新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.390、2006/4/19 13:47 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

[刑事・起訴前]
質問:親戚の者が、酒を飲んだ帰り道出来心から見知らぬOLの帰宅を待ち伏せてアパートの玄関先でワイセツ行為をはたらき、女性が落とした時価数千円のバックもつい持ち帰ってしまいました。5日前に逮捕されて、今警察署にいます。今後どうしたらいいでしょうか。

回答:
1、逮捕された方の行為は、ワイセツ行為をしているので強制わいせつ罪(刑法176条)、バックを取っているので窃盗罪(刑法235条)、アパートの玄関先に侵入しているので住居侵入罪(刑法130条)に各々該当するものと考えられます。強制わいせつは、六月以上十年以下の懲役ですし、窃盗罪は、十年以下の懲役、住居侵入罪は3年以下の懲役10万円以下の罰金と規定されていますから、このまま何もしなければ刑事裁判になり、一般的には3年前後の懲役刑それも実刑が予想されます。そこで、逮捕されている親戚の方の今後の対策を考えて見ましょう。
2、先ず、強制わいせつの件ですが、この犯罪は、ご存知かもしれませんが親告罪(刑法180条)といって、被害者が被疑者を処罰してほしいとの意思表示すなわち告訴をしないと刑事裁判になりません。すでに逮捕されているのですから被害者の告訴、被害届はなされていると考えられます。しかし、一旦告訴されていても被害者は告訴を取り消しすることも出来るので(刑事訴訟法237条)、取り下げが出来れば検察官は刑事裁判を提起できませんから、事件は終結してしまい直ちに被疑者は釈放されます。すなわち、今一番しなければいけないことは家族か、又は弁護士に依頼して被害者のお住まいに訪ねて行ってもらい示談交渉を開始し被害者に告訴取消書に署名をいただき、一刻も早くその書面を捜査機関に提出することです。幸いにも事件の現場は、被害者のアパートですから被疑者に弁護士が面談して場所を確認すれば相手方に容易に接触できる筈です。示談金の決まりはありませんが被害の程度により100万円前後が基準になるでしょう。
3、強制ワイセツについて告訴が取り下げられたとしても住居侵入、窃盗の容疑がありますから直ちに釈放されるか少々問題が残ります。住居侵入、窃盗は親告罪ではないので強制ワイセツと同じく住居侵入、窃盗についても示談が成立し告訴の取消、被害届の取下げが出来たとしても当然本罪についても不起訴処分として釈放になるかどうか分からないからです。しかし、住居侵入についていうと玄関先に侵入しただけですから、本罪の保護法益たる住居の平穏はさほど侵害しておらず、違法の程度は低いと言わざるをえませんし、窃盗についても被害額が数千円ですから被害の程度はさほど大きくありません。さらに本罪は、計画性もなく強制わいせつに付随して発生していますから全てに示談が出来ているのに本罪だけを検察官が起訴するとは考えにくいと思います。唯、検察官が起訴を断念しやすいように示談金を多めに支払ったほうがいいと思われます。担当検察官としても上司の決済を得る場合、何らかの不起訴にする理由がないと困るでしょうから。金額として明確な基準はありませんが50-100万円前後程度用意したほうがいいかもしれません。
4、以上の手続きが出来れば問題は解決しそうですが、被疑者が逮捕されてからすでに5日間も経過していますから勾留の満期までにあまり時間がありません。最初の勾留期間は通常10日間であり期間の計算は検察官の勾留請求の日から数えます(刑事訴訟法208条)。警察官による逮捕の日から48時間以内に検察庁に送られるので(刑訴203条)逆算するとすでに検察官の勾留請求の日から4日か3日はすでに経過しています。本件はおそらく夜間の逮捕でしょうから警察署での手続きの関係上翌々日に送検される場合と翌日に送検になる場合が考えられます。従って、勾留満期すなわち起訴されるまで実質後5−7日しかありません。急いだほうがいいでしょう。というのは勾留満期が土曜日曜に当たる場合はその前日に起訴するのが一般的ですからそのような場合、実質残りは3―4日になる場合もありますし、示談交渉において被害者と面談話し合いに要する日数、場合によっては被害女性が恐怖心から一時的に引越しをしているような場合もあるでしょうし、被害者側が若い女性でしょうから示談に応じるかどうかの被害者側の家族による協議、弁護人選任の手続き打ち合わせ、被疑者との接見の日程などを考えるとあまり時間は残されてないような気がします。
5、万が一交渉がまとまらず起訴される可能性が大きい場合は、何とかもう10日間(決まりは10日以内となっていますから7-8日の場合もあります。)勾留を延長する手続きがとられればいいのですが、検察官は証拠が十分であれば身柄を拘束しているという被疑者の人権上直ちに起訴に持ち込むのが原則ですので、その点弁護人と協議して対応することが望まれます。詳しくは法律事務所で相談してみましょう。
6、さらに万が一示談が出来ず起訴された場合は実刑が予想されますから保釈、公判の弁護(特に執行猶予を求めるためには被害者との話し合い和解は不可欠な要素になるでしょう。)さらに弁護人と詳細な協議が必要です。

≪参照条文≫
刑法
第百三十条(住居侵入等)正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
第二百三十五条 (窃盗)他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役に処する。
第百七十六条 (強制わいせつ)十三歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
第百八十条 (親告罪)第百七十六条から第百七十八条までの罪及びこれらの罪の未遂罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

刑事訴訟法
第二百三条  司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。
第二百八条  前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
第二百三十七条  告訴は、公訴の提起があるまでこれを取り消すことができる。

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