法の支配と民事訴訟実務入門(平成20年8月21日改訂)
総論11、訴状提出後の裁判所での対応。書証の認否、主張整理、和解。

Q:裁判所に500万円の貸金請求の訴状を提出しましたが、これから何をしたらよいか分かりません。また、裁判所、法廷内では具体的にどのように受け答え、行動すればいいでしょうか。不安なので教えてください。

A:
1. 訴状を提出後、裁判所の職権進行主義により口頭、書面で進行について公平な指示がありますからそれに誠実に従い行動しましょう。原告に対して訴訟の基本的進行についての意見を求める「訴訟進行に関する照会書」が渡されますので記載して提出してください。
2. 訴状の形式的審査終了後裁判所から電話が来ますので初回期日の協議をして期日、法廷番号を確認してください。
3. 被告には、決めた期日、法廷に従い口頭弁論期日呼出及び答弁書催告状」が送達されます。
4. 期日が来たら30分前に裁判所(東京だと建物が大きいですから法廷を探すのが大変です)に行って法廷で出廷カードに記載して待機してください。
5. 国民の裁判を受ける権利を保障するため主張、立証、判決の訴訟手続は口頭弁論により行われます(憲法82条1項。民訴87条。必要的口頭弁論の原則)。口頭主義、直接主義、公開主義の原則に従い審理が行われますので裁判官の指揮(民訴148条)に従って主張、証拠(まず書証から)の提出をしてください。
6. 続いて、弁論主義から相手方の主張について書面で認否(民訴161条。規則79条。不知も含みます)し、証拠については自由心証主義(民訴247条。裁判所が自由に判断します)ですが書証の成立(内容の真偽ではなく作成権限者が作成したかどうか)についてのみ認否(民訴228条。不知も含みます。証拠力、証明力についての意見です)してください。
7. 主張の整理が終了したら和解の話し合いも行って下さい。


解説
1. 国民は裁判所で裁判を受ける権利が保障されていますから(憲法32条)貴方が紛争の材料を提出すると裁判所が手続きを進める義務を有しますので職権進行主義がとられています。訴状を提出すると、通常原告に対して「訴訟進行に関する照会書」が渡されますので、記入して、これを裁判所に提出します。これからの裁判を適正公平迅速に進めるため事務手続的なことを中心に、原告の意見を聞くものです。根拠規定は、民事訴訟規則61条「裁判長は、最初にすべき口頭弁論の期日前に、当事者から、訴訟の進行に関する意見その他訴訟の進行について参考とすべき事項の聴取をすることができる」です。記載例を引用しておきます。最後の「参考欄」に法的な効力は無いのですが、訴訟に臨む気持ちなどを簡潔に書くと、公平で、迅速な手続がスムースに進むと思います。
2.   訴訟進行に対する照会書。

【書式5 訴訟進行に関する照会書】
平成20年(ワ)第○○○○号
 訴訟進行に関する照会書
東京地方裁判所民事第○○部
本件の円滑な進行を図るため、下記の照会事項にご回答の上、早急に当部に提出されるようご協力ください(ファクシミリも可)。なお、ご回答いただいた書面は、本件の訴訟記録につづり込むこととなります。
(照会事項)
1、 郵便による訴状送達の可能性
■被告の住所地に、平日、本人又は同居者・事務員がいる
□ 被告の住所地に、休日の方が、本人又は同居者・事務員がいる
□ 被告の住所不明ということで、公示送達になる見込み
2、 被告の就業場所について
■判明している(勤務先○○株式会社、東京都中央区銀座4−13−5)
□ 調査したが分からない
□ 調査未了
3、 被告の欠席の見込み □ある ■ない □不明
4、 被告との事前交渉  ■ある □ない
5、 被告との間の別事件の有無
□ ある(裁判所 事件番号)
■ない
6、 事実に関する争い ■ある □ない
7、 和解について
■条件次第である
□ 全く考えていない
8、 その他、裁判の進行に関する希望等、参考になることがあれば自由に記入してください。
 友人に事業資金として500万円を貸したが返済してもらえず、借りたことさえ否定し貰ったものだと主張されている事件です。預金通帳、借用メモと支払猶予を求める手紙などから、私の主張は立証できると考えています。○○法律事務所の○○弁護士に相談して訴状を作成し提出しましたが、本人訴訟で進めたいと考えています。よろしくお願いいたします。
平成○年○月○日 回答者 ○○○○ 電話番号○―○―○


