新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1801、2018/01/04 17:12 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

【行政、医道審議会、東京地方裁判所平成2年3月9日判決】

アートメイクと医師法違反


質問:私は,美容整形外科を中心に医業を行う医院を経営する医師です。この度私の妻が行った行為が医師法違反に該当するといわれ,私も警察から事情を聴きたいとのことで捜査の対象になっています。私の医院は,いわゆるアートメイク(針で皮膚に色素を注入して眉などを書く施術)施術も一部行なっていたのですが,人手が足りず,また私の妻がこのような美容関係に詳しかったことから,つい医師資格のない妻に施術をやらせてしまったのです。そうしたところ,顧客のうちの1名から目の腫れや痛みの症状が出てしまい,その人が警察に申告したようなのです。今後,私はどうなってしまうのでしょうか。また,刑事処分の他に医道審議会というところで医師資格の行政処分を受けると聞きましたが,その点も伺いたいと思います。



回答:
1 アートメイクとは人の皮膚に針を用いて色素を注入する行為であり,人の皮膚組織の損傷を伴うものです。したがって,人の身体に具体的な危険を及ぼす可能性のある行為として医師法における「医行為」に該当するとされ医師法違反となります。さらに,被害者が目の腫れなどの生理的機能を害されていますので,業務上過失傷害といった犯罪も成立する可能性があります。あなたの妻が行った行為ではありますが,実際には共謀によるものとして,あなたと奥様に共同正犯が成立する可能性が高いといえます。刑罰の内容としては5年以下の懲役か100万円以下の罰金刑になります。
  また,本件のような犯罪類型については施術に使用した器具などの破棄などの可能性もありますので,逮捕による身体拘束の可能性が否定できません。
2 さらに本件で刑罰を受けた場合,医道審議会における行政処分を受けることとなります。本件の違反の程度に関し施術の人数が極めて多いなど悪質な事情があったり,刑罰が重い内容であるといった場合には,3月から1年程度の医業停止処分を受ける可能性が高いといえます。
3 以上の不利益を回避するためには,まず,警察に対して逮捕などの身体拘束や報道を回避する交渉を行うとともに,被害者への謝罪及び示談交渉を希望している旨伝え,その情報の開示を得ることが必要です。被害者のいる犯罪類型においては示談が成立したか否かが最終的な刑事処分の内容を決めるに際して最も重要になります。
  さらに,送検後は検察官との交渉も重要です。本件で実害が大きくないことや本人の反省の程度,被害者との示談の成立といった,様々な有利な事情を詳細に主張していくことが必要となります。仮に検察官が弁護人の主張を受け入れ,不起訴処分(起訴猶予処分)とした場合には,前科や医道審議会における行政処分を回避することができます。
  このように,今後想定される不利益としては甚大なものがありますので,お困りの場合には刑事処分及び行政処分に精通した弁護士への相談をお勧めします。
4 その他,医師法違反に関する事例集としては,その他1084番1038番1666番などを参照してください。

解説:

第1 アートメイクと医師法違反について

 1 アートメイクと医師法違反

 (1)アートメイクとは

 まずは,アートメイクの概要について検討していきます。アートメイクとは,「人の皮膚に針を用いて色素を注入することにより、化粧をしなくても眉・唇等の色合いを美しく見せようとする施術」と定義されることがあります。名称としては,他にも入れ墨メイクや永久メイクなどさまざまな呼び方がありますが,一種の入れ墨とされています。近年の施術としては,皮膚にごく浅く色を入れることで自然に見え,また数年たつと薄くなるようにしてあるものが主流となっているようです。アートメイクは近年消費者センターにも苦情が多数報告されているところです。具体的には,下記HPを参照してください。

<参考HP>独立行政法人国民生活センター
http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20111027_1.pdf

 (2)アートメイクと医師法違反

ア 消費者生活センターでも問題視されているように,アートメイクは人の皮膚に針等で色素を入れるものであり,危険性の高い行為とされています。

  上記HPのとおり,日本では医師免許を有しない者が、アートメイクを業として行えば医師法違反にあたるとされています(平成 13 年 11 月 8 日医政医発第 105 号)。

  この点について,アートメイク類似行為を行った無資格者が医師法違反で起訴された,東京地方裁判所平成2年3月9日判決が参考になります。

  まず,同判例は医師法における医業について,次のような解釈を示しました。「医師法にいう医業とは、反復継続して医行為を行うことであり、医行為とは、医師の医学的知識及び技能をもって行うのでなければ人体に危険を生ずるおそれのある行為」を指すとしています。

