新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1574、2014/12/26 11:22 https://www.shinginza.com/cooling.htm

【民事、特定商取引法、クーリングオフに権利濫用理論が適用になるか、東京地裁平成6年9月2日判決】

探偵会社の探偵契約とクーリングオフの期間

質問:私は,探偵業を行っている探偵会社を経営しており,私も実際に探偵として稼働しています。探偵業に関する取引については,依頼者様の求めに応じて喫茶店などの場所に伺って,契約をしています。今回問題となっている依頼者とも,依頼者の求めに応じて喫茶店で契約をしました。このとき,クーリングオフができるという書面は交付していませんでした。依頼を受けた後,私は探偵業務を行っていました。契約締結後1カ月が経過し,調査業務が大分進んだ頃ですが,依頼者から突然,クーリングオフするので,これまで支払ったお金を返してほしい,と言われてしまいました。このような場合,クーリングオフには応じる他なく,私はお金を返さなければならないのでしょうか。残りの報酬も請求できないのでしょうか。仮にクーリングオフが可能となってしまった場合,今後このようなことがないようにするためには,何をすべきでしょうか。



回答:

1 ご相談の喫茶店における探偵業務の契約は,特定商取引法(以下「特商法」といいます。)上の「訪問販売」に該当しますので,特商法上の記載事項をすべて満たした申込書面,契約書面(契約書)といった法定書面を交付しない限り,クーリングオフが可能となっています。クーリングオフをした場合,契約は無条件で解除となり,いかにあなたが探偵業務を行ったとしても,その報酬を請求できないし,受け取った金銭を返還しなければならないこととなります。

  裁判例上も,法的に要求されている記載事項を欠いたり,そもそも契約書面を交付していない場合には,長期間が経過していてもクーリングオフを認めており,クーリングオフが権利濫用であるとの主張はほぼ認められていません。

2 今後,このようなことを防止するためには,訪問販売に該当するような契約を締結しようとする場合,特商法上のクーリングオフに対応した法定書面(申込書面,契約書面)を作成・交付する必要があります。(1)目的物の特定に関する事項,(2)代金支払,商品の引渡等に関する事項,(3)当事者等の確定に関する事項,(4)クーリングオフに関する事項を全て,法定書面にもれなく記載し,契約を結んで,消費者に交付しておく必要があるでしょう。これを交付しておけば,クーリングオフ期間は8日間に限定されます。

  特商法は,法改正も多く詳細な規制内容になっており,法定の記載事項を少しでも欠く場合にはいつでもクーリングオフが可能となってしまいますので,契約書面を作成する際には,消費者法について専門的知識を有する弁護士への相談を検討された方が良いでしょう。

3 その他,特定商取引法に関する事例集としては350番1219番1444番1505番等を参照してください。探偵に関する事例集、658番924番参照。その他1221番1194番975番928番838番767番751番590番302番277番228番149番140番120番7番参照。


解説:

第1 特定商取引法の規制について

 1 特定商取引法の意義,適用対象

   今回のご相談は,探偵業を依頼する契約に,特定商取引法(以下「特商法」と省略することもあります。)の定めるクーリングオフの規定が適用となるかどうか,が問題となります。まず,特定商取引法の趣旨,今回の取引に特定商取引法が適用されるのかを検討していきたいと思います。

 (1)特定商取引法の趣旨

    特定商取引法は,訪問販売,通信販売,電話勧誘販売,連鎖販売取引,特定継続的役務提供,業務提供誘引販売取引,訪問購入といった,購入者(消費者)に不利益が生じやすい一定の類型の取引について,取引の内容を公正にし,購入者などが受けることが考えられる損害の防止を図る措置を取ることにあります。

    一定の特定商取引について,書面の交付や一定の行為を禁止するという行政上の制限,また,これを破った場合の刑事罰を科すこと,さらには,クーリングオフなどの中途解約制度など,民事的な効力を定めることによって,購入者(消費者)の利益を図ることを目的にしています。

    特定商取引法の解釈においても,上記のような購入者(消費者)の保護,という観点が重要視されるところです。民法上,契約は当事者間の意思の合致に基づいて成立し,一度成立した契約には相互に拘束されるのが原則です(契約遵守の大原則)。従って、民法上は約束違反等の事情がなければ解約はできないことになっています。これは、私的自治の原則(契約自由の原則)といって近代市民法の大原則ですが、その前提は対等な当事者間の適正な契約です。しかし、現代社会では事業者と消費者の契約においては、両者は対等な当事者とは言えない場合があります。消費者と業者といった関係で見てみると,情報の質と量や交渉力に格差が生じますので,両者が対等に契約交渉にのぞむことは難しい場合が多々あります。そこで、弱い立場にある消費者を保護する目的で一連の消費者の保護に関する法律が定められ(消費者契約法や割賦販売法)、特定商取引法でも、消費者を保護するという見地から、解約に関する特別な定めをするなどして弱い立場の消費者を保護しています。これは民法の一般原則を私的自治の原則に内在する権利濫用の法理、信義誠実の原則(民法1条)により修正し具体的法律にしたものととらえることができます。従って個々の問題解釈も最終的には本法の制度趣旨、民法1条に帰着することになります。

 (2)喫茶店における探偵業の契約が特定商取引法の対象になるか

    まず,ご相談いただいている取引形態が特定商取引法上の対象となる取引に該当するかについて検討します。今回は,特定商取引法における「訪問販売」に該当するか否かが問題となります。

    特定商取引法は,「訪問販売」の定義として,以下の規定を置いていますので,以下検討していきます。

第二条  この章及び第五十八条の十八第一項において「訪問販売」とは、次に掲げるものをいう。
一  販売業者又は役務の提供の事業を営む者(以下「役務提供事業者」という。)が営業所、代理店その他の主務省令で定める場所(以下「営業所等」という。)以外の場所において、売買契約の申込みを受け、若しくは売買契約を締結して行う商品若しくは指定権利の販売又は役務を有償で提供する契約(以下「役務提供契約」という。)の申込みを受け、若しくは役務提供契約を締結して行う役務の提供
二  販売業者又は役務提供事業者が、営業所等において、営業所等以外の場所において呼び止めて営業所等に同行させた者その他政令で定める方法により誘引した者(以下「特定顧客」という。)から売買契約の申込みを受け、若しくは特定顧客と売買契約を締結して行う商品若しくは指定権利の販売又は特定顧客から役務提供契約の申込みを受け、若しくは特定顧客と役務提供契約を締結して行う役務の提供

