不当な解雇に対する対応

労働|解雇法理|労働契約法16条|東京地裁平成28年9月23日民事第19部判決

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文・判例

質問

私は,都内の中小企業(従業員20人程度)に勤務していましたが,先日,社長の方針について異議を唱えたところ不興を買ってしまい呼び出しを受け「君の勤務態度には問題がある。君とは一緒に働けない。本日付けで自主退職という形にするので辞めてもらう。」との通告を受けました。

私としては,自分の意見を述べただけで会社を辞めなければいけないことには納得できませんが,解雇が無効として復職しても満足に仕事を与えられないと思います。また,突然解雇されたショックでうつ病を発症してしまいました。そのため,退職は仕方ないにしても会社からは適切な金銭補償をしてもらいたいと考えています。会社との話し合いは,どのように進めたらよいでしょうか。労働審判という方法があると聞きましたが,私のケースでも使えるのでしょうか。

回答

1 会社からは自主退職にすると告げられたそうですが,あくまで会社が一方的に退職を決めており,法律上は「解雇」に該当します。法律上,会社による解雇は無制限に認められてはおらず,解雇が適法なものとして認められるためには,「客観的に合理的な理由」の存在が必要です。解雇処分を受けても,裁判所で決まったものでない限り,それが法律上有効なものかどうかは別問題です。

今回,社長から告げられた解雇理由は,労働契約法16条が定める「客観的に合理的な理由」とは認められない可能性が高く,解雇は法律上無効として扱われると見込まれます。解雇は法律上無効ですから、あなたは従業員としての地位を有しており、給与の支払いや、勤務を会社に請求できることになります。

2 解雇が無効である場合の対応は,大別して二つの方法があります。一つは

会社に対して復職を求める方法です。解雇が無効である以上,会社は,あなたを従業員として扱う必要があります。そのため,あなたが復職を希望すれば,それを認めた上で給与を支払わなければなりません。

一方,会社と紛争になってしまった以上,職場には居づらく復職は現実的ではないとの考えもあるでしょう。そのような場合には,会社から一定の金銭(いわゆる解決金)の支払いを受けることを条件に退職に応じるという方法もございます。

いずれの請求をするにしろ裁判所に労働審判の申し立てをすることが一般的です。労働審判で不当な解雇と認められれば,裁判所があなたの希望により復職あるいは、退職を前提に適切な解決金の金額を認定し,会社に支払いを命じてくれます。

なお、うつ病を発症されたということですが、不当解雇によるうつ病ということであれば損害賠償、慰謝料請求権がみとめられますが、労働審判ではこの点の判断はできませんので民事裁判が必要になります。

3 一方,労働審判で認定される解決金の金額は実際の被害に比して十分な金額ではないことも多く,また金銭解決を前提として会社との交渉を進めたり,労働審判という簡便な方法を選択してしまうと,会社から足元を見られて解決金の金額を低く抑えられてしまう場合もあります。

そのような事態を避けるためには,原則どおり会社に復職を求めることで,交渉を優位に進められる場合もございます。会社としては,解雇したい社員を復職させなければならないことは大きな負担となりますので,相場以上の解決金を支払ってでも退職に応じてもらいたいという判断をすることも多いです。民事訴訟の提起を含めた復職を請求することによって,最初から金銭的解決をもちかけた場合に比して高額な金額提示を受けられることは多いです。そのため状況によっては,安易に労働審判を申し立てるのは控えたほうが良い場合もございます。

4 関連事例集参照。786番1764番

解説

1 解雇の要件

今回,あなたは会社からは自主退職にすると告げられたそうですが,あくまで会社が一方的に退職を決めただけですので自主退職に該当することはありません。会社と従業員の関係は労働契約であり、契約ですから解消するには解約が必要であり、解約が認められためには解約の合意か一方的な解約が有効と認められる必要があります。自主退職は、従業員が労働契約の解消を会社に申し出、その申し出を会社が了承した場合です。会社が一方的自主退職にするという申し出は、会社による労働契約の解約であり、法律上は「解雇」に該当します。

