建造物損壊罪で検挙された場合(平成20年6月18日最終改訂)

トップページ > 暮らしの法律知識 > 犯罪被害を受けたとき、犯罪を犯した時 > 建造物損壊罪 (サイトマップ


質問 私の息子が、半年にわたり面白半分に鉄道沿線の建物、マンションの壁等に、夜間ラッカースプレー、ペンキ等でいたずら書きをして、警察に逮捕されました。どうしたらいいでしょうか。

回答
1. 他人の住居、マンションの壁をラッカースプレー、ペンキで汚損する行為には、建造物損壊罪が成立します(刑法260条前段)。器物損壊罪(法261条)と違い罰金はありませんし、法定刑は2年ほど加重されていますので(懲役5年)今回のように連続して犯行を重ねた場合は余罪捜査の必要性、住民の被害感情の強さから逮捕、勾留請求が予想されます。
2. 早急に被害者全員に謝罪し和解しないと起訴となるでしょう。否認し、弁償、謝罪も行わなければ実刑の可能性もあります。
3. 起訴されるまでの弁護活動が大切です。

解説
1. 建造物損壊罪は、刑法260条前段で、「他人の建造物又は艦船を損壊した者は、5年以下の懲役に処せられる。」と規定されています。本罪は、建造物の毀損行為を禁じ個人の財物を保護法益(個人法益)としています。器物損壊罪(法261条)と異なり罰金はありません。建造物は、財産的価値が高く日常生活に必要不可欠なものであり、艦船は交通の手段上重要性があり生命、身体の危険にも関連するので被害による社会生活への影響が大きいことを考慮し懲役刑のみを持って違法行為に対応しています。

2.  「他人の建造物」とは、家屋その他これに類似する建築物であって、屋蓋を有し、障壁又は柱材によって支持され、土地に定着し、少なくともその内部に人の出入できるものをいいますから壁も建造物の一部に当たります。「損壊」とは、個人の財物、すなわち財産的価値及び実質的に社会生活上の利益をも保護する趣旨から建造物を物理的に毀損することだけでなくはその他の方法によって、建造物の使用価値を減却もしくは減損すること解釈されますからペンキの落書き行為により建物の美観を損ない使用価値を現存していますので損壊に該当します。勿論、損壊は、修復(修理)可能なものでも構いません。本件のように日常生活を営む上で住居への落書きはラッカースプレー使用の場合完全に消し去ることも大変であり、その内容によっては被害住民の困惑、不愉快、プライバシーの間接的侵害は甚大であると考えられ明らかに損壊行為と評価できるでしょう。

3. 判例を参照します。
@ 最高裁判所第三小法廷平成18年1月17日決定、平成16年(あ)第2154号(建造物損壊被告事件)。前科もない24歳の男性が区立公園の公衆便所にラッカースプレー2本を用いて赤色及び黒色のペンキを吹き付け「戦争反対」「スペクタル社会」等と24文字を落書きした行為(被害7万円、被害弁償はない)を建造物損壊に該当すると判断し懲役1年2月(執行猶予3年)を言い渡しています。従って、住居の連続的落書きは更に厳罰が予想されます。

4. 本罪は懲役刑しかありませんから被疑者の弁護活動として重要となるのは、被害者全員との示談交渉です。示談がまとまらなければ本件のような被害者多数の場合起訴が予想されますから仮に勾留請求されなくても注意が必要です。建造物損壊罪は、個人の財産すなわち個人的法益に対する犯罪であり、その被害者全員との示談交渉をして、被害者の損害を賠償して、損失の補填をし、示談・和解が成立すれば、民事的に解決が図られ、建造物損害罪の被害が回復したことになり、保護法益が事実上守られた事になります。さらに、被害者が被害届、告訴の取下げをすればさらに被害感情の点で有利になります。実務の扱いとしても、被害者全員の被害届、告訴の取下げがなされれば、事件は民事的に解決されたものとして、不起訴処分の可能性は大きいと思います。すなわち検察官は、犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の状況一切を総合的に判断して、起訴するかどうか決定します(起訴便宜主義、刑事訴訟法248条)ので犯行態様、被疑者の反省、前科の有無、被害者との示談、被害感情等が総合的に考慮されることになります。但し、勾留されている場合は、最長20日間の間に被害者全員と示談しなければなりませんから緊急を要するでしょう。

5. 公訴が提起された場合建造物損壊罪の法定刑は、「5年以下の懲役」で罰金はありませんが、謝罪の意思を明らかにし示談が成立していれば執行猶予判決が出る可能性が高いでしょう。量刑判断の際にも、弁論終結までに示談を成立させて、裁判所に示談書等を証拠として提出すべきですが、合わなくても、判決がなされるまでは弁論を再開して示談の成立について審理を受け付けますので、あきらめないで弁護人と協議して示談の交渉をすべきです。

6. 被疑者の弁護活動の中心は被害者との示談交渉となります。
@ 被疑者及び被疑者の配偶者、両親などの謝罪の文書を被害者全員に提供します。本件は犯行態様において夜間、連続して行われていますので内容によっては沿線住民の不安、怒り、プライバシー侵害等日常生活への間接的影響は大きく被害感情はかなり強いと思いますので謝罪は必要不可欠です。
A 次に謝罪の意思を明確に示すために、示談金を提供することになります。示談金の相場としては、建造物損壊罪の場合には損害を回復するのに必要な費用(修理代、買い替え費用等全額)を基本に謝罪の意思、被害者の精神的苦痛を慰謝のために金額を上乗せすることが考えられます。1軒あたり数十万円になるでしょう。
B 被疑者及びその関係者が被害者及びその関係者との接触、及び再度加害行為をしないことを保証するために誓約保証書を作成します。
C 被害感情が強く被害者との示談が成立しなかった場合には、示談が成立しない経緯を説明し、被疑者の謝罪、反省の意思を明確に示し、それを客観的に担保するために、示談金の供託をする方法もあります。供託所に納付することにより、民事上の弁済の効果を生じます(民法494条)。

7.  建造物損壊罪の弁護活動において不安であれば刑事弁護に精通した弁護士との協議が必要でしょう。

≪参照条文≫
刑法第260条(建造物等損壊及び同致死傷)他人の建造物又は艦船を損壊した者は、五年以下の懲役に処する。よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。
第261条(器物損壊等)前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

刑事訴訟法
第247条 公訴は、検察官がこれを行う。
第248条 犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。

8.データベース事例集検索

  当事務所の相談データベース事例集を検索できます。検索ボタンを押してください。  


9.電子メール法律相談:以下のフォームに書込後、送信ボタンを押して下さい。担当弁護士から一般的なご回答をご連絡いたします。(電話番号を記載されなかったときはメールにてご返信致します。)

お名前(必須)
メールアドレス(必須)
電話番号、住所(任意)
相談内容(事件の概要を簡潔にお知らせ下さい。) 
 

10.電話法律相談:03−3248−5791までご相談内容をご連絡頂ければ、担当弁護士から簡単なご回答を差し上げておりますので、ご参考になさって下さい。

トップページに戻る