   ア 役務提供事業者であること

 探偵会社は,張り込み,尾行などの探偵業という一定の調査業務を行うものであり,「役務の提供の事業を営む者」に該当することとなります。

   イ 「営業所等」以外の場所であること

     営業所,代理店その他の主務省令で定める場所以外の場所における取引であれば,訪問販売性の要件を具備することになります。

     ここにいう営業所とは,商業登記における本店,支店のみならず広く営業を行う,いわゆる店舗を含むものとされています。

     その他の主務省令の内容としては,特定商取引法施行規則1条各号に定められているところです。

  特定商取引法施行規則
    第1条
     三  露店、屋台店その他これらに類する店
四  前三号に掲げるもののほか、一定の期間にわたり、商品を陳列し、当該商品を販売する場所であつて、店舗に類するもの
五  第一号から第三号までに掲げるもののほか、一定の期間にわたり、購入する物品の種類を掲示し、当該種類の物品を購入する場所であつて、店舗に類するもの
六  自動販売機その他の設備であつて、当該設備により売買契約又は役務提供契約の締結が行われるものが設置されている場所

     本件では,一般的な喫茶店において契約したということですので,営業を行う店舗等において行われた契約ではないことになります。すなわち,上記の「営業所等」以外の場所においてなされた契約として,訪問販売性を有する,という結論になるでしょう。

   ウ 役務提供契約

     上述のとおり,探偵業は一定の役務を提供する契約になります。そして,今回は顧客からの求めに応じて契約を行ったということですので,特商法上の「訪問販売」の適用を受けうる役務提供契約に該当することとなります。

     なお,特商法が適用されない類型の役務は,特商法26条に定められているところであり,例えば弁護士の行う法律事務などについては適用除外とされています。もっとも,探偵業務については,特商法上の除外規定はありませんので,原則通り特商法の適用が問題となります。

2 クーリングオフの内容,要件や効果について

(1)クーリングオフ制度とは

  次に,特商法が適用となった「訪問販売」契約の場合,消費者側からは,いわゆるクーリングオフによる契約の解除が認められます。

  クーリングオフとは,特商法上の契約類型に該当する取引を行った場合,法定の書面(申込書面,契約書面)を受け取った日から8日を経過するまでは,書面により無条件で契約を解除できるという制度のことをいいます。通常,契約には法的な拘束力がありますので,一度締結した契約を解除するためには,債務不履行などの解除原因が法的に認められなければなりません。

  しかし,特商法は,購入者・契約者保護の権利から,理由不要で無条件の解除を認めたのです。購入者にとって,極めて強い法律上の保護が認められています。

(2)クーリングオフ行使の要件

   クーリングオフ要件としては,上記の(ア)特商法の適用がある取引であることに加え,行使のための要件として(イ)クーリングオフ期間内に,(ウ)クーリングオフの意思表示を書面による発信することが必要です(特商法9条参照)。ここでは,(イ),(ウ)について検討していきます。

    (イ)クーリングオフの要件としては,特商法上,行使のための期間が定められています。消費者を保護する必要性はあるとしても、いつまでも解除できるとすると契約相手(業者等)の地位が過度に不安定となってしまうからです。

    具体的には,特商法4条の申込書面,または,特商法5条の契約書面の受領の日から計算して,8日間以内にクーリングオフをする必要があります。書面受領後8日間あれば、冷静に考え直して契約を解除すべきかどうか、合理的に判断できると考えられるからです。

    ここで注意が必要なのは,事業者には,特商法上の法定要件を定めた書面(いわゆる法定書面)の交付が義務付けられており,その書面交付の日がクーリングオフ期間の起算日とされていることです。

    したがって,法定書面としての記載を一部でも欠いたり(書面不備),または法定書面をそもそも交付していないような場合(書面不交付)には,クーリングオフ期間の適用がそもそもないことになり,起算日がスタートしないことになります。

    すなわち,消費者,購入者としては,契約書を受け取った日から8日間が過ぎたとしても,法定の要件を欠く以上,書面が交付されていないことになり,いつまでもクーリングオフが可能になります。

    したがって,クーリングオフされる事業者側としては,不測の損害が生じる可能性があるので,法定書面を交付したか否かについて細心の注意を払っておく必要があるでしょう。具体的な法的記載事項については,後述します。

    (ウ)のクーリングオフの意思表示は,「書面」によって示すことが必要とされています。通常は,対象となる契約の内容(日付,役務の内容,相手方)を特定した上で,内容証明郵便等により,クーリングオフで契約を解除する旨を示せば足りることとなります。

(3)クーリングオフの効果

   クーリングオフの民事上の効果は,以下のとおりです。消費者,購入者に極めて強力な保護が与えられています。

ア 役務提供者(事業者)は,消費者(購入者)に対して,損害賠償または違約金を一切請求できない(特商法9条3項)。
イ 引渡済みの商品や権利の返還については,販売業者の負担となる(特商法9条4項)。
ウ 消費者は,提供を受けた役務の対価の支払は不要である(特商法9条5項)。
エ 販売業者,役務提供者は,仮に引き渡された商品が使用されたり,既に役務が提供された場合であっても,その利益に相当する金銭や役務の提供の対価その他の金銭の支払を請求することができない(特商法9条6項)。
オ 工作物の現状に変更を加える役務提供が行われた場合には,販売業者(事業者)の負担で,原状回復を行う(特商法9条7項)。

    本件においては,既に役務(調査業務)を行っているとのことで,その報酬(対価)を請求できないか,という点が問題となりますが,上記エの記載のとおり,クーリングオフがなされた場合には,たとえ仕事の大部分を行っていたとしても,報酬などの対価は一切請求できないこととなってしまいます。

3 クーリングオフにおける法定書面の記載事項

    以上のとおり,特商法の訪問販売に該当する場合には,特商法に定める法定の要件を満たした申込書面,契約書面を交付しない限り,いつまでもクーリングオフが可能となっています。事業者がこれらの書面に記載すべき事項は以下のとおりです。特商法は,法改正は多い分野ですので,必ず法律や省令を確認してください。

(1)目的物の特定に関する事項

・商品・権利・役務の種類(法4条1号)
・商品名及び商品の商標または製造者名(省令3条4項)
・商品に形式があるときは,その型式(省令3条5号)

(2)代金支払,商品の引渡等に関する事項
・商品・権利の販売価格,役務の対価(法4条2号)
・商品・権利の代金,役務の対価の支払時期,方法(法4条3号)
・商品の引渡時期,権利の移転時期,役務の提供時期(法4条4号)

(3)当事者等の確定に関する事項
・事業者の氏名または名称,住所,電話番号,法人の代表者氏名(省令3条1号)
・契約の申込みまたは締結を担当した者の氏名(省令3条2号)
・契約の申込みまたは締結の年月日(省令3条3号)