3.  「期日請書」の提出。  
    原告が照会書を提出すると書記官から電話が来て、初回期日の日程調整を協議します。民事訴訟規則60条2項で、原則として訴訟提起から30日以内に指定されますので、被告の答弁書の提出期間もありますので調整の結果裁判所から期日が指定されると、あらかじめ、期日に出頭する旨を書いた「期日請書」をFAX等で報告する必要があります。
記載例を引用します。
【書式6  期日請書】
平成○年○第○号○○事件
原告 ○○○○
被告 ○○○○
期日請書
東京地方裁判所 民事  部 御中
平成○年○月○日
原告 ○○○○
頭書事件の口頭弁論期日(○年○月○日○時○分、○号法廷)をお請け致しますので、本書面をもってお届けいたします。


4.  訴状形式的審査が終り原告との期日打ち合わせが終了すると、「口頭弁論期日呼出及び答弁書催告状」が被告に対して送達されます。通常最初の口頭弁論期日の約1週間前まで答弁書を提出するよう記載されています。

  
5.  口頭弁論期日の内容。
@ あなたは、最初の期日においてどう行動するかご心配のようですが、裁判所の法廷で最初に開かれる手続きは口頭弁論期日と言います。そこで「口頭弁論」とは一体何かを、まずご説明します。これは重要なポイントです。
A 法の支配の理念は、適正、公平な裁判を受ける権利を国民に実質的に保障しなければいけませんから、紛争の審理(主張、立証)は必ず自ら口頭で(口頭主義)、裁判官の面前で当事者が直接に(直接主義)、国民の監視のもと公開の裁判所(公開主義)で行われなければならないのです。憲法82条は「公開」としか書いてありませんが、「対審」とは口頭弁論を意味しますので憲法上の原則です。従って判決は口頭弁論を開かなければ言い渡すことはできません(必要的口頭弁論)。但し、直接、口頭主義を貫くと訴訟が遅延する危険があり迅速性を確保するため書面(準備書面等)でほとんど準備しなければいけません。公開主義は、法廷外でも貫かれており訴訟記録を公開し原則的に誰でも裁判所の記録係に申し出れば閲覧できることになっています(民訴91条)。
B 裁判所の訴訟指揮は口頭弁論の原則により行われますが(民訴87条)、手続きの進行は裁判所の権限ですからこの点についても随時裁判官の指示があり基本的にその指示に従えば良いわけです。しかし、裁判官でも万能ではありませんからおかしいと思えば、質問することも必要です。訴訟手続きはあくまで国民の裁判を受ける権利を側面から保障するものであり、国民は適正公平な裁判を要請し納得する説明を求める権利があるからです。当事者は訴訟指揮に対する異議権を持っていますし(民訴150条)、裁判所を通じて相手方に釈明を求める求問権(民訴149条3項)は裁判所への質問権を大前提としています。但し、質問は裁判所の権限を尊重し丁重に行うべきですから、上申書という形式の書面で提出するのが一般的です。


