新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1759、2017/07/24 13:11 https://www.shinginza.com/saikaihatsu.htm

【民事、都市再開発、デベロッパーの全員同意型権利変換の提案とこれに対する対応策】

全員同意型権利変換の提案



質問:

駅前で土地建物を所有して店舗を経営していますが、このたび再開発の話が持ち上がり、再開発の勉強会が組織され、勧誘を受けました。コーディネーターをしている不動産デベロッパー業者の担当者から、「今回は全員同意型権利変換手続を選択して頂ければ建設費無料で100%の権利床を実現できる」という提案を受けました。建て替え期間中の賃料相当額の補助も出るそうですが、組合設立前の全員事前退去が必要ということです。これはどういう意味でしょうか。応じるべきでしょうか。



回答:

1、デベロッパーから全員同意型権利変換手続についての提案があっということですので、まず権利変換手続きについての理解が必要になります。第一種市街地再開発事業における権利変換手続とは、都市再開発法で規定された第一種市街地再開発事業において、地権者の集まりである市街地再開発組合が法令の条件に従って申請することにより、当該区域内の土地建物の権利が権利変換期日に全て消滅し、土地所有権が施行者である再開発組合に帰属し、建て替え後の新しい敷地と建物について、従前の権利者の権利が割り当てられる手続です。再開発事業の中核となる手続きと言えます。

2、権利変換には3種類の方式があります。従来の土地が合筆され、それまでの土地所有者の共有となり、その土地上に新しい建物の所有者の地上権が設定される原則型(都市再開発法75条型)と、土地を新しい建物所有者の共有とし、地上権を設定しない地上権非設定型(都市再開発法111条型)、上記の方法にこだわらず、地域の特性に応じて権利形態を定めることができる全員同意型(都市再開発法110条型)です。

3、今回デベロッパー業者が提案してきているのは、都市再開発法110条に規定された全員同意型手続きであり、これは再開発施行区域内の土地建物に権利を有する全ての者が同意することにより、都市再開発法に定められた種々の規制を適用除外させることができる手続きで、開発事業のうち50%以上で採用されている方式です。最も重要な適用除外条文は、都市再開発法77条2項です。全員同意型権利変換手続きにおいては等価原則が適用されないことになります。

4、全員同意型権利変換は、都市再開発法の様々な規制を受けないとしても、権利者全員が同意しているのですから問題無いともいえますが、ご相談者様のように都市再開発法の手続きが良く分からないとお考えの組合員が、参加組合員の提案に乗って安易に同意してしまうことは、権利者間の公平性の観点から大きな懸念があります。

 「建設費無料で100%以上の権利床」という提案が来ているようですが、本来であればもっと条件の良い再開発手続きができた可能性もあります。参加組合員の利益が過度に大きくなっている可能性もあります。全員同意型権利変換手続きを利用する場合は、どのような事業計画になっているのか精査する必要があります。ご心配であれば同意する前に、都市再開発法に詳しい法律事務所に御相談なさると良いでしょう。

5、関連事例集1756番1720番1705番1702番1701番1684番1678番1649番1513番1512番1490番1455番1448番参照。

解説:

1、権利変換とは

都市再開発法における権利変換とは、都市再開発法の第一種市街地再開発事業において、地権者の集まりである市街地再開発組合が法令の条件に従って申請することにより、権利変換期日に当該区域内の土地建物の権利が全て消滅し、土地所有権が施行者である再開発組合に帰属し、建て替え後の新しい敷地と建物について、従前の権利者の権利が割り当てられる手続です。

権利変換は、組合が定めた権利変換計画を都道府県知事や国土交通大臣が認可した場合に、権利変換期日に次の(1)〜(4)の効力が生じるものです。建物は一旦組合に権利が移行しますが、建物除却(取り壊し)及び再建築を経て、新しい建物の権利は、権利変換計画に定められた者が新たに取得することができます(都市再開発法73条1項2号)。