(4)クーリングオフに関する事項(省令6条1項〜3号)
・法定の契約書面を受領した日から起算して8日(それ以前に法定の申込書面を受領した場合は申込書面の受領日)を経過するまでは,消費者は書面によってクーリングオフができること
・上に記載にかかわらず,消費者が,事業者がクーリングオフに関して不実のことを告げたことにより誤認し,または事業者が威迫したことにより困惑し,これらによってクーリングオフを行わなかった場合には,消費者はクーリングオフ妨害の解消のための書面(法9条1項但書)が受領した日から起算して8日を経過するまでは,書面によりクーリングオフができること
・クーリングオフの効力は,書面を発した時に発生すること
・クーリングオフがあった場合は,事業者は損害賠償や違約金の支払いを請求できないこと
・クーリングオフがあった場合は,商品の引き取りや権利の返還に要する費用は事業者の負担とすること
・クーリングオフがあった場合には,既に商品が使用されたとき,権利を行使した時,役務が提供されたときであっても,事業者は,商品御使用利益,権利の行使によって得られた利益,役務の対価等の支払を請求できないこと
・クーリングオフがあった場合には,商品・権利の代金,役務に関連した金銭が支払われているときは,事業者は,消費者に対し,速やかに全額を返還すること
・(役務の提供,権利の販売の場合)クーリングオフがあった場合は,役務提供により,消費者の土地・建物その他の工作物の現状が変更された場合は,事業者に対し原状回復に必要な措置を無償で講じることを請求できること

(5)書面全般の注意点(省令5条2項〜3項)
   書面全般につき,書面の内容を十分に読むべき旨を赤枠の中で赤字で記載し,書面には8ポイント以上の文字・数字を使用しなければならないこと

(6)法定書面における法律上の要求事項は以上です。事業者としては,これらがすべて記載された申込・契約書面を契約時に消費者に交付する必要があります。一部でも記載事項を欠く場合には,法定書面を交付していないことになり,いつまでもクーリングオフができることになってしまうことになります。さらに,事業者であるあなたがいくら調査業務などの役務を提供したところで,報酬を請求することはできないという結論になってしまいます。

4 書面不備・書面不交付の際のクーリングオフの延長に関する裁判例

   役務をいくら提供しても,法定書面を交付していない限りいつまでもクーリングオフができ,その対価を請求できない,というのは不当な結論のように思えます。

   この点,書面不備,書面不交付の場合であっても,長期間が経過しているときなどにはクーリングオフが制限されないか,という点などは裁判においても争われているところですが,大多数の裁判例が書面不備の場合には,消費者の保護を重視してクーリングオフができ,その行使は制限されない,と結論付けています。

   一例として,東京地方裁判所平成6年9月2日判決があります。同判例の事案では,交付された契約書面に商品の数量,役務の提供時期や工事内容が特定されておらず,書面の記載として不十分な事案でした。

   裁判例の結論としては,契約締結後約10か月が経過した事案でも,クーリングオフを認め,業者側の権利濫用の主張を排斥しました。権利濫用を棄却した理由としては,事業者は代金の支払についてトラブルを生じさせる原因を作り出したということができ,クーリング・オフをする権利が留保されている消費者にその行使を制限するのは相当でない,との点をあげています。特定商取引保法の趣旨から当然の帰結となります。

   以上より,書面不備・書面不交付の場合で,期間がかなり過ぎていたとしても,クーリングオフは法的な権利であり,その権利の行使が権利濫用と認められる余地はほとんどないといえるでしょう。特に消費者保護の必要性が高い類型の取引について厳格な規制を施すという特商法制定の趣旨,社会的な消費者保護の要請,法律上の規制を遵守していないことから保護がなされないとしてもやむを得ない,といった考慮がなされているものと思われます。

第2 具体的な対処について

1 返還額についての協議と和解合意書作成

   以上のとおり,今回のご相談の件では,法律的に見るとクーリングオフに対して対抗することは,裁判例に照らしても困難であると考えられますので,金額の返還に応じる必要があると考えられますが、実際の問題解決にあたっては、顧客側が裁判所に訴訟を提起し、勝訴判決を取り、強制執行の申立てを行う、というような段階を経ない限り顧客が全額返還を受けることは困難です。ですから、和解協議の中で、これらの手続きを省略して任意に返還に応じるので一部減額に応じて欲しい、と提案することは勿論可能でしょう。法律的には認められない主張かもしれませんが、仕事の依頼を受けて一部調査は完了しており、顧客にとって有益な情報を取得しているのだから、これを提供するので、出来高を何らかの形で評価してもらえないか、と交渉するのです。円満に合意するために、代理人弁護士に和解締結交渉を依頼することも考えられます。協議がまとまったら、合意内容を和解合意書にまとめると良いでしょう。

2 クーリングオフ対応の契約書の作成

   一方,今後も訪問によって(営業所以外の場所で)契約を締結する際には,特商法の適用があることを前提に,クーリングオフに対応した法定書面,契約書を作成する必要があります。特商法上の法定要件を充たした書面であれば,書面交付後8日が経過すれば,その後は少なくともクーリングオフはできないこととなります。

   注意すべき点は,上記のとおり特商法上の要求する条件をすべて記載しなければならない,ということです。

   上に述べたとおり,法定書面(契約書面,申込書面)には,(1)目的物の特定に関する事項,(2)代金支払,商品の引渡等に関する事項,(3)当事者等の確定に関する事項,(4)クーリングオフに関する事項を全て契約書に盛り込んだうえで,契約を締結する必要があります。クーリングオフに関する条項は赤字にしなければならない等の形式面に関する規制もありますので,特に注意が必要です。

3 特商法は改正も多く,改正法が施行されるごとに,規制を守った上で取引を行う必要があります。そのため、クーリングオフ対応の契約書を作成したとしても定期的に法令に適合しているかチェックすることが必要です。クーリングオフについては,法定の記載事項をすべて遵守しなければ,いつまでもクーリングオフが出来てしまい,事業者にとって多大なる不利益を被る可能性も高いところです。契約書の作成を検討している場合には,専門的知識を有する弁護士に契約書の作成等を相談検討した方が良いでしょう。

<参照条文>
民法
(基本原則)
第一条  私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2  権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3  権利の濫用は、これを許さない。

