新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.29、2000/11/7 11:57 相続・遺言・遺留分減殺請求・相続放棄・限定承認について[家事・相続]
質問:以前、公証人に頼んで公正証書遺言を作成しました。しかし、最近になって財産を遺贈しようとした子供が私にひどい暴力を振るうようになり気が変わりました。この子供に財産を渡さないようにしたいのですが。
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回答:遺言状を再度作り直してほかの人に遺贈すると良いでしょう。遺言状は何度でも作り替えることができます。
複数の遺言状がある場合に、例えば特定の遺産を誰に遺贈するのか、というような両立しない(相互に矛盾する)記述がある場合は、その部分については、最新の遺言状に記載されたものが有効となります。
遺言書を作成しても、直系相続人であれば遺留分がありますので後日相続人間で遺留分減殺請求が行われるリスクがあります。これを避けるために、相続廃除の手続きも検討なさって下さい。虐待、重大な侮辱、著しい非行がある場合には、自分の住所地を管轄する家庭裁判所(家事事件手続法188条1項)に「相続廃除」の申立をして当該推定相続人の相続資格を失わせることができます(民法892条)。なお、兄弟姉妹や甥姪などは遺留分がありませんので、遺言書を作成するだけで遺贈先を変更できますから、相続廃除の申立ては不要です。
相続廃除の審判が申し立てられると、審問期日が指定され、廃除対象者の言い分が陳述聴取されます。申立人も、廃除対象者も、自己の言い分を立証するための証拠物を提出することができます。この手続きは、権利義務の存否を定める民事訴訟の当事者の主張立証手続きと似たものです。
※相続廃除審判申し立て時の必要書類例
@生前の場合,申立人(被相続人)の戸籍謄本(全部事項証明書)
A遺言による場合,遺言者の死亡が記載された戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本(全部事項証明書)
B廃除を求める推定相続人の戸籍謄本(全部事項証明書)
C遺言による場合,遺言書写し又は遺言書の検認調書謄本の写し
D遺言による場合で家庭裁判所の審判により選任された遺言執行者が申し立てる場合,遺言執行者選任の審判書謄本
被相続人の単なる好き嫌いの感情だけでは、相続廃除は認められません。民法892条1項の要件である「虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったとき」があるかどうか、家庭裁判所は慎重に審理した上で審判を下します。
廃除の手続きを確実に進めたい場合は、主張を整理した上で弁護士を代理人を立てて申し立てを行うことをお勧めいたします。
※参照条文
民法892条(推定相続人の廃除)遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
民法893条(遺言による推定相続人の廃除)被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
家事事件手続法188条(推定相続人の廃除の審判事件及び推定相続人の廃除の取消しの審判事件)
1項 推定相続人の廃除の審判事件及び推定相続人の廃除の審判の取消しの審判事件は、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。ただし、これらの審判事件が被相続人の死亡後に申し立てられた場合にあっては、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。
2項 第百十八条の規定は、前項に規定する審判事件における被相続人について準用する。
3項 家庭裁判所は、推定相続人の廃除の審判事件においては、申立てが不適法であるとき又は申立てに理由がないことが明らかなときを除き、廃除を求められた推定相続人の陳述を聴かなければならない。この場合における陳述の聴取は、審問の期日においてしなければならない。
4項 推定相続人の廃除の審判事件における手続については、申立人及び廃除を求められた推定相続人を当事者とみなして、第六十七条及び第六十九条から第七十二条までの規定を準用する。
5項 次の各号に掲げる審判に対しては、当該各号に定める者は、即時抗告をすることができる。
一号 推定相続人の廃除の審判 廃除された推定相続人
二号 推定相続人の廃除又はその審判の取消しの申立てを却下する審判 申立人