(1)施行区域内の土地は、権利変換計画の定めるところに従い、新たに所有者となるべき者に帰属する(都市再開発法87条1項前段)。
(2)従前の土地を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する(都市再開発法87条1項後段)。
(3)施行地区内の土地に権原に基づき建築物を所有する者の当該建築物は、施行者(組合)に帰属する(都市再開発法87条2項前段)。
(4)当該建築物を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する(都市再開発法87条2項後段)。


権利変換計画の内容を定めた、都市再開発法73条1項を引用します。

都市再開発法第73条(権利変換計画の内容)
第1項 権利変換計画においては、国土交通省令で定めるところにより、次に掲げる事項を定めなければならない。
一号 配置設計
二号 施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)若しくはその借地権又は施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に権原に基づき建築物を有する者で、当該権利に対応して、施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等を与えられることとなるものの氏名又は名称及び住所
三号 前号に掲げる者が施行地区内に有する同号の宅地、借地権又は建築物及びそれらの価額
四号 第二号に掲げる者に前号に掲げる宅地、借地権又は建築物に対応して与えられることとなる施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等の明細及びそれらの価額の概算額
五号 第三号に掲げる宅地、借地権又は建築物について先取特権、質権若しくは抵当権の登記、仮登記、買戻しの特約その他権利の消滅に関する事項の定めの登記又は処分の制限の登記(以下「担保権等の登記」と総称する。)に係る権利を有する者の氏名又は名称及び住所並びにその権利
六号 前号に掲げる者が施設建築敷地若しくはその共有持分又は施設建築物の一部等に関する権利の上に有することとなる権利
七号 指定宅地又はその使用収益権を有する者の氏名又は名称及び住所
八号 前号に掲げる者が有する指定宅地又はその使用収益権及びそれらの価額
九号 第七号に掲げる者に前号に掲げる指定宅地又はその使用収益権に対応して与えられることとなる個別利用区内の宅地又はその使用収益権の明細及びそれらの価額の概算額
十号 第八号に掲げる指定宅地又はその使用収益権について担保権等の登記に係る権利を有する者の氏名又は名称及び住所並びにその権利
十一号 前号に掲げる者が個別利用区内の宅地又はその使用収益権の上に有することとなる権利
十二号 施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に存する建築物について借家権を有する者(その者が更に借家権を設定しているときは、その借家権の設定を受けた者)で、当該権利に対応して、施設建築物の一部について借家権を与えられることとなるものの氏名又は名称及び住所
十三号 前号に掲げる者に借家権が与えられることとなる施設建築物の一部
十四号 施設建築敷地の地代の概算額及び地代以外の借地条件の概要
十五号 施行者が施設建築物の一部を賃貸しする場合における標準家賃の概算額及び家賃以外の借家条件の概要
十六号 第七十九条第三項の規定が適用されることとなる者の氏名又は名称及び住所並びにこれらの者が施行地区内に有する宅地、借地権又は建築物及びそれらの価額
十七号 施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)若しくはこれに存する建築物又はこれらに関する権利を有する者で、この法律の規定により、権利変換期日において当該権利を失い、かつ、当該権利に対応して、施設建築敷地若しくはその共有持分、施設建築物の一部等又は施設建築物の一部についての借家権を与えられないものの氏名又は名称及び住所、失われる宅地若しくは建築物又は権利並びにそれらの価額
十八号 組合の参加組合員に与えられることとなる施設建築物の一部等の明細並びにその参加組合員の氏名又は名称及び住所
十九号 第五十条の三第一項第五号又は第五十二条第二項第五号(第五十八条第三項において準用する場合を含む。)に規定する特定事業参加者(以下単に「特定事業参加者」という。)に与えられることとなる施設建築物の一部等の明細並びにその特定事業参加者の氏名又は名称及び住所
二十号 第四号、第九号及び前二号に掲げるもののほか、施設建築敷地又はその共有持分、施設建築物の一部等及び個別利用区内の宅地の明細、それらの帰属並びにそれらの管理処分の方法
二十一号 新たな公共施設の用に供する土地の帰属に関する事項
二十二号 権利変換期日、土地の明渡しの予定時期、個別利用区内の宅地の整備工事の完了の予定時期及び施設建築物の建築工事の完了の予定時期
二十三号 その他国土交通省令で定める事項