特定商取引法
第二章 訪問販売、通信販売及び電話勧誘販売

    第一節 定義

第二条  この章及び第五十八条の十八第一項において「訪問販売」とは、次に掲げるものをいう。
一  販売業者又は役務の提供の事業を営む者(以下「役務提供事業者」という。)が営業所、代理店その他の主務省令で定める場所(以下「営業所等」という。)以外の場所において、売買契約の申込みを受け、若しくは売買契約を締結して行う商品若しくは指定権利の販売又は役務を有償で提供する契約(以下「役務提供契約」という。)の申込みを受け、若しくは役務提供契約を締結して行う役務の提供
二  販売業者又は役務提供事業者が、営業所等において、営業所等以外の場所において呼び止めて営業所等に同行させた者その他政令で定める方法により誘引した者(以下「特定顧客」という。)から売買契約の申込みを受け、若しくは特定顧客と売買契約を締結して行う商品若しくは指定権利の販売又は特定顧客から役務提供契約の申込みを受け、若しくは特定顧客と役務提供契約を締結して行う役務の提供
2  この章及び第五十八条の十九において「通信販売」とは、販売業者又は役務提供事業者が郵便その他の主務省令で定める方法(以下「郵便等」という。)により売買契約又は役務提供契約の申込みを受けて行う商品若しくは指定権利の販売又は役務の提供であつて電話勧誘販売に該当しないものをいう。
3  この章及び第五十八条の二十第一項において「電話勧誘販売」とは、販売業者又は役務提供事業者が、電話をかけ又は政令で定める方法により電話をかけさせ、その電話において行う売買契約又は役務提供契約の締結についての勧誘(以下「電話勧誘行為」という。)により、その相手方(以下「電話勧誘顧客」という。)から当該売買契約の申込みを郵便等により受け、若しくは電話勧誘顧客と当該売買契約を郵便等により締結して行う商品若しくは指定権利の販売又は電話勧誘顧客から当該役務提供契約の申込みを郵便等により受け、若しくは電話勧誘顧客と当該役務提供契約を郵便等により締結して行う役務の提供をいう。
4  この章並びに第五十八条の十九及び第六十七条第一項において「指定権利」とは、施設を利用し又は役務の提供を受ける権利のうち国民の日常生活に係る取引において販売されるものであつて政令で定めるものをいう。

    第二節 訪問販売

(訪問販売における氏名等の明示)
第三条  販売業者又は役務提供事業者は、訪問販売をしようとするときは、その勧誘に先立つて、その相手方に対し、販売業者又は役務提供事業者の氏名又は名称、売買契約又は役務提供契約の締結について勧誘をする目的である旨及び当該勧誘に係る商品若しくは権利又は役務の種類を明らかにしなければならない。

(契約を締結しない旨の意思を表示した者に対する勧誘の禁止等)
第三条の二  販売業者又は役務提供事業者は、訪問販売をしようとするときは、その相手方に対し、勧誘を受ける意思があることを確認するよう努めなければならない。
2  販売業者又は役務提供事業者は、訪問販売に係る売買契約又は役務提供契約を締結しない旨の意思を表示した者に対し、当該売買契約又は当該役務提供契約の締結について勧誘をしてはならない。

(訪問販売における書面の交付)
第四条  販売業者又は役務提供事業者は、営業所等以外の場所において商品若しくは指定権利につき売買契約の申込みを受け、若しくは役務につき役務提供契約の申込みを受けたとき又は営業所等において特定顧客から商品若しくは指定権利につき売買契約の申込みを受け、若しくは役務につき役務提供契約の申込みを受けたときは、直ちに、主務省令で定めるところにより、次の事項についてその申込みの内容を記載した書面をその申込みをした者に交付しなければならない。ただし、その申込みを受けた際その売買契約又は役務提供契約を締結した場合においては、この限りでない。
一  商品若しくは権利又は役務の種類
二  商品若しくは権利の販売価格又は役務の対価
三  商品若しくは権利の代金又は役務の対価の支払の時期及び方法
四  商品の引渡時期若しくは権利の移転時期又は役務の提供時期
五  第九条第一項の規定による売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回又は売買契約若しくは役務提供契約の解除に関する事項(同条第二項から第七項までの規定に関する事項(第二十六条第三項又は第四項の規定の適用がある場合にあつては、同条第三項又は第四項の規定に関する事項を含む。)を含む。)
六  前各号に掲げるもののほか、主務省令で定める事項

第五条  販売業者又は役務提供事業者は、次の各号のいずれかに該当するときは、次項に規定する場合を除き、遅滞なく(前条ただし書に規定する場合に該当するときは、直ちに)、主務省令で定めるところにより、同条各号の事項(同条第五号の事項については、売買契約又は役務提供契約の解除に関する事項に限る。)についてその売買契約又は役務提供契約の内容を明らかにする書面を購入者又は役務の提供を受ける者に交付しなければならない。
一  営業所等以外の場所において、商品若しくは指定権利につき売買契約を締結したとき又は役務につき役務提供契約を締結したとき(営業所等において特定顧客以外の顧客から申込みを受け、営業所等以外の場所において売買契約又は役務提供契約を締結したときを除く。)。
二  営業所等以外の場所において商品若しくは指定権利又は役務につき売買契約又は役務提供契約の申込みを受け、営業所等においてその売買契約又は役務提供契約を締結したとき。
三  営業所等において、特定顧客と商品若しくは指定権利につき売買契約を締結したとき又は役務につき役務提供契約を締結したとき。
2  販売業者又は役務提供事業者は、前項各号のいずれかに該当する場合において、その売買契約又は役務提供契約を締結した際に、商品を引き渡し、若しくは指定権利を移転し、又は役務を提供し、かつ、商品若しくは指定権利の代金又は役務の対価の全部を受領したときは、直ちに、主務省令で定めるところにより、前条第一号及び第二号の事項並びに同条第五号の事項のうち売買契約又は役務提供契約の解除に関する事項その他主務省令で定める事項を記載した書面を購入者又は役務の提供を受ける者に交付しなければならない。

(禁止行為)
第六条  販売業者又は役務提供事業者は、訪問販売に係る売買契約若しくは役務提供契約の締結について勧誘をするに際し、又は訪問販売に係る売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回若しくは解除を妨げるため、次の事項につき、不実のことを告げる行為をしてはならない。
一  商品の種類及びその性能若しくは品質又は権利若しくは役務の種類及びこれらの内容その他これらに類するものとして主務省令で定める事項
二  商品若しくは権利の販売価格又は役務の対価
三  商品若しくは権利の代金又は役務の対価の支払の時期及び方法
四  商品の引渡時期若しくは権利の移転時期又は役務の提供時期
五  当該売買契約若しくは当該役務提供契約の申込みの撤回又は当該売買契約若しくは当該役務提供契約の解除に関する事項(第九条第一項から第七項までの規定に関する事項(第二十六条第三項又は第四項の規定の適用がある場合にあつては、同条第三項又は第四項の規定に関する事項を含む。)を含む。)
六  顧客が当該売買契約又は当該役務提供契約の締結を必要とする事情に関する事項
七  前各号に掲げるもののほか、当該売買契約又は当該役務提供契約に関する事項であつて、顧客又は購入者若しくは役務の提供を受ける者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの
2  販売業者又は役務提供事業者は、訪問販売に係る売買契約又は役務提供契約の締結について勧誘をするに際し、前項第一号から第五号までに掲げる事項につき、故意に事実を告げない行為をしてはならない。
3  販売業者又は役務提供事業者は、訪問販売に係る売買契約若しくは役務提供契約を締結させ、又は訪問販売に係る売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回若しくは解除を妨げるため、人を威迫して困惑させてはならない。
4  販売業者又は役務提供事業者は、訪問販売に係る売買契約又は役務提供契約の締結について勧誘をするためのものであることを告げずに営業所等以外の場所において呼び止めて同行させることその他政令で定める方法により誘引した者に対し、公衆の出入りする場所以外の場所において、当該売買契約又は当該役務提供契約の締結について勧誘をしてはならない。