6. 具体的法廷での対処。
@ 口頭弁論の期日に裁判所の指定された法廷に行きますと、法廷内廷吏の脇側机の上、又は入り口のところに、「出頭カード」が置いてありますので、そこの空欄の部分に自分で署名します。事件が多い場合当事者がそろった順番で審理を始めるためです。先に来た被告、相手方が既に被告欄(又は原告欄)に署名していれば廷吏の人にカードを渡して審理が出来る状態であることを伝えてあげるといいでしょう。その時「本人訴訟ですからよろしくお願いします」、と廷吏さんに挨拶しておくといいと思います。不安な場合は、早く法廷に行って何でも先ず廷吏さん、中央に座っている書記官に聞きましょう。聞かれて怒る人はいませんし、むしろ教える義務があるのです。貴方は、弁護士と違い、いつも裁判所に行っている訳ではありませんから、事情を知らないのが通常です。国民は裁判所を利用する権利(憲法32条、裁判を受ける権利)があるのですから、教えてもらうのは当然です。但し、審理が始まっている場合は審理の妨げにならないよう小さい声で廷吏さんに聞いてください。
A 地方、簡易裁判所では、同じ期日に複数の事件の審理を行うことが多い場合、自分の事件の順番が来るまで、傍聴席で待つことになります。順番が来ると廷吏の人が事件番号(平成20年(ワ)第1720号、原告何某、被告何某!)と呼びますから広い法廷であれば裁判官の席に向かって左側が原告、右側が被告になっていますので、原告であれば混んでいる場合左側に座ると便利かも知れません。法廷外にいると廷吏さんの声が聞こえない事があるので傍聴席にいたほうがいいと思います。親切な廷吏さんだと法廷外廊下まで探しに着てくれます。
B  順番が回ってきて、自分の事件の事件番号と原告名・被告名が読み上げられた場合は、原告席に行って着席します。
C  訴訟指揮権を持つ裁判官が、口頭弁論の原則に基づき必ず「訴状の通りに、陳述しますか?」と質問しますので、「陳述します。」と口頭で裁判官に直接答えます。「訴状の通りですね?」という質問の場合もあります。「はい」と言うだけでも良い場合もあります。このやり取りは、若干省略される場合もありますが、原告が口頭弁論期日において訴状の通りに主張したということが、口頭弁論調書に記載されませんと(民訴160条)、裁判所として判決を出すことができませんので、とても重要な手続です。理論的に言うと訴状を裁判所に提出しても、これを口頭弁論の期日に主張しないと(民訴87条口頭主義です)、訴状が弁論に含まれないままになってしまい、勝訴できないのです。民事訴訟法247条(自由心証主義)は、「裁判所は、判決をするに当たり、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して、自由な心証により、事実についての主張を真実と認めるべきかを判断する。」とその趣旨を明らかにしています。
D  次に、争点整理と証拠調べです。争点整理では、原告の主張している法律構成で裁判をすすめるのか、それとも、主張を変更すべきなのか、原告・被告・裁判所で、協議します。裁判所は、中立の立場ですので、どちらかに有利になるような話をすることは基本的にありません。ただ、「○○の主張について原告はもうすこし準備書面で補充してくれませんか」「○○の事実について立証が不十分です」などの求釈明をしてくることがあります。民事訴訟法149条1項(釈明権等)「裁判長は、口頭弁論の期日又は期日外において、訴訟関係を明瞭にするため、事実上及び法律上の事項に関し、当事者に対して問いを発し、又は立証を促すことができる。」はこの点を明らかにしています。
E  裁判官の話し方で、「請求の原因に記載した法律構成の説明が不十分なのかな」「要件事実の立証が不十分だから、他にも証拠を提出しろということかな」など考えて次の準備書面提出などの対応を行います。回答は、「後日書面で提出いたします。」と回答します。裁判官から言われたことは、必ずメモして、何らかの対応を取るようにしましょう。
F  裁判官は中立の立場なので、なかなか一方当事者に味方することはできないのですが、例えば、交通事故の被害者だとか、詐欺事件の被害者だとか、かわいそうだな、と考えられるような場合は、中立の立場の範囲内で、助け舟のようなものを出してくれることがあります。以下、いくつか解説付きで例を示しますので、参考にしてください。
G   具体例。
「事実の主張が足りません」 → 要件事実を落としているのでこのままだと絶対に敗訴します。要件事実を調べて主張を追加してください。例えば、500万円の消費貸借の契約書を締結したが、500万円を渡したという事実が記載されていない場合です。

