看護師の行政処分

行政|保健師助産師看護師法14条|免許取消|保健師助産師看護師に対する行政処分の考え方

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考条文

質問:

看護師をしていますが刑事事件に巻き込まれており、立件され有罪判決を受けてしまうかもしれません。知り合いの医師に相談したら「軽い罪だから大丈夫ではないか」と言われたのですが心配です。看護師免許取消の恐れがある犯罪とはどんなものでしょうか。窃盗罪の場合はどうですか。

回答:

1 犯罪を理由とする看護師免許取消については、保健師助産師看護師法で、「罰金以上の刑に処せられた者」「看護師又は准看護師の業務に関し犯罪又は不正の行為があつた者」(同法14条1項2項)が対象となり、処分としては、戒告、三年以内の業務の停止、免許の取消しが定められ、免許の取り消しが一番重い処分となっています。どの処分になるのかは、厚生労働大臣の裁量で、厚労大臣が看護師行政の状況に鑑みて「合目的的裁量」を発揮して、個々の事案に即して判断していくことになります。処分の方向性についての考え方については解説を参照して下さい。なお、窃盗犯については、次のような指針が示されています。

「詐欺・窃盗

信頼関係を基にその業務を行う看護師等が詐欺・窃盗を

行うことは、専門職としての品位を貶め、看護師等に対

する社会的信用を失墜させるものである。

特に、患者の信頼を裏切り、患者の金員を盗むなど看

護師等の立場を利用して行った事犯(業務関連の事犯)

については、看護師等としての倫理性が欠落していると

判断され、重い処分を検討するべきである。」

2 このように、刑事処分となると裁量の範囲内での処分が可能ですので、刑事事件が未終結であれば、不起訴処分や執行猶予判決を得るための最大限の努力をなさって下さい。被害者のある罰条であれば被害者との示談が必要です。被害者から行政処分の軽減を求める上申書が得られることもありますし、免許取消などは希望しない旨の上申書を得ることができる場合もあります。御心配であれば経験のある弁護士事務所に御相談なさり、一緒に対応方針を御検討なさって下さい。

3 行政処分に関する関連事例集参照。

解説:

1、看護師の行政処分

看護師の行政処分は、保健師助産師看護師法14条1項もしくは2項(准看護師)で規定されています。同法9条各号に定められた欠格事由(非違行為)があった場合、主に、刑事裁判が確定した場合に、厚生労働大臣の裁量により、「戒告」「三年以内の業務の停止」「免許の取消し」のいずれかの行政処分を下すことができるというものです。

刑事裁判の確定を端緒とするのは、被告人に攻撃防御方法が整備され主張の機会が与えられた刑事裁判の厳密な証拠調べにより事実認定されているので、行政処分を下す際の事実認定にも不足が無いと考えられるためです(行政手続法13条2項2号)。

保健師助産師看護師法

第9条 次の各号のいずれかに該当する者には、前二条の規定による免許(以下「免許」という。)を与えないことがある。

一号 罰金以上の刑に処せられた者

二号 前号に該当する者を除くほか、保健師、助産師、看護師又は准看護師の業務に関し犯罪又は不正の行為があつた者

三号 心身の障害により保健師、助産師、看護師又は准看護師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの

四号 麻薬、大麻又はあへんの中毒者

第14条

1項 保健師、助産師若しくは看護師が第九条各号のいずれかに該当するに至つたとき、又は保健師、助産師若しくは看護師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。

一号 戒告

二号 三年以内の業務の停止

三号 免許の取消し

2項 准看護師が第九条各号のいずれかに該当するに至つたとき、又は准看護師としての品位を損するような行為のあつたときは、都道府県知事は、次に掲げる処分をすることができる。

一号 戒告

二号 三年以内の業務の停止

三号 免許の取消し

この条文は、実は、医師法や歯科医師法の行政処分の条文とほとんど同じ定めになっています。

医師法

第4条 次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。

一号 心身の障害により医師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの

二号 麻薬、大麻又はあへんの中毒者

三号 罰金以上の刑に処せられた者

四号 前号に該当する者を除くほか、医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者

第7条 医師が第四条各号のいずれかに該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。

一号 戒告

二号 三年以内の医業の停止

三号 免許の取消し

このように、医師の行政処分の規定と看護師の行政処分の規定がほとんど同様の構造と規定内容となっているために、医師の知人の方は、医師だったら取り消しは無い罪名だから大丈夫だろうというアドバイスをなさっているのだと思われます。

