新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.442、2006/7/27 10:40 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm

[民事・契約][家事・夫婦]
質問:夫が浮気をしたのですが、問い詰めたところ、「浮気相手とは別れる。再度浮気したら全財産を渡す。」という約束をすると言います。この約束に応じても良いでしょうか。内縁の場合はどうですか。

回答:
1、夫婦間でこのような契約をすることについては、いくつかの問題点があります。民法の条文を3つ引用します。民法132条(不法条件)不法の条件を付したる法律行為は無効とする。不法行為を為さざるをもって条件とするものまた同じ。民法550条(書面によらない贈与の取消し)書面によらざる贈与は、各当事者これを取り消すことを得。但し履行の終わりたる部分についてはこの限りにあらず。民法754条(夫婦間の契約取消権)夫婦間で契約をしたときは、その契約は、婚姻中、何時でも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる。但し、第3者の権利を害することができない。
2、民法132条は、不法行為を助長するような契約を保護しない趣旨です。「再度浮気をしたら」という条件は、文言上からみて浮気は法的に許されない行為ですから不法行為を条件としたものにも考えられますが、裁判所は、本条が適用される法律行為は、本状の制度趣旨から考えて契約全体として見て不法行為を助長するようなものであり不法性を帯びるような契約に限ると解釈しており、今回の契約は浮気を止めさせることを目的としており必ずしも不法行為を助長することにはなりませんので本条は適用されないと考えられます。(参考、浦和地方裁判所昭和26年10月26日判決「不倫の行為であり不法であるが同条項にに不法の性質を与えるものではなく」「その事実をもって不法条件付法律行為となすことができない」)
3、民法550条は、トラブルになりがちな贈与契約において、「口約束」の段階では、いつでも取消しができることを規定し、当事者の慎重な対応を求める趣旨です。この条文は夫婦間で契約する場合にも適用されます。今回の契約は、財産分与契約と解釈する余地もありますから、「贈与」にあたるのかどうか、判然としない部分もありますが、夫がそのように主張した場合は、「書面によらざる贈与」として、取消しを主張されるおそれがあります。何らかの書面を作った方が良いでしょう。
4、民法754条は、「法は家庭に入らず」という法格言を具体化した条文で、夫婦間の契約には類型的に真意性の確保に困難さがあることや、夫婦間の契約を法的な強制によって履行させることは夫婦の円満を害するという考え方が、立法趣旨になっていると言われています。しかし、夫婦関係と言っても、様々な関係があり、別居している場合や、離婚寸前の場合も含めて、全てのケースで、取消権を認めると不都合が生じてしまいます。そこで、裁判所は、本条の要件を厳格に解釈し、婚姻関係が破綻している場合の取消権を制限しています。最高裁判所昭和42年2月2日判決を引用します。「民法754条に言う「婚姻中」とは、単に形式的に婚姻が継続していることではなく、形式的にも実質的にもそれが継続していることをいうものと解すべきであるから、婚姻が実質的に破綻している場合には、それが形式的に継続しているものとしても、同条の規定により、夫婦間の契約を取り消すことは許されないものと解するのが相当である。」
5、今回の場合は、夫の浮気を契機として契約を締結するわけですが、契約書を作成したとしても、上記判例との関係で、「夫婦関係が破綻に至っている」と認定されない可能性もあります。つまり、後日、夫側からの取消権行使が認められてしまう可能性もあります。契約内容も、「全財産を渡す」という、包括的かつ抽象的な内容となっており、契約内容の特定性が不足しているおそれもあると思います。従って、もしも、このような契約を締結する御希望であれば、事前に、弁護士に御相談になり、契約内容を良く協議し、公証役場の公正証書か、できれば家庭裁判所の調停により、第三者の立会いのもとに、作成した方が良いでしょう。そして、可能であれば、民法754条の適用の可能性についても、契約の中で言及するべきでしょう。
6、内縁の場合については、最高裁判所判例は見当たりませんが、高松高等裁判所平成6年4月19日判決がありますので、一部引用します。「民法754条は、夫婦間に紛争がないときはその必要性が無く、夫婦間に紛争が存在すれば、かえって不当な結果を招くことが多い規定であって、その存在意義が乏しいうえ、内縁の妻には相続権が無いなど、内縁関係は婚姻関係に比べて内縁の妻の財産的保護に薄いので、仮に内縁関係に民法754条を類推適用すると、贈与を受けた内縁の妻の保護に欠けるところとなって、不当な結果を招来するので、同条は内縁関係に類推適用されるべきではないと解するのが相当である。」従って、内縁関係の場合は、民法754条による後日の取消しのおそれは少ないとも言えますが、それ以外にも、錯誤による無効(民法95条)主張や、詐欺・強迫取消し(民法96条1項)の主張をされるおそれがあります。契約をする場合は、事前に弁護士に御相談のうえ、調停や公正証書など、契約書の形式にも注意して締結した方が良いでしょう。

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