No.1716| 公務員の犯罪・懲戒免職・退職撤回問題

 

微罪処分と公務員の特殊性|自転車窃盗の事案

刑事|公務員が微罪処分に相当する犯罪を起こした場合の弁護活動|事件が「認知せず」として事件が処理される場合|懲戒処分の指針と対応

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問

数日前の飲み会の帰りに、歩いて帰宅するのが面倒になり、駐輪場に置かれている鍵のかかっていない自転車に乗って帰宅しようと自転車に乗っていたところ、警察官の方に見つかり、取り調べを受け、窃盗罪であるとして調書を取られました。

私は、このようなことをしてしまい、本当に反省しているので、被害者の方にきちんと謝罪をしたいと思っております。また、私に前科前歴はありません。

私は、刑事処分を受けるのが怖いのはもちろんのこと、公務員として勤務しているので、公務外非行として、懲戒処分を受けるのが怖いです。なんとかならないでしょうか。

回答

1 自転車の置き引きについては、占有離脱物横領罪(刑法254条)か、窃盗罪(235条)に該当します。自転車が何人かの占有下に置かれていると評価できる場合、占有離脱物横領罪(刑法254条)ではなく、窃盗罪(235条)に当たることになります。駐輪場に置かれている場合や、路上でも鍵がかけられている場合などは窃盗罪として検挙されることになります。

2 但し、初犯とのことですので、被害者の方との間で示談が成立し、自らの行為について真摯に反省することを検察官に理解してもらえれば不起訴処分になる可能性が高いと言えます。

一方で、公務員は、刑事事件を起こした場合、警察官や検察官から職場に連絡されるおそれが高いと言えます。しかし、本件は、自己使用目的の自転車の置き引きであり、犯行の悪質性が高くなく、示談も成立し、被害者の方から許しを得ている等、相談者に有利な事情を捜査機関に伝えた上、職場に連絡しないよう交渉することにより、公務員犯罪に関し通常行われている職場連絡を阻止できる場合があります。この点はのちの懲戒処分(仮に起訴猶予でも有罪である以上懲戒処分されるのが一般的です。)を考えると重要です。さらに、公務員は、いわゆる微罪処分として処理することができない運用がなされている場合が通常ですが、そのような場合であっても、捜査機関と交渉することによって、「認知せず」として事件が送検されずに警察段階で処理される場合もありえます。

3 いずれにせよ、被害者の方との示談は必須であり、被害者の方との示談は、事実上弁護人を付けなければ行うことができません。また、刑事処分だけでなく、職場連絡阻止も考慮して活動する必要があるため、経験のある弁護士にご相談ください。

4 公務員の犯罪に関連する事例集はこちらをご覧ください。

解説

1 刑事処分との関係

相談者の行為は、駐輪場に置いてある、自転車に乗って帰宅しようとしたということですから、自転車の所有者の占有している財物をを窃取したとして、窃盗罪に該当することになります。窃盗罪の法定刑は、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金ですが、相談者の場合、初犯であるとのことですので、基本的には罰金刑が選択される可能性が高いと言えます。

しかし罰金刑とは言え前科になりますから、一般社会人としてはこのような処分にならないようにすべきです。

相談者が本件を真摯に反省した上、被害者の方と示談が成立しており、被害者の方に被害届を取下げていただき、相談者に処罰を望まない旨の上申書を作成していただくことができれば、不起訴処分になる見込みは高いと言えるでしょう。

また、公務員でなければ、示談を早急に成立させたうえ、捜査機関にその旨報告することで、微罪処分となり、警察段階で事件が処理され、職場連絡を避けることができる見込みも高いと言えます(不起訴処分は、警察から事件が検察庁に送られ検察官の取り調べの後での処分です)。

したがって、刑事処分との関係においては、速やかに被害者の方に示談を申し入れ、示談を成立させることが極めて重要です。被害者の方は、一般に、被疑者(犯人)に直接面会することを嫌う方が多く、弁護人を通じて示談する必要性があると言えます。また、示談を成立させた場合においても、示談を成立させたことを適切に証する証拠類(示談書等)を作成しなければならず、その意味でも弁護人を付けることは必須であると言えます。

2 微罪処分と公務員の特殊性

微罪処分とは、警察官の段階で事件を終了させる特別な処分のことをいいます(刑事訴訟法246条ただし書)。

微罪処分は、通常、刑事事件は検察に送検されるところ、警察段階で処理することができる特別な処分ですから、基本的には軽微な事案において適用されることになります。

微罪処分として処理するか否かについては、各地方検察庁によって基準が異なっておりますので、どの地域でどのような事案について微罪処分を行うかは、地域によって異なるというほかありません。一般的には、犯行態様が悪質ではなく、被害者との間で示談が成立している場合が微罪処分に該当することになります。

相談者のケースでは、自転車の置き引き事案であり、犯行も突発的で犯行態様の悪質性は低いと言えますので、被害者の方との間で示談することができれば、微罪処分になる可能性が高いとも思えます。

しかし、公務員の場合は、微罪処分にすることができない運用がなされている場合があります。公務員は、その職業上公共性が高く、公務内非行にとどまらず、公務外非行についても懲戒処分の基準が設けられている場合があります(例えば、国家公務員)。

捜査機関も、この事を受けてか、公務員については微罪処分にすることができず、また、職場に連絡することを原則としている場合もあるのです。このような運用がなされている場合、公務員の方が犯罪を行ってしまうと、検察庁への事件送致を回避することはなかなかに難しいことになります。