しかしながら、医療行政の中でも、医師の業務と免許制度をどのように運営するのか、という問題と、看護師の業務と免許制度をどのように運営するのか、という問題は、当然異なります。業務内容が異なりますので、注意すべきポイントも自ずから変わって来ることになります。

その違いの一端が見えるものとして、各法律の目的条項があります。

医師法1条 医師は、医療及び保健指導を掌ることによつて公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。

保健師助産師看護師法1条 この法律は、保健師、助産師及び看護師の資質を向上し、もつて医療及び公衆衛生の普及向上を図ることを目的とする。

第5条 この法律において「看護師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者をいう。

第6条 この法律において「准看護師」とは、都道府県知事の免許を受けて、医師、歯科医師又は看護師の指示を受けて、前条に規定することを行うことを業とする者をいう。

このように、医師は医療および保険指導を「掌る」のが使命であり、保健師、助産師及び看護師は、これを補助して療養上の世話や診療の補助をするのが使命とされているのです。各制度の目的が異なりますので、養成制度や資格試験を含めた免許制度や行政処分の制度も自ずから異なって来ることになります。保健師助産師看護師法14条1項の「次に掲げる処分をすることができる。」とは、厚生労働大臣の裁量行為であることを規定した条文となります。戒告、業務停止、免許取消の処分のうち、どれを選択しても良いですし、または、処分せずに、「厳重注意の行政指導」に留めることもできるのです。処分権者は、どのように行政裁量を行使するのか、行政目的に照らして「合目的的に判断」して、個々の行政処分を下していきます。「合目的」というのは、医師の制度、看護師の制度を滞りなく運営して公衆衛生を普及向上させ、国民の健康を守っていく目的に合わせるということです。裁量行為は、権限を逸脱もしくは濫用したとされる場合に限って、裁判所による取消判決で法的効力が取り消されることになります(行政事件訴訟法30条)。

※参考判例(医師免許の行政処分に関するもの)

最判昭和63年7月1日

『医師法七条二項によれば,医師が「罰金以上の刑に処せられた者」(同法四条二号)に該当するときは,被上告人厚生大臣(以下「厚生大臣」という。)は,その免許を取り消し,又は一定の期間を定めて医業の停止を命ずることができる旨定められているが,この規定は,医師が同法四条二号の規定に該当することから,医師として品位を欠き人格的に適格性を有しないものと認められる場合には医師の資格を剥奪し,そうまでいえないとしても,医師としての品位を損ない,あるいは医師の職業倫理に違背したものと認められる場合には一定期間医業の停止を命じ反省を促すべきものとし,これによつて医療等の業務が適正に行われることを期するものであると解される。したがつて,医師が同号の規定に該当する場合に,免許を取消し,又は医業の停止を命ずるかどうか,医業の停止を命ずるとしてその期間をどの程度にするかということは,当該刑事罰の対象となつた行為の種類,性質,違法性の程度,動機,目的,影響のほか,当該医師の性格,処分歴,反省の程度等,諸般の事情を考慮し,同法七条二項の規定の趣旨に照らして判断すべきものであるところ,その判断は,同法二五条の規定に基づき設置された医道審議会の意見を聴く前提のもとで,医師免許の免許権者である厚生大臣の合理的な裁量にゆだねられているものと解するのが相当である。それ故,厚生大臣がその裁量権の行使としてした医業の停止を命ずる処分は,それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用したと認められる場合でない限り,その裁量権の範囲内にあるものとして,違法とならないものというべきである。』

東京地判平成18年2月24日

『六 争点2(本件処分が重きに失するか。)について

1 医師法7条2項は,医師が「罰金以上の刑に処せられた者」(同法4条3号)又は「医事に関し犯罪又は不正の行為のあつた者」(同条4号)に該当するときは,厚生労働大臣は,その免許を取消し,又は一定の期間を定めて医業の停止を命ずることができる旨規定している。前示のとおり,この医師法7条2項の規定は,医師が同法4条3号又は同条4号の規定に該当することから,医師として品位を欠き人格的に適格性を有しないと認める場合には医師の資格をはく奪し,そうまでいえないとしても,医師としての品位を損ない,あるいは医師の職業倫理に違背したものと認められる場合には一定期間医業の停止を命じて反省を促すべきものとし,これによって医療等の業務が適正に行われることを期するものであると解すべきである。このように医師法4条3号及び4号の関係で,同法7条2項を考えると,医師が同法4条3号又は4号の規定に該当する場合に,免許を取り消し又は医業の停止を命ずるかどうか,さらに,医業の停止を命ずるとしてその期間をどの程度にするかということは,当該刑事罰の対象となった行為又は当該医事に関する犯罪若しくは不正の行為の種類,性質,違法性の程度,動機,目的,影響のほか,当該医師の性格,処分歴,反省の程度等,諸般の事情を考慮し,同法7条2項の規定の趣旨に照らして判断すべきものであるところ,その判断は,医道審議会の意見を聴く前提の下で,医師免許の免許権者である厚生労働大臣の合理的な裁量にゆだねられているものと解するのが相当である。それ故,厚生労働大臣がその裁量権の行使としてした医業の停止を命ずる処分は,それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し,これを濫用したと認められる場合でない限り,その裁量権の範囲内にあるものとして,違法とならないものというべきである(最高裁昭和61年(行ツ)第90号同63年7月1日第二小法廷判決・訟務月報35巻3号512頁参照)。』

