公務員の懲戒処分の公表回避

行政|公務員の懲戒処分の公表基準|福岡高裁平成18年11月9日判決|判例タ1251号192頁

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問:

私は,東京都の職員として勤務する公務員です。先日,駅で女性を盗撮する事件を起こしてしまい,都の迷惑防止条例違反で摘発されてしまいました。幸いにも被害者の方との示談が成立して不起訴処分となりましたが,現在,勤務先から懲戒処分の審議を受けております。

懲戒処分を受けた場合,私の氏名や所属,年齢などの情報が公表される可能性があると思いますが,これを回避する手段はないでしょうか。

回答:

公務員の方に対する懲戒処分の公表基準については,各役所により扱いがことなります。そのため,まずはお勤め先の内規を確認されることをお勧め致します。

東京都の場合ですと,懲戒免職以外の処分の場合には,原則として,個人が識別されないことを基本として,職層や所属局名,事件概要等を公表するとされています。

一方,例外として,被害者又はその関係者のプライバシー等の権利利益を侵害するおそれがある場合等においては、公表内容の一部又は全部を公表しないことができるとの基準が存在します。本件でも,例えば盗撮事件の被害者が,事件の公表を希望していない場合等は,当該例外に該当する可能性が考えられます。

示談ついては、刑事事件の関係ですでに示談成立ということですが、示談書に懲戒処分に関して、懲戒処分を望まないことや処分の公表を望まないなどの合意の記載がない場合,状況によっては,被害者に改めて謝罪をした上で追加の示談を行い,処分の公表に関する意見表明をお願いすることも考えられます。

詳細な追加示談の進め方については,経験のある弁護士に相談することをお勧め致します。

解説:

1 公務員に対する懲戒処分について

⑴ 懲戒処分の手続き

公務員の方が,刑事事件に該当するような違法行為をしてしまった場合,法律に基づく懲戒処分の対象となることが多いです。たとえ起訴猶予となり刑事処罰を受けなかったとしても,「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」(地方公務員法第29条1項3号)として,懲戒処分の対象となります。

懲戒処分がどのような流れで行われるかの手続きについては,法律上,明示の規定が存在しません。不利益処分について定めた行政手続法の規定も,公務員の懲戒処分は対象外とされています(同法3条1項9号)。

各役所により,条例(東京都「職員の懲戒に関する条例」など)により一定の手続き規則が定められている場合も多いですが,具体的にどのような手続きを履践する必要があるか等までは定められていないことが多いです。

もっとも,多くの場合は,人事を担当する部署が,処分対象者が事情を聴取し,被処分者に事実上の弁明の機会を与えた上で,処分を実施することが多いと言えます。

特に懲戒免職処分など,被処分者に大きな不利益を与える処分の場合には,その効果の重大さに鑑み,例え法律上弁解の機会を与えることが定められていなくとも,原則として弁明の機会が保障されなければならないとした裁判例が存在します(福岡高裁平成18年11月9日判決判例タ1251号192頁。)

そのため,万が一,あなたが一切の弁明の機会を与えられずに処分されるような手続きとなっている場合には,その手続きの違法性を指摘した上で,適切な弁明の機会を付与するように求めるべきでしょう。

⑵ 懲戒処分の内容

具体的にいかなる懲戒処分がなされるかについても,法律上は明確な規定がありませんが,多くの役所では,各種の事例につきいかなる懲戒処分をかすべきかについて,懲戒処分の指針を予め示していることが多いといえます

(東京都の場合
https://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/03jinji/pdf/fukumu/cyoukaisisin.pdf)。

同指針によれば,本件のような盗撮事件の場合には,停職又は免職の処分を科すとされています(指針(13)オ)。

もっとも,このような懲戒処分の指針は絶対的なものではありません。判例上,懲戒処分を実施するにあたっては,「懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきか、を決定することができるものと考えられるのであるが、その判断は、右のような広範な事情を総合的に考慮してされる」としています(最判昭和52年12月20日・民集31巻7号1101頁)。

そのため,本件でも,前記⑴で述べた弁明の機会において,上記の最高裁判例の示した考慮要素の基準に従いあなたに有利な事情を主張すれば,懲戒処分を軽度のものに軽減できる可能性は存在します。

具体的には,示談成立の事情や本件の報道の有無による社会への影響等を主張することが考えられます。

具体的な懲戒処分の軽減に関する弁護活動については,弊所事例集1549番,1711番,1939番等もご参照下さい。

2 懲戒処分の公表について

一定の場合には,行われた懲戒処分が公表され,報道される場合があります。

公務員の方に対する懲戒処分の公表基準については,各役所により扱いがことなります。

例えば東京都の場合ですと,上記の懲戒処分の指針の第7「職員の懲戒処分の公表基準」中で,以下のように定められています。

1 公表基準

(1) 地方公務員法に基づく懲戒処分(免職、停職、減給又は戒告)

