新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1444、2013/05/24 00:00 https://www.shinginza.com/cooling.htm

【民事・訪問販売・クーリングオフにおける店舗販売の意義・店舗に類する場所の要件・平成20年3月28日東京地裁判決】

質問:私は,友人から友人宛に来た2日間開かれるという宝石の展示会についての招待状をもらい,1ヶ月ほど前に都心のホテルの一室で開かれた宝石の展示会に行きました。宝石の展示会には,色々な販売業者がブースを設けて宝石を販売しておりましたが,そのうち1つのブースに置かれていた宝石に興味を持ち,40万円で宝石を購入することにしました。その場で売買契約書を作成し,その場で現金で40万円を支払い、宝石を受け取りました。なお,作成した売買契約書には,法人である販売業者の代表者氏名,売買契約を締結した者の氏名の記載はありませんでした。また,クーリングオフできる旨の書面の交付もありませんでした。その2週間後にネットで宝石販売業者のウェブページを閲覧していたところ,同じ商品の宝石が25万円で売られていることに気付きました。私は驚いてすぐにそのウェブページを印刷してデパートの店舗に持って行き,先日の商品売買のキャンセルを申し出ました。しかしながら,店側からは価格を理由とした商品売買のキャンセルは認められないと言われてしまいました。まだ宝石は一度も使っていないのですが,代金を返してもらい,返品に応じてもらうことはできませんか?



回答:
1 一般論としては,商品売買をキャンセルし,代金を返してもらうことは難しいものと思われます。
2 すなわち,原則としては,価格の不平等を理由とした商品売買のキャンセルは認められませんので,売買代金を返してもらって宝石の返品に応じてもらうことはできません。ただし,事案によっては,クーリングオフの適用があります。クーリングオフの適用があれば商品売買をキャンセルし,売買代金を返してもらって宝石の返品に応じてもらえる場合もあります。もっとも,クーリングオフの適用があるかは本件においては微妙ですので,販売業者との交渉が必要になる可能性が高いです。ご自分で手続をされることもできますが,できれば法律の専門家に手続をお願いした方がいいでしょう。
3 商品売買のキャンセルができないにしても,半額で売られていたウェブページの印刷を相手に示して,代金減額のお願い又は何らかのサービスの提供の付加をしてもらえるよう交渉する余地はあります。 
4 クーリングオフ一般について参考となる当事務所事例集として,当事務所事例集1221番,1194番,975番,928番,838番,767番,751番,590番,302番,277番,228番,149番,140番,120番,7番があります。

解説:
1.(クーリングオフ制度の趣旨)
 一度成立した契約は守らなければならないのが民法の原則です。しかし,民法の規定は情報量や交渉力などが対等な当事者間の法律関係を前提としておりますので,このような前提がない取引である場合には,民法の規定をそのまま適用するわけにはいきません。例えば,消費者と業者といった関係で見てみると,情報の質と量や交渉力に格差が生じますので,両者が対等に契約交渉にのぞむことは難しい場合があります。特に訪問販売の場合は消費者と業者の間に商品知識や法知識に圧倒的に差がある上に,不意打ち的に始まった交渉の中で,販売員の巧妙なセールストークが用いられることが多く,さらには高圧的・詐欺的な勧誘をうける場合もあります。このような状況下で成立した契約に民法の原則をそのまま適用するのは問題があります。そこで消費者に冷却期間を認め,もう一度,冷静になって契約を見直す時間を保証する法制度がクーリングオフといえます。

2.(本件宝石売買におけるクーリングオフ制度に関する法令とあてはめに関する私見)
1)本件宝石売買について,特定商取引法(以下,「特商法」といいます。)の適用があれば,同法9条1項により契約の申込みの撤回をすることができます。契約というのは,申込みの意思表示と承諾の意思表示が合致したものをいいますので,申込みの撤回が認められれば申込みの意思表示と承諾の意思表示が合致することはなく,契約がなかったものとすることができるのです。これがいわゆるクーリングオフというものです。
2)ここで,特商法の適用があるかは,取引対象の内容と取引態様に分けて検討する必要があります。

