新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.397、2006/4/24 13:38 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

[刑事・起訴前、ワイセツ行為と弁護人に対する警察官の被害者の住所開示義務、警察官と検察官の関係、対応策]
質問: 週末、深夜路上でわいせつ行為を行い、警察に逮捕されてしまいました。当番弁護士さんに依頼し、被害者の女性と示談交渉を試みようと思いますが、警察官が「検察官に直接聞いてください。検察官の指示がなければ、被害者側に連絡もできません。」と言って、被害者を明かしてくれません。それに来週連休が重なり検察官と話し合えるのはかなり後になるそうです。どうしたらいいのでしょうか。

回答:
1、あなたは、ワイセツ行為をしたと言っているだけで、どの程度の犯行態様か分かりませんが、刑法の強制ワイセツ罪(刑法176条)に該当することを前提に考えてみましょう。本罪は親告罪ですから、起訴される前に被害者が告訴を取り消してくれれば、公訴権は消滅し、検察官は起訴できませんので(刑法180条1項)、釈放しなければなりません。告訴を取り消してもらうためには、あなたは逮捕中ですから、家族か弁護人が被害者と話し合う以外に方法はなく、被害者は通りすがりの女性であれば当番弁護士が捜査機関に被害女性との連絡について問い合わせすることは当然の弁護活動になります。
2、それにも関わらず、担当の警察官が被害者と連絡さえしてくれないのはおかしいと思いますが、一方、警察官は検察官と連絡協力し、検察官が起訴するため証拠資料収集を検察官の指示により行いますから、言わば検察官の下部機関のような面もあるため、問題のある場合は必ず検察官の意向を確認し捜査を行うので、担当の警察官は捜査に大きな影響があるかもしれない被害者との連絡を拒否したのでしょう。それでは、いい機会ですから検察官と警察官の関係を少し調べてみましょう。
3、検察官と司法警察職員(警察官)の一般的関係ですが、現行法上、旧法とは異なり、捜査において、両者は対等且協力関係にあり(刑事訴訟法192条)、警察官及び検察官にそれぞれ独立の捜査権限を認めております(同法189条2項)。その捜査の主催者についてですが、検察官の公訴準備などの負担軽減を図る必要性から、捜査の主催者は検察官である必要はなく、同法191条において「検察官は、必要と認めるときは、自ら犯罪を捜査することができる」と規定されていることから、警察官が一次的捜査機関であり、検察官は二次的捜査機関であると考えられております。一方、捜査資料をもとにし、犯人の性格等諸般の事情を考慮した上で、公訴の提起不提起を検察官の独自の判断に委ね(起訴便宜主義、同法248条)、公訴の提起権限を検察官に限定している点から(起訴独占主義、同法247条)、検察官は警察官に対し、捜査の不備・欠陥を補正し、偏向を抑制するため、その捜査に関して必要な指示・指揮をすることができ(同法193条1項、同2項)、警察官が正当な理由がなく、その指示又は指揮に従わない場合において、必要と認めるときは公安委員会などに懲戒又は罷免を求めることができることとなっています(同法194条1項)。以上の解釈から、両者の関係は、確かに検察官は警察官に対して、指示・指揮を行うことは出来ますが、それは捜査の不備・欠陥を補正し、偏向を抑制するためのものと考えられ、警察官は検察官の全面的な指示に従い、その補佐、補助をする面だけでなく、独立の捜査機関としての権限を有し、適正な捜査をする限り裁量も認められると考えることができます。
4、難しい議論になり申し訳ありませんが、要は弁護人が警察に被害者側への連絡を要請し、警察官がこれに応じることが適正な捜査権を侵害するものかどうかが問題であり、その点を検討する必要があります。結論から言えば、警察官は検察官の許可なくとも、弁護人の要請を認め、被害者側に弁護人の意向を伝える必要があると思います。その理由は@本件は、被疑者が被疑事実、すなわちワイセツ行為を認めていると考えられますから、悪いことをした以上、被疑者が被害者に謝罪することは当然のことであり、さらに親告罪である以上、示談交渉の成否が起訴するかどうかの決め手になるだけでなく、万が一起訴された場合、量刑の重要な要素になるため、被疑者の弁護人として被害者と話し合うことは被疑者の憲法上の弁護権(憲法34条、刑事訴訟法30条)から当然に認められなければいけませんし、警察官もこれを事実上妨害することは許されません。A他方、警察官が被害者側に話し合い、示談の連絡をしても謝罪に行く以上、具体的に捜査の妨害になる様なことは考えられません。被害者と交渉するのは弁護人であり、交渉の機会に証拠を隠滅し、被害者に不当な要求をして困惑させるなどの危険もありません。尚、警察官が本当に謝罪に行くのか疑うような場合には、被疑者に謝罪文を書いてもらい、その写しを事前に警察官に交付するのも方法です。一種の自白の書面ですから警察官も安心するでしょう。Bまた、弁護人は公判請求されれば、当然に開示された証拠書類から被害者の住所連絡先を確認し独自に話し合いが出来るわけですから、起訴前だからといって被害者側に何の連絡もできないというのは比較上おかしい訳です。C被害者のプライバシーもありますが、被害者が話し合いを拒否したい場合は警察官を通じて意思表示すればいい訳ですから、それも理由にはなりません。被害者によっては民事上の賠償請求の話し合いをしたいと希望する場合もあるでしょうからやはり被害者にその旨の連絡を取るべきでしょう。Dさらに、本件の場合、被疑者が逮捕されたのは週末ですから、警察署から検察庁に身柄を送られるのは土曜、日曜日になってしまい勾留請求するかどうかの取調べをするのは当直の検察官であり、実際の担当の検察官が決まるのは月曜日の夕方か火曜日になると思います。ところが、連休が重なれば、実際弁護人が検察官に面接するのは水曜日となり逮捕、留置の日から4−5日後になり、被害者側との交渉の時間が大幅に制限される結果となってしまいます。本来であれば逮捕された日から被害者側と交渉が可能であり、10日間の勾留期間を考えると弁護権の事実上の制限といっても過言ではないでしょう。
5、以上から 弁護人が要請しているにも関わらず、警察官がどうしても被害者側に連絡しないような場合は、弁護人としてはその具体的な理由を聞き、個別的に書面にて反論し丁寧に説得していくことが望まれますし、具体的な理由を示さないような場合には決済権を有する警察署の上司にも話を聞いてもらい、場合によっては内容証明で警察署長に抗議の書面を送付し局面を打開する必要があるでしょうし、時間的問題はありますが警察署に対する損害賠償(国家賠償)も検討することも可能です。以上のようにあなたは依頼している弁護人と協議して警察署に要請抗議し被害者と話し合いを至急行うようにしてください。