(合理的な根拠を示す資料の提出)
第六条の二  主務大臣は、前条第一項第一号に掲げる事項につき不実のことを告げる行為をしたか否かを判断するため必要があると認めるときは、当該販売業者又は当該役務提供事業者に対し、期間を定めて、当該告げた事項の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。この場合において、当該販売業者又は当該役務提供事業者が当該資料を提出しないときは、次条及び第八条第一項の規定の適用については、当該販売業者又は当該役務提供事業者は、同号に掲げる事項につき不実のことを告げる行為をしたものとみなす。

(指示)
第七条  主務大臣は、販売業者又は役務提供事業者が第三条、第三条の二第二項若しくは第四条から第六条までの規定に違反し、又は次に掲げる行為をした場合において、訪問販売に係る取引の公正及び購入者又は役務の提供を受ける者の利益が害されるおそれがあると認めるときは、その販売業者又は役務提供事業者に対し、必要な措置をとるべきことを指示することができる。
一  訪問販売に係る売買契約若しくは役務提供契約に基づく債務又は訪問販売に係る売買契約若しくは役務提供契約の解除によつて生ずる債務の全部又は一部の履行を拒否し、又は不当に遅延させること。
二  訪問販売に係る売買契約若しくは役務提供契約の締結について勧誘をするに際し、又は訪問販売に係る売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回若しくは解除を妨げるため、当該売買契約又は当該役務提供契約に関する事項であつて、顧客又は購入者若しくは役務の提供を受ける者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの(第六条第一項第一号から第五号までに掲げるものを除く。)につき、故意に事実を告げないこと。
三  正当な理由がないのに訪問販売に係る売買契約であつて日常生活において通常必要とされる分量を著しく超える商品の売買契約の締結について勧誘することその他顧客の財産の状況に照らし不適当と認められる行為として主務省令で定めるもの
四  前三号に掲げるもののほか、訪問販売に関する行為であつて、訪問販売に係る取引の公正及び購入者又は役務の提供を受ける者の利益を害するおそれがあるものとして主務省令で定めるもの

(業務の停止等)
第八条  主務大臣は、販売業者若しくは役務提供事業者が第三条、第三条の二第二項若しくは第四条から第六条までの規定に違反し若しくは前条各号に掲げる行為をした場合において訪問販売に係る取引の公正及び購入者若しくは役務の提供を受ける者の利益が著しく害されるおそれがあると認めるとき、又は販売業者若しくは役務提供事業者が同条の規定による指示に従わないときは、その販売業者又は役務提供事業者に対し、一年以内の期間を限り、訪問販売に関する業務の全部又は一部を停止すべきことを命ずることができる。
2  主務大臣は、前項の規定による命令をしたときは、その旨を公表しなければならない。

(訪問販売における契約の申込みの撤回等)
第九条  販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等以外の場所において商品若しくは指定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約の申込みを受けた場合若しくは販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等において特定顧客から商品若しくは指定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約の申込みを受けた場合におけるその申込みをした者又は販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等以外の場所において商品若しくは指定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約を締結した場合(営業所等において申込みを受け、営業所等以外の場所において売買契約又は役務提供契約を締結した場合を除く。)若しくは販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等において特定顧客と商品若しくは指定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約を締結した場合におけるその購入者若しくは役務の提供を受ける者(以下この条から第九条の三までにおいて「申込者等」という。)は、書面によりその売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回又はその売買契約若しくは役務提供契約の解除(以下この条において「申込みの撤回等」という。)を行うことができる。ただし、申込者等が第五条の書面を受領した日(その日前に第四条の書面を受領した場合にあつては、その書面を受領した日)から起算して八日を経過した場合(申込者等が、販売業者若しくは役務提供事業者が第六条第一項の規定に違反して申込みの撤回等に関する事項につき不実のことを告げる行為をしたことにより当該告げられた内容が事実であるとの誤認をし、又は販売業者若しくは役務提供事業者が同条第三項の規定に違反して威迫したことにより困惑し、これらによつて当該期間を経過するまでに申込みの撤回等を行わなかつた場合には、当該申込者等が、当該販売業者又は当該役務提供事業者が主務省令で定めるところにより当該売買契約又は当該役務提供契約の申込みの撤回等を行うことができる旨を記載して交付した書面を受領した日から起算して八日を経過した場合)においては、この限りでない。
2  申込みの撤回等は、当該申込みの撤回等に係る書面を発した時に、その効力を生ずる。
3  申込みの撤回等があつた場合においては、販売業者又は役務提供事業者は、その申込みの撤回等に伴う損害賠償又は違約金の支払を請求することができない。
4  申込みの撤回等があつた場合において、その売買契約に係る商品の引渡し又は権利の移転が既にされているときは、その引取り又は返還に要する費用は、販売業者の負担とする。
5  販売業者又は役務提供事業者は、商品若しくは指定権利の売買契約又は役務提供契約につき申込みの撤回等があつた場合には、既に当該売買契約に基づき引き渡された商品が使用され若しくは当該権利の行使により施設が利用され若しくは役務が提供され又は当該役務提供契約に基づき役務が提供されたときにおいても、申込者等に対し、当該商品の使用により得られた利益若しくは当該権利の行使により得られた利益に相当する金銭又は当該役務提供契約に係る役務の対価その他の金銭の支払を請求することができない。
6  役務提供事業者は、役務提供契約につき申込みの撤回等があつた場合において、当該役務提供契約に関連して金銭を受領しているときは、申込者等に対し、速やかに、これを返還しなければならない。
7  役務提供契約又は指定権利の売買契約の申込者等は、その役務提供契約又は売買契約につき申込みの撤回等を行つた場合において、当該役務提供契約又は当該指定権利に係る役務の提供に伴い申込者等の土地又は建物その他の工作物の現状が変更されたときは、当該役務提供事業者又は当該指定権利の販売業者に対し、その原状回復に必要な措置を無償で講ずることを請求することができる。
8  前各項の規定に反する特約で申込者等に不利なものは、無効とする。