「○○の主張を補充してください」 → 法律構成の主張が不十分なので、準備書面で丁寧に主張しなおしてください。例えば、500万円を数回に分けて行った場合の各消費貸借の特定を明確にする。

「○○の事実は立証が足りません」 → このままだと事実認定できず敗訴になります。補強する証拠を何でも良いので追加で提出してください。借用書等の事実認定をする直接証拠がなく500万円を引き出した預金通帳等の間接証拠を求められている場合です。「陳述書」と言って、原告本人が事件の経緯を記載して作成日付と署名捺印した書類でも構いません。

「他に(予備的)主張はありませんか」 → 現在の法律構成では敗訴します。このままだと敗訴しますから、別の法律構成を追加してください。貸金ではなく売買代金としての主張の追加等です。

「弁護士さんを依頼した方が良いですよ」 → このままだと敗訴しますが、弁護士を依頼すれば何とかなるかもしれないですよ。

「それでは結審して、次回判決にします」 → 初回の期日に、裁判官が原告に対してこのように言った場合は、シンプルな事件で、かつ主張立証に不足が無いと推定できますので、基本的に勝訴するものと考えて良いでしょう。


7.  証拠調べでの問答。
@ 第一回目から、まず書証という証拠調べが行われます(書類の証拠調べ。民訴219条以下)。直接証拠となる書類(例えば500万円の借用書)があれば裁判は勝ったようなものです。書証は証拠の王様と言われており証拠調べの中核です。裁判官の訴訟指揮権により「書証の原本を確認しますから見せてください」と言われたら、貴方が持参した甲号証の原本(原告側の証拠となった書類現物ことです)を1号から順番に揃えて手前にいる書記官に渡してください。訴状に添付してある正本、副本(証拠書類を写したもの)はすべてコピーですから書証の書類原本(原本がある場合)と同一のコピーであることを裁判官、相手方被告が確認するため本物を見せる必要があります。コピーである正本、副本を基に訴訟は進行していきます。裁判所は貴方の大切な原本を預かりません。「借用書原本」「手紙原本」「手形原本」など、いつでも見せられるように順序良く並べて準備しておきましょう。原本はその後証人尋問等で証拠提示の時原本を使いますからそれまで別な袋に入れて大切に保管してください。元々借用書の現物が紛失しておりコピーしかないような場合は、「原本はありませんので原本に代えて写しを証拠書類とします」と回答してください(写しそのものを原本にする考えもありますが結果的に写しの作成名義人の問題に帰着しますから考えなくて結構です)。取り調べの対象である写しは正本、副本と同じですからその証拠は裁判所、相手方も確認しませんから提示する必要はありません。原本を忘れても次回に提出すればかまいませんのであわてる必要はありません。証拠は何時提出してもいいのです(適時提出主義)。
A 裁判官は、書証の原本を確認後、書類について「書証の認否についてお聞きします。」と相手方被告に聞きます。被告が提出された書証についは貴方が聞かれます。答え方は、事実の認否(認める、否認、不知)と同じです。この意味ですが、民事訴訟における書証の証明力については適正な裁判を実現するため2段階に分けて考えます(民事訴訟は刑事訴訟と異なり生命、身体の拘束の問題ではないので証拠書類の提出に制限はありません。刑事は伝聞証拠禁止など証拠能力、資格が厳しいのです)。まず、その文書が、作成者の意思に基づいて作られたものか判断し、これを「文書成立の真正」と言います(形式的証拠力と言われています。簡単に言うと偽造文書かどうかということです)。次に文書の内容が真実であるかどうかを判断します(実質的証拠力と言います)。裁判官が最初に聞いているのは、成立の真正の点です。借用書についていえば、お金を借りた人が作った(署名した)文書かどうか、ということであり、金額が500万円と書いてあってもそれが事実かどうかとは関係ありません。