これらの判例を見てもわかるとおり、業務停止や免許取消の行政処分は厚労大臣の裁量行為であり、一度行政処分が出てしまうと、社会通念上著しく妥当性を欠くなど裁量権の逸脱と判断されないかぎり、または恣意的な判断に基づく裁量権の濫用が認められたり、または明白な事実誤認に基づく過誤の処分があったなど格別の事情が無い限り、裁判所で処分の違法性を争い取り消し判決を得ることは極めて困難であると言わざるを得ません。司法権の此のような態度は、究極的には、日本国憲法の三権分立構造に求めることができます。法を適用して行政サービス(行政作用)を提供するのは、行政権の権限に属する行為なのです。従って、この問題では、行政処分が出る前の刑事弁護活動や行政処分の前の弁護活動が極めて重要であると言えるでしょう。

2、行政処分の考え方

このように、看護師に対する免許取消などの行政処分は、厚生労働大臣の裁量行為とされていますが、裁量行為であっても、裁量の範囲内でなくてはなりませんから、行政手続法12条1項では、不利益処分を行う場合は、この基準を作成し、できるかぎり公にすることが求められています。

行政手続法第12条(処分の基準)

1項 行政庁は、処分基準を定め、かつ、これを公にしておくよう努めなければならない。

2項 行政庁は、処分基準を定めるに当たっては、不利益処分の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。

看護師の行政処分においても、平成28年12月14日付けで処分の考え方が公表されていますので一部ご紹介致します。本稿の文末に全文引用致します。

https://www.shinginza.com/kangoshi-h281214.pdf

まず、看護師の行政処分に関する「基本的考え方」を引用します。

保健師助産師看護師法第14条に規定する行政処分については、看護師等が、罰金以上の刑に処せられた場合や業務に関する不正の行為があった場合、又は看護師等としての品位を損するような行為があったとき等に際し、看護倫理の観点からその適性等を問い、厚生労働大臣がその免許を取り消し、又は期間を定めてその業務の停止等を命ずるものである。

処分内容の決定においては、司法処分の量刑や刑の執行が猶予されたか否かといった判決内容を参考にしつつ、その事案の重大性、看護師等に求められる倫理、国民に与える影響等の観点から、個別に判断されるべきものであり、かつ、公正に行われなければならないと考える。

このため、当部会における行政処分に関する意見の決定に当たっては、この「行政処分の考え方」を参考にしつつ、生命の尊重に関する視点、身体及び精神の不可侵性を保証する視点、看護師等が有する知識や技術を適正に用いること及び患者への情報提供に対する責任性の視点、専門職としての道徳と品位の視点を重視して審議していくこととする。

なお、看護師等の業務については、保健師助産師看護師法をはじめとする諸法令によって、高度な倫理観を要する医療行為等を業として行うことが独占的に認められており、当該業務の遂行に当たっては、その社会的責務から一層の職業倫理の遵守が求められるものである。当該業務に関する不正の行為等について、当該社会的責務に相応する国民の信頼を失墜させ、看護師等としての品位に欠け、職業倫理に反するような行為である場合については、司法処分の有無に関わらず、保健師助産師看護師法に基づく行政処分を行うこととする。また、その行政処分の程度は、事案の悪質性や注意義務の程度等を考慮して判断する。

この総論部分で注意すべきことは、「生命の尊重に関する視点、身体及び精神の不可侵性を保証する視点、看護師等が有する知識や技術を適正に用いること及び患者への情報提供に対する責任性の視点、専門職としての道徳と品位の視点」が重視されているということです。他人の生命倫理を軽視するような犯罪行為や、看護師の知識や立場を悪用した犯罪行為などは、審議にあたって重視される可能性があると言えるでしょう。