(通常必要とされる分量を著しく超える商品の売買契約等の申込みの撤回等)
第九条の二  申込者等は、次に掲げる契約に該当する売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回又は売買契約若しくは役務提供契約の解除(以下この条において「申込みの撤回等」という。)を行うことができる。ただし、申込者等に当該契約の締結を必要とする特別の事情があつたときは、この限りでない。
一  その日常生活において通常必要とされる分量を著しく超える商品若しくは指定権利の売買契約又はその日常生活において通常必要とされる回数、期間若しくは分量を著しく超えて役務の提供を受ける役務提供契約
二  当該販売業者又は役務提供事業者が、当該売買契約若しくは役務提供契約に基づく債務を履行することにより申込者等にとつて当該売買契約に係る商品若しくは指定権利と同種の商品若しくは指定権利の分量がその日常生活において通常必要とされる分量を著しく超えることとなること若しくは当該役務提供契約に係る役務と同種の役務の提供を受ける回数若しくは期間若しくはその分量がその日常生活において通常必要とされる回数、期間若しくは分量を著しく超えることとなることを知り、又は申込者等にとつて当該売買契約に係る商品若しくは指定権利と同種の商品若しくは指定権利の分量がその日常生活において通常必要とされる分量を既に著しく超えていること若しくは当該役務提供契約に係る役務と同種の役務の提供を受ける回数若しくは期間若しくはその分量がその日常生活において通常必要とされる回数、期間若しくは分量を既に著しく超えていることを知りながら、申込みを受け、又は締結した売買契約又は役務提供契約
2  前項の規定による権利は、当該売買契約又は当該役務提供契約の締結の時から一年以内に行使しなければならない。
3  前条第三項から第八項までの規定は、第一項の規定による申込みの撤回等について準用する。この場合において、同条第八項中「前各項」とあるのは、「次条第一項及び第二項並びに同条第三項において準用する第三項から前項まで」と読み替えるものとする。

(訪問販売における契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
第九条の三  申込者等は、販売業者又は役務提供事業者が訪問販売に係る売買契約又は役務提供契約の締結について勧誘をするに際し次の各号に掲げる行為をしたことにより、当該各号に定める誤認をし、それによつて当該売買契約若しくは当該役務提供契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一  第六条第一項の規定に違反して不実のことを告げる行為 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
二  第六条第二項の規定に違反して故意に事実を告げない行為 当該事実が存在しないとの誤認
2  前項の規定による訪問販売に係る売買契約若しくは役務提供契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消しは、これをもつて善意の第三者に対抗することができない。
3  第一項の規定は、同項に規定する訪問販売に係る売買契約若しくは役務提供契約の申込み又はその承諾の意思表示に対する民法 (明治二十九年法律第八十九号)第九十六条 の規定の適用を妨げるものと解してはならない。
4  第一項の規定による取消権は、追認をすることができる時から六月間行わないときは、時効によつて消滅する。当該売買契約又は当該役務提供契約の締結の時から五年を経過したときも、同様とする。

(訪問販売における契約の解除等に伴う損害賠償等の額の制限)
第十条  販売業者又は役務提供事業者は、第五条第一項各号のいずれかに該当する売買契約又は役務提供契約の締結をした場合において、その売買契約又はその役務提供契約が解除されたときは、損害賠償額の予定又は違約金の定めがあるときにおいても、次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める額にこれに対する法定利率による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の金銭の支払を購入者又は役務の提供を受ける者に対して請求することができない。
一  当該商品又は当該権利が返還された場合 当該商品の通常の使用料の額又は当該権利の行使により通常得られる利益に相当する額(当該商品又は当該権利の販売価格に相当する額から当該商品又は当該権利の返還された時における価額を控除した額が通常の使用料の額又は当該権利の行使により通常得られる利益に相当する額を超えるときは、その額)
二  当該商品又は当該権利が返還されない場合 当該商品又は当該権利の販売価格に相当する額
三  当該役務提供契約の解除が当該役務の提供の開始後である場合 提供された当該役務の対価に相当する額
四  当該契約の解除が当該商品の引渡し若しくは当該権利の移転又は当該役務の提供の開始前である場合 契約の締結及び履行のために通常要する費用の額
2  販売業者又は役務提供事業者は、第五条第一項各号のいずれかに該当する売買契約又は役務提供契約の締結をした場合において、その売買契約についての代金又はその役務提供契約についての対価の全部又は一部の支払の義務が履行されない場合(売買契約又は役務提供契約が解除された場合を除く。)には、損害賠償額の予定又は違約金の定めがあるときにおいても、当該商品若しくは当該権利の販売価格又は当該役務の対価に相当する額から既に支払われた当該商品若しくは当該権利の代金又は当該役務の対価の額を控除した額にこれに対する法定利率による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の金銭の支払を購入者又は役務の提供を受ける者に対して請求することができない。

<参考判例>
東京地方裁判所平成6年9月2日判決

請負代金請求事件
東京地裁平五(ワ)一五〇四六号
平6・9・2民二六部判決
原告 ●●●●
右代表者代表取締役 ●●●●
被告 ●●●●
右訴訟代理人弁護士 横田俊雄

