新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.269、2005/6/17 19:30 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

[刑事・起訴後]
質問:刑事訴訟法が改正され、刑事裁判のやり方が変わると聞いたのですが、どのような点が変わるのですか。

回答:
1、平成17年11月までに、改正された刑事訴訟法のうち、「刑事裁判の充実、迅速化」に関する部分が施行されます。その内容の中心は、「公判前整理手続」の導入にあります。
2、裁判員制度が導入されると、重大な犯罪の裁判において、一般市民の中から選ばれた裁判員が判決に関わることになります。裁判員の方々は、一般市民であり、職業裁判官ではありませんから、何年間も、何度も裁判所に通わなくてはいけないというのでは、負担が大きすぎることになります。そこで、「集中審理」、すなわち、ひとつの事件について、できるだけ毎日裁判を行って、早く審理を終了させる必要があります。そのためには、事件ごとに、どこが重要な争点(ポイント)なのかを明確にして、その部分について集中的に心理をすることが必要になります。
3、そのため、今回の改正で「公判前整理手続」が導入されることになったのです。公判前整理手続とは、第一回の公判(刑事の裁判のことを「公判」といいます)前に、「争点及び証拠の整理」のために行う打ち合わせのようなものです。事前に裁判の進行予定を決めておけば、集中審理の促進になり、裁判員制度のスムーズな運用、迅速な裁判の実現に役立つといえます。公判前整理手続は、裁判員対象事件では必ず行うことになっています(それ以外の事件でも、各当事者は、公判前整理手続に付すことを裁判所に請求することができます)。
4、従来の刑事裁判では、第一回公判期日まで、裁判所は検察側、弁護側の立証予定(主張する内容や提出する証拠など)について知ることはできないとされていました。これは、裁判前に裁判官が、被告人が有罪であるかのような証拠を見てしまうと、裁判を行うにあたって予断をもって事件を見てしまうおそれがあり、被告人の無罪の推定に悪影響を及ぼすことになるという考え方からです(これを「予断排除の原則」といいます)。
5、予断排除の原則は、裁判の公平さを担保するためには非常に重要な原則ですが、一方で、第一回の公判までは裁判所は事件の内容について、起訴状という書類一枚でしか知ることができず、第一回公判後に今後の予定を検討する必要がありました。これではあまりに不合理に時間がかかってしまうため、実務上は予断排除の原則に反しない範囲で、複雑な事件について事前に裁判の進行について協議するなどの工夫がされてきました。今回の「公判前整理手続」は、裁判をスムーズに進めるための打ち合わせの手続を、さらに合理的に改正し、法的に整備したものといえます。
6、公判前整理手続は、具体的には、以下のような流れになると思われます。
@検察官から「証明予定事実」を記載した書面が提出されます。そして、裁判で取り調べて欲しい証拠について、「証拠調べ請求」がなされ(従来、検察側の証拠調べ請求は第一回公判時に行われていました)、弁護側に対して請求証拠等の開示が行われます。
A被告人側は、検察官が、手元にありながら、裁判において取り調べることを請求していない「手持ち証拠」の中から、類型的に証拠価値が高いもの(316条の15に列挙)について開示請求を行うことができます。
B被告人側は、検察官から手持ち証拠の開示を受けた後、「公判期日においてすることを予定している」主張を明らかにし、検察側と同様に、証拠調べ請求および請求証拠の開示を行います。
C被告人側は、Bの予定主張を明示した後、その予定主張に検察官手持ち証拠のうち、被告人側主張と関連する証拠(主張関連証拠)の開示を請求することができます(316条の20)。
D公判前整理手続の段階では、主張の追加、変更、証拠調べ請求の追加は自由に行うことができます。そのかわり、手続終了後に追加や変更をする場合は、事前にそれをできなかったことの「やむを得ない事由」(316条の32)が必要になります。
E双方の主張が揃ったら、証拠調べ決定および取調べの順序、方法の決定がなされ、争点および証拠の整理の結果が確認されます。
7、今までの刑事裁判は、検察(警察)側に捜査能力・証拠収集能力が偏っており、被告人に有利な証拠も不利な証拠も検察側が持っていて、しかも、裁判にどの証拠を出すかは原則として自由なので、被告人に有利な証拠が裁判に出てこないという危険がありました。この検察官の「手持ち証拠」について、従来は特別な場合に限り、特定のものを裁判所を通じて開示してもらうという運用をしていましたが、今回の公判前整理手続の導入により、類型的に重要なものについては特定せずとも開示を請求することができ、また、被告人の主張に関連しているものは、重要なものという要件を具体的に主張しなくても、類型的に開示を請求することができるようになりました。このような手続によって、争点の明確化をはかり、審理のスピードアップが期待できます。
8、一方で、検察官が開示を拒否した場合などは、裁判所が開示について裁定を下すため、公判に提出されるか否かさえ未確定の証拠を裁判官が見ることも考えられます。また、現行の公判では、被告人側は、検察官の冒頭手続終了後に、主張について検討する時間がありましたが、公判前整理手続によって、事前に主張予定を明示しなくてはならないことになり、被告人側の負担が増えるという面もあります(弁護士との打ち合わせの機会の拡大などが叫ばれています)。このような問題点を、運用の中でどのように解決していくかが今後の課題となるでしょう。

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