通常、従来あった建物を解体して新しい建物を建築する場合、建物の除却や借家権の解除などの立退きの問題は、ひとつひとつの権利者について個別に同意を得て権利消滅の法律効果を発生させていく必要がありますが、権利変換手続を用いることにより、再開発施行区域内の権利関係を一度に処理することができ、建物の建て替えがスムーズに進むというメリットがあります。

「所有権絶対の原則」からすれば、土地や建物を所有する所有権者は、自分の土地建物をどのように利用しようとも自由(憲法29条1項、民法206条)であるのが原則ですが、特に都市部・市街地の密集地域においては、大規模都市災害に備えて防災機能を高める必要から不燃建物の比率を上げる必要がありますし、道路区画も避難等に備えて整備する必要があります。また、国民経済の発展のため商業機能を高めるには建物の高層化が必須であり、所有権者だからといって、駅前に木造2階建ての店舗を永久に存続させることは、公共の福祉の観点から許容されないことになります。都市再開発法の権利変換手続きにより、都市部の再開発促進区域においては、個別の同意を経なくても、建物の建て替えが進行してゆくことになります。

日本国憲法29条1項 財産権は、これを侵してはならない。
民法206条 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。


2、権利変換の方式(3種類の方式)

権利変換には3種類の方式があります。原則型(都市再開発法75条型)と、地上権非設定型(都市再開発法111条型)、全員同意型(都市再開発法110条型)です。

(1)原則型

原則型は、従来の土地が合筆され共有土地となり、その上に地上権が設定され従前の土地所有者が取得する新しい建物の権利者に地上権が与えられる手続きです。原則型と言われますが、実際の開発事業では少ない形態と言われています。原則型では権利変換に際していくつかの条件が定められています。

(あ)建築物の敷地は一筆の土地として計画しなければならない(法75条1項)
(い)建築物の敷地には地上権が設定されなければならない(法75条2項)
   これは、従前敷地についての借地権者(土地の所有権を有していない権利者)が施行後の敷地について取得する権利は地上権の共有持分になることを意味します。
(う)施行地区内に宅地を有する者に対しては、施設建築敷地の所有権が与えられるように定めなければならない(法76条1項)
(え)施行地区内の宅地について借地権を有する者及び施行地区内の土地に権原に基づき建築物を所有する者に対しては、施設建築物の一部等が与えられるように定めなければならない。組合の定款により施設建築物の一部等が与えられるように定められた参加組合員又は特定事業参加者に対しても、同様とする。(法77条1項)


 原則型において、再開発区域内の土地建物に関する権利は次の通り変換されることになります。不動産デベロッパー事業会社など、再開発組合に手続のノウハウや資金を提供する参加組合員も権利変換手続の中で権利を取得することになります。

従前宅地所有権 → 新建物敷地所有権(法76条1項)
従前借地権者 → 新建物敷地地上権(法88条1項)
従前建物所有者 → 新建物所有権(地上権付き建物、法77条1項)
従前建物借家権者 → 新建物に関する借家権(法77条5項)
参加組合員 → 新建物所有権(地上権付き建物、法77条1項)


(2)地上権非設定型(111条型、市街地改造型)

地上権非設定型は、法75条2項の規定により権利変換計画を定めることが適当でないと認められる特別の事情があるとき、つまり、地上権を敷地権として設定することが適当でないと認められる特別の事情があるときに、地上権の設定をしない形で権利変換計画を定めることができるとされているものです(法111条)。この方式では、新しい建物の敷地利用権は所有権となりますので、従前の借地権付き建物所有者も、「敷地所有権付き区分建物」を取得することになります。

この権利変換方法は、都市再開発法の前に施行されていた市街地改造法で用いられていた方法であるため、市街地改造型とも呼ばれます。原則型と比較すると再建築後の建物所有者と土地所有者が一致していることから権利関係が簡素化され、地代が発生しない、更新の時期がないなど利点があるとされています。一般的な分譲マンションを見ても地上権付のマンションは人気がないことからも原則型が例外的なものであることが理解できるでしょう。