       主   文

一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。


       事   実

第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告に対し、金一八四万八〇〇〇円及びこれに対する平成五年七月九日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 1につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は住宅リフォーム工事請負を業とする会社である。
2 原告は、平成五年五月二八日、被告との間で、次のとおりの約定で被告宅の外壁改装工事(以下「本件工事」という)の諸負契約(以下「本件契約」という)を締結した。
(一)工事代金 一八四万八〇〇〇円
(二)支払方法 着工時 八〇万円
 完成時 残額全部
3 原告は、本件工事を同年六月一日に着工し、同年七月八日に完成して被告に引き渡した。
4 よって、原告は被告に対し、工事代金一八四万八〇〇〇円及びこれに対する最終支払日の翌日である平成五年七月九日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1は認める。
2 同2は認める。但し、契約年月日は平成五年五月二四日、契約金額は一八〇万円であり、四万八〇〇〇円は後日追加注文したものである。
3 同3は認める。
三 被告の主張
(主位的主張)
1 本件契約は被告宅で締結されており、本件工事は訪問販売等に関する法律(以下単に「法」という)二条三項所定の指定役務(法施行令別表第三の八号イ、ホ、一〇号)に該当する。
2 役務提供業者である原告は、営業所でない被告宅で被告と役務提供契約を締結するに際し、次の事項について右役務提供契約の内容を明らかにする書面を被 告に交付しなければならないところ(法五条、法施行規則三条、五条、六条)、原告が本件契約を締結するに際して被告に交付した「購入申込契約書(お客様 用)」には、次のとおり記載されていたにすぎない(「Lホームパートナーローン」なる書面には赤字で契約解除に関する規定が印刷されているが、この書 面は、住宅金融金庫から借入れをするまでのつなぎ資金について、株式会社Lとの間で締結する金銭消費貸借契約に関するものであり、前記法定内容の記載 もないから、この書面を法五条の書面ということはできない)。
 したがって、法五条の書面の交付はされていなかったことになり、被告にはクーリング・オフをする権利が留保されている。
(一)役務の対価「一八〇万円」
(二)役務の対価の支払時期「内金八〇万円、残完工払い」
(三)役務の提供時期(記載なし)
(四)役務提供契約の解除に関する事項(記載なし)
 クーリング・オフの告知事項(法施行規則六条)
 法五条の書面を受領した日から八日を経過する日までは役務提供契約の解除ができること
 赤枠の中に赤字で記載する(法施行規則六条五項)
(五)省令で定める事項(法施行規則三条)
(1)役務提供事業者の名称及び住所「原告会社」
(2)役務提供契約の締結を担当した者の氏名「●●」
(3)役務提供契約の締結の年月日
「平成五年五月二八日」
(4)商品名及び商品の商標又は製造者名「●●●サイディング」
(5)役務の種類「外壁工事、ペイント」
(6)商品の数量(記載なし)
(7)隠れた瑕疵がある場合の規定(記載なし)
(8)契約の解除に関する定めがあるときはその内容(記載なし)
3 被告は原告に対し、平成六年二月四日発信の書面で、法六条一項の規定に基づき、本件契約を解除する旨の意思表示をした。
(予備的主張)《略》
四 原告の主張
1 主位的主張について
 本件契約が法に定める「訪問販売」に該当し、同法二条の「指定役務」の提供契約に該当すること、また、法五条及び法施行規則三条、五条、六条の規定により被告に交付すべき書面につき、絶対的記載事項を脱漏したことは認める。
 しかし、そもそも訪問販売法の立法趣旨は、訪問販売取引により購入者等が受けることのある損害の防止を図ることにより、消費者を保護することを主眼と し、ひいては商品等の流通及び役務の提供を適正かつ円滑にすることを目的としている。したがって、例え、原告の訪問販売法に対する無知による手続上のミス によってクーリング・オフをする権利が留保されているとしても、詐取された金員を役務提供者である原告が負担しないからといって、法六条一項により本件契 約を解除するとの主張は、解除権の濫用である。
2 予備的主張について《略》
第三 証拠《略》

