(養子が十五歳未満である場合の離縁の訴えの当事者)第八百十五条  養子が十五歳に達しない間は、第八百十一条の規定により養親と離縁の協議をすることができる者から、又はこれに対して、離縁の訴えを提起することができる。
(子に代わる親権の行使) 第八百三十三条  親権を行う者は、その親権に服する子に代わって親権を行う。
(未成年者の婚姻についての父母の同意)第七百三十七条 未成年の子が婚姻をするには、父母の同意を得なければならない。
2  父母の一方が同意しないときは、他の一方の同意だけで足りる。父母の一方が知れないとき、死亡したとき、又はその意思を表示することができないときも、同様とする。

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る