法律上,会社による解雇は,無制限に認められているものではありません。労働契約法16条では,「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定められています。これを,解雇権濫用の法理といいます。

具体的にどのような解雇理由であれば,合理的で社会通念上相当であると認められるかについては,明確な基準はありません。解雇は,その理由により,懲戒解雇,普通解雇,整理解雇などに分類されますが,本件のように,特段に会社の経営上の人員整理が理由ではなく,また懲戒事由となるような非行も認められない場合には,普通解雇として扱われます。

普通解雇が法的に有効なものとされるのは,労働契約の目的となる従業員の業務遂行が行われておらず,今後も期待できない場合(労働契約の債務不履行)や,その従業員を企業から排除しなければならない程度の支障が生じている場合などです。特に,就業規則などにより,具体的に労働契約の目的や解雇の条件などが特定されていて,その条件に該当したような場合には,解雇が認められやすいといえます。もっとも,解雇はあくまで最後の手段ですので,解雇が有効とされるためには,職場配置転換や,本人に対する注意を繰り返しても改善が見られない場合など,限られた場合です。

これを本件についてみると,解雇の理由となるような明確な事件はなく,特に繰り返し注意されたのに改善をしなかったという事情もありません。そのため,法律的には,今回の会社による解雇通告は,違法で無効なものと判断されます。なおより詳細な解雇の判断基準については,当事務所の事例集786,1764番などもご参照ください。

以下では,法律上解雇が無効と見込まれる可能性が高い場合に,あなたが取り得る対応について解説します。

2 解雇無効の場合の対応

⑴ 復職の請求

解雇が無効である以上,労働者の側からは,解雇前の状態への復帰,すなわち復職を求めることができます。会社としては,本来の労働契約に基づき,あなたを労働者として扱う必要がありますので,あなたが復職を希望すれば,それを認めた上で給与を支払わなければなりません。

仮に会社が復職を拒否した場合,あなたは,裁判所に対して,解雇が無効であることを前提に,労働契約上の地位があることの確認を求めることもできます。

仮に裁判所において解雇が無効であることが確認された場合は,たとえ働いていなくても解雇されてから実施に復職するまでの間の賃金の支払いも請求することができます。

⑵ 金銭的な解決

一方,会社との間で紛争が生じてしてしまった以上,職場には居づらく復職は現実的ではないとの考えもあるでしょう。そのような場合には,会社から一定の金銭(いわゆる解決金)の支払いを受けることを条件に退職に応じるという方法もございます。

退職に応じる場合,どの程度の解決金を請求できるか否かは,解雇にどの程度強い違法性があるか否か(明らかに解雇が違法であると認められるか)によって変わりますが,概ね賃金の3か月分~1年分程度の事例が多いといえます。

また,不法に解雇を受けたことに対して,精神的苦痛を受けたとして慰謝料を請求することも考えられます。もっとも,法律上は,解雇無効=会社に対して金銭を請求できる,という関係にあるものではありません。違法な解雇をされた場合に金銭的な請求(慰謝料)の請求するためには,解雇の強い違法性と,それによる損害を立証することが必要です。本件のような特段の理由が認められない解雇に対しては,数十万円の慰謝料が認められる場合はあります(東京地裁平成28年9月23日民事第19部判決など)。

3 請求の進め方

解雇の無効を会社側が認めない場合,最終的には裁判所に対して法的な手続きの申し立てを行うことになります。その方法としては,通常の民事訴訟のほかに,労働審判という方法もございます。

労働審判は,労働審判は裁判所内で行われる手続で,裁判官と2名の審判官が労働委員会として,個別の労働事件についての判断を行います。労働審判においては,事前に書面で証拠や主張を行うことができ,また,労働審判期日において直接口頭で必要な主張を行うことも可能です。