 ア まず取引対象の内容についてですが,これまで訪問販売・電話勧誘販売・通信販売で契約した商品・サービスでも,指定されている商品・サービスのみが規制対象(書面交付・罰則・クーリングオフ)でしたが,法改正によって平成21年12月1日の施行日より,原則,全ての商品・役務が特商法の適用対象となり,必要に応じて適用を除外することになりました。宝石売買について適用除外はありませんので,宝石売買についても特商法の適用があります。

 イ 次に取引態様についてですが,本件取引が「特定商取引」(特商法第1条)にあたること,具体的には,「訪問販売」(同法第1条)にあたることが必要となります。本件における最大の問題は,本件取引が訪問販売にあたるかということです。
   本件で問題となりうる「訪問販売」の定義は,販売業者が営業所,代理店その他の主務省令で定める場所(以下「営業所等」という。)以外の場所において,売買契約の申込みを受けて行う役務の提供というものです(同法2条第1項第1号)。本件では,ホテルの一室での展示会が「営業所等以外の場所」にあたるかが問題となります。

   ここで,ホテルの一室が営業所,代理店にあたらないことは明らかですが,「主務省令で定める場所」にあたるかは悩ましいところです。「主務省令で定める場所」には,一定の期間にわたり,商品を陳列し,当該商品を販売する場所であって,店舗に類するものも含まれます(特定商取引に関する法律施行規則(以下,「省令」といいます。)第1条第4号)。そして平成18年1月30日経済産業省大臣官房商務流通審議官発の通達の「特定商取引に関する法律等の施行について」と題する通達は,店舗に類する場所(省令第1条第4号)についての定義として,「店舗」に類する場所について,「@最低2,3日以上の期間にわたって,A指定商品を陳列し,消費者が自由に商品を選択できる状態のもとで,B展示場等販売のための固定的施設を備えている場所で販売を行うものをいう。」とし,「具体的には,通常は店舗と考えられない場所であっても,実態として展示販売にしばしば利用されている場所(ホテル,公会堂,体育館,集会場等)で前記3要件を充足する形態で販売が行われていれば,これらも店舗に類する場所での販売に該当する。」としております。そのため,実務上は通達の内容に沿って判断されることになります。なお,前述のとおり,指定商品という概念はなくなりましたので,Aの指定商品の部分については現行法に沿って解釈されることになります。

   これを本件にあてはめてみましょう。
ア)まず展示会は2日間開かれたということですから,@を満たします。
イ)また,展示場では各ブースが設けられていたということですから,Bも満たします。
ウ)では,本件はAを満たすでしょうか。
 「消費者が自由に商品を選択できる状態」という文言に照らしますと,展示会場の中で特定の販売業者の販売員が自分のブースに客をエスコートし,他の販売業者のブースに客が移動することを事実上認めないような場合には要件を満たさないものと思われます。
  この点について,平成20年3月28日東京地裁判決は,少なくとも約3年間において9回ホテルで行われた展示会において,販売業者代表取締役が原告を迎えに行って展示会場まで同行し,展示会場のホテル等の中のレストラン等で食事を無料で提供した上で,その後に更に展示会場まで同行した上で展示品を見せ商品を選ばせていたという事案において,単に展示会場への招待状等を受け取って自ら足を運んでいるような事案ではないとして,消費者が自由に商品を選択できる状態にはなかったという理由から,Aの要件を欠くとしました。
  裁判例は特に代表取締役が複数回に渡って同様の行為をしていたことを重視しておりませんので,1回の出来事であってもAを満たさないとされる可能性はあるものと思われます。いずれにせよ,本件が単に友人から招待状をたまたまもらって展示会に行ったというだけではAを満たす可能性が高いですが,販売員に過剰に特定の商品を購入することを勧められ断るにも断り切れないという状況があったとすればAを満たさない可能性があります。その場合には,本件取引は「営業所等以外の場所」によるものといえますので,クーリングオフの対象となります。