各論部分から、免許取消のおそれがある「重い処分」に関する記述を引用します。

(1)身分法(保健師助産師看護師法、医師法等)違反

保健師助産師看護師法、医師法等の医療従事者に関する身分法は、医療が国民の健康に直結する極めて重要なものであるとの考え方から、定められた教育課程を修了し免許を取得した者が医療に従事することを規定し、また免許を取得していない者が不法に医療行為を行うことのないよう規定している。また、不法に医療行為を行った際の罰則についても、国民の健康に及ぼす害の大きさを考慮して量刑が規定されているところである。

行政処分に当たっては、司法処分の量刑の程度に関わらず、他者の心身の安全を守り国民の健康な生活を支援する任務を負う看護師等が、自らに課せられた基本的倫理を遵守せず、国民の健康を危険にさらすような法令違反を犯した場合は、その責務を怠ったことを考慮して重い処分を検討するべきである。

これは、医師が治療方針を定め治療行為を行い、看護師がこれを補助するという医療看護行政の根幹に関わる部分についての違反があった場合は、重い処分が検討されることを示しています。医師の指示無く独自に診療行為を行った医師法違反の事例などが該当するでしょう。

(2)麻薬及び向精神薬取締法違反、覚せい剤取締法違反及び大麻取締法違反

麻薬等の違法行為に対する司法処分は基本的には懲役刑(情状により懲役及び罰金)であり、その量刑は、不法譲渡、不法所持した麻薬等の量、施用期間の長さ等を勘案して決定されている。累犯者についても重い処分となっている。

行政処分に当たっては、麻薬等の害の大きさを十分認識している看護師等が違法行為を行ったこと、麻薬等を施用して看護業務を行った場合には患者の安全性が脅かされること、さらに、他の不特定の者へ犯罪が伝播する危険があること等を考慮して、重い処分を検討するべきである。

薬物事案についても、看護師の重い処分が懸念されます。

(3)殺人及び傷害

本来、人の生命や身体の安全を守るべき看護師等が、殺人や傷害の罪を犯すことは、看護師等としての資質や基本姿勢が問われるだけではなく、専門職としての社会的な信用を大きく失墜させるものである。特に、殺人を犯した場合は基本的に免許取消の処分がなされるべきである。

ただし、個々の事案では、その様態や原因も様々であり、行政処分に当たっては、それらを考慮に入れるのは当然である。

人の生命身体の安全を守るべき看護師が、逆に人の生命身体を傷つけてしまう故意犯である殺人罪や傷害罪は、免許取消のリスクの非常に高い罪名であることが分かります。

(5)業務上過失致死傷(医療過誤)

看護師等の業務は人の生命及び健康を守るべきものであると同時に、その業務の性質から危険を伴うものである。従って看護師等に対しては、危険防止の為に必要とされる最善の注意義務を要求される。看護師等が国民の信頼に応えず、当然要求される注意義務を怠り、医療過誤を起こした事案については、専門職としての責任を問う処分がなされるべきである。司法処分においては、当然、看護師等としての過失の度合い及び結果の大小を中心として処分が判断されることとなる。

行政処分の程度は、基本的には司法処分の量刑などを参考に決定する。明らかな過失による医療過誤や繰り返し行われた過失など、看護師等として通常求められる注意義務が欠けているという事案については、重い処分を検討するべきである。

ただし、医療過誤は、様々なレベルの複合的な管理体制上の問題の集積によることも多く、一人の看護師等の責任に帰することができない場合もある。看護師等の注意義務違反の程度を認定するに当たっては、当然のことながら、病院・診療所・助産所等の管理体制や医療体制、他の医療従事者における注意義務違反の程度や、生涯学習に努めていたかなどの事項も考慮して処分の程度等も勘案する必要がある。

なお、再犯の場合は、看護師としての資質及び適性を欠くものでないかどうかを特に検討すべきである。

医療過誤の業務上過失致死傷は過失犯ですが、行政処分では「重い処分」も検討すべきとされており、取り消しリスクがあると分かります。

(7)わいせつ行為等(性犯罪)

人の身体に接する機会が多く、身体の不可侵性を特に重んじるべき看護師等がわいせつ行為を行うことは、専門職としての品位を貶め、看護師等に対する社会的信用を失墜させるだけではなく、看護師等としての倫理性が欠落している、あるいは看護師等として不適格であると判断すべきである。