労働審判は,原則として3回以内の期日で審理を終えることとされており(労働審判法第15条第2項),通常の民事訴訟よりもスピーディーな解決を目指すことができます。そのため,速やかな解決が可能となる見込みが大きいことが大きなメリットです。

一方,出された審判について当事者のいずれかが異議が出された場合、訴訟手続に移行することになり、労働審判は失効します。また,実務上,労働審判では金銭的な解決を念頭において協議が進むことが多いため,復職を希望する場合にはあまり適さない手続きです。

また,交渉上の戦略として,労働審判=金銭的解決という実態上,会社から足元を見られて解決金の金額を低く抑えられてしまう場合もありますので,例え金銭的な解決を念頭においていたとしても,まずは復職を第一の請求として,民事訴訟を提起する意思を会社に示したほうが良い場合もあります。

すなわち,会社としては,労働者を復職させると,今後半終身的に賃金支払いの義務が生じる上に,問題がある(と考えられる)社員を復帰させるための職場環境の調整という課題も生じるため,復職だけは何としても拒否したいというのが本音です。そのため,労働者が復職を強く求めた場合には,通常の解決金の相場よりも高額な解決金の支払いに応じる場合があります。

これに対し,労働審判は,金銭的な解決が前提となるため,労働審判を申し立てた時点で,会社を「金銭的な解決の見込みが高い」と安心させてしまう場合があります。

以上のような関係から,安易に労働審判を前提に進めることは,危険な場合もあり,まずは復職を強く求めるところから交渉をスタートさせた方が,結果として有利な金銭的解決となる場合も多いところです。

会社に対してどのような主張をし,どの手続きを選択すべきかについては,経験のある弁護士に具体的な状況を相談した上で,慎重に検討するべきでしょう。一度弁護士に相談してみることをお勧め致します。

以上

関連事例集

※参照条文

労働契約法

(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

※参照判例
東京地裁平成28年9月23日民事第19部判決

(4)本件解雇の違法性及び損害について

ア 前記(2)の認定判断のとおり,本件解雇後の欠勤は,本件解雇前からの欠勤の延長であり,本件解雇による就労拒絶の結果とは認められないから,賃金相当の損害の発生を認めることはできない。

イ ただ,前記第2の2争いのない事実等(11)ないし(15),前記(1)カ,キ,サの認定事実を総合すれば,職業を奪う解雇の告知が労働者に相当な精神的衝撃を与えることは想像に難くないところ,既にうつ状態等で調子を崩していた原告にとって,本件解雇は,追い打ちになったと推認され,本件解雇を発端として原告と被告との紛争が顕在化・激化し,その間の信頼関係が損なわれ,本件解雇の撤回を経ても,円滑な職場復帰に向け,原告が不安を抱かざるを得ない状況になり,それがかねてからのうつ状態等に悪影響を与える可能性もあり,原告は相当の精神的苦痛を受けていることが認められる。本件解雇は,十分に客観的に合理的な理由を備えておらず,その経過も併せて,社会通念上相当なものとはいえないことも考慮すれば(前記(3)オ),本件解雇は,不法行為としても違法であり,精神的苦痛に対する損害賠償を認めるべきというべきである。

ウ なお,原告は,本件解雇を受けて,被告に出勤できなくなったことで,かえって被告に出勤することによる精神的負担に直面する必要がなくなって気分が楽になった面があることがうかがえないではないが(前記(1)カ),それは人間の複雑な感情の一面を示したものに過ぎず,本件解雇の精神的衝撃等による精神的苦痛の存在を否定するものとはいえない。

また,被告は,本件解雇を撤回しているが,事後に解雇を撤回したからといって,いったん成立した不法行為が消滅することはない。

エ その他本件口頭弁論に現れた事情に照らすと,原告の精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は金30万円と定めることが相当であり,これを請求するための弁護士費用は金3万円の範囲内で相当因果関係が認められるというべきである。