No.1731|犯罪を犯してしまった時

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まつげエクステ店の美容師法違反事件|無許可営業に伴う罰則と対応

刑事|まつ毛エクステ店を無許可営業した場合の罰則、刑事処分の回避方法|美容師免許を持たない者がまつ毛エクステ店を営業していた事案|厚労省平成20年3月7日健衛発第0307001号の通達

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問

私は,自宅でお客さんの女性に対して,いわゆるまつ毛エクステンション(人口のまつ毛をお客様の目に1本ずつ接着剤で取りつける施術)のサロンを副業で行っています。お客さんからは料金をもらっていますが,材料費+多少の手間賃程度なので,年間の売り上げは200万円程度です。

今回,施術したお客さんから,「接着剤で目が炎症を起こした。警察に通報する。」とのクレームが来てしまいました。まつ毛エクステンションには,美容師の免許が必要なことは何となく知っていましたが,簡単な施術で料金も安いので問題無いと思って,営業をしてしまいました。

お客さんが警察に通報した場合,私は逮捕等されて処罰されてしまうのでしょうか。処罰を回避する為には,どのようにしたら良いでしょうか。

回答

1 まつ毛エクステンションの施術については,厚生労働省の通達により,美容師法上許可が必要な「美容」行為にあたるとの法解釈が示されております。その為,美容師の免許の無い方が,お金を取って施術を行っていた場合,例えそれが低額で規模の小さいものであっても,美容師法違反により処罰される可能性があります。近年,取締が強化されており,中には逮捕に至る事例もあります。

2 同法による処罰を回避する為には,自主的に営業を停止することはもちろんのこと,被害者となるお客さんとの間で,示談を行う必要があります。

3 本件のような業法違反については,詳細を把握している弁護士も少なく,対応が遅れてしまいがちです。それによって逮捕や前科等の大きな不利益を受けることが無いよう,迅速かつ適切な対応を取ることが重要です。その為,まずは専門家に適切な方策と対応を相談することをお勧め致します。

解説

第1 美容師法違反について

1 通達による解釈

まつ毛エクステンション(まつエク)は,数年前から,女性の間で人気の施術として良く行われております。そのメリットは,専用の接着剤(グルー)で人工のまつげを1本ずつ接着することで,1~2か月程度の間効果を持続できる為,つけまつ毛やマスカラのように毎日お化粧をする必要が無い点にあるようです。

一方で,まつ毛エクステについては,使用した接着剤が目に混入すること等によって「目が痛い」、「目が充血した」、「まぶたが腫れた、かぶれた」という健康被害が生じる例も見られており,その問題も指摘されております。施術に必要な道具も少なく(毛と接着剤のみ),一般の女性や主婦でも,手先が器用であればそれなりに施術ができてしまうことから,無資格者がアルバイト感覚で営業を行っている例も多いようです。

その為,厚生労働省は,平成20年に,まつ毛エクステを付ける施術は,「美容師法第2条第1項にいう『美容』に該当する。」との法解釈の発表を行いました。美容師法では,「美容」とは、「パーマネントウエーブ、結髪、化粧等の方法により、容姿を美しくすることをいう。」定められており,通常首から上の容姿を美しくすることと解されています。

そして,ここでいう「首から上の容姿を美しくする」ために用いられる方法は、美容技術の進歩や利用者の嗜好により様々に変化するため、個々の営業方法や施術の実態に照らして、それに該当するか否かを判断すべきであるとされてきましたが,従来の通達では,まつ毛のパーマについて(平成16年9月8日健衛発第0908001号厚生労働省健康局生活衛生課長通知)や、頭髪のエクステンション(つけ毛)(平成15年10月2日健衛発第1002001号厚生労働省健康局生活衛生課長回答)について,美容師法にいう美容に該当するとの通達が示されていました。

その上で,厚労省は,平成20年3月7日健衛発第0307001号の通達において,上記まつ毛に関する通達と,頭髪のエクステンションに関する通達を併せて考えれば,まつ毛エクステンションは美容師法に基づく「美容」に該当するものである,と示しています(【参照】まつ毛エクステンションによる危害防止の徹底について)。

この厚労省の解釈の妥当性について検討すると,美容師法の趣旨が,美容の業務が適正に行われるよう資格制によって規律し,公衆衛生の向上に資すること(同法1条)にあることからすれば,まつ毛エクステンションによって健康被害等が発生し規制の必要性が生じている現状等に鑑み,上記解釈は法の趣旨に適合するものと言えそうです。美容師の試験や研修を通じて、感染症等を防止するための器具の消毒や施術方法についての知識や技術の維持向上が図られているため、無免許施術が広がってしまうと公衆衛生が悪化してしまうおそれがあるのです。

一方で,まつ毛エクステンションは,通常の美容業と異なった特殊な施術が必要であるにも関わらず,美容師試験では特に同施術についての修得過程が存在しない為,同解釈では問題の解決になっておらず,この点は,別資格による立法上の解決等が議論されているところです。

もっとも,現在の実務上の運用は,上記通達による解釈で固まっており,捜査機関も,無資格でのまつ毛エクステンションの施術に対して,美容師法違反を適用しての取締を行っています。特に近年は,消費者に被害が急上昇していることや,インターネットや口コミサイト等で無資格者が気軽に顧客を募り易くなっていることから,警察の取り締まりも強化されています。余談ですが,上記美容師法違反の解釈の問題については,国会でも議論の対象となっており,理容師法も含めて業法の見直しや改正も求められています。

