新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1473、2013/10/10 00:00

[福祉,自宅不動産所有と生活保護,要保護世帯向け不動産担保型生活資金の貸付制度 昭和38年4月1日社発第246号社会局長通知 ]

質問:
実家の両親が生活に困っていて,私にも両親を養うだけの余裕がないので,生活保護が受けられないか,福祉事務所に相談に行きました。そこでは,確かに困窮していると認められるものの,両親が持ち家に住んでいるから生活保護は受けられないので,自宅を担保にして借入をする制度を利用するように言われました。持ち家があると生活保護は受けられないのでしょうか。また,福祉事務所で言われた不動産を担保にする貸付とはどのようなものですか。



回答:
1.持ち家がある場合でも,当該不動産の処分価値が利用価値に比べて著しく大きくない限り,持ち家を処分することなく生活保護を受けることが可能です。
2.ただし,生活保護法の運用上,65歳以上の方については,生活保護の受給に優先して,不動産を担保にする公的な貸付制度(要保護世帯向け不動産担保型生活資金)を利用することが求められています。
3.関連事例集1390番、1313番、1175番、576番参照。

解説:
【生活保護と補足性の原則】

生活保護を受けるには、原則として資産が無いことが要件となります。

 生活保護法は,生活保護の開始要件として,「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」と規定しています(生活保護法4条1項)。

 生活保護が最後のセーフティーネットであることに鑑み,資産を保有している場合には,生活保護を受けるよりも先にその資産を利用することが求められます。お金に換えられる財産を持っている人は,公的な保護を受けるよりも前に,自分の財産を賃貸するなり,売却するなりして生活を成り立たせるのが先だということです。私有財産制度(憲法29条)を基本にしている以上,自らの生活は自分の責任において維持しなければならないことは当然のことです。相続も原則的に一定の親族関係にあるものに分配され国家には帰属しません。それと相俟って生活困窮者の援助も第一義的には親族が国家に先立って義務を負うことになりますから,常に国家は、自らどうしても生活できず、親族の援助も受けられない場合の予備的機能を持つことになります。従って,自らの資産等を活用しても生活できないことが要件になりますし、扶養義務を履行しなければならない者がいる場合に生活保護費が支出されたときは,保護費を支出した自治体の長は,その履行されるべき扶養義務の範囲内でその者から徴収することができるとされています(同法77条1項)。以上、補足性は私有財産制の理論的帰結ということになります。

【居住用不動産の活用方法,処分価値と利用価値の比較】

しかし、資産があっても、処分しないで生活保護を受けることもできます。

 居住用不動産,いわゆる持ち家がある場合,生活保護は一切受けられないのか,持ち家を手放したお金で生活をして,そのお金が尽きてからでないと生活保護が受けられないのかというと,必ずしもそうではありません。

 居住用不動産の活用方法としては,自らそこに住むということも立派な活用方法だといえるからです。処分して賃貸住宅で家賃を支払って生活するよりも,その方が効率が良い場合も少なくないでしょう。他方,例えば,豪華な屋敷に広々と暮らしながら,生活保護を受けることが不公平だということは争いのないところでしょう。その豪華な屋敷を相当な価格で処分したうえで,その代金を有効活用して暮らしていくべきです。

 こうしたことから,厚生労働省の通知(昭和38年4月1日社発第246号社会局長通知)によれば,生活保護を受給する世帯の居住の用に供される家屋や家屋に付属する土地については,当該不動産の処分価値が利用価値に比して著しく大きくない限り,保有が認められるとされています。

 では一体どの程度であれば「処分価値が利用価値に比して著しく大き」いといえるかですが,これについては明確な基準はありません。上記の厚生労働省の通知においては,「処分価値が利用価値に比して著しく大きいと認められるか否かの判断が困難な場合は,原則として各実施機関が設置する処遇検討会等において,総合的に検討を行うこと」とされていて,その検討対象になる目安としては,「当該実施機関における最上位級地の標準3人世帯の生活扶助基準額に同住宅扶助特別基準額を加えた値におおよそ10年を乗じ,土地・家屋保有に係る一般低所得世帯,周辺地域住民の意識、持ち家状況等を勘案した所要の補正を行う方法、またはその他地域の事情に応じた適切な方法により算出した額」とされています(昭和38年4月1日社保第34号厚生省社会局保護課長通知)。分かりづらいですが,大雑把に言って生活保護費のうち生活扶助と住宅扶助を足した額の10年分を超えるかというのが目安といえます。