3.(クーリングオフの期間)
  特商法第9条第1項は,書面により申込みの撤回ができるとしつつも,申込者等が第5条の書面を受領した日から起算して8日を経過した場合においては,この限りでないと定めています。そのため,一般的にはクーリングオフの期間は8日間といわれます。
  しかしながら,条文上は8日の起算は「第5条の書面を受領した日」からであるとされております。そして,第5条の書面には主務省令で定める事項が記載されていなければならず(特商法第5条第2項),具体的には,@販売業者又は役務提供事業者の氏名又は名称,住所及び電話番号並びに法人にあっては代表者の氏名 A売買契約又は役務提供契約の締結を担当した者の氏名 B売買契約又は役務提供契約の締結の年月日 C商品名及び商品の商標又は製造者名 D商品に型式があるときは,当該型式 E商品の数量 F商品に隠れた瑕疵がある場合の販売業者の責任についての定めがあるときは,その内容 G契約の解除に関する定めがあるときは,その内容 H前二号に掲げるもののほか特約があるときは,その内容(省令4条),法第5条の書面を受領した日から起算して8日を経過するまでは,申込者等は,書面により商品の売買契約の申込みの撤回又はその売買契約の解除を行うことができること(省令第6条一イ)などの記載が必要です。

  このような記載を要求する趣旨は,営業所以外の場所において商品を販売する場合には,販売業者からの積極的な勧誘や販売員が購入者に直接,執拗に説得して販売する販売方法がとられやすく,購入者は自由な意思に基づいて商品を購入することができずに,むしろ購入を断り難い状況に陥りやすいことから,購入者が,販売員の影響から脱した後に,冷静な判断の下で購入の適否を判断し,不要な商品を購入したとの判断に至った場合に容易に売買契約を解除(クーリングオフ)できるように販売業者の氏名や売買契約締結の年月日等を記載した書面を交付させることとしたものです。
  本件では,作成した売買契約書には,法人である販売業者の代表者氏名,売買契約を締結した者の氏名の記載がなく,クーリングオフできる旨の書面の交付もないというのですから,あなたには上記第5条の書面は交付されていないことになります。ですから,8日の起算はなされませんので,事実上クーリングオフの期間制限はないことになります。

4.(クーリングオフの効果)
   クーリングオフをした場合,契約は無効となりますから,契約はなかったものとなります。そのため,業者は,買主から受け取っていた手付金等を速やかに買主に返還しなくてはなりません。もちろん,業者からの損害賠償請求も認められません。
   もっとも,実際には,買主がクーリングオフをしようとしても業者が妨害したりする場合もありますので,ご自身では対応が難しいようでしたら,法律の専門家に相談してみた方がよいでしょう。いずれにせよ,素早い対応を取るべきです。

5. (補論)
   なお、本件では直接問題とはなっておりませんが、例えば、展示会会場では内金として5万円のみを支払い、残金35万円については1週間後に店舗で支払って、その際に宝石を受け取った場合については、別に考える余地があります。
   この場合、展示会会場で契約の申込みがあったとすれば、上記2の2)イの基準によって本件が訪問販売にあたる場合はあるとはいえます。しかし、宝石の代金の9割近くを店舗にて支払っていることから、残金を支払った時点で売買契約の申込みがあったと解される余地があります。また、特商法第9条の趣旨は、訪問販売においては、購入者が受動的な立場におかれ、契約締結の意思形成において販売業者の言質に左右される面が強く、契約締結の意思が不安定なまま契約の申込みや締結に至り、後日履行や解約をめぐって紛争が生じることが少なくないことから、そのような弊害を除去する点にあるわけですが、宝石代金の9割近くを1週間後に払おうとした時点では契約締結の意思が不安定であったと評価できず、特商法の適用を主張することが信義則(民法第1条第2項)に反すると解される余地があります。

