新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.249、2005/6/13 18:23 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

[刑事・起訴前]
質問:私は、学校の先生ですが、偶然混雑していた店の中で買い物をしていた女性の後ろを通り過ぎたのですが、しばらくしてその女性が私を追いかけて私の手を掴み「この人です。私のお尻に触ったのは、至急警察を呼んでください。」と大騒ぎになり、警察官が急行しその場で逮捕されました。通路は確かに狭かったのですが接触した記憶がありません。「私はそんなことしていません。」と何度も説明し、警察官、検察官にも同様に話したのですが、どうしても信用してもらえず結局警察署に勾留されてしまいました。直ちに弁護士会の当番の弁護士さんに来てもらったのですが、「君が、やっていないなら、否認事件となり20日間の勾留は仕方ないので、裁判で争いましょう。」と言っています。このままでは、立場上学校も辞めなければなりません。どうしたらいいでしょうか。

回答:
1、大変な事件にまきこまれてしまいましたね。彼方が訴えられた行為は、状況からして迷惑防止条例違反に当たると思われます。このような条例は各都道府県にあり、内容に多少の差異はありますが、東京ですと1年以下の懲役、100万円以下の罰金が規定されています(平成13年から刑が大変重くなりました。)。貴方は、意識的に直接女性に接触していないわけですから犯罪は成立せず、無実であり、又偶然貴方の身体の一部が、女性に接触したとしても過失ですからその場合も処罰されません。しかし、被害を訴えている女性の被害内容が警察官、捜査官に信用されてしまうと本件のように逮捕されてしまうのも事実です。捜査機関としても、貴方に悪意があるわけではなく、被害が届けられ本人の供述が信用に値すれば、公的義務として取調べ、逮捕と言う手続をとらざるを得ないのです。犯罪が発生しているのに取り逃がしたとなれば、捜査機関の失態ともなりかねないからです。
2、貴方が無実である以上、最終的には、駆けつけてくれた当番の弁護士さんが言うように刑事裁判で争わざるを得ません。否認事件ですから、捜査の必要上逮捕されてから最長23日間警察署の留置場にいることになります。起訴後約1週間以内に保釈の請求があれば保釈金150万〜200万円で釈放される可能性はありますが、否認事件の場合は検察側立証が終わるまで保釈を認めない場合もありますし、貴方が言うように、事件を報道されて学校に情報が漏れ(積極的に捜査機関が学校に逮捕事実を知らせることはしないと思いますが、身元確認のため問い合わせをする場合があります。)、又、長期休職により立場上学校を辞めることにもなりかねません。さらに否認による刑事裁判の期間は1年以上が予想され、弁護費用も私選の弁護人であれば、かなりのものになります。この間の精神的、経済的不利益は耐え難いでしょう。晴れて無罪になっても、国家賠償法は、捜査機関の行為が、悪意過失がない限り賠償を認めませんし(国家賠償法1条)、訴えた女性に民事裁判を起こしても、費用、時間(通常1年数ヶ月)が大変ですし、訴訟法上刑事事件で無実を勝ち取っても、民事事件で必ず勝てるとは保証できません。被害女性に賠償をする能力があるかどうかも不明です。買物に行っただけなのに何という災難でしょう。
3、そこで貴方には3つの選択肢があります。
4、第一の方法は、当番弁護士さんが言うように、最後まで弁護人と主に無実を主張し、嫌疑なしで不起訴にしてもらうか、不起訴にならなくても刑事裁判で争い真実を明らかにして公開の裁判上で身の潔白を明らかにすることです。しかし、不起訴になったとしても、最長23日間留置場にいなければなりませんし、被害女性の供述がある限り嫌疑なしとすることはなかなか難しいかもしれません。さらに万が一公判請求の場合の不利益もあります。弁護人と公判の準備を勾留中から詳細にし、目撃者等の証人も確保することが必要となりますが、仮にそのような方策を講じたとしても、裁判は予断を許しません。貴方が学校の先生であり、前科前歴もない場合であっても、被害女性の供述に矛盾がない限り、有罪になる可能性を否定できません。万が一有罪の場合、刑罰としては、前科がない限り、50万円以下の罰金になるものと思われますが、有罪ですから結果的に学校を解雇になってしまうでしょう。最悪の場合家族をも失ってしまうかもわかりません。筋論としては正しいのですが、前述した不利益な負担もたくさんあり、どうしても不安をぬぐいきれません。