 なお,住宅ローン付きの不動産については,原則として保有が認められていません。実質的に生活保護費で住宅ローンが返済されて,資産形成ができてしまうというのでは不公平が著しく,不相当だからです。

【要保護世帯向け不動産担保型生活資金の貸付制度――その趣旨と根拠】

 ここまでの解説からすると,持ち家があっても生活保護を受けることができるのに,なぜ持ち家を担保にして借入をする制度の利用を求められたのか,釈然としないかもしれません。しかし,これについても生活保護法の補足性の原則に基づく説明が可能であるといえます。

 厚生労働省による事業として,要保護世帯向け不動産担保型生活資金貸付事業というものが行われています。これは,いわゆる逆抵当融資(リバースモーゲージ)の一種で,自宅不動産のある高齢者が自宅を手放すことなく生活資金に充てる収入を得られて,亡くなった後に自宅不動産を売却して返済に充てるというものです。

 生活保護制度では,補足性の原則の表れとして「資産の活用」や「扶養義務者による扶養義務の履行」が生活保護に優先すると定められていますが,居住用不動産を担保に生活資金を借り入れることができれば,生活保護に優先する「資産の活用」の幅も広がり,他方,扶養をしてこなかった扶養義務者が被保護者が亡くなった後に自宅不動産を相続で取得するという不公平な事態もなるべく回避できるというところに狙いがあるとされています。

 この貸付事業は,個別の立法に基づくものではなく,既存の法制度内での政策ですが,生活保護法との関係では,補足性の原則に影響を及ぼすこととなります。具体的には,この貸付制度が利用できる場合は,生活保護の開始に優先して,この貸付制度が利用されるべきとの取扱いがされる形で表れてきます。

【要保護世帯向け不動産担保型生活資金の貸付制度――仕組みの概要】

 福祉事務所で知らされたこの貸付制度は,自宅(土地及び建物,マンションも可)を担保に生活資金の貸付を行う制度です。貸付の限度額は,不動産評価額の約7割(マンションの場合約5割)です。この限度額の範囲内で,毎月分割で定期的に一定額(生活扶助費の1.5倍の範囲内で福祉事務所が定める額)を借り入れることになります。貸付は生活保護に優先するので,貸付が続く間,生活保護費は支給されませんが,貸付が限度額に達した後も保護が必要な状況が変わらないときは速やかに生活保護に移行します。

 一方,返済については,借受人が亡くなった後,原則として担保となった自宅不動産を売却して,その代金から返済します。ですから,法定相続人の方は,その不動産を相続することができないことになりますが,法定相続人が別の資産から借入金を返済すれば,担保となっていた不動産を売却しないで済ませることも可能です。

【要保護世帯向け不動産担保型生活資金の貸付制度――貸付の対象】

 この貸付制度の対象者は,借入申込をする本人と同居の配偶者がいずれも65歳以上の世帯のうち,福祉事務所が要保護状態にあると認めた世帯です。つまり,65歳以上で,かつ,この貸付制度がなければ生活保護を受けるのが相当な世帯ということになります。連帯保証人は要りません。

 貸付の対象となる不動産は,(1)評価額が500万円以上で,(2)借入申込者本人の単独所有で,(3)他の債権者の担保になっていないものとされています。

 (1)の評価額については,固定資産税評価証明書の額ではなく,貸付側(社会福祉協議会)で選んだ不動産鑑定士による評価額です。(2)の借受け申込者本人の単独所有であるという点については,同居の配偶者との共有の場合でも可能ですが,その場合,配偶者も連帯借受人になることとされています。

 また,土地や建物に他人のために賃借権その他の利用権が設定されている場合や,定期借地権付き住宅(敷地が所有権ではなく,期間満了後に更地にして返す必要があるもの)は対象外とされています。

【終わりに】

 生活保護の相談に行ったのに,家を担保にお金を借りろと言われて驚かれたことと思いますが,お聞きした限りの事情からすると福祉事務所の説明が間違っていたということはないようです。ご不明の点については引き続き説明を受けるのがよろしいでしょう。

※参照法令
生活保護法第4条(保護の補足性)
第1項 保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
第2項 民法(明治二十九年法律第八十九号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。
第3項 前二項の規定は、急迫した事由がある場合に、必要な保護を行うことを妨げるものではない。


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