6.(暴利行為論、詐欺取消)

 販売業者が顧客によって売買価格を変更させた場合に、高額に買わされた顧客との売買契約が不相当に高額である場合、他の顧客に対する販売価格との差額部分に関して、暴利行為として民法90条に基づいて一部無効主張する方法もあります。適正価格との差額部分が暴利行為として無効になるので、差額部分は業者の不当利得(民法703条)となり、高額に買わされた顧客は、業者に対して不当利得返還請求訴訟を起こすことができるということになります。マンションが22.5パーセント値引き販売された事例に関して、福岡地方裁判所平成13年1月29日判決は、「本件売買契約当時、本件土地付近の地区の他の分譲住宅の譲渡対価に比して本件マンションの譲渡対価が著しく高額であった等の事情も認めるに足りる証拠がない本件においては、本件マンションとその譲渡対価との間に、暴利行為を基礎づける程度の対価的不均衡が生じていたと認めることはできない」と判示しており、逆に言うと、宝石の原価と、販売価格との間に著しい乖離を生じている場合は「対価的不均衡が生じていた」ということで無効となりうると考えることができます。但し、飲食店などで原価率1割程度の営業は常々行われていることであり、対価的不均衡を立証することは通常は極めて困難であると言えるでしょう。

 また、事情によって民法96条1項の詐欺取消しが可能な場合もあります。「詐欺」とは、相手方の欺もう行為により錯誤に陥らせ、それによって意思表示をさせることです。上記の暴利行為論とも議論が重なる部分がありますが、本来価値の無いものを価値があるかのように勧誘し、これを誤信させて契約締結の意思表示をさせる行為が詐欺取消しの対象となります。しかしながら、法律上の詐欺取消が認められるような欺もう行為というのは、正当な取引行為とは言えないような、法律上の保護を与えるに値しないような契約に限って認められますので、通常の宝石販売の場面において「この宝石は価値がありますよ」などと説明して購入させる行為だけでは、取り消しは認められません。典型事例は、ガラスのかけらをダイヤモンドであると説明して高額に売りつける行為があります。これらの規定による法的救済の可能性が無いかどうか、一度弁護士に相談なさってみると良いでしょう。