以上から、公務員の場合、微罪処分とならない可能性が高く、また、職場にも連絡する運用がなされている地域の場合には、職場に連絡されてしまう可能性が高いと言えます。

3 懲戒処分との関係

職場への連絡があると、懲戒処分の対象となります。時期的には刑事処分が決まってからということになるでしょう。

「懲戒処分の指針について(平成12年3月31日職職―68、人事院指針)」によれば、公務外非行における窃盗は、免職または停職となるとされております。同指針は、国家公務員に適用されるものですので、地方公務員については、地域ごとに基準が設けられておりますが、概ね処分の重さは異なるものではないでしょう。従って、何もしないでおくと免職あるいは停職となる可能性があります。

懲戒処分の基準については、公務員内部の行政規則であって、裁量基準であるに過ぎませんので、裁判所を拘束するものではありませんが、その基準に合理性があれば、基本的にはその基準が適用されて処分が行われることになります。ただし、懲戒処分の基準が、裁量基準であることとの関係から、例えば通常の窃盗よりも軽微であるとの事情があれば、同基準を適用せずに、処分を停職よりも軽くするなど、柔軟に処分を決定すべきであると解されます。

したがって、懲戒処分との関係においても、被害者の方と示談をして、許しを得ていることが、極めて重要になってくることになります。仮に職場に連絡されてしまい、懲戒処分に移行してしまった場合であっても、弁護人の方から、犯行態様が悪質でなく、示談も成立しているなどの有利な事情を主張し、懲戒処分の基準を本件では適用すべきでない旨主張した上で、より軽微な処分を獲得するよう活動することになります。

なお、懲戒処分の対象となる非行行為とされる窃盗があったということが確定するのは刑事裁判で窃盗の有罪判決が確定した時ですから、単なる職場への通知は、窃盗の容疑で被疑者となっているということです。そこで、職場への対応についても弁護士に依頼して事実関係の内容を争う旨を説明してもらうという方法も検討する必要があります。

4 具体的な弁護活動について

以上の通り、相談者は、公務員ですので、刑事処分の解決を図るとともに、懲戒処分の解決も念頭に入れて活動していく必要があります。

刑事処分との関係では、地域によっては微罪処分とならず、職場に連絡されてしまう恐れがあります。また、仮に微罪処分とできる地域であっても、微罪処分となるためには、被害者との間で示談が成立していることが条件となっている場合がありますので、いずれにせよ示談を成立させることは必須であると言えます。

公務員を微罪処分とすることができない地域であっても、弁護人から、本件の犯行態様の悪質性が低く、適切に示談も出来ており、被害者から許しを得ていることを捜査機関に伝えた上、警察段階で事件を処理することができないか、と交渉することが考えられます。

本件のように、事案が軽微であって、反省も顕著であり、被害者の方と示談が成立している場合、犯罪事実自体が極めて軽微ですので、送検する必要性すらないのではないか、と交渉するのです。この交渉が奏功した場合、例えば、処罰の必要性が全くないとして、警察段階で事件を「認知せず」として処理される場合もあり得ます。

したがって、公務員を微罪処分とすることができない地域であっても、警察段階で事件を処理していただけるよう、粘り強く交渉することが功を奏する場合もあると言えます。警察段階で事件を「認知せず」として処理される場合には、事件を認知されていないのですから、当然、職場への連絡は回避することができることになります。

懲戒処分との関係では、捜査機関から、職場への連絡をしないで頂きたい旨の交渉をする必要があるでしょう。職場に連絡されてしまい、懲戒処分に移行してしまった場合には、上記の通り、一定の懲戒処分を受けてしまうおそれがあるためです。そのため、上述のとおり、事件を警察段階で処理できないか、仮に送検されたとしても、検察官から職場に連絡しないで頂けないか、交渉することが必要不可欠です。

そして、職場への連絡をしないで頂きたい旨交渉するためには、本件が、極めて軽微な事案であって、職場に連絡をして、懲戒処分を受けさせる必要性がない、と捜査機関に思わせることが必要です。したがって、職場連絡の回避との関係でも、早期の示談が必要不可欠であると言えるでしょう。

仮に、職場に連絡されてしまった場合であっても、弁護人から本件が軽微な犯罪である旨を主張することで、懲戒処分を基準より軽減するよう、交渉することにより、懲戒処分を軽減していくことになります。また、被疑事実自体を争っているという対応なり印象を職場に伝える方法も検討の余地があります。

以上の通り、刑事処分との関係、懲戒処分との関係、いずれにおいても、早期の示談が必要不可欠であると言えます。示談を行うためには、捜査機関から被害者の方の情報を開示していただく必要があるところ、一般に、捜査機関は、被疑者本人に被害者の方の情報を開示することはありません。被疑者本人と被害者の方を接触させてしまうと、被疑者が被害者の方を脅すなどして、新たな犯罪を作出させてしまったり、被害者の証言を捻じ曲げてしまう等の危険性が高いためです。したがって、被害者の方との間で、早期に示談するためには、弁護人を付けることが必要になります。

本件は、弁護人が必要不可欠な事案ですので、迅速に弁護人を付けることを推奨いたします。

以上

関連事例集

  • その他の事例集は下記のサイト内検索で調べることができます。

Yahoo! JAPAN

参照条文
刑法

(窃盗)
第235条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

(遺失物等横領)
第254条 遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

刑事訴訟法

第246条 司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し、検察官が指定した事件については、この限りでない。