2 美容師法違反の罰則

美容師法6条では,「美容師でなければ、美容を業としてはならない。」と規定されており,それに違反した場合,同法違反により,30万円以下の罰金に処せられ るとされています。

加えて,実際に健康被害者生じている場合には,同法違反の他に,業務上過失傷害罪等が適用され,高額な罰金刑が科される事例も存在します。また,事例によっては,逮捕に至る例もあるようです。

3 本件での適用

上記解釈からすると,本件における相談者様も,形式的には美容師法違反となる可能性が高いといえます。

美容師の免許の無い方が,お金を取って施術を行っていた場合,例えそれが低額で規模の小さいものであっても,美容師法違反により処罰される可能性がありま す。

従属的に誰かの指示を受けて施術をしていた場合等は,検挙されずに不起訴処分となることも考えられますが,自ら営業を行っていて,現に利用者からの被害が届け出られるということになると,何の対応も取らなければ,処罰の対象となることは避け難いでしょう。

特に近年は,警察による同種事例の取締りが強化されており,中には逮捕等の身柄拘束に至る事例や,大きく報道されるような事例も存在しています。

第2 本件における対応について

1 被害者の示談の要否

それでは,本件で処罰を回避する為には,具体的にどのような方法をとる必要があるでしょうか。

まず,重要なのが,実際に被害を受けたお客さんとの間で示談を成立させることです。そもそも,本件のような事案が警察の捜査対象となる契機は,お客さんが警察に被害を届け出ることです。逆に言えば,お客さんとの間で先んじて示談を成立させて,被害届を提出することを防止すれば,警察による捜査の対象となる可能性は非常に低くなります。

よって,まずは被害者の方が警察等に相談に行く前に,迅速に示談交渉を成立させるよう努めることが必要です。

また,仮に被害届を提出された後であっても,お客さんとの間で示談が成立すれば,真摯な反省の態度が明らかであるとして,逮捕等の強制捜査を受けず,刑事手続として不起訴処分という結論になる可能性はあります。

この点,美容師法の保護法益との関係で,同法の目的が「美容の業務が適正に行われるように規律し、もつて公衆衛生の向上に資することを目的とする。」と規定されていることから,個人相手の示談は処罰の有無に影響を与えないという考え方の弁護士や検察官もおります。しかし,同法の目的の本質には,公衆衛生の背後にある一般個人の消費者の個々の利益を保護することが含まれていることは,疑いようがありません。また,実際に犯罪行為によって生じた被害結果の回復の有無は,処罰の是非にも当然に影響致します。

よって,仮に被害届を提出された後でも,速やかに被害者との間で示談を行い,検察官に対して説得的な主張を行えば,結論として不起訴処分なる可能性は十分に存在します。

示談においては,被害者に発生した通院交通費、治療費等の実費,通院のために仕事を休んだことによる損害の他に慰謝料的要素も加味した支払が必須となります。慰謝料の金額については、通院の期間によって異なりますが、最低でも10万円は必要になるでしょう。

2 その他の対応について

まず,本件の施術の営業は,当然直ちに停止するのは当然です。免許が無い限り,営業を継続することはできません。

また,上記美容師法の趣旨からすれば,保護法益には公共の利害が含まれている為,贖罪寄付を行うことも考えられます。

贖罪寄付とは,公の利益を害してしまった罪を償う為に,弁護士会等の公共の機関に対して,一定の寄付を行うことです。贖罪寄付を行うことによって,例えば 示談が成立していない場合でも,不起訴処分となる可能性が生じます。

もちろん,示談と併せて贖罪寄付を行えば,より不起訴処分となる可能性は高まります。これらの活動を行った上で,実際に処分を決める検察官と交渉すれば, 最終的に不起訴処分なることが大いに期待できます。

第3 まとめ

本件のような業法違反については,詳細を把握している弁護士も少なく,対応が遅れてしまいがちです。それによって逮捕による身体拘束や,事件の報道による実生活上の不利益,罰金による前科等の大きな不利益を受ける危険も存在します。

そのような不利益を回避する為には迅速かつ適切な対応を取ることが重要です。まずは専門家に適切な方策と対応を相談することをお勧め致します。

以上

関連事例集

  • その他の事例集は下記のサイト内検索で調べることができます。
参照条文

美容師法

(目的)
第一条 この法律は、美容師の資格を定めるとともに、美容の業務が適正に行われるように規律し、もつて公衆衛生の向上に資することを目的とする。

(定義)
第二条 この法律で「美容」とは、パーマネントウエーブ、結髪、化粧等の方法により、容姿を美しくすることをいう。
2 この法律で「美容師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて美容を業とする者をいう。 3 この法律で「美容所」とは、美容の業を行うために設けられた施設をいう。

(無免許営業の禁止)
第六条 美容師でなければ、美容を業としてはならない。

(罰則)
第十八条 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
一 第六条の規定に違反した者
二 第十一条の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者
三 第十二条の規定に違反して美容所を使用した者
四 第十四条第一項の規定による当該職員の検査を拒み、妨げ、又は忌避した者
五 第十五条の規定による美容所の閉鎖処分に違反した者