※参考条文

<特定商取引法>
(目的)
第一条  この法律は,特定商取引(訪問販売,通信販売及び電話勧誘販売に係る取引,連鎖販売取引,特定継続的役務提供に係る取引並びに業務提供誘引販売取引をいう。以下同じ。)を公正にし,及び購入者等が受けることのある損害の防止を図ることにより,購入者等の利益を保護し,あわせて商品等の流通及び役務の提供を適正かつ円滑にし,もつて国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
(定義)
第二条  この章及び第五十八条の四第一項において「訪問販売」とは,次に掲げるものをいう。
一  販売業者又は役務の提供の事業を営む者(以下「役務提供事業者」という。)が営業所,代理店その他の主務省令で定める場所(以下「営業所等」という。)以外の場所において,売買契約の申込みを受け,若しくは売買契約を締結して行う商品若しくは指定権利の販売又は役務を有償で提供する契約(以下「役務提供契約」という。)の申込みを受け,若しくは役務提供契約を締結して行う役務の提供
二  販売業者又は役務提供事業者が,営業所等において,営業所等以外の場所において呼び止めて営業所等に同行させた者その他政令で定める方法により誘引した者(以下「特定顧客」という。)から売買契約の申込みを受け,若しくは特定顧客と売買契約を締結して行う商品若しくは指定権利の販売又は特定顧客から役務提供契約の申込みを受け,若しくは特定顧客と役務提供契約を締結して行う役務の提供
2〜4 (略)  
第五条  販売業者又は役務提供事業者は,次の各号のいずれかに該当するときは,次項に規定する場合を除き,遅滞なく(前条ただし書に規定する場合に該当するときは,直ちに),主務省令で定めるところにより,同条各号の事項(同条第五号の事項については,売買契約又は役務提供契約の解除に関する事項に限る。)についてその売買契約又は役務提供契約の内容を明らかにする書面を購入者又は役務の提供を受ける者に交付しなければならない。
一  営業所等以外の場所において,商品若しくは指定権利につき売買契約を締結したとき又は役務につき役務提供契約を締結したとき(営業所等において特定顧客以外の顧客から申込みを受け,営業所等以外の場所において売買契約又は役務提供契約を締結したときを除く。)。
二  営業所等以外の場所において商品若しくは指定権利又は役務につき売買契約又は役務提供契約の申込みを受け,営業所等においてその売買契約又は役務提供契約を締結したとき。
三  営業所等において,特定顧客と商品若しくは指定権利につき売買契約を締結したとき又は役務につき役務提供契約を締結したとき。
2  販売業者又は役務提供事業者は,前項各号のいずれかに該当する場合において,その売買契約又は役務提供契約を締結した際に,商品を引き渡し,若しくは指定権利を移転し,又は役務を提供し,かつ,商品若しくは指定権利の代金又は役務の対価の全部を受領したときは,直ちに,主務省令で定めるところにより,前条第一号及び第二号の事項並びに同条第五号の事項のうち売買契約又は役務提供契約の解除に関する事項その他主務省令で定める事項を記載した書面を購入者又は役務の提供を受ける者に交付しなければならない。
(訪問販売における契約の申込みの撤回等)
第九条  販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等以外の場所において商品若しくは指定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約の申込みを受けた場合若しくは販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等において特定顧客から商品若しくは指定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約の申込みを受けた場合におけるその申込みをした者又は販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等以外の場所において商品若しくは指定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約を締結した場合(営業所等において申込みを受け,営業所等以外の場所において売買契約又は役務提供契約を締結した場合を除く。)若しくは販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等において特定顧客と商品若しくは指定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約を締結した場合におけるその購入者若しくは役務の提供を受ける者(以下この条から第九条の三までにおいて「申込者等」という。)は,書面によりその売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回又はその売買契約若しくは役務提供契約の解除(以下この条において「申込みの撤回等」という。)を行うことができる。ただし,申込者等が第五条の書面を受領した日(その日前に第四条の書面を受領した場合にあっては,その書面を受領した日)から起算して八日を経過した場合(申込者等が,販売業者若しくは役務提供事業者が第六条第一項の規定に違反して申込みの撤回等に関する事項につき不実のことを告げる行為をしたことにより当該告げられた内容が事実であるとの誤認をし,又は販売業者若しくは役務提供事業者が同条第三項の規定に違反して威迫したことにより困惑し,これらによって当該期間を経過するまでに申込みの撤回等を行わなかつた場合には,当該申込者等が,当該販売業者又は当該役務提供事業者が主務省令で定めるところにより当該売買契約又は当該役務提供契約の申込みの撤回等を行うことができる旨を記載して交付した書面を受領した日から起算して八日を経過した場合)においては,この限りでない。
2  申込みの撤回等は,当該申込みの撤回等に係る書面を発した時に,その効力を生ずる。
3  申込みの撤回等があつた場合においては,販売業者又は役務提供事業者は,その申込みの撤回等に伴う損害賠償又は違約金の支払を請求することができない。
4  申込みの撤回等があつた場合において,その売買契約に係る商品の引渡し又は権利の移転が既にされているときは,その引取り又は返還に要する費用は,販売業者の負担とする。
5  販売業者又は役務提供事業者は,商品若しくは指定権利の売買契約又は役務提供契約につき申込みの撤回等があつた場合には,既に当該売買契約に基づき引き渡された商品が使用され若しくは当該権利の行使により施設が利用され若しくは役務が提供され又は当該役務提供契約に基づき役務が提供されたときにおいても,申込者等に対し,当該商品の使用により得られた利益若しくは当該権利の行使により得られた利益に相当する金銭又は当該役務提供契約に係る役務の対価その他の金銭の支払を請求することができない。
6  役務提供事業者は,役務提供契約につき申込みの撤回等があつた場合において,当該役務提供契約に関連して金銭を受領しているときは,申込者等に対し,速やかに,これを返還しなければならない。
7  役務提供契約又は指定権利の売買契約の申込者等は,その役務提供契約又は売買契約につき申込みの撤回等を行った場合において,当該役務提供契約又は当該指定権利に係る役務の提供に伴い申込者等の土地又は建物その他の工作物の現状が変更されたときは,当該役務提供事業者又は当該指定権利の販売業者に対し,その原状回復に必要な措置を無償で講ずることを請求することができる。
8  前各項の規定に反する特約で申込者等に不利なものは,無効とする。