本来、弁論主義は当事者が証拠を提出する義務を認めたものであり、その価値判断は裁判所の専権事項ですから、そんなことは裁判官が自由に判断すればいい(自由心証主義)と思いますが、裁判官が判断する前に紛争当事者が事情を知っていることが多いのでその意見を聞いているのです。従って、単なる意見ですからその成立を両当事者が認めても裁判官は法的に拘束されません(少し難しいかもしれませんが法的に言うと成立の真正の事実は証拠の価値を裏付ける事実であり補助事実といい弁論主義、自白の適用がないのです。前に説明したと思います)。適正、迅速な解決のために、成立の真正を確認して偽造文書等を排斥し、次に内容の真正にしぼり価値判断をするという2段階の手続きになっているのです。従って、この様な裁判所の権限を侵害し適正、迅速な裁判を妨害するような書証の認否をした場合は処罰されます(民訴230条)。当事者も適正、迅速な裁判を遂行する信義側上当然の真実義務を有するのです(民訴2条)。尚、原本がなく写しを証拠調べの対象とした場合(借用書、領収書の写しを証拠とした場合)でも同じで、証明力は原本にありますから写しの元になった原本の成立の真正を認否します。万が一、写しの元となる原本がないと積極的に思う場合は、理由を述べて原本の存在を否認すると答えます(勿論原本がないですから成立も否認することになります。わからない場合は存在、成立ともに不知となります)。
B 成立の真正を被告が認めれば問題はありませんが、否認(不知)すると作成の真正(作成者の意思に基づいて作成した)という補助事実の立証責任は立証により利益を受ける原告になりますから、民訴の規定上は成立の真正を証明しなければありません(民訴228条。証明力の問題ですから裁判所が自由に認定もできますが当事者の意見を聴取します)。
C しかし、否認するためには、規則145条によりその否認理由を説明しなければなりませんから解釈、実務上被告が作成者の意思に基づく署名、押印でないという特別な事情、例えば、第三者が勝手に署名した、印鑑を盗まれて押印された等の具体的説明をしない限り単に否認し、不知と言っただけでは争う態度ではないので裁判官の判断で成立の真正を事実上認められることになります。適正、迅速な裁判のために規定されています。
D また、相手方被告が、否認の理由を述べても、作成者の意思に基づく文書作成を証明するため、文書の作成者(借用書がなく間接的証拠書類でも同じです)を法廷に呼んだりして手続き的に大変なように思いますが、文書に、作成者の署名、押印がなされていれば作成名義人がその意思に基づき署名押印したと推定し、さらに意思に基づき作成された文書全体の成立を推定しています(民訴228条4項の解釈。二重の推定)。作成者の署名押印があれば通常その人がその意思に基づいて文書全体を作成したと考えるのが常識だからです。原告は、署名、押印が作成者のものであることのみを証明すればいいのですから作成者の尋問、他の書証提出等証拠調べ、弁論の全趣旨から実際上自由心証に基づき作成名義人の署名、印鑑であることを証明できればいいので偽造でなければ特別心配はいりません。戸籍謄本等の公文書の場合は、偽造されることは一般にありませんから成立の真正の立証は事実上問題になりません(民訴228条2項)。原本がなく写しを証拠にした場合も理屈は同様です(署名、押印を作成者のものであるという証明をすれば写しから原本の存在、成立も証明力の一つとして事実上認められることになります)。以上のように、書証における形式的証明力の問題は、相手方に真実義務を科し、推定規定により適正迅速な裁判を促進しているのです。
E 内容の真正(500万円借りたかどうか)は、その他の証拠調べにより裁判終結までに判断されることになりますから最初は特に聞かれません。