イ その上で,具体的に被告人の行為が医師法違反に該当するかについては,次のとおりの判断がされています。

「これを行う者の主観的目的が医療であるか否かを問わないものと解されるところ、本件行為は、針で皮膚を刺すことにより、前記のように皮膚組織に損傷を与えて出血させるだけでなく、医学的知識が十分でない者がする場合には、化膿菌、ウイルス等に感染して肝炎等の疾病に罹患する危険があり、また、色素を皮膚内に注入することによっても、色素自体の成分を原因物質とするアレルギーなどの危険があるとともに、色素内に存在する嫌気性細菌等に感染する危険があることが認められ、さらには、多数回皮膚に連続的刺激を与えて傷つけることによりその真皮内に類上皮肉芽腫という病変を生ずることも指摘されていることが認められるのであって、本件行為が医師ではない者がすることによって、人体に対して右のような具体的危険を及ぼすことは明らかである。」

 すなわち,アートメイクは針で皮膚を指すことによって皮膚組織に損傷を加えるものですから,身体内への侵襲を伴うことを当然の前提としており,人体に具体的危険が及ぶことは明らかですから,医師法における「医業」に該当するものとされました。

 本件でも,あなたの奥様がされたアートメイクは,医師法違反に該当する可能性があります。

(3)共犯及びその他成立する犯罪

ア また,あなたの奥様は単独犯ではなく,あなたと奥様二人の医師法違反の共犯とされる可能性が高いです。あなたが経営する医院において病院における器具を使用して行ったものであり,事前にアートメイク施術を行うことは了解していたこと,アートメイクによって上げた売り上げについては病院(院長であるあなた)が得ていることから,今回の医師法違反については,共同正犯(刑法60条)として処罰の対象になる可能性が高いと言えます。

イ さらに,今回顧客の一人はあなたの妻が行ったアートメイク施術によって,目の腫れといった症状が出ているのですから,人の身体的生理的機能に障害を加えたものとして,業務上過失傷害罪(刑法211条前段)が成立する可能性が高いといえます。

 3 刑事処分と行政処分

 (1)刑事処分

  あなたには,以上の犯罪が成立する可能性があります。このうち,医師法違反は3年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金,業務上過失傷害罪の場合には5年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金刑に処せられることとなります。

  さらに,このようなアートメイク施術は営利目的で大規模にされることが多く,施術に使用した器具を破棄して証拠隠滅を図ったりする可能性も認められることから,逮捕による身体拘束を受ける可能性も高いといえます。実際に,無資格者と共謀してこのようなアートメイク施術をした医師が逮捕されたという報道が散見されるところで,社会的にも注目を浴びています。

 (2)行政処分

  あなたが受ける不利益は,刑事上の処分にとどまりません。刑事事件において何らかの刑事罰(罰金刑,懲役刑)を受けた場合には,医道審議会において,戒告,3年以下の医業停止,免許取消といった行政処分を受けることになります(医師法7条2項)。
  そして,行政処分の軽重については,基本的に事案の性質・罪名や刑事事件における量刑の軽重によるところとされています。
  医師法違反の場合,有資格者である医師が無資格者と共謀して医業を行ったということで,特に医師として非難されるべき程度は高いものとされ,行政処分としては比較的重いものになる可能性があります。

  これまでの行政処分の統計をみると,医業停止3月から1年程度が多いところです。このような長期の医業停止を受けることは,特に開業医にとっては経済的に見ても大打撃を被ることは想像に難くありません。

第2 具体的な弁護方法

1 警察との交渉

 (1)身体拘束などの不利益の回避交渉

  このように,あなたには医師法及び業務上過失傷害罪の共同正犯として処罰されうる地位にあります。次に,具体的な今後行うべき活動(弁護活動)について検討していきます。

  本件は,まだ警察段階で送検(検察官送致)はされていませんので,警察署との交渉が必要になります。

  上に述べたとおり,アートメイクは社会的にも注目を浴びているところであり,また,上に述べたように証拠隠滅を図りやすい類型と判断される可能性が高いといえます。

  さらに罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれありとして,裁判所に逮捕状を請求し,逮捕の上で捜査をされてしまう可能性もあります。また,捜査機関から報道機関への連絡により,本件が報道され更なる被害が生じる可能性も否定できません。

  したがって,まずは警察に弁護人を通じて交渉を行い,あなたに証拠隠滅や逃亡の可能性がないことをしっかりと理解してもらうことが必要です。具体的には,家族や弁護人の身元引受や,逮捕の必要性がないことの意見書を警察に提出し,説得的な主張を行うことが必要となります。