<特定商取引に関する法律施行規則>

(営業所等)
第一条  特定商取引に関する法律 (以下「法」という。)第二条第一項第一号 の経済産業省令で定める場所は,次の各号に掲げるものとする。
一  営業所
二  代理店
三  露店,屋台店その他これらに類する店
四  前三号に掲げるもののほか,一定の期間にわたり,商品を陳列し,当該商品を販売する場所であって,店舗に類するもの
五  自動販売機その他の設備であって,当該設備により売買契約又は役務提供契約の締結が行われるものが設置されている場所

第四条  法第五条第二項 の経済産業省令で定める事項は,次のとおりとする。
一  販売業者又は役務提供事業者の氏名又は名称,住所及び電話番号並びに法人にあつては代表者の氏名
二  売買契約又は役務提供契約の締結を担当した者の氏名
三  売買契約又は役務提供契約の締結の年月日
四  商品名及び商品の商標又は製造者名
五  商品に型式があるときは,当該型式
六  商品の数量
七  商品に隠れた瑕疵がある場合の販売業者の責任についての定めがあるときは,その内容
八  契約の解除に関する定めがあるときは,その内容
九  前二号に掲げるもののほか特約があるときは,その内容

第六条  法第四条 又は法第五条 の規定により交付する書面に記載する法第四条第五号 に掲げる事項については,次項,第三項及び第五項に規定する場合を除き,次の表の上欄に掲げる区分に応じ,それぞれ同表の下欄に掲げる内容を記載しなければならない。
一 商品の売買契約の申込みの撤回又はその売買契約の解除に関する事項
イ 法第五条の書面を受領した日(その日前に法第四条の書面を受領した場合にあっては,その書面を受領した日)から起算して八日を経過するまでは,申込者等(法第九条第一項の申込者等をいう。以下この条及び第七条の二において同じ。)は,書面により商品の売買契約の申込みの撤回又はその売買契約の解除を行うことができること。
(以下,略)

<平成18年1月30日経済産業省大臣官房商務流通審議官発の通達>

(3) 店舗に類する場所(省令第1条第4号)について
上記の「営業所」,「代理店」,「露店,屋台店その他これらに類する店」は,いずれも,
長期間にわたり継続して販売等の取引を行うための場所を指すものである。これに対して,省令第1条第4号の「一定の期間にわたり,指定商品を陳列し,当該指定商品を販売する場所であって,店舗に類するもの」は,これら以外の比較的短期間に設定されるものを念頭においており,@最低2,3日以上の期間にわたって,A指定商品を陳列し,消費者が自由に商品を選択できる状態のもとで,B展示場等販売のための固定的施設を備えている場所で販売を行うものをいう。
具体的には,通常は店舗と考えられない場所であっても,実態として展示販売にしばしば利用されている場所(ホテル,公会堂,体育館,集会場等)で前記3要件を充足する形態で販売が行われていれば,これらも店舗に類する場所での販売に該当する。
なお,上記3要件はすべて充足されていなければならないのは当然である。例えば,2,3日以上の期間にわたって指定商品を陳列し,販売のための固定的施設を備えている場所において,原則として事業者が指名した者等特定の者のみが入場して販売が行われる事例が見られるが,この場合であっても,その場で販売員が取り囲む等消費者が自由意思で契約締結を断ることが客観的に見て困難な状況の下で販売が行われているときには,消費者が自由に商品を選択できる状態にあるとは言えず,Aの要件を欠くこととなるため,そのような場所は本号にいう「店舗に類する場所」に該当しない。

