新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.464、2006/9/1 14:37 https://www.shinginza.com/qa-fudousan.htm

[民事]
質問:マンション購入の契約を結びましたが、契約後、南側隣地に、同じ高さのマンションの建設が予定されるという立て看板が設置されました。契約時の勧誘時には何もそのようなことは説明されませんでした。マンションの購入契約を解除することはできますか?どういう場合に、解除ができるものなのでしょうか。

回答:
1、売買契約の原則
売買契約は、民法555条で「売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。」と定められておりますが、契約成立後は、買い主側に解除権が無ければ解除できないのが原則です。デパートなどで良くサイズ違いなど(買い主側の都合)で返品に応じて貰えるのは、デパート(売り主)側のサービスとして、そのように対応しているもので、売買契約一般に売り主が解除に応じる義務がある、というわけではありません。
2、民法上、解除ができる場合
民法上、売買契約に付随して買い主に解除権が発生する場合は、次の場合です。これを見ると、買い主側の個人的都合だけでは、契約解除が困難であることが分かります。
@買い主から売り主に対して、民法557条の解約手付の交付があり、売り主が履行着手(物件引き渡し行為に着手)する前の期間、手付け金を放棄することにより、買い主側が解除できます。
A民法541条、履行遅滞による解除権。売り主が引き渡し行為の履行に遅れている時に、買い主側が解除できます。
B民法543条、履行不能による解除権。債務者の故意過失により、履行(引き渡し)不能となった場合に、買い主側が解除できます。
C民法561条、売り主が所有権を持っていない時に、所有権取得できないときは、買い主が契約解除をすることができます。
D民法563条、売り主が所有権の一部を持っていない時に、所有権全部を取得できず、売買の目的を達することができないときは、事情を知らない買い主は契約解除することができます。
E民法565条、面積を基礎として売買代金を決めて売買した場合に、実際の物に不足が生じ、売買の目的を達することができないときは、事情を知らない買い主は契約解除することができます。
F民法566条、売買目的物に、地上権等の用益権が設定されており、これにより契約の目的を達することができないとき、買い主が解除できます。
G民法567条、売買目的物に、抵当権が設定され、買い主が所有権を失ったときに、契約解除することができます。
H民法570条、売買目的物に、隠れた欠陥が有り、これにより契約の目的を達することができないとき、買い主が解除できます。
3、宅建業協会の標準契約書等
上記の民法上の解除権の他、当事者間の契約で、自由に解除権発生の条件を定めることができます(契約自由の原則)。不動産の売買契約で一般的に用いられている宅地建物取引業協会の標準契約書等では、いわゆるローンキャンセル条項が定められていることが多いのですが、その場合、次のような場合にも、解除権が発生します。「住宅ローン融資を利用する場合は、契約書に定められた『融資未承認の場合の契約解除期限』までに銀行の審査が承認されないとき。」但し、虚偽の審査書類を提出したり、連帯保証人の提供を拒否したり等、買い主側の事情で故意にローン審査を妨げたと認定される場合には、ローンキャンセル条項による解除が認められない場合もありますので、注意が必要です。(東京地裁平成10年5月28日判決参照)
4、判例
@東京高裁平成11年9月8日判決は、マンション購入契約締結時の説明で、「南側隣地の所有者は大蔵省なので、しばらくは何も建たないし、建てられるとしても変な建物は建たないはずである」等と説明していた事例で、勧誘した不動産業者の告知義務違反による損害賠償として215万円の支払いを認めました。この裁判では原告は、「南側隣地にマンション等が建たないことを保証する特約」があったという理由で錯誤無効を主張していましたが、明示であれ黙示であれ、そのような特約の成立は認めませんでした。契約解除の主張も困難であると考えられます。
A大阪地裁平成11年2月9日判決は、マンションから20メートル程の地点に公衆浴場の煙突が存在していたことを説明しなかったとして、原告が契約解除と損害賠償を主張しましたが、煙突の存在は社会通念上建物購入を断念させるほどの重要な事実とは言えないとして、原告の請求を棄却しました。
5、本件の具体的検討
南側隣地に購入した物件と同じ高さのマンションが建設されることは、確かに、マンション購入者にとって通風・採光の面で、大きな関心事と言えますが、隣地の所有者にも建築基準法等の法令に従って自由に建物を建設する権限があります。法令の範囲内で隣地に建物の新築や建て替えが行われる可能性があることは、売買契約書に付属する「重要事項説明書」に通常記載されていることです。売り主は、契約期日に建物所有権の移転登記手続と、建物の引き渡し義務を負いますが、隣地のマンション建設は、売買マンション自体の「隠れた瑕疵」とは言えませんし、民法上の解除権発生を主張することは困難でしょう。手付金を放棄せずにマンションの契約解除をするためには、当事者間の特約による解除権を主張する必要がありますが、事前に、契約書の作成をする段階で、契約書の特約条項に、例えば、「購入後5年間は高さ20メートル以上の建物が建設されないことを保証する、違反した場合は契約解除を認める」、等という特約条項を定めて、隣地に高層マンションが建っていないことが契約の重要な要素・条件であることを明記しておくべきだったでしょう。契約書に隣地マンション建設に関する特段の記載も無く、契約時の口頭の約束があったことを証明できる手段も無ければ、契約解除は困難と言わざるを得ないでしょう。

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