8.  和解協議 。    
@ 通常は争点整理が終わってから、話し合えるようであれば和解協議を行います。事案によっては、初回期日から和解の協議を行うこともありますし、裁判官から、「和解の意思はありますか?」と双方当事者に質問があり、双方が和解を希望した場合は、和解案の内容を協議することになります。また、期日の時期にかかわらず原告・被告は、いつでも起立して「和解をお願いします」と陳述することが可能です。私的自治の原則から和解は当事者の権能です。訴訟の最終目的は一刻も早い平穏なる社会生活の回復、復帰ですから裁判官、当事者も努力することが大切です。又、裁判官は東京地裁であれば100件以上の事件を担当しているのが通常ですから終結となる和解を嫌がる方はおりません。勝訴判決が出ても、相手が任意に支払をしないときは強制執行が必要ですし、敗訴当事者が控訴し紛争解決に更に時間を費やします。裁判所としても、折角判決を書いても、控訴され、紛争が継続していくことを望んではおりません。和解は当事者関係者が一挙に元の平穏な生活に戻れるチャンスなのです。
A 民法695条(和解)「和解は、当事者がお互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる。」が規定するように互いの譲歩が条件ですから、自分の主張を譲り、相手に何らかの利益を与えなければ、和解にはなりません。ですから、例えば500万円貸していたとしても、和解金は400万円にして分割払いを認めたりするなど、500万円一括払いという、当初の主張を後退させた和解案を検討する必要があります。
B 本件とは無関係ですが、訴額140万円以下の訴訟を行う簡易裁判所の場合、迅速な紛争解決のため国民の司法参加の一つとして一般市民から選ばれた学識経験者などの司法委員を交えて和解協議を行う場合があります(民訴279条)。司法委員も中立の立場ですので、自分にとって耳の痛いことを言われるかもしれませんが、平穏な社会生活回復の機会と考えて、その意見に耳を傾けてください。
C 和解調書を作成すると確定判決と同一の効力がありますので(民訴267条)、法的な紛争は終結することになります。しかし、不誠実な人が和解を悪用する場合があります。元々義務を履行する気持ちがないのに和解で金額、履行期日等譲歩を引き出して姿をくらます場合です。このような人には違約条項を厳しくする必要があります。
 
9.  次回期日の打ち合わせ。期日のやり取りが終了すると、次回期日の打ち合わせをして閉廷となります。裁判官に言われた事をメモとして持ち帰り、弁護士や司法書士(簡易裁判所事件)に相談すると良いでしょう。
                        以上   



≪条文参照≫
憲法
第三十二条  何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。

第八十二条  裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。
○2  裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる。但し、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第三章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。


民事訴訟法
(裁判所及び当事者の責務)
第二条  裁判所は、民事訴訟が公正かつ迅速に行われるように努め、当事者は、信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならない。

(口頭弁論の必要性)
第八十七条  当事者は、訴訟について、裁判所において口頭弁論をしなければならない。ただし、決定で完結すべき事件については、裁判所が、口頭弁論をすべきか否かを定める。
第九十一条  何人も、裁判所書記官に対し、訴訟記録の閲覧を請求することができる。
2  公開を禁止した口頭弁論に係る訴訟記録については、当事者及び利害関係を疎明した第三者に限り、前項の規定による請求をすることができる。
3  当事者及び利害関係を疎明した第三者は、裁判所書記官に対し、訴訟記録の謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又は訴訟に関する事項の証明書の交付を請求することができる。
4  前項の規定は、訴訟記録中の録音テープ又はビデオテープ(これらに準ずる方法により一定の事項を記録した物を含む。)に関しては、適用しない。この場合において、これらの物について当事者又は利害関係を疎明した第三者の請求があるときは、裁判所書記官は、その複製を許さなければならない。
5  訴訟記録の閲覧、謄写及び複製の請求は、訴訟記録の保存又は裁判所の執務に支障があるときは、することができない。
(秘密保護のための閲覧等の制限)
第九十二条  次に掲げる事由につき疎明があった場合には、裁判所は、当該当事者の申立てにより、決定で、当該訴訟記録中当該秘密が記載され、又は記録された部分の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又はその複製(以下「秘密記載部分の閲覧等」という。)の請求をすることができる者を当事者に限ることができる。
一  訴訟記録中に当事者の私生活についての重大な秘密が記載され、又は記録されており、かつ、第三者が秘密記載部分の閲覧等を行うことにより、その当事者が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあること。
二  訴訟記録中に当事者が保有する営業秘密(不正競争防止法第二条第六項 に規定する営業秘密をいう。第百三十二条の二第一項第三号及び第二項において同じ。)が記載され、又は記録されていること。
2  前項の申立てがあったときは、その申立てについての裁判が確定するまで、第三者は、秘密記載部分の閲覧等の請求をすることができない。
3  秘密記載部分の閲覧等の請求をしようとする第三者は、訴訟記録の存する裁判所に対し、第一項に規定する要件を欠くこと又はこれを欠くに至ったことを理由として、同項の決定の取消しの申立てをすることができる。
4  第一項の申立てを却下した裁判及び前項の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
5  第一項の決定を取り消す裁判は、確定しなければその効力を生じない。