(2) 管理監督者の職にある者の非違行為に対して、懲戒処分と併せて行った分限降任処分

(3) 上記(1)又は(2)以外で、特に都民の関心の大きい事案又は社会に及ぼす影響の著しい事案

2 公表の例外

被害者又はその関係者のプライバシー等の権利利益を侵害するおそれがある場合等においては、公表内容の一部又は全部を公表しないことができる。

3 公表する内容

個人が識別されないことを基本として、原則以下のとおりとする。

(1) 発生年月日

(2) 職層

(3) 所属局名

(4) 年齢及び性別

(5) 事件概要

(6) 処分内容

(7) 処分年月日

ただし、免職を行った場合、又は争議行為等、社会に及ぼす影響が大きい事案は、所属、職名及び氏名等の個人情報を公表する場合がある。

上の基準からすると,懲戒免職以外の処分の場合には,原則として,個人が識別されないことを基本として,職層や所属局名,事件概要等を公表するとされています。

もっとも,所属部局によっては,職層や年齢,性別から,結果として個人が識別されるような発表となってしまうケースは多いと言えます。

一方,公表基準の例外として,「被害者又はその関係者のプライバシー等の権利利益を侵害するおそれがある場合」等においては、公表内容の一部又は全部を公表しないことができるとの基準が存在します。具体的には,例えば本件のような盗撮事件において,その被害者が,事件の公表を希望していない場合等は,当該例外に該当する可能性が考えられます。

そうすると,本件でも,状況によっては,盗撮事件の被害者に対して改めて連絡を取った上で,懲戒処分の公表に関する意見を確認することが考えられます。もし,被害者において,懲戒処分の公表を希望しないのであれば,その旨の上申書を作成してもらうことで,懲戒処分の公表を回避することができる可能性もございます。

この点,刑事事件の示談において,被害者から懲戒処分に関しても同時に意見が確認できていれば簡単ですが,そのような意思確認をしていない場合,その連絡は慎重に進める必要があります。被害者としては,既に示談により刑事手続きは終結したとの認識でしょうから,追加で懲戒処分に関する意見を確認し,更なる負担をお願いするに際しては,追加での示談交渉として,示談金とは別の迷惑料をお支払いする必要があると言えます。

追加の連絡を行うことで,却って被害者の怒りを再燃させてしまう危険も存在します。詳細な追加での示談交渉の進め方については,経験のある弁護士に相談することをお勧め致します。

3 まとめ

懲戒免職処分は,生活の基盤の安定に係る重大な処分であり,また報道による社会生活への不利益も甚大なものがあります。早急に弁護士に相談するなどして,万全の状態で回避できるよう努めるべきでしょう。

以上です。

関連事例集

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参照条文

○地方公務員法

(懲戒)

第二十九条 職員が次の各号の一に該当する場合においては、これに対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。

一 この法律若しくは第五十七条に規定する特例を定めた法律又はこれに基く条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合

二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合

三 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合
≪参照判例≫

(福岡高裁平成18年11月9日判決判タ1251号192頁)

上記のとおり,免職処分は当該職員にとってこの上なく不利益な処分なのであるから,そのような処分をするに際しては,手続的にも適正手続を踏まえていることが不可欠の要請である。この点につき,原判決は,f県における市町村立学校の教職員の懲戒手続について,地方教育行政の組織及び運営に関する法律38条1項に定める市町村教育委員会の内申をまって,同法43条3項に基づき制定されたf県市町村立学校職員の分限及び懲戒に関する条例が準拠するところのf県職員の懲戒に関する条例に基づいてなされること,そこには被処分者の弁明についての規定は存在しないことを指摘した上で,「法令の規定上は告知・聴聞の手続を被処分者の権利として保障したものと解することはできず,告知・聴聞の手続きを取るか否かは処分をする行政庁の裁量に委ねられており,手続上不可欠のものとは認められない。ただし,懲戒処分の中でも懲戒免職処分は被処分者の実体上の権利に重大な不利益を及ぼすものであるから,懲戒免職処分に際し,被処分者に対して告知・聴聞の機会を与えることにより,処分の基礎となる事実の認定に影響を及ぼし,ひいては処分の内容に影響を及ぼす可能性があるときに限り,上記機会を与えないでした処分は違法となると解される。」としているが,にわかに首肯することができない。いやしくも,懲戒処分のような不利益処分,なかんずく免職処分をする場合には、適正手続の保障に十分意を用いるべきであって,中でもその中核である弁明の機会については例外なく保障することが必要であるものというべきである。

これを本件についてみるに,本件処分に先立ち,b校長,c教育長及びd教頭らが控訴人に対し,本件酒気帯び運転及び本件紛失について事情聴取を数度行っていることは認められるものの,これはあくまで処分をする側の必要からする事実調査の域を出ないものであって,控訴人に対して弁明の機会を付与したものとはいえない。また,そのほかに,控訴人に弁明の機会が与えられた形跡はない。

そうであれば,本件処分は,適正手続の保障という意味においても重大な問題を含んでいるものといわざるを得ない。