新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.439、2006/7/5 13:46 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm

[民事・証拠]
質問:私の夫が1年ほど前から不倫をしていることが発覚しました。これがきっかけとなり、私は離婚を考えるようになりました。後々、裁判になった場合のことを考えて、夫には不倫の事実とこれに対する謝罪を文章にして書面で提出するよう言っているのですが、夫は渋ってなかなか作りたがりません。もしかしたら、裁判になったような場合には、不倫はしていない、などと言い出すかもしれません。そこで、私は夫との会話を録音しておこうと思うのですが、夫に無断で会話を録音することは許されるのでしょうか。また、そのようにして録音したテープを裁判で提出することはできるのでしょうか。

回答:
会話を録音することは可能ですし、裁判に証拠として提出することもできます。ただし、録音の態様・方法については注意が必要です。
1、まず、会話を無断で録音すること自体の可否についてですが、自分と相手方との間の会話を録音するだけであれば、モラルの点で問題が生じうることは別として、一般的に言って法律上の問題が生じることは少ないといえます。もっとも、収録方法等によっては行為自体が不法行為を構成する可能性があるので、その点については注意が必要です。
2、次に裁判に証拠として提出することができるかどうかについてですが、刑事裁判と異なり、民事裁判については、証拠能力について、一律に規制を設けるような規定はありません(なお、裁判所に提出することが出来る証拠を、「証拠能力のある証拠」といいます。)。もっとも、どのような方法で収集した証拠であっても全て証拠能力が認められるということになると、犯罪的な行為を裁判所が是認してしまうことになりかねないことから、裁判例上、ある程度の限界が言及されています。そこで、無断録音テープの証拠能力についての裁判所の判断を見てみると、「・・・その証拠が、著しく反社会的な手段を用いて人の精神的肉体的自由を拘束する等の人格権侵害を伴う方法によって採集されたものであるときは、それ自体違法の評価を受け、その証拠能力を否定されてもやむを得ないものというべきである。」(東京高判昭和52年7月15日、判時867.60)として、無断録音テープの証拠能力を原則的に肯定した上で、例外的に強い反社会性を帯びる方法によって収録した場合には証拠能力が否定される場合もあるとの判断をする裁判例がある一方(無断録音テープの証拠能力を認めた裁判例として、他に東京地判昭和46年4月26日、盛岡地判昭和59年8月10日)、「〜対話の相手方の同意のない録音テープは不法手段で収集された証拠というべきで、法廷においてこれを証拠として許容することは訴訟法上の信義則、公正の原則に反するものと解すべきである。・・・右の理由から、前認定の如く、被告人の同意を得ず、原告により秘かに録音されたものであることの明らかな録音録取書は証拠として採用し難い」(大分地判昭和46年11月8日)として、無断録音テープ(ないし、そのテープの録音内容を書き起こした書面)の証拠能力を原則として否定する裁判例も存在するなど、裁判所の判断は定まっていません。
3、このように、裁判所による判断は必ずしも一律ではありませんが、比較的有力であると思われる原則肯定説の立場に立って考えてみると、例えば、別居していない状況で、自宅のリビングなどで会話をし、それを無断収録した、あるいは別居しているご主人と自宅以外の場所で会い、バックなどに入れておいたテープで会話内容を録音した、という程度であれば、著しく反社会的な手段とまではいえず、証拠能力は認められる可能性が高いでしょう。また、電話でご主人と会話をし、これを電話の録音機能などを利用して録音しておくことも問題ないと思われます。一方、別居中のご主人の家に忍び込み、盗聴器を仕掛けておく、あるいはご主人の電話(例えば不倫相手の人物との会話)を傍受して録音する(盗聴)といった手段は、「著しく反社会的な手段を用いて・・・人格権侵害を伴う方法」であると評価され、証拠として採用されない可能性も十分考えられます。また、それだけでなく、刑事罰が科されるおそれすらあります(住居侵入罪、電気通信事業法違反など)ので、十分な注意が必要です。

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