特に、看護師等の立場を利用して行った事犯や、強姦・強制わいせつ等、被害者の人権を軽んじ、心身に危害を与えた事犯については、悪質であるとして相当に重い処分を行うべきである。

わいせつ事案の中でも、看護師の立場を悪用した事案や、強姦・強制わいせつについては、「相当に重い処分」と指定されており、免許取消のリスクが高いことが示されています。

(8)詐欺・窃盗

信頼関係を基にその業務を行う看護師等が詐欺・窃盗を行うことは、専門職としての品位を貶め、看護師等に対する社会的信用を失墜させるものである。

特に、患者の信頼を裏切り、患者の金員を盗むなど看護師等の立場を利用して行った事犯(業務関連の事犯)については、看護師等としての倫理性が欠落していると判断され、重い処分を検討するべきである。

保険金詐欺など、看護師の立場を悪用した業務関連の詐欺窃盗については、免許取消リスクがあると言えます。

3、過去の行政処分

厚生労働省のホームページでは、医道審議会で審議された過去の看護師に対する行政処分の概要が公表されています。その中から、免許取消となった事案のうち、上記「行政処分の考え方」が改訂された平成28年12月14日以降のものを引用します。近時、取り消し事例が増えており注意が必要です。

※参考URL医道審議会(保健師助産師看護師分科会看護倫理部会)

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-idou_127798.html

令和5年11月27日

免許取消6件 (窃盗、常習累犯窃盗1件、有印私文書偽造、同行使、詐欺1件、詐欺1件、覚せい剤取締法違反、麻薬及び向精神薬取締法違反、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律違反、関税法違反1件、強制わいせつ1件、監禁、強制わいせつ、職業安定法違反、傷害、窃盗1件)

令和5年1月12日

免許取消7件 (暴力行為等処罰に関する法律違反、暴行1件、準強制わいせつ1件、暴力行為等処罰に関する法律違反、監禁、暴行、準強制わいせつ1件、準強制わいせつ、暴行1件、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反1件、強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、神奈川県青少年保護育成条例違反1件、看護師の業務に関する犯罪行為1件)

令和4年1月21日

免許取消5件 (窃盗3件、詐欺1件、ストーカー行為等の規制等に関する法律違反、名誉毀損1件)

令和3年1月25日

免許取消2件 (窃盗1件、準強制わいせつ及び窃盗1件)

令和2年10月5日

免許取消1件(看護師の業務に関する犯罪の行為1件)

令和元年11月11日

免許取消6件(覚せい剤取締法違反1件、傷害1件、建造物等以外放火1件、 ストーカー行為等の規制等に関する法律違反1件、住居侵入、建造物損壊、ストーカー行為等の規制等に関する法律違反1件、 偽造有印公文書行使1件)

平成31年1月16日

免許取消3件(準強姦、児童買春、児童ポルノに係わる行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反1件、強制わいせつ1件、非現住建造物等放火未遂1件)

平成30年1月15日

免許取消2件(危険運転致死1件、窃盗1件)

平成28年12月14日

免許取消4件(傷害1件、強姦・脅迫1件、準強制わいせつ1件、詐欺1件)

上記の公表内容は、罪名と処分結果だけですので細かい行為態様は分かりませんが、報道などから判明している注意すべき行為態様など、当事務所の見解をご説明致します。

・窃盗罪は、患者(要介護者)の金品を窃取するもののほか、病院内の窃盗や累犯窃盗(クレプトマニア)において、医療提供体制に支障を来す恐れが高まってしまうことから免許取消リスクが高まると考えられます。過去の窃盗罪の事案では、戒告で処分されたり、業務停止処分を受けたり、免許取り消し処分を受けたりと幅広い処分例が見られます。これは各事件の刑事処分の状況や被害弁償(示談成立)の状況、また被対象者の過去の行政処分歴などの個別事情が詳細に検討されているためであると考えられます。病院内の窃盗でも業務停止に留まる事例もありますし、病院外の複数回の窃盗でも戒告に留まる事例もあります。例えば、病院外の万引き初犯で免許取り消しということは考えにくいとは思われますが、個別事情によって取消まであり得ますので格別の注意を要する罪名と言えるでしょう。

・詐欺罪は、オレオレ詐欺などの他、入院給付金などの保険金詐欺の事案で業務知識を悪用して診断書を偽造するなどの事案において免許取消リスクが高まると考えられます。複数回の詐欺行為があった事案、数百万円以上の被害金額となった事案で免許取り消しリスクが高まるようです。

