新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.485、2006/10/5 14:41 https://www.shinginza.com/qa-sarakin.htm

[民事・契約]
質問:私は昭和58年に○○生命保険会社から住宅ローンの借入れをしたのですが、最近返済が遅れることが多くなり、連絡を入れて「弁護士を入れて債務整理をするかもしれない」と話したところ、「債権譲渡のご通知」という文書と「登記事項証明書」というものが送られてきました。「債権譲渡のご通知」は、差出人が「××信託銀行」となっており、内容は「貴殿と○○生命保険相互会社との間で締結された金銭消費貸借契約に基づく下記住宅ローン債権は、平成12年8月16日付住宅・アパートローン債権信託契約書に従って、○○生命保険相互会社から弊社に信託譲渡されておりますことを通知申し上げます。」というものです。つまり、○○生命保険会社から××信託銀行に債権が移転されていたようです。私は、この譲渡について今まで全く知らず、承諾した覚えもありません。また、債権譲渡の通知は、「譲渡人」が債務者に対してしなければならないものだと思っていましたが、譲受人からきているこの通知は有効なのでしょうか。

回答:
1.上記文書の内容を見ますと、○○生命保険相互会社と××信託銀行との間で、あなたの住宅ローン債権の譲渡が行われたことをあなたに通知する内容となっています。一緒に同封されてきた「登記事項証明書」には、<概要事項>「登記の目的」欄に「債権譲渡登記」とあり、譲渡人名、譲受人名、債権の総額が2,314億円であること、その他が記載され、<債権個別事項>には債権通番、管理番号、原債権者名、債務者名、債権発生年月日、発生時債権額、譲渡時債権額その他が記載され、「上記のとおり債権譲渡登記ファイルに記録されていることを証明する」として東京法務局の登記官の印が押してあります。 これは、あなたの住宅ローン債権が、平成12年8月16日付けで××信託銀行に移転され、それを「債権譲渡登記」という形式で行ったものということができます。
2.債権譲渡登記というのは、「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」で定められており、法人がする金銭債権の譲渡や金銭債権を目的とする質権の設定について、簡易に債務者以外の第三者に対する対抗要件を備えるための制度です。債権流動化など法人の資金調達手段の多様化の状況を考慮して、法人が金銭債権の譲渡などをする場合に簡便な対抗要件制度として、平成10年10月1日から運用が開始されています。ところで、民法467条は、「1項:指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。2項:前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。」として、債権譲渡を譲受人が債務者に対して主張するためには、「譲渡人」が債務者に対して債権譲渡の通知をするか、債務者の承諾を得なければならないと定めており、債務者以外の第三者に主張するためには、この債務者への通知又は承諾を確定日付ある証書によって行わなければならないとしています。しかし、法人が債権流動化などの目的で多数の債権を一括して譲渡したい場合に、多数の債務者すべてに467条2項の確定日付のある証書による通知をすることは、手続が煩雑で費用も馬鹿になりません。そこで、第三者対抗要件に関する民法の特例として、債権譲渡登記を取り扱う登記所(債権譲渡登記所)である東京法務局において、法人が債権を譲渡した場合に当該譲渡につき債権譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされたときは、467条の規定による確定日付のある証書による通知があったものとみなすとしたものが、債権譲渡登記制度です(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律第1条、4条)。あなたに送られてきた「登記事項証明書」の<概要事項>の欄に債権の総額が2,314億円であると記載されていることから、○○生命保険相互会社が××信託銀行に対して、あなたの住宅ローンを含む2,314億円の債権を一括して譲渡したということが伺われます。
3.ただし、債権譲渡登記をしても,債務者に対しては,債権譲渡の事実を主張することはできません。債務者に対しては、当該債権の譲渡及びその譲渡につき債権譲渡登記がされたことについて、譲渡人もしくは譲受人が債務者に登記事項証明書を交付して通知をし、または当該債務者が承諾をしてはじめて、債権譲渡の事実を主張することができるとされています(同法4条2項)。従って、あなたが受け取った上記通知及び登記事項証明書がその役目を果たすものと思われます。条文では、「譲渡人もしくは譲受人」が債務者に通知すればよいので、××信託銀行からの通知でも問題はありません。これによって、あなたの住宅ローンの債権者は××信託銀行となったことになります。

≪参考条文≫

(指名債権の譲渡の対抗要件)
民法第四百六十七条  指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。
2  前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。

動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律
(趣旨)
第一条 この法律は、法人がする動産及び債権の譲渡の対抗要件に関し民法(明治二十九年法律第八十九号)の特例等を定めるものとする。
(債権の譲渡の対抗要件の特例等)
第四条  法人が債権(指名債権であって金銭の支払を目的とするものに限る。以下同じ。)を譲渡した場合において、当該債権の譲渡につき債権譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされたときは、当該債権の債務者以外の第三者については、民法第四百六十七条 の規定による確定日付のある証書による通知があったものとみなす。この場合においては、当該登記の日付をもって確定日付とする。
2  前項に規定する登記(以下「債権譲渡登記」という。)がされた場合において、当該債権の譲渡及びその譲渡につき債権譲渡登記がされたことについて、譲渡人若しくは譲受人が当該債権の債務者に第十一条第二項に規定する登記事項証明書を交付して通知をし、又は当該債務者が承諾をしたときは、当該債務者についても、前項と同様とする。
3  前項の場合においては、民法第四百六十八条第二項 の規定は、前項に規定する通知がされたときに限り適用する。この場合においては、当該債権の債務者は、同項に規定する通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由を譲受人に対抗することができる。
4  前三項の規定は、当該債権の譲渡に係る第十条第一項第二号に掲げる事由に基づいてされた債権譲渡登記の抹消登記について準用する。この場合において、前項中「譲渡人」とあるのは「譲受人」と、「譲受人」とあるのは「譲渡人」と読み替えるものとする。

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