5、次に本件犯罪事実を認めてしまい、弁護人に依頼して、被害者側の女性の連絡先を捜査機関から聞き出し、謝罪に行き、告訴、被害届けを取り消してもらうことです。罰金が予想される本罪では、公訴提起前に示談ができて、告訴を取り消してもらうことができれば、制度上親告罪ではないので、必ずとはいえませんが、やはり被害者が許している以上、起訴便宜主義の観点から即日に近い形で、釈放になる可能性は高いと言えます。検察官も貴方の頑固な無実主張に公判を維持できるかどうか多少不安になっている場合もありますから、犯罪事実を認めれば、被害者側との示談に協力的態度になるかもわかりません。しかし、これは貴方にとって、耐え難いことと思います。何よりも自ら犯罪者であることを認めることになりますし、家族にも説明がつきません。立場上退職の危険を含んでいます。さらに示談ができなければ自白しているのでほぼ確実に略式起訴で罰金になってしまいます。略式を選択せず公判での裁判を望んでも、自白の供述調書は覆すことは刑事訴訟法上(刑訴322条1項)かなり困難です。
6、最後に、例外的手段ですが、犯罪事実は明確に認めないで、弁護人に依頼し被害者側女性と和解、示談交渉をしてもらうことです。これは貴方にとって理想的な方法でしょう。確かに当番弁護士さんが言ったと思うのですが、犯罪を認めない以上、被害者側に示談にいくことは辻褄が合いません。悪いことはしていないのですから被害者女性に謝罪、示談にいけるわけがありません。しかし、公判前、現在捜査中ですから犯罪事実はまだ有罪無罪に確定している訳ではありません。当事者間の示談方法に特に法的に決まりがあるわけではありませんから、被害者側と話し合ったからといって不法な方法ではありません。犯罪事実を明確に認めない限り話し合いに応じないと言う被害者が一般かもしれませんが、被害者の立場も千差万別やってみなければなんともいえないのです。被害者側と司法取引を行うわけではありませんが、交渉、説明の方法、示談書の書き方はいろいろあるのです。特に貴方の場合は、今回犯罪事実を灰色又は不明確にしてでも、釈放、不起訴処分にすることが先決です。相手方との交渉し犯罪事実を明確にせず、告訴被害届けを取り消してもらえば、釈放、不起訴処分の可能性は大きいと思います。ただしこの方法には難関がひとつあります。本件は被害者の特定に検察官、警察官との話し合いが必要ですが、犯罪事実を認めていないのに被害者との交渉のため被害者の連絡先等を開示ないしは、被害者側への連絡をしてくれるかと言う点です。これも弁護人に事情を話し検察官等と交渉することです。本件について、立件に多少疑問があるようであれば、又そうでなくとも捜査機関が被害者側との交渉に前向きに対処してくれる場合があるからです(一般的には消極的です)。貴方が希望するなら、以上の方法でも貴方のために動いてくれる弁護人を探しましょう。成功の可能性は確かに少ないとは思いますが、緊急事態ですから少しでも有利になる方法を探すべきです。但し、和解金は通常より高額になる可能性があり、その点は覚悟しなければなりません。

国家賠償法 第一条  国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
刑事訴訟法 第三百二十二条1 被告人が作成した供述書又は被告人の供述を録取した書面で被告人の署名若しくは押印のあるものは、その供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき、又は特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限り、これを証拠とすることができる。但し、被告人に不利益な事実の承認を内容とする書面は、その承認が自白でない場合においても、第三百十九条の規定に準じ、任意にされたものでない疑があると認めるときは、これを証拠とすることができない。

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