新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1445、2013/06/13 00:00 https://www.shinginza.com/syouhisya.htm

【民事:消費者契約法における消費者の概念, 団体も消費者になる場合があるか  東京地裁平成23年11月17日判決】

質問:
私は,大学のOB・OG会の幹事を務めております。この度,OB・OG会で懇親旅行に行くこととなり旅館を予約しました。しかし,会員の一人がインフルエンザとなってしまったために,旅行は中止となり,旅館もキャンセルしました。しかし,その際,高額な取消料(違約金)が取られたのですが,これは仕方ないのでしょうか?



回答:
1 まず,契約の当事者がどのような契約内容を結ぶかは,その契約内容が公序良俗(民法90条)に反しない限り,当事者が自由に決めることができるのが原則です。そのため,契約を解除する際に違約金が発生する旨の規定を定めてたとしても,当事者が違約金条項を了承して契約している以上は有効となります。
2 もっとも,消費者契約法は,事業者と消費者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差に鑑み,消費者の保護を目的として(消費者契約法1条),様々な規定を定めています。
そして,消費者契約法9条1号は,「第九条  次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。 一  当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分 」と規定しています。つまり,事業者と消費者間の契約で解除の際の違約金を定めたとしても,当該違約金の額が同種の契約で事業者に生ずべき平均的な損害額より高い場合には,その超過部分については無効であると規定しているのです。
もっとも,ここで問題なのがOB・OG会の様な団体が,消費者契約法で保護される「消費者」に該当するかというところにあります。詳しくは,解説で詳しく述べますが,東京地裁平成23年11月17日判決は,大学生のスポーツ団体のような,いわゆる法的には権利能力なき社団といわれるような団体は,形式的には団体であっても,その情報量・質,交渉力で事業者と比べて優位に立っているということはないとし,消費者契約法上の「消費者」に該当すると判示しました。
さらに,ではいくらの額を無効として返還請求できるのか,つまり消費者契約法9条1項の「平均的な損害」とは,いくらなのかが問題となります。
「平均的な損害」とは,同一事業者が締結する多数の同じ種類の契約事案について類型的に考察した場合に算定される平均的な損害の額という意味です。具体的には,解除の時期等により同一の区分に分類される複数の同種の契約の解除に伴い,当該事業者に生じる損害の額の平均値になります。そして,「平均的な損害」がいくらになるかは,業者側に立証責任があるため,もし裁判になれば業者側が証拠から立証する必要があります。
3 以上からすれば,あなたの場合でもあまりにも高額な取消料(違約金)が取られている場合には,当該部分に関する契約は無効となり,民法703条に基づく不当利得返還請求で取り返せる可能性が高いです。一度,お近くの弁護士に相談してみてください。
4 消費者契約法関連事例集 1301番、1125番,943番,585番参照。


解説:

(解釈の指針となる消費者契約法の趣旨をまず説明致します。)

 消費者契約法の趣旨は,法1条が明言するように,契約当事者の公平,平等を保障し契約自由の原則,私的自治の原則を確保し,業者と契約する一般消費者を保護し公正,公平な社会経済秩序の実現にあります。民法上,業者も消費者も取引主体として,いつ誰とどのような内容の契約をするかをお互いに自由に決めることができるわけで,「契約自由の原則」に支配されています。
 しかし,大規模な組織で大規模に契約行為をおこなう業者と,知識にも交渉力にも乏しい消費者個人とでは,取引を自由に行う力に大きな差があります。その現実を無視して形式的な自由を貫くと,実際には業者ばかりが自由を享受し,消費者は事実上不利益な契約を強いられるという「強者による弱者支配」が起こりかねません。例えば,契約内容を了解しながら履行しなければどのような違約金でも請求されますし,契約の解除も解除しようとする人が解除理由を具体的に立証しなければなりません。
 そこで,業者側は以上の法理論を奇貨として更なる利益を確保するため社会生活上の契約行為について業者の経済力,情報力,組織力,営業活動の宣伝,広告等を利用し事実上消費者に実質的に不利益な種々の契約態様を考え出し,一般社会生活における契約に無防備な消費者の利益を侵害する事態が生じました。このような状態は,法の理想から私的自治の原則に内在する公平公正の理念に反し許されません。この考えは,昭和43年に制定され,平成16年に大改正された「消費者基本法1条」にうたわれています。
 具体的には,「消費者契約法」等において,消費者の利益の保護が図られ,業者の規制と消費者保護のため,消費者側の契約取消権付与(消費者契約法 4条),損害賠償の予定の制限(消費者契約法 9条),業者側の免責の禁止(消費者契約法8条1項)等が定められています。その内容を一口で表すと,業者側の「契約の自由」の制限ということになります。以上より,当法律の解釈に当たっては適正,公平,権利濫用防止の原則(憲法12条,民法1条,2条, 消費者契約法1条)から契約締結ついて優位性をもつ業者の利益よりも無防備な消費者保護の視点が特に重視されなければなりません。従って,消費者の概念も以上の趣旨から解釈されます。