・覚せい剤取締法違反、麻薬及び向精神薬取締法違反の事案では、複数回の有罪判決を受けるなどの累犯事案で免許取消のリスクが高まります。

・強制わいせつ罪では、病院内や介護施設内における違反行為の場合は原則として免許取消処分になってしまうものと思われます。

・暴力行為等処罰に関する法律違反(暴行罪、傷害罪)は、集団暴行や脅迫の事案で、特に患者に対して複数人で暴行を加える事案では、免許取消リスクが高まると考えられます。

・児童買春児童ポルノ禁止法違反では、看護師の業務に付随して行われた事案や、複数の被害者が居る事案で免許取消のリスクが高まると考えられます。

・ストーカー行為等の規制等に関する法律違反でも免許取消リスクがあります。患者の世話をする業務なので、単なる恋愛感情に留まらず、警察署の警告にも従わないなどの悪質事案では注意が必要です。この罪名でも、累犯や過去の行政処分歴が慎重に審査されると考えられます。

・傷害罪、傷害致死罪では、薬剤を用いるなど看護師の医療知識を利用して人に危害を加えた事案では免許取消のリスクが高まると考えられます。

全般に、厚生労働省では、当該看護師が業務に復帰しても患者さんが安心して医療を受けられるかどうか、医療制度全体に対する国民の信頼が維持できるかどうか、という観点で各事件を見ているように思われます。刑事罰は軽くても、医療現場で患者の人格尊厳を無視するような行為があった場合や、患者との間のわいせつ行為やストーカー行為などがあったり、また、病院内で窃盗があったり、看護知識を悪用して医療保険詐欺などがあった場合は、免許取消のリスクが高まると考えられますので、細心の注意で対応する必要があります。刑事事件段階でも、行政処分の弁明手続きでも、全ての段階で注意が必要でしょう。

4、まとめ

ご相談のケースでは、罪名詳細や行為態様をお伺いしておりませんので具体的なことは申し上げられませんが、刑事罰が執行猶予や罰金刑であっても、免許取消のリスクはあります。

また、医師の行政処分とは異なり、ストーカー規制法違反や窃盗罪や暴力行為等処罰に関する法律違反(集団暴行)でも過去に取り消し事例がございますので注意が必要です。「ナースコール」という言葉があるように、医師よりも看護師の方が患者さんの近くで療養を見ている存在ですから、おのずから求められる態度や考え方も異なるのです。それが行政処分状況の違いにも現れています。

被害届が出ていない段階や事情聴取を受けて書類送検前であるなど刑事事件が未了であれば、可能なかぎり「微罪処分」や「不起訴処分」を得られるよう弁護活動を努力すべきと考えられます。

具体的には、被害者との間の示談や被害届取下げ書や告訴取下書の取得を試みるべきでしょう。被害者に対する被害弁償金の提示や支払いを行い、「和解合意書・示談書」を作成することも大切です。和解合意書・示談書には、「宥恕文言」つまり被害者は加害者の罪を許す、ということを明記して貰うと良いでしょう。どうしても被害弁償金を受領して貰えない場合は、法務局に対する弁済供託(民法第494条第1項)も検討なさって下さい。

起訴後であっても、被害弁償が未了であれば和解合意書や示談書の作成に向けて努力すべきですし、有罪判決を受けた後であっても、被害者と再示談して「行政処分を求めない上申書」を取得して、医道審議会の意見聴取・弁明聴取手続きで提出すべきでしょう。また、行政手続きにおける平等原則を主張することができますので、過去の類似事例の行政処分と、当該事案の比較を行い、免許取消相当事案ではないことを弁護士意見書として主張立証することも有益でしょう。御心配の場合は経験のある弁護士事務所に御相談なさると良いでしょう。

以上

関連事例集

Yahoo! JAPAN

※参考文書

保健師助産師看護師に対する行政処分の考え方

平成14年11月26日

改正 平成17年7月22日

改正 平成28年12月14日

医道審議会保健師助産師看護師分科会

看 護 倫 理 部 会

医療は、生命の尊重と個人の尊厳の保持を旨とし、医療の担い手と医療を受ける者との信頼関係に基づき、及び医療を受ける者の心身の状況に応じて行われるものであり、医療を受ける者に対し良質かつ適切な医療を行うよう努めるべき責務がある。

また、保健師、助産師及び看護師は、保健指導、助産、療養上の世話及び診療の補助を行う各専門職としての資格が保健師助産師看護師法に定められており、その資質を向上し、もって医療及び公衆衛生の普及向上を図ることを任務としている。

