新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.494、2006/10/12 13:11 https://www.shinginza.com/qa-fudousan.htm

【民事・建物使用貸借・期間の定めがない場合・黙示の意思表示による契約成立】
質問:私たち夫婦は昭和60年に長男である夫の父親の家に入り、そこで家を改造して美容室の経営を始めました。平成8年に夫が死亡しましたが、義父は私に出ていけとは言わず、「あと15年もすればお前も老後の生活ができるようになるから、それまでは仕事でがんばれ。義弟にもよく言っておくから。」と常々言って私を励ましてくれ、私に美容室の経営を継続させてくれました。ところが、平成12年に義父が死亡すると、夫の弟すなわち義弟が土地建物を相続したからと言って私に明け渡しを求めてきました。私には子供はいません。明け渡さなければならないでしょうか。

回答:
1.本件の場合、土地建物は義父所有であり、相続人は、義父の配偶者及び長男であるあなたの夫が亡くなっていますので、義弟1人となります。あなたは亡夫の配偶者ではありますが、義父と養子縁組を行っていたわけではなく、子供もいないとのことですので、土地建物を相続できる立場にはありません。従って、土地建物の所有権は相続によって義弟に移転している以上、あなたは家から出ていかなければならないのが原則です。
2.ところで、あなた方夫婦が義父の家に入り、家を改造して美容室を経営していたという事情ですが、平成8年に夫が死亡した際に、義父があなたに「出て行け」と言わず、逆に「(この場所で美容院を継続することによって老後の生活ができるようになるまで)仕事で頑張れ。」と言ったということは、その時点で、義父とあなたとの間で黙示的に使用貸借が成立したと考える余地がないわけではありません。現にあなたは夫亡きあとも4年間、その場所で美容院を経営し、そこで得た収入で義父を養っていたという事情があります。つまり、もともと義父と亡夫との間で、美容院を経営するという目的での建物の使用貸借が成立していた中で、夫の死亡により使用貸借がいったん終了したものの(「借主の死亡による終了」民法599条)、夫亡きあと、義父があなたに上述の言葉を述べて美容院を継続して経営させることを黙認したことにより、義父とあなたの間で建物の使用貸借が成立したと解する余地があります。期間は15年程度で、あなたが老後の生活の保障が確保できるようになるまで、ということになります。条文では、本件使用貸借は、「契約に定めた時期に」(民法597条1項)もしくは「当事者が返還の時期を定めなかったときは、借主は、契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に、返還をしなければならない。」(民法597条2項)ということになり、使用貸借の終了日が、15年後もしくはあなたが老後の生活ができるようになり美容院の経営を止めたときに来ますので、その時に返還をすればよく、現時点では義弟からの請求に対して明け渡す必要はないということができます(横浜地裁小田原支部平成9年9月10日)。但し、本件の場合でも義弟が、土地建物を第三者に譲渡して第三者から明け渡し請求された場合は使用貸借権に第三者に対する対抗力がないので敗訴することになるでしょう。
3.原則論はあくまでも原則論であり、どのような事情が有利に働くかはわかりません。あらゆる角度から事実を眺めて法律論として構成できれば、原則論から言えば負けると思われる事案でも勝訴することがあり得ます。理不尽と思われることは弁護士に相談してみることをお勧めします。

≪参考条文≫

(借用物の返還の時期)
民法第五百九十七条  借主は、契約に定めた時期に、借用物の返還をしなければならない。
2  当事者が返還の時期を定めなかったときは、借主は、契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に、返還をしなければならない。ただし、その使用及び収益を終わる前であっても、使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主は、直ちに返還を請求することができる。
3  当事者が返還の時期並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも返還を請求することができる。
(借主の死亡による使用貸借の終了)
民法第五百九十九条  使用貸借は、借主の死亡によって、その効力を失う。

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る