(2)示談交渉の必要性

  また,本件は業務上過失傷害の成立の可能性があり,被害者が存在する犯罪類型です。

  後述のとおり,本件について最終的な刑事処分の内容を決めるのは検察官ですが,早期に被害者との示談交渉を行い,示談が成立したことは極めて有利な事情となります。したがって,警察に対して,あなたが深く反省していること,被害者に対して謝罪を行いたい旨,また,本件で被った時間的コストや精神的苦痛などの慰謝料その他治療費等の実費などの被害弁償を行いたい旨を告げておく必要があります。また、警察に相談している被害者が不明な場合は警察に被害者情報を開示してもらうよう交渉を行う必要があります。なお,示談交渉は直接当事者間で行うのは望ましくありませんので,このような示談交渉に精通した弁護士を通じて行うことをお勧めします。

  示談交渉においては,被害者の被害感情に配慮しながら謝罪を行い,示談の成立を目指していくことになります。謝罪に際しては,二度と被害者に接近しない旨の不接近誓約書などを差し入れることも検討すべきでしょう。

2 検察との交渉

   警察において所定の捜査が終わった後は,検察に事件が送致され(送検,検察官送致),検察官による所定の捜査・取調べの上で最終的な刑事処分が下されることとなります。

   検察官は最終的な処分内容を決める権限がありますので,弁護人を通じて不起訴処分(起訴猶予処分)を獲得できるように交渉を行っていく必要があります。本件について不起訴処分として終えることができれば,医道審議会の処分対象にそもそもなることはありません。

   検察との交渉においては,詳細な意見書を提出したうえで(実害が生じていないこと,本人の反省の意思,家族等の厳格な指導監督,示談が成立しており被害者が一切の処罰を望んでいない),検察官と直接面談を行い,本件では不起訴処分が相当である旨述べていく必要があります。

   被害者との示談交渉に加えて,贖罪寄付(被害者のいない犯罪類型において,社会に対する反省の意思を示すための寄付)を行うことも検討した方が良いでしょう。医師法は,「医療及び保健指導を掌ることによつて公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保」(医師法1条)するための法律であり,社会一般の利益を守る犯罪類型(社会的法益に対する罪)ですので,被害者との示談交渉だけでは被害の回復には不十分ですので贖罪寄付も有効である場合があります。

3 結論

   以上の交渉の末,不起訴処分を得ることができれば,あなたには前科はつきませんし,医道審議会における行政処分という重大な不利益を回避することができます。お困りの場合には,行政処分にも精通した弁護士に相談されることをお勧めします。