       理   由

一 請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。
 なお、《証拠略》によると、本件契約の締結日は平成五年五月二八日で、契約金額は一八〇万円であり、後日塗装代四万八〇〇〇円が追加注文されたことが認められる。
二 被告の主位的主張について
 本件契約が法に定める「訪問販売」に該当し、同法二条の「指定役務」の提供契約に該当すること、法五条及び法施行規則三条、五条、六条の規定により原告 が被告に交付すべき書面につき絶対的記載事項を脱漏したことは、当事者間に争いがない。そうすると、法五条の書面は交付されていないことになり、法六条一 項一号の起算日は進行しないというべきであるから、被告は、同項に基づき、本件契約を解除(クーリング・オフ)することができることになり、《証拠略》に よれば、被告は、平成六年二月四日発信の書面で、法六条一項の規定に基づき、原告に対し本件契約を解除する旨の意思表示をしたことが認められる。
 そこで、原告の主張する解除権の濫用について検討する。
《証拠略》を総合すると、次の事実が認められ(る。)《証拠判断略》
1 株式会社IT(以下「IT」という)の社員W博邦(以下「W」という)ほか一名は、平成五年五月二二日、被告宅を訪問し、在宅した被告ら 家族にアルミ外壁工事を勧め、二八〇万円の見積りをした。翌二三日、被告の妻がIT錦糸町支店に電話し、右工事を断ったところ、Wは当日夕方再び被 告宅を訪問し、断った理由を尋ねたため、被告の妻は、二〇〇万円以下なら現金で支払うが、ITの見積りでは値段が高いとの説明をした。
 Wは、同日夜、原告会社社員H勝一(以下「H」という)に対し、二八〇万円の見積りで被告から断られたが、二〇〇万円以下なら現金で支払うと言っていた旨を電話で伝えた。なお、Hは、平成四年八月に原告会社に入社するまで、二か月程ITに勤務していた。
2 Hは、被告宅の下見をして工事代金を二三五万九七〇九円とする見積書を作成したうえ、平成五年五月二六日頃、被告宅を訪問し、在宅した被告ら家族 に、「ITのWから聞いた。原告は材料の問屋なのでITより安くできる。」と申し向け、右見積書を示して「これを一八〇万円にする。」と持ち掛 けた。そこで、被告は本件工事を原告に依頼することに決め、支払方法については、頭金を八〇万円として着工日に支払い、残金一〇〇万円は住宅金融公庫の住 宅改良資金を借り入れ、その融資が決定するまでの間、株式会社Lのローンを利用することになった。
 Hは、同月二八日、再び被告宅を訪れ、Hが持参した原告との間の購入申込契約書、株式会社Lに対するLホームパートナーローン申込書、住宅 金融公庫に対する住宅改良資金借入申込書、保証委託契約申込書、団体信用生命保険申込書に、被告はそれぞれ署名押印をした。右書類はいずれも複写式になっ ており、Hは各一部を被告に交付した。
 その後、HはWに紹介料を支払い、被告の原告に対する代金支払方法が右のとおりであることを伝えた。
3 本件工事が着工された後の同年六月一八日、Hは被告の妻に頭金八〇万円の支払日を問い合わせたところ、同月二一日午後に現金を用意するとのことで あった。その際、Hは、頭金八〇万円は、原告の本社の者が集金に行く旨を伝えた。Hは原告代表者にその旨連絡したが、右二一日は月曜日で原告の定休日 に当たるため、翌二二日にHと原告代表者が被告方に集金に行くことに決めた。しかし、集金日を変更したことは被告に伝えなかった。
4 同月二〇日、被告宅を覗き込む男性がいたため、被告の妻が声を掛けると、このアルミ外壁工事を自分も発注したいので、発注先を教えて欲しいとのことで あったので、被告の妻は、月曜日に原告の社員が集金に来るので話してみると答えた。Hは、被告らの家族に、他の客を紹介すれば紹介料を支払うことを約束 していた。
 なお、右男性は、その容貌からITの社員であり、集金日を探りに来たものと考えられる。
5 同月二一日午前、被告の妻は銀行に連絡し、預金を解約して届けてくれるよう依頼し、まもなく銀行員が被告宅に金を持参した。
 同日朝、被告の長男の妻が子供を幼稚園に連れて行く途中、被告宅近くの駐車場にベンツが停まり、その中に前日来た男性に極めてよく似た人物がいるのを目 撃した。その他に二人の男性が車の中や周辺におり、この二人(後にITの代表取締役と判明した男性ともう一人)は、被告宅前を徘徊し、様子を窺ってい た。
 被告が同日午後一時半頃家を出ると、後にITの代表取締役と判明した男性が被告に話しかけてきて、「新井さんですね。仕事ですか。DのWが集金に来ましたか。」と尋ねたので、被告は「まだ来ていない。」と答えた。
 その直後、もう一人の男性が被告宅を訪ね、被告の妻に対し、「DのWですが、集金に来ました。」と申し向けたので、被告の妻が「いくらです か。」と尋ねると「八〇万円です。」と答えたので、被告の妻はHから聞いた原告の本社の者に間違いないものと思い、現金八〇万円を渡し、領収書を要求す ると、その男性は「車の中に入れてあるので取ってきます。」と言い残しそのまま車で逃走した。
 被告の妻はその直後に原告事務所に電話し、原告代表者に対し、領収書を渡さなかったことを告げると、原告代表者は、「それはおかしい。うちは明日Hと二人で伺う予定でいる。」と述べた。
6 翌二二日朝、被告は、本件工事のため出向いてきた大工に仕事をやめて帰るように言い、更に、原告代表者に電話して「Dもグルで詐欺をしているの だろう。工事は解約するからすべて取り払って持って帰ってくれ」と要求した。これに対し、原告代表者は「工事をやらして欲しい。損はさせない。」と述べ、 更にその後、原告代表者とHは被告宅を訪れ、同じように工事の続行を求めたので、被告は残金一〇〇万円と追加塗装工事代四万八〇〇〇円のみ支払う前提で 再度原告に工事を依頼した。
 その後、被告宅にLから貸付けについて確認の電話があったが、被告は融資申込みを断り、住宅金融公庫に対しても融資申込手続を取消した。
7 同年七月一〇日付で原告から被告に対し、一八四万八〇〇〇円の請求書が届けられたが、被告は約束が違うとしてその支払を拒んだ。
8 原告の本訴提起後、被告訴訟代理人は、原告の告げたITの事務所を捜したが、事務所を発見するには至らなかった。
 ところで、原告の役務は平成五年七月八日既に完了しており、被告は、役務の内容についての不履行や瑕疵等を理由にクーリング・オフをする権利を行使するものではない。
 また、本件契約は同年五月二八日に締結され、原告が同年八月一〇日本訴を提起したのに対し、被告は、当初原告の共同不法行為により損害が生じたとして相 殺を主張し(後に主張を撤回)、クーリング・オフを行使したのは平成六年二月四日で、右契約締結から八か月を経過した後である。
 しかしながら、法六条が定めるクーリング・オフの制度は、訪問販売の販売形態をとる取引の場合には、購入者等の購入意思が不確定、不安定なまま契約の締 結が行われる場合があり、これがトラブルの一因ともなっているため、一定の期間、債務不履行や瑕疵等の解除事由がなくても、損害賠償等の請求を受けること なく、無条件で契約の解除等をすることを認めたものである。
 そして、訪問販売においては、購入者等が取引条件を確認しないまま取引行為をしてしまったり、取引条件が曖昧であるため後日両当事者間のトラブルを引き 起こしたりすることが多いため、取引条件が不明確なため後にトラブルを惹起するおそれのある場合について、取引条件を明らかにした書面を、契約の申込み及 び締結の段階で購入者等に交付するよう役務提供事業者に義務付けており(法四条、五条)、役務の対価の支払時期及び方法についても交付書面の必要的記載事 項としている。
 前記認定の事実によれば、被告は、八〇万円を詐取された時点で、原告に対し本件契約の解除を申し入れており、当時は未だ本件工事の途中であった。また、 被告が本件工事の続行を了承したのは、原告代表者らが右八〇万円の件について損をさせない旨述べたことによるものである。
 被告が八〇万円を詐取され、原告に本件契約の解除を申し入れた時点で、原告は、書面の交付は義務付けられてはいないが、右法の趣旨に照らし、被告が工事 を続行するか、取り止めるかを判断できるよう再度被告が支払うべき金額を明示し、本件代金一八四万八〇〇〇円全額を請求するのであれば、その旨を明確に被 告に伝えるべきであった。
 ところが、原告がこの点を明確にせず、損はさせないと述べて、工事の続行を勧めたことから、被告が八〇万円を除いた残額を支払えばよいものと判断し、工 事の続行を了承した。この時点で、原告が八〇万円を控除しない旨を明らかにしておれば、被告が工事の続行を了承することはなかったと考えられる。
 このように、原告は代金の支払についてトラブルを生じさせる原因を作り出したということができ,このような場合、法五条の書面が交付されておらず、クーリング・オフをする権利が留保されている被告に、その行使を制限することは相当でない。
 また、前記認定の原告会社社員HはもとITの社員であったこと、ITのWは、被告がITの工事を断った理由を確かめ、被告が二〇〇万円 以下であれば注文する可能性のあることをHに告げていること、Hは、わざわざ二三五万九七〇九円の見積書を作成しながら、右Wから教えられたように 二〇〇万円以下の額を提示していること、Hは、Wに紹介料を支払い、被告の原告に対する代金支払方法を告げていること、Hは、被告の妻に支払日を確 認し、集金にH本人ではなく原告の本社の者が訪問する旨告げながら、原告代表者との間で、集金日を変更したうえ、原告代表者と二人で集金に行くことに決 め、そのことを被告に伝達していないこと、頭金八〇万円は本件契約締結時点では着工日に支払うことになっており、平成五年六月一一日に着工しながら、右頭 金の支払がなく、右頭金が八〇万円であることを、ITは知っていたこと等の事実によれば、本件取引は、当初原告とITとの密接かつ不明朗な連携か ら始まったものであり、原告とITとの関係は極めて密接なもののあることが窺われ、そのような取引関係の中でITによる詐取が行われており、これ について原告の共同不法行為の事実が立証されるまでには至っていないが、原告とITの右のような関係が詐取を引き起こした一因となっていることは否定 できず、この点でも原告は、代金の支払について被告との間でトラブルを生じさせる原因を作り出したということができる。 
 そうすると、本件において被告が留保されているクーリング・オフをする権利を行使したことは、権利の濫用に当たるとはいえない。
三 以上の次第で、原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 森高重久)

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