都市再開発法111条 施行者は、第七十五条第二項の規定により権利変換計画を定めることが適当でないと認められる特別の事情があるときは、同項の規定にかかわらず、施設建築敷地に地上権(第百九条の二第三項及び第百九条の三第三項に規定する地上権を除く。)が設定されないものとして権利変換計画を定めることができる。この場合においては、第七十六条、第七十七条第二項後段及び第三項並びに第八十八条第一項の規定は適用せず、次の表の上欄に掲げる規定の同表中欄に掲げる字句は、同表下欄に掲げる字句に読み替えて、これらの規定を適用する。(※次の表省略)

この「適当でないと認められる特別の事情」というのは、若干不明確ですが、一般には、地上権を設定することによる不都合が大きい場合として、地上権敷地権とすることで建物の市場価値が大幅に低下してしまう場合や、地上権が割り当てられることになる借地権者が僅少であり、敷地所有者と地上権者がほとんど一致してしまい自己地上権に近いものとなり不効率となってしまう場合や、組合員の大多数が地上権を設定することを希望していない場合などが該当するものと解釈されています。

 地上権非設定型において、再開発区域内の土地建物に関する権利は次の通り変換されることになります。不動産デベロッパー事業会社など、再開発組合に手続のノウハウや資金を提供する参加組合員も権利変換手続の中で権利を取得することになります。

従前宅地所有権 → 新建物敷地所有権(法76条1項)
従前借地権者 → 新建物敷地所有権(法111条)
従前建物所有者 → 新建物所有権(所有権付き建物、法77条1項)
従前建物借家権者 → 新建物に関する借家権(法77条5項)
参加組合員 → 新建物所有権(所有権付き建物、法77条1項)


(3)全員同意型(110条型、防災型)

全員同意型は、都市再開発法110条で、施行区域内に土地や建物に権利を有する者の全員が合意した場合に、種々の規制を緩和し、権利変換計画の内容を柔軟に定めることができるとする権利変換の方法です。

ここで、全員とは「土地調書及び物件調書並びに施行地区内の土地又は物件に関し権利を有する者及び参加組合員又は特定事業参加者のすべて(都市再開発法施行令26条5号)」を意味し、再開発施行区域内に土地・建物を有する全ての権利者であり、所有者に限らず、賃借人や抵当権者、地役権者、使用貸借権者(無償借用者)など一切の権利者を含むとされています。この手続きで権利変換計画の認可申請をするには権利者全員の同意を証する書面の添付が必要となるため、手続きを簡略化するために、組合設立前の全員事前退去という方法が採られることが多くなっています。

この権利変換方法は、都市再開発法の前に施行されていた防災建築街区造成法で用いられていた方法であるため、防災型とも呼ばれます。


都市再開発法110条(施行地区内の権利者等の全ての同意を得た場合の特則)
第1項 施行者は、権利変換期日に生ずべき権利の変動その他権利変換の内容につき、施行地区内の土地又は物件に関し権利を有する者及び参加組合員又は特定事業参加者の全ての同意を得たときは、第七十三条第二項から第四項まで、第七十五条から第七十七条まで、第七十七条の二第三項から第五項まで、第七十八条、第八十条、第八十一条、第百九条の二第二項後段、前条第二項後段及び第百十八条の三十二第一項の規定によらないで、権利変換計画を定めることができる。この場合においては、第八十三条、第九十九条の三第一項、第百二条、第百三条及び第百八条第一項の規定は、適用しない。


 全員同意型において、再開発区域内の土地建物に関する権利は次の通り変換されることになります。不動産デベロッパー事業会社など、再開発組合に手続のノウハウや資金を提供する参加組合員も権利変換手続の中で権利を取得することになります。

従前宅地所有権 → 自由に定め得る(法110条)
従前借地権者 → 自由に定め得る(法110条)
従前建物所有者 → 自由に定め得る(法110条)
従前建物借家権者 → 自由に定め得る(法110条)
参加組合員 → 自由に定め得る(法110条)