1 契約自由の原則とその限界
 民法は,大原則として,契約自由の原則をその根幹においています。契約自由の原則とは,私法上の契約について,契約を結ぶか結ばないか,その内容についてどのようなものとするのかということは,すべて契約を結ぶ当事者の自由な意思によって決められるという原則です。具体的には,「契約締結の自由(契約を結ぶか結ばないかは当事者の自由)」「相手方選択の自由(誰と契約するのかは当事者の自由)」「内容決定の自由(どのような内容の契約を結ぶかは当事者の自由)」「方式の自由(契約を書面で結ぶか口頭でするのかは当事者の自由)」ということがその内容となっています。
 しかし,契約自由の原則があったとしても全ての契約が有効というわけではありません。例えば,「妾契約」や「愛人契約」や「犯罪請負契約」や「人身売買契約」といった公序良俗(民法90条)に反するような内容の契約は無効とされています。
 また,契約当事者の一方がもう一方に比べて経済的,社会的,情報的弱者である場合にはその者を保護するような法整備がなされています。例えば,労働契約の様に労働者が使用者に比べ弱い立場にあることに鑑みて,労働基準法等,労働者を保護する様々な契約が整備されています。そして,本件のように事業者と消費者という立場で結ぶ契約の場合には,事業者の方が情報量等で有利な立場にあることから,消費者を保護することを目的として消費者契約法が整備されました。

2 消費者契約法9条1号
 (1)消費者契約法の目的
   消費者契約法は,その第1条で「第一条  この法律は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ、事業者の一定の行為により消費者が誤認し、又は困惑した場合について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができることとするとともに、事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とするほか、消費者の被害の発生又は拡大を防止するため適格消費者団体が事業者等に対し差止請求をすることができることとすることにより、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」とその法の目的を規定しています。
   つまり,消費者契約法は,事業者と消費者との情報量・質及び交渉力の格差に鑑みて消費者の保護を目的として制定された法律なのです。
 (2)消費者契約法9条1号
   消費者契約法9条1号は,「第九条  次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。 一  当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分 」と規定しています。
   当該規定は,消費者契約法1条のその目的にのっとり,事業者と消費者の情報量,交渉力の格差から,事業者と消費者の間での契約において当該契約と類似の契約での平均損害からして不当に高い違約金の条項が定められていたと場合には,その超過部分に関しては無効であるとしています。
 (3)権利能力なき社団が消費者契約法でいう「消費者」にあたるか
  ア 消費者契約上の「消費者」「事業者」とは
    しかし,消費者契約法の適応があるのは「事業者」と「消費者」との間での「消費者契約」のみです。そして,消費者契約法は,「「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいう。」(消費者契約法2条1項)と定め,また,「「事業者」とは、法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。」(消費者契約法2条2項)と定め,「「消費者契約」とは、消費者と事業者との間で締結される契約をいう。」(消費者契約法2条3項) と定めています。
    消費者契約法では,個人が契約をする場合には事業の為でなければ「事業者」になりませんが,団体が契約をする場合には事業の為にすることが「事業者」となる要件になっていません。これは,一定の構成員により構成される組織であれば,個人ほど情報量・質,交渉力に格差がないと考えられているからです。そのため,形式的にみれば,ご相談のOB・OG会のような団体は消費者契約法上,全て「事業者」に扱われてしまいます。しかし,事業を目的としない親睦団体も多くあり,そのすべての団体を消費者契約法上の「事業者」として扱うとすればこれはあまりにも社会通念に反することとなります。そこで,消費者契約法上の「事業者」がどのような場合に該当することになるのかが問題となります。
  イ 東京地裁平成23年11月17日判決
    ご相談の様な,いわゆる親睦団体が消費者契約法上の「消費者」となるのかが争われた裁判例として東京地裁平成23年11月17日判決があります。この裁判の事案を簡潔にご説明しますと,大学生のスポーツクラブ団体が合宿の為に旅館を予約したが,合宿の前夜に部員がインフルエンザに罹患してしまったためにその予約を取り消したのだが,その際に取消料を取られたためにその返還を求めた裁判です。
    この裁判で裁判所は,一定の構成員によって構成される組織でも,消費者との関係で情報の質及び量並びに交渉力において優位に立っていると評価できないものについては,「消費者」に該当すると解するのが相当であると判示し,大学生のスポーツ団体のような親睦団体が消費者契約法上の「消費者」にあたると判断しました。
裁判所が,消費者契約法上の「消費者」を上記のように解釈する理由として挙げているのが,消費者契約法の趣旨である事業者と消費者との間の情報量,交渉力の格差です。一定の構成員で構成される組織であっても,その団体の性質等から考えて情報量や交渉力が乏しい団体も存在します。特に裁判例のような大学生で構成される団体については,情報量,交渉力で相手方の優位に立っているとの評価はしにくいと思います。
もっとも,団体であれば原則として消費者には該当しませんので、どのような場合に消費者契約法上の「消費者」と判断されるか否かは,その団体の目的,性質,構成員の数,構成員の属性等様々な事情から判断することとなります。現に,上記裁判例でも裁判所は,当該団体の多くは大学生で構成されていたことや旅館との契約を担当したのが大学生であったことを判断材料に挙げています。
裁判所が消費者契約法上の「消費者」を上記のように解釈する理由として挙げている消費者契約法の趣旨である事業者と消費者との間の情報量,交渉力の格差の有無の判断は,ケースバイケースになると言うほかないといえます。
 (4)「平均的な損害額」
さらに,ではいくらの額を無効として返還請求できるのか,つまり消費者契約法9条1項の「平均的な損害」とは,いくらなのかが問題となります。
「平均的な損害」とは,同一事業者が締結する多数の同じ種類の契約事案について類型的に考察した場合に算定される平均的な損害の額という意味です。具体的には,解除の時期等により同一の区分に分類される複数の同種の契約の解除に伴い,当該事業者に生じる損害の額の平均値になります。そして,「平均的な損害」がいくらになるかは,業者側に立証責任があるため,もし裁判になれば業者側が証拠から立証する必要があります。