≪参考条文≫

【刑事訴訟法】
第三十条  被告人又は被疑者は、何時でも弁護人を選任することができる。
第三十六条  被告人が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは、裁判所は、その請求により、被告人のため弁護人を附しなければならない。但し、被告人以外の者が選任した弁護人がある場合は、この限りでない。
第百八十九条  警察官は、それぞれ、他の法律又は国家公安委員会若しくは都道府県公安委員会の定めるところにより、司法警察職員として職務を行う。
同二項  司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとする。
第百九十一条  検察官は、必要と認めるときは、自ら犯罪を捜査することができる。
第百九十二条  検察官と都道府県公安委員会及び司法警察職員とは、捜査に関し、互に協力しなければならない。
第百九十三条  検察官は、その管轄区域により、司法警察職員に対し、その捜査に関し、必要な一般的指示をすることができる。この場合における指示は、捜査を適正にし、その他公訴の遂行を全うするために必要な事項に関する一般的な準則を定めることによって行うものとする。
同二項  検察官は、その管轄区域により、司法警察職員に対し、捜査の協力を求めるため必要な一般的指揮をすることができる。
第百九十四条  検事総長、検事長又は検事正は、司法警察職員が正当な理由がなく検察官の指示又は指揮に従わない場合において必要と認めるときは、警察官たる司法警察職員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会に、警察官たる者以外の司法警察職員については、その者を懲戒し又は罷免する権限を有する者に、それぞれ懲戒又は罷免の訴追をすることができる。
第二百四十七条  公訴は、検察官がこれを行う。
第二百四十八条  犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。

【憲法】
第三十四条  何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。

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