3、全員同意型権利変換手続き

この方式では、関係者全員の同意があることから、各権利者がどのような権利を取得することも組合決議により自由に定めることができるのですが、都市再開発法の手続であることに変わりはありませんので、権利者間の衡平原則(法74条2項)は適用されますので、各権利者の権利の価額に配慮した権利が権利変換により与えられるべき事になります。

他方で、法77条2項の均衡原則は適用除外されますので、権利変換の前後で権利の価値に多少の増減を生じることも認められています。原則型権利変換では、権利変換計画により与えられる権利は「それらの者が権利を有する施行地区内の土地又は建築物の位置、地積又は床面積、環境及び利用状況とそれらの者に与えられる施設建築物の一部の位置、床面積及び環境とを総合的に勘案して、それらの者の相互間に不均衡が生じないように、かつ、その価額と従前の価額との間に著しい差額が生じないように」定められますが、全員同意型では、この均衡原則が適用されませんので、一部不均衡な権利変換があっても差し支えないことになります。


参考条文(全員同意型手続きでも適用される)
都市再開発法74条2項(権利変換計画の決定の基準)権利変換計画は、関係権利者間の利害の衡平に十分の考慮を払つて定めなければならない。

参考条文(全員同意型手続きでは適用除外される)
法77条2項(均衡原則)
前項前段に規定する者に対して与えられる施設建築物の一部等は、それらの者が権利を有する施行地区内の土地又は建築物の位置、地積又は床面積、環境及び利用状況とそれらの者に与えられる施設建築物の一部の位置、床面積及び環境とを総合的に勘案して、それらの者の相互間に不均衡が生じないように、かつ、その価額と従前の価額との間に著しい差額が生じないように定めなければならない。この場合において、二以上の施設建築敷地があるときは、その施設建築物の一部は、特別の事情がない限り、それらの者の権利に係る土地の所有者に前条第一項及び第二項の規定により与えられることと定められる施設建築敷地に建築される施設建築物の一部としなければならない。


その他、全員同意型権利変換において適用除外される主な条文を列挙致します。

法73条4項(権利に争いがある場合)
「宅地又は建築物に関する権利に関して争いがある場合において、その権利の存否又は帰属が確定しないときは、当該権利が存するものとして、又は当該権利が現在の名義人に属するものとして権利変換計画を定めなければならない。」とする規定が適用されないので、争いがある場合でも権利変換計画を自由に定めることができます。

法77条の2第3項(照応原則)
再開発区域内の既存建物を流用・移築する個別利用区を定める場合に「指定宅地の相互の位置関係、地積、環境、利用状況その他の事情と当該指定宅地に対応して与えられることとなる個別利用区内の宅地の相互の位置関係、地積、環境、利用状況その他の事情ができる限り照応し、かつ、その価額と従前の価額との間に著しい差額が生じないように」定めなければならないとする、照応原則も適用されません。自由な配置設計をすることが出来ることになり、特定施設の観光ランドマーク機能を重視した柔軟な設計なども可能となります。

法80条1項(宅地等の価額の算定基準)
権利変換計画に定める従前の権利の評価は、原則型では、事業計画の公告があった日から30日を経過した日を基準日として「近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して」相当の価額が定められますが、この規定が適用されませんので、ある程度時価とのズレがある価額を定めることも可能です。

法83条(権利変換計画の縦覧等)
全員同意型権利変換手続きでは、権利変換計画の縦覧は不要であり、権利変換計画に対する意見書を提出することもできず、従って、価額について収用委員会に対する裁決申請をすることもできません。権利者全員の事前の同意があるためです。

法102条(借家条件の協議及び裁定)
「権利変換計画において施設建築物の一部等が与えられるように定められた者と当該施設建築物の一部について第七十七条第五項本文の規定により借家権が与えられるように定められた者は、家賃その他の借家条件について協議しなければならない。」「前項の規定による協議が成立しないときは、施行者は、当事者の一方又は双方の申立てにより、審査委員の過半数の同意を得、又は市街地再開発審査会の議決を経て、次に掲げる事項について裁定することができる。」とする規定が適用されないため、賃借人は権利変換計画に定められた家賃に対して異議を申し立てることができません。勿論、賃借人は全員同意手続きにおいて、家賃等も含めた計画全般について事前に同意しているので問題無いということになります。