※裁判例一部抜粋

東京地裁平成20年3月28日判決(判タ1276号323頁)

第3 当裁判所の判断
(被告藤関係)
1 原告の請求原因(1)ないし(4)(各売買契約の成立)は,当事者間に争いがない。
2 上記事実に証拠(〈証拠等略〉)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
(1)被告らは,いずれも着物や宝飾品の販売を業としているものであるが,その販売方法として,ホテルニューオータニや帝国ホテルその他の貸会場を借りて開催されるいわゆる展示会(主催者はそれぞれ別である。)に商品を展示して,顧客を勧誘して来場してもらい,商品を購入してもらう形式の販売を行っていた。
(2)二宮は,従前から,原告の母(一色桃子)に上記の展示会に来場することを勧誘して商品を購入してもらう販売方法で和服等を販売していたが,平成9年頃からは原告にも展示会への来場方を勧誘するようになり,本件証拠上は,平成15年頃以降,本件を含めて少なくとも9回,展示会に参加して和服等を販売したが,その販売方法は,概ね,二宮が車で原告と原告の母を迎えに行って展示会場まで同行し,いったん,展示会場のホテル等の中のレストラン等で食事を無料で提供し,各種のゲーム等をした後,大きなホテルであれば,二宮(もしくは販売関係者)が展示会場まで同行し,小さな料理屋であれば直接食事会場から展示会場に赴いてきてもらい,展示会場内で販売員(マネキン)や二宮が原告や原告の母に展示品(会社毎のブースはない。)を見せ,原告や原告の母が購入する段階になると,その場で,被告藤が提携している補助参加人ライフのクレジット申込書(売買契約を兼ねたもの)に署名押印してもらい,二宮において,原告や原告の母を自宅まで送り届けるというものであった。上記クレジットの申込は,原告が署名押印するだけで,収入,資産等,原告の返済能力を確認する事項の記載には一切記入がなく,補助参加人ライフにおいて,真実,原告がクレジットの申込をしたか否かとか,収入,資産はどの程度かを調査,確認した形跡はない。なお,大きな展示会は信販会社の担当者が常駐している場合があるが,信販会社の担当者がいない場合には二宮ら,被告藤側の担当者が補助参加人ライフのクレジット申込用紙に原告の署名押印をもらっていた(その後,補助参加人ライフ側で原告に対し,クレジット申込意思があるかの確認がされた。)。
2 上記事実関係によれば,本件の各売買がされた場所は,いずれも,法5条1項,省令1条4号の「店舗に類するもの」に該当しないとみるのが相当である。
 その理由は,次のとおりである。すなわち,
(1)法5条1項が,営業所等以外の場所の取引について販売業者に対し,省令4条所定の事項を記載した書面を購入者に交付すべきことを要求したのは,営業所以外の場所において商品を販売する場合には,販売業者からの積極的な勧誘や販売員が購入者に直接,執拗に説得して販売する販売方法がとられやすく,購入者は自由な意思に基づいて商品を購入することができずに,むしろ購入を断り難い状況に陥りやすいことから,購入者が,販売員の影響から脱した後に,冷静な判断の下で購入の適否を判断し,不要な商品を購入したとの判断に至った場合に容易に売買契約を解除(クーリングオフ)できるように販売業者の氏名や売買契約締結の年月日等を記載した書面を交付させることとしたものである(なお,省令6条は同書面にはクーリングオフに関する事項を記載しなければならないとしている。)。
 上記認定のとおり,原告は,販売員である二宮に迎えにきてもらい,展示会場に同行し,食事の提供を受け,その後に商品を選ぶというような形で商品を購入しているのであり,このような販売方法では,原告が商品の購入を断り難くなるのであり(展示会に来場した客の中に購入をしない客がいるからといって,購入者すべてが自由意思で購入したとはいえない。),まして,本件のように,クレジットにより販売することを前提とした場合,原告が,全くなにも購入しないで帰ることには多大な心理的抵抗が生じることは明らかである。