(裁判長の訴訟指揮権)
第百四十八条  口頭弁論は、裁判長が指揮する。
2  裁判長は、発言を許し、又はその命令に従わない者の発言を禁ずることができる。
(釈明権等)
第百四十九条  裁判長は、口頭弁論の期日又は期日外において、訴訟関係を明瞭にするため、事実上及び法律上の事項に関し、当事者に対して問いを発し、又は立証を促すことができる。
2  陪席裁判官は、裁判長に告げて、前項に規定する処置をすることができる。
3  当事者は、口頭弁論の期日又は期日外において、裁判長に対して必要な発問を求めることができる。
(訴訟指揮等に対する異議)
第百五十条  当事者が、口頭弁論の指揮に関する裁判長の命令又は前条第一項若しくは第二項の規定による裁判長若しくは陪席裁判官の処置に対し、異議を述べたときは、裁判所は、決定で、その異議について裁判をする。
(自白の擬制)
第百五十九条  当事者が口頭弁論において相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない場合には、その事実を自白したものとみなす。ただし、弁論の全趣旨により、その事実を争ったものと認めるべきときは、この限りでない。
2  相手方の主張した事実を知らない旨の陳述をした者は、その事実を争ったものと推定する。
3  第一項の規定は、当事者が口頭弁論の期日に出頭しない場合について準用する。ただし、その当事者が公示送達による呼出しを受けたものであるときは、この限りでない。
(口頭弁論調書)
第百六十条  裁判所書記官は、口頭弁論について、期日ごとに調書を作成しなければならない。
2  調書の記載について当事者その他の関係人が異議を述べたときは、調書にその旨を記載しなければならない。
3  口頭弁論の方式に関する規定の遵守は、調書によってのみ証明することができる。ただし、調書が滅失したときは、この限りでない。


(準備書面)
第百六十一条  口頭弁論は、書面で準備しなければならない。
2  準備書面には、次に掲げる事項を記載する。
一  攻撃又は防御の方法
二  相手方の請求及び攻撃又は防御の方法に対する陳述
3  相手方が在廷していない口頭弁論においては、準備書面(相手方に送達されたもの又は相手方からその準備書面を受領した旨を記載した書面が提出されたものに限る。)に記載した事実でなければ、主張することができない。


(自由心証主義)
第二百四十七条  裁判所は、判決をするに当たり、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して、自由な心証により、事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断する。
第五節 書証
(書証の申出)
第二百十九条  書証の申出は、文書を提出し、又は文書の所持者にその提出を命ずることを申し立ててしなければならない。