当部会は、保健師助産師看護師(以下「看護師等」という。)の行政処分に関する意見の決定に当たり、過去における当部会の議論等を踏まえつつ、当面、以下の考え方により審議することとする。なお、この「行政処分の考え方」については、行政処分における処分内容が社会情勢や社会通念等により変化しうるべきものであると考えるため、必要に応じて、当部会の議論を経ながら見直しを図っていくものとする。

1.行政処分の基本的考え方

保健師助産師看護師法第14条に規定する行政処分については、看護師等が、罰金以上の刑に処せられた場合や業務に関する不正の行為があった場合、又は看護師等としての品位を損するような行為があったとき等に際し、看護倫理の観点からその適性等を問い、厚生労働大臣がその免許を取り消し、又は期間を定めてその業務の停止等を命ずるものである。

処分内容の決定においては、司法処分の量刑や刑の執行が猶予されたか否かといった判決内容を参考にしつつ、その事案の重大性、看護師等に求められる倫理、国民に与える影響等の観点から、個別に判断されるべきものであり、かつ、公正に行われなければならないと考える。

このため、当部会における行政処分に関する意見の決定に当たっては、この「行政処分の考え方」を参考にしつつ、生命の尊重に関する視点、身体及び精神の不可侵性を保証する視点、看護師等が有する知識や技術を適正に用いること及び患者への情報提供に対する責任性の視点、専門職としての道徳と品位の視点を重視して審議していくこととする。

なお、看護師等の業務については、保健師助産師看護師法をはじめとする諸法令によって、高度な倫理観を要する医療行為等を業として行うことが独占的に認められており、当該業務の遂行に当たっては、その社会的責務から一層の職業倫理の遵守が求められるものである。当該業務に関する不正の行為等について、当該社会的責務に相応する国民の信頼を失墜させ、看護師等としての品位に欠け、職業倫理に反するような行為である場合については、司法処分の有無に関わらず、保健師助産師看護師法に基づく行政処分を行うこととする。また、その行政処分の程度は、事案の悪質性や注意義務の程度等を考慮して判断する。

2 事案別の考え方

(1)身分法(保健師助産師看護師法、医師法等)違反

保健師助産師看護師法、医師法等の医療従事者に関する身分法は、医療が国民の健康に直結する極めて重要なものであるとの考え方から、定められた教育課程を修了し免許を取得した者が医療に従事することを規定し、また免許を取得していない

者が不法に医療行為を行うことのないよう規定している。また、不法に医療行為を行った際の罰則についても、国民の健康に及ぼす害の大きさを考慮して量刑が規定されているところである。

行政処分に当たっては、司法処分の量刑の程度に関わらず、他者の心身の安全を守り国民の健康な生活を支援する任務を負う看護師等が、自らに課せられた基本的倫理を遵守せず、国民の健康を危険にさらすような法令違反を犯した場合は、その責務を怠ったことを考慮して重い処分を検討するべきである。

また、保健師助産師看護師法第15条の2の規定に基づき、厚生労働大臣より保健師等再教育研修の命令を受けたにも関わらず、妥当な理由がないまま修了せず、その後の催促においても対応がない場合においては、看護師等としての倫理を保持せず、又は必要な知識及び技能に関する研修を受けないまま業務に従事することによる国民の安全や健康への影響等を考慮した処分の程度とする。

(2)麻薬及び向精神薬取締法違反、覚せい剤取締法違反及び大麻取締法違反

麻薬等の違法行為に対する司法処分は基本的には懲役刑(情状により懲役及び罰金)であり、その量刑は、不法譲渡、不法所持した麻薬等の量、施用期間の長さ等を勘案して決定されている。累犯者についても重い処分となっている。

行政処分に当たっては、麻薬等の害の大きさを十分認識している看護師等が違法行為を行ったこと、麻薬等を施用して看護業務を行った場合には患者の安全性が脅かされること、さらに、他の不特定の者へ犯罪が伝播する危険があること等を考慮して、重い処分を検討するべきである。

(3)殺人及び傷害

本来、人の生命や身体の安全を守るべき看護師等が、殺人や傷害の罪を犯すことは、看護師等としての資質や基本姿勢が問われるだけではなく、専門職としての社会的な信用を大きく失墜させるものである。特に、殺人を犯した場合は基本的に免許取消の処分がなされるべきである。