法103条(施設建築物の一部等の価額等の確定)
「施行者は、第一種市街地再開発事業の工事が完了したときは、速やかに、当該事業に要した費用の額を確定するとともに、政令で定めるところにより、その確定した額及び第八十条第一項に規定する三十日の期間を経過した日における近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額を基準として、施設建築敷地若しくはその共有持分、施設建築物の一部等若しくは個別利用区内の宅地若しくはその使用収益権を取得した者又は施行者の所有する施設建築物の一部について第七十七条第五項ただし書の規定により借家権が与えられるように定められ、第八十八条第五項の規定により借家権を取得した者ごとに、施設建築敷地若しくはその共有持分、施設建築物の一部等若しくは個別利用区内の宅地若しくはその使用収益権の価額、施設建築敷地の地代の額又は施行者が賃貸しする施設建築物の一部の家賃の額を確定し、これらの者にその確定した額を通知しなければならない。」とする規定が適用されないため、組合は、確定工事額や各組合員の権利の価額や敷地地上権の地代額を通知する必要は無く、組合員は地代額について訴えにより異議を申し立てることもできません。

法108条1項(施行者が取得した施設建築物の一部等の管理処分)
「第一種市街地再開発事業により施行者が取得した施設建築物の一部等又は個別利用区内の宅地は、次に掲げる場合を除き、公募により賃貸し、又は譲渡しなければならない。」とする規定が除外されるため、たとえば再開発組合が取得した区分所有権を参加組合員が廉価で一括して譲り受けることも可能です。


このように、全員の同意があることにより驚くべき緩和措置となっています。権利変換計画を定めるにあたって、区域内の個別事情を重視して、多少の不均衡があっても、ある程度自由に権利変換計画を定め得るということになります。これは、区域の特殊性や個性を維持した特色ある再開発計画の施行を可能にする側面もありますが、参加組合員を含む一部組合員の権利が不当に増長し不均衡を生じてしまう危険も内包していると言えるでしょう。


4、デベロッパー業者の提案に対する対応

今回デベロッパー業者が提案してきているのは、110条型権利変換ですので、前述の通り権利変換計画の縦覧手続きや審査請求や裁決申請など、都市再開発法に定められた種々の救済措置が使えなくなってしまうことを良く認識する必要があります。デベロッパー業者が提案している条件が妥当なものかどうか、良く精査する必要があります。

まず、デベロッパーに対して、事業計画案の概要を提示するように求め、権利床と保留床の割合と、建設費や設計費用など、総事業費がどれくらいになるのか確認すると良いでしょう。また、保留床を売却した場合の収入見込みも概算し、権利床と保留床の比率が妥当なものかどうか検討する必要があります。

※参考URL、東京都総合設計許可要綱
http://www.toshiseibi.metro.tokyo.jp/topics/h28/pdf/topi011/topi011_1.pdf

 前提として、現在の建物の指定容積率と、実際の再開発計画の計画容積率は根本的に異なることを認識する必要があります。

 たとえば、都心居住型総合設計制度(建築基準法59条の2)では、都心居住を推進することを目的として、次のいずれにも該当する建築計画に適用する総合設計であれば、基準容積率の1.0倍または400%のいずれか低い数値を限度として容積率の割り増しをすることが可能となっています。つまり容積率が最高で2倍になる可能性があるのです。