(文書の成立)
第二百二十八条  文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。
2  文書は、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認めるべきときは、真正に成立した公文書と推定する。
3  公文書の成立の真否について疑いがあるときは、裁判所は、職権で、当該官庁又は公署に照会をすることができる。
4  私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
5  第二項及び第三項の規定は、外国の官庁又は公署の作成に係るものと認めるべき文書について準用する。
(筆跡等の対照による証明)
第二百二十九条  文書の成立の真否は、筆跡又は印影の対照によっても、証明することができる。
2  第二百十九条、第二百二十三条、第二百二十四条第一項及び第二項、第二百二十六条並びに第二百二十七条の規定は、対照の用に供すべき筆跡又は印影を備える文書その他の物件の提出又は送付について準用する。
3  対照をするのに適当な相手方の筆跡がないときは、裁判所は、対照の用に供すべき文字の筆記を相手方に命ずることができる。
4  相手方が正当な理由なく前項の規定による決定に従わないときは、裁判所は、文書の成立の真否に関する挙証者の主張を真実と認めることができる。書体を変えて筆記したときも、同様とする。
5  第三者が正当な理由なく第二項において準用する第二百二十三条第一項の規定による提出の命令に従わないときは、裁判所は、決定で、十万円以下の過料に処する。
6  前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
(文書の成立の真正を争った者に対する過料)
第二百三十条  当事者又はその代理人が故意又は重大な過失により真実に反して文書の成立の真正を争ったときは、裁判所は、決定で、十万円以下の過料に処する。
2  前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
3  第一項の場合において、文書の成立の真正を争った当事者又は代理人が訴訟の係属中その文書の成立が真正であることを認めたときは、裁判所は、事情により、同項の決定を取り消すことができる。
(自由心証主義)
第二百四十七条  裁判所は、判決をするに当たり、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して、自由な心証により、事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断する。




(和解調書の効力)
267条和解又は請求の放棄若しくは認諾を調書に記載したときは、その記載は、確定判決と同一の効力を有する。
(司法委員)
279条1項裁判所は、必要があると認めるときは、和解を試みるについて司法委員に補助をさせ、又は司法委員を審理に立ち会わせて事件につきその意見を聴くことができる。)
民事訴訟規則
第一節 口頭弁論
(最初の口頭弁論期日の指定・法第百三十九条)
第六十条 訴えが提起されたときは、裁判長は、速やかに、口頭弁論の期日を指定しなければならない。ただし、事件を弁論準備手続に付する場合(付することについて当事者に異議がないときに限る。)又は書面による準備手続に付する場合は、この限りでない。
2 前項の期日は、特別の事由がある場合を除き、訴えが提起された日から三十日以内の日に指定しなければならない。
(最初の口頭弁論期日前における参考事項の聴取)
第六十一条 裁判長は、最初にすべき口頭弁論の期日前に、当事者から、訴訟の進行に関する意見その他訴訟の進行について参考とすべき事項の聴取をすることができる。
2 裁判長は、前項の聴取をする場合には、裁判所書記官に命じて行わせることができる。


(準備書面・法第百六十一条)
第七十九条 答弁書その他の準備書面は、これに記載した事項について相手方が準備をするのに必要な期間をおいて、裁判所に提出しなければならない。
2 準備書面に事実についての主張を記載する場合には、できる限り、請求を理由づける事実、抗弁事実又は再抗弁事実についての主張とこれらに関連する事実についての主張とを区別して記載しなければならない。
3 準備書面において相手方の主張する事実を否認する場合には、その理由を記載しなければならない。
4 第二項に規定する場合には、立証を要する事由ごとに、証拠を記載しなければならない。
(答弁書)
第八十条 答弁書には、請求の趣旨に対する答弁を記載するほか、訴状に記載された事実に対する認否及び抗弁事実を具体的に記載し、かつ、立証を要する事由ごとに、当該事実に関連する事実で重要なもの及び証拠を記載しなければならない。やむを得ない事由によりこれらを記載することができない場合には、答弁書の提出後速やかに、これらを記載した準備書面を提出しなければならない。
2 答弁書には、立証を要する事由につき、重要な書証の写しを添付しなければならない。やむを得ない事由により添付することができない場合には、答弁書の提出後速やかに、これを提出しなければならない。
3 第五十三条(訴状の記載事項)第四項の規定は、答弁書について準用する。
(答弁に対する反論)
第八十一条 被告の答弁により反論を要することとなった場合には、原告は、速やかに、答弁書に記載された事実に対する認否及び再抗弁事実を具体的に記載し、かつ、立証を要することとなった事由ごとに、当該事実に関連する事実で重要なもの及び証拠を記載した準備書面を提出しなければならない。当該準備書面には、立証を要することとなった事由につき、重要な書証の写しを添付しなければならない。
(文書の成立を否認する場合における理由の明示)
第百四十五条 文書の成立を否認するときは、その理由を明らかにしなければならない


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