ただし、個々の事案では、その様態や原因も様々であり、行政処分に当たっては、それらを考慮に入れるのは当然である。

(4)業務上過失致死傷(交通事犯)

交通事故による致死傷等に対する司法処分では、警察等への通報や被害者を救護せずそのまま逃走した事犯の場合、厳しく責任を問われている。

元来、看護師等は人の心身の安全を守るべきであるにもかかわらず、適切な救護措置をとらなかったことや、通報もしなかったということは悪質であり、行政処分に当たっては、看護師等としての資質及び適性を欠くものでないかどうかを十分に検討し、相当の処分を行うべきである。

(5)業務上過失致死傷(医療過誤)

看護師等の業務は人の生命及び健康を守るべきものであると同時に、その業務の性質から危険を伴うものである。従って看護師等に対しては、危険防止の為に必要とされる最善の注意義務を要求される。看護師等が国民の信頼に応えず、当然要求される注意義務を怠り、医療過誤を起こした事案については、専門職としての責任を問う処分がなされるべきである。司法処分においては、当然、看護師等としての過失の度合い及び結果の大小を中心として処分が判断されることとなる。

行政処分の程度は、基本的には司法処分の量刑などを参考に決定する。明らかな過失による医療過誤や繰り返し行われた過失など、看護師等として通常求められる注意義務が欠けているという事案については、重い処分を検討するべきである。

ただし、医療過誤は、様々なレベルの複合的な管理体制上の問題の集積によることも多く、一人の看護師等の責任に帰することができない場合もある。看護師等の注意義務違反の程度を認定するに当たっては、当然のことながら、病院・診療所・助産所等の管理体制や医療体制、他の医療従事者における注意義務違反の程度や、生涯学習に努めていたかなどの事項も考慮して処分の程度等も勘案する必要がある。

なお、再犯の場合は、看護師としての資質及び適性を欠くものでないかどうかを特に検討すべきである。

(6)危険運転致死傷

本来、人の生命や身体の安全を守るべき看護師等が危険運転(飲酒など正常な運転ができない状態での運転等)を行うことは、著しく生命尊重を欠く行為であり、看護師等としての資質や基本姿勢が問われるだけでなく、専門職としての社会的信用を大きく失墜させるものである。司法処分においては、危険運転による死傷事犯を故意犯として捉え、法定刑も大幅に引き上げられたことを当然考慮すべきである。

(7)わいせつ行為等(性犯罪)

人の身体に接する機会が多く、身体の不可侵性を特に重んじるべき看護師等がわいせつ行為を行うことは、専門職としての品位を貶め、看護師等に対する社会的信用を失墜させるだけではなく、看護師等としての倫理性が欠落している、あるいは看護師等として不適格であると判断すべきである。

特に、看護師等の立場を利用して行った事犯や、強姦・強制わいせつ等、被害者の人権を軽んじ、心身に危害を与えた事犯については、悪質であるとして相当に重い処分を行うべきである。

(8)詐欺・窃盗

信頼関係を基にその業務を行う看護師等が詐欺・窃盗を行うことは、専門職としての品位を貶め、看護師等に対する社会的信用を失墜させるものである。

特に、患者の信頼を裏切り、患者の金員を盗むなど看護師等の立場を利用して行った事犯(業務関連の事犯)については、看護師等としての倫理性が欠落していると判断され、重い処分を検討するべきである。

(9)診療報酬及び介護報酬の不正請求等

診療報酬及び介護報酬は、医療・介護等のサービスの提供の対価として受ける報酬であり、我が国の医療・介護保険制度において重要な位置を占めており、これを適正に受領することは、看護師等に求められる職業倫理においても遵守しなければならない基本的なものである。

診療報酬及び介護報酬の不正請求は、事業管理者となりうる看護師等としての地位を利用し社会保険制度を欺く行為であることから、事業所の指定の取消等の処分を受け、診療報酬及び介護報酬の不正請求に関与した事実が確認された看護師等については、当該根拠法に基づく行政処分とは別に、看護師等としての資質及び適性を欠くものでないかどうかを十分に検討し、相当の処分を行うべきである。

当該不正行為は、看護師等に求められる職業倫理の基本を軽視し、国民の信頼を裏切り、国民の財産を不当に取得しようというものであり、我が国の国民皆保険制度の根本に抵触する重大な不正行為である。したがって、その行政処分の程度は、診療報酬及び介護報酬の不正請求を行ったという事実に着目し、不正の額の多寡に関わらず、一定の処分とする。ただし、特に悪質性の高い事案の場合には、それを考慮した処分の程度とする。