以上


<参照条文>
医師法
  第四章 業務
第七条  医師が、第三条に該当するときは、厚生労働大臣は、その免許を取り消す。
2  医師が第四条各号のいずれかに該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあつたときは、厚生労働大臣は、次に掲げる処分をすることができる。
一  戒告
二  三年以内の医業の停止
三  免許の取消し
3  前二項の規定による取消処分を受けた者(第四条第三号若しくは第四号に該当し、又は医師としての品位を損するような行為のあつた者として前項の規定による取消処分を受けた者にあつては、その処分の日から起算して五年を経過しない者を除く。)であつても、その者がその取消しの理由となつた事項に該当しなくなつたとき、その他その後の事情により再び免許を与えるのが適当であると認められるに至つたときは、再免許を与えることができる。この場合においては、第六条第一項及び第二項の規定を準用する。
4  厚生労働大臣は、前三項に規定する処分をなすに当つては、あらかじめ、医道審議会の意見を聴かなければならない。
5  厚生労働大臣は、第一項又は第二項の規定による免許の取消処分をしようとするときは、都道府県知事に対し、当該処分に係る者に対する意見の聴取を行うことを求め、当該意見の聴取をもつて、厚生労働大臣による聴聞に代えることができる。
6  行政手続法 (平成五年法律第八十八号)第三章第二節 (第二十五条、第二十六条及び第二十八条を除く。)の規定は、都道府県知事が前項の規定により意見の聴取を行う場合について準用する。この場合において、同節 中「聴聞」とあるのは「意見の聴取」と、同法第十五条第一項 中「行政庁」とあるのは「都道府県知事」と、同条第三項 (同法第二十二条第三項 において準用する場合を含む。)中「行政庁は」とあるのは「都道府県知事は」と、「当該行政庁が」とあるのは「当該都道府県知事が」と、「当該行政庁の」とあるのは「当該都道府県の」と、同法第十六条第四項 並びに第十八条第一項 及び第三項 中「行政庁」とあるのは「都道府県知事」と、同法第十九条第一項 中「行政庁が指名する職員その他政令で定める者」とあるのは「都道府県知事が指名する職員」と、同法第二十条第一項 、第二項及び第四項中「行政庁」とあるのは「都道府県」と、同条第六項 及び同法第二十四条第三項 中「行政庁」とあるのは「都道府県知事」と読み替えるものとする。
7  厚生労働大臣は、都道府県知事から当該処分の原因となる事実を証する書類その他意見の聴取を行う上で必要となる書類を求められた場合には、速やかにそれらを当該都道府県知事あて送付しなければならない。
8  都道府県知事は、第五項の規定により意見の聴取を行う場合において、第六項において読み替えて準用する行政手続法第二十四条第三項 の規定により同条第一項 の調書及び同条第三項 の報告書の提出を受けたときは、これらを保存するとともに、当該調書及び報告書の写しを厚生労働大臣に提出しなければならない。この場合において、当該処分の決定についての意見があるときは、当該写しのほか当該意見を記載した意見書を提出しなければならない。
9  厚生労働大臣は、意見の聴取の終結後に生じた事情に鑑み必要があると認めるときは、都道府県知事に対し、前項前段の規定により提出された調書及び報告書の写し並びに同項後段の規定により提出された意見書を返戻して主宰者に意見の聴取の再開を命ずるよう求めることができる。行政手続法第二十二条第二項 本文及び第三項 の規定は、この場合について準用する。
10  厚生労働大臣は、当該処分の決定をするときは、第八項の規定により提出された意見書並びに調書及び報告書の写しの内容を十分参酌してこれをしなければならない。
11  厚生労働大臣は、第二項の規定による医業の停止の命令をしようとするときは、都道府県知事に対し、当該処分に係る者に対する弁明の聴取を行うことを求め、当該弁明の聴取をもつて、厚生労働大臣による弁明の機会の付与に代えることができる。
12  前項の規定により弁明の聴取を行う場合において、都道府県知事は、弁明の聴取を行うべき日時までに相当な期間をおいて、当該処分に係る者に対し、次に掲げる事項を書面により通知しなければならない。
一  第二項の規定を根拠として当該処分をしようとする旨及びその内容
二  当該処分の原因となる事実
三  弁明の聴取の日時及び場所
13  厚生労働大臣は、第十一項に規定する場合のほか、厚生労働大臣による弁明の機会の付与に代えて、医道審議会の委員に、当該処分に係る者に対する弁明の聴取を行わせることができる。この場合においては、前項中「前項」とあるのは「次項」と、「都道府県知事」とあるのは「厚生労働大臣」と読み替えて、同項の規定を適用する。
14  第十二項(前項後段の規定により読み替えて適用する場合を含む。)の通知を受けた者は、代理人を出頭させ、かつ、証拠書類又は証拠物を提出することができる。
15  都道府県知事又は医道審議会の委員は、第十一項又は第十三項前段の規定により弁明の聴取を行つたときは、聴取書を作り、これを保存するとともに、報告書を作成し、厚生労働大臣に提出しなければならない。この場合において、当該処分の決定についての意見があるときは、当該意見を報告書に記載しなければならない。
16  厚生労働大臣は、第五項又は第十一項の規定により都道府県知事が意見の聴取又は弁明の聴取を行う場合においては、都道府県知事に対し、あらかじめ、次に掲げる事項を通知しなければならない。
一  当該処分に係る者の氏名及び住所
二  当該処分の内容及び根拠となる条項
三  当該処分の原因となる事実
17  第五項の規定により意見の聴取を行う場合における第六項において読み替えて準用する行政手続法第十五条第一項 の通知又は第十一項 の規定により弁明の聴取を行う場合における第十二項 の通知は、それぞれ、前項の規定により通知された内容に基づいたものでなければならない。
18  第五項若しくは第十一項の規定により都道府県知事が意見の聴取若しくは弁明の聴取を行う場合又は第十三項前段の規定により医道審議会の委員が弁明の聴取を行う場合における当該処分については、行政手続法第三章 (第十二条及び第十四条を除く。)の規定は、適用しない。
第十七条  医師でなければ、医業をなしてはならない。

第三十一条  次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一  第十七条の規定に違反した者
二  虚偽又は不正の事実に基づいて医師免許を受けた者
2  前項第一号の罪を犯した者が、医師又はこれに類似した名称を用いたものであるときは、三年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。


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