3 本件の考察 
私の見解としましては,裁判所が,団体であっても情報量・質,交渉力の点で優位に立っていると評価できないということで「消費者」と判断するのであれば,OB・OG会やサークル,ゼミ等のほとんどの親睦団体は,その事業を目的とする事業者を相手としてみた場合には,情報量・質,交渉力で優位に立つと評価することはできず,多くの場合は「消費者」と判断される可能性が高いのではないかと考えます。
そのため,あなたの所属する団体は大学のOB・OG会ということでその構成員の多くは社会人で,上記判例のような大学生の団体ではないですが,「消費者」にあたる可能性はあると思います。
取消料を取り戻せる可能性がありますので,一度弁護士に相談してみることをお勧めいたします。


≪参考判例≫
・東京地裁平成23年11月17日判決
不当利得返還請求控訴事件
東京地方裁判所平成二三年(レ)第二六号
平成23年11月17日民事第四四部判決
「争点〔3〕(本件取消料合意は、法により無効となるか否か)について
(1)控訴人と被控訴人との間の契約が「消費者契約」に該当するか否か
ア 「消費者契約」とは、消費者と事業者との間で締結される契約をいう(法二条三項)。
 そして、「消費者」とは、「個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)」をいい(法二条一項)、「事業者」とは、「法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人」をいう(法二条二項)。
イ まず、被控訴人についてみると、前記前提事実記載のとおり、被控訴人は本件宿泊先を経営しており、本件予約は被控訴人の事業目的そのものを対象とする契約であるから,「事業として契約の当事者となる場合における個人」に当たり、「事業者」(法二条二項)に該当する。
ウ 次に、権利能力なき社団である控訴人が、「消費者」(法二条一項)に該当するかが問題となる。 
 法において、「法人その他の団体」が「事業者」に当たるとされているのは、「法人その他の団体」は、消費者との関係で情報の質及び量並びに交渉力において優位に立っているからである(法一条参照)。そうすると、権利能力なき社団のように、一定の構成員により構成される組織であっても、消費者との関係で情報の質及び量並びに交渉力において優位に立っていると評価できないものについては、「消費者」に該当するものと解するのが相当である。
 これを本件についてみると、前記前提事実記載のとおり、控訴人は大学のラグビークラブチームであり、その主要な構成員は大学生であるものと認められ、現に、控訴人の担当者であった●は、本件手配旅行契約締結当時大学生であったことからすると、控訴人は、事業者である被控訴人との関係で情報の質及び量並びに交渉力において優位に立っているとは評価できず、「消費者」(法二条一項)に該当するものと認められる。
エ 以上より、本件予約は、消費者と事業者との間で締結された契約であると認められるから、「消費者契約」(法二条三項)に該当する。」

≪参考条文≫
消費者契約法
(目的) 
第一条  この法律は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ、事業者の一定の行為により消費者が誤認し、又は困惑した場合について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができることとするとともに、事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とするほか、消費者の被害の発生又は拡大を防止するため適格消費者団体が事業者等に対し差止請求をすることができることとすることにより、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
(定義) 
第二条  この法律において「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいう。
2  この法律(第四十三条第二項第二号を除く。)において「事業者」とは、法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。
3  この法律において「消費者契約」とは、消費者と事業者との間で締結される契約をいう。
4  この法律において「適格消費者団体」とは、不特定かつ多数の消費者の利益のためにこの法律の規定による差止請求権を行使するのに必要な適格性を有する法人である消費者団体(消費者基本法 (昭和四十三年法律第七十八号)第八条 の消費者団体をいう。以下同じ。)として第十三条の定めるところにより内閣総理大臣の認定を受けた者をいう。
(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
第九条  次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一  当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
二  当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が二以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年十四・六パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分


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