ア 住宅の用途に供する部分の床面積の合計が計画建築物の延べ面積の3分の2以上となり、かつ、延べ面積の4分の3以上を住宅又は日常生活を支える施設(実施細目で定める施設をいう。以下同じ。)の用途に供する計画
イ 住宅戸数の3分の2以上が 55 平方メートル以上の専有面積を有する計画
ウ 住宅の専有面積が全て 40 平方メートル以上となる計画(サービス付き高齢者向け住宅等部分を除く。)
 実際の再開発手続きにおいては、都市計画審議会の決定を経て基準容積率そのものが変更されることもありますので、従前の指定容積率から比較すると、再開発の計画容積率が3〜4倍になっていることも珍しくありません。そのような場合に、建設費の負担が無いとしても、従前権利者の床面積が1倍になってしまうことは果たして妥当なのかどうか、良く検討する必要があります。

総事業費=建物除却費用+設計費用+再建築費用+97条損失補償等経費
    =組合負担金+保留床処分金(参加組合員負担金)+行政補助金

建築費や保留床処分金を検討した結果、権利床の比率が過少ではないかということになれば、参加組合員候補者との間で、権利床の比率を引き上げる交渉が必要となる場合もあります。ご心配であれば、再開発の手続きに精通した弁護士に御相談なさると良いでしょう。


※参考条文

都市再開発法第77条第2項 前項前段に規定する者に対して与えられる施設建築物の一部等は、それらの者が権利を有する施行地区内の土地又は建築物の位置、地積又は床面積、環境及び利用状況とそれらの者に与えられる施設建築物の一部の位置、床面積及び環境とを総合的に勘案して、それらの者の相互間に不均衡が生じないように、かつ、その価額と従前の価額との間に著しい差額が生じないように定めなければならない。この場合において、二以上の施設建築敷地があるときは、その施設建築物の一部は、特別の事情がない限り、それらの者の権利に係る土地の所有者に前条第一項及び第二項の規定により与えられることと定められる施設建築敷地に建築される施設建築物の一部としなければならない。

法77条の2第3項 指定宅地の所有者に対して与えられる個別利用区内の宅地は、それらの者が所有する指定宅地の相互の位置関係、地積、環境、利用状況その他の事情と当該指定宅地に対応して与えられることとなる個別利用区内の宅地の相互の位置関係、地積、環境、利用状況その他の事情ができる限り照応し、かつ、その価額と従前の価額との間に著しい差額が生じないように定めなければならない。

法第80条第1項 第七十三条第一項第三号、第八号、第十六号又は第十七号の価額は、第七十一条第一項又は第四項(同条第五項において読み替えて適用する場合を含む。)の規定による三十日の期間を経過した日における近傍類似の土地、近傍同種の建築物又は近傍類似の土地若しくは近傍同種の建築物に関する同種の権利の取引価格等を考慮して定める相当の価額とする。


都市再開発法施行規則第26条(権利変換計画又はその変更の認可申請手続)
法第七十二条第一項 後段の認可を申請しようとする施行者は権利変換計画に、同条第四項 において準用する同条第一項 後段の認可を申請しようとする施行者は権利変換計画のうち変更に係る事項に、次に掲げる書類を添付して、認可申請書とともに、これを都道府県又は機構等(市のみが設立した地方住宅供給公社を除く。)にあつては国土交通大臣に、個人施行者、組合、再開発会社、市町村又は市のみが設立した地方住宅供給公社にあつては都道府県知事に提出しなければならない。
六号  法第百十条 の規定により権利変換計画を定めようとするときは、法第六十八条第一項 の土地調書及び物件調書(以下この条において「土地調書等」という。)並びに施行地区内の土地又は物件に関し権利を有する者及び参加組合員又は特定事業参加者のすべての同意を得たことを証する書類


建築基準法
第五十九条の二(敷地内に広い空地を有する建築物の容積率等の特例)
第1項 その敷地内に政令で定める空地を有し、かつ、その敷地面積が政令で定める規模以上である建築物で、特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がなく、かつ、その建ぺい率、容積率及び各部分の高さについて総合的な配慮がなされていることにより市街地の環境の整備改善に資すると認めて許可したものの容積率又は各部分の高さは、その許可の範囲内において、第五十二条第一項から第九項まで、第五十五条第一項、第五十六条又は第五十七条の二第六項の規定による限度を超えるものとすることができる。
第2項 第四十四条第二項の規定は、前項の規定による許可をする場合に準用する。

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