 したがって,このような展示会販売については購入者を保護するために,容易に売買契約を解除(クーリングオフ)できるようにすべき実質的な理由があることはいうまでもない。
(2)次に,省令1条4号は,法2条1項1号の場所として,「一定の期間にわたり,指定商品を陳列し,当該商品を販売する場所であって店舗に類するもの」を掲げ,平成13年5月31日厚生労働省医政局長ほか発の「特定商取引に関する法律等の施行について(通達)」と題する通達は,法2条の定義として,「店舗」に類する場所について,「〔1〕最低二,三日以上の期間にわたって,〔2〕指定商品を陳列し,消費者が自由に商品を選択できる状態のもとで,〔3〕展示場等販売のための固定的施設を備えている場所で販売を行うものをいう。」とし,「具体的には,通常は店舗と考えられない場所であっても,実態として展示販売にしばしば利用されている場所(ホテル,公会堂,体育館,集会場等)で前記三要件を充足する形態で販売が行われていれば,これらも店舗に類する場所での販売に該当する。」としていて,この解釈は首肯できるものであるところ,上記各展示会は,乙イ11,弁論の全趣旨によれば,〔1〕いずれも,少なくとも二日以上は展示会を開催していることが窺われ,〔2〕指定商品を陳列し,〔3〕ホテル(ホテルニューオータニ)の宴会場やそれに類すると思われる場所(ラフォーレミュージアム六本木,山惣,北斗ぴあ)で販売を行っているのであるから,本件の各売買は,形式的には,「店舗」に類する場所において販売がされたものということはできる。
 しかしながら,このような形式的な要件は満たしているとはいえても,上記のとおり,原告は,販売員である二宮に迎えにきてもらい,展示会場に同行し,食事の提供を受け,その後に商品を選ぶというような形で商品を購入しているのであり,単に,展示会へ招待状等を受けとって自ら足を運んでいるとか,食事等(しかも高額の食事代)の接待を受けてはいないとか,販売側のサービスを受けずに自由に商品を選べる状況にある場合とは異なるのである。しかも,原告本人の供述によれば,販売員が試着をすすめ,試着を繰り返しているうちに断り切れない雰囲気になるというのであるから,なおさら自由に商品を選べる状況にあると言い難いところである。そのような状況を考慮すると,「ホテルニューオータニでの売買」,「ラフォーレミュージアム六本木での売買」,「山惣での売買」,「北斗ぴあでの売買」は,いずれも「自由に商品を選択できる状態」ではなかったとみるべきである。
 さらに,本件各売買について,法5条1項の適用があると解しても,格別販売者に困難を強いるものではない。すなわち,甲2の1ないし4,甲4の1は,いずれもクーリングオフができることを前提として「クーリングオフのお知らせ」との表題のもとにクーリングオフの手続について説明を記載しているのであり,同各書面にきちんと記入をすれば,自ずと法5条1項,省令4条所定の事項を記載することになる書式となっているのであるから,販売者側においてこれを遵守することになんらの困難もない。
3 上記認定,判断によれば,各展示会場で売買契約が締結されたことに争いがない「ラフォーレミュージアム六本木での売買」,「山惣での売買」において原告が受領した売買契約書に法5条1項,省令4条所定の事項の記載がないことは当事者間に争いがないから,原告は上記各売買についてクーリングオフができるというべきである。

<暴利行為に関する参考判例、22パーセントのマンション値引き販売の事例>

福岡地裁平成13年1月29日判決「しかしながら、本件土地の取得価格を固定資産税評価額から推認することには一定の限界があり、本件土地取得価格がいくらであるのかは、結局のところ判然としないのみならず、前記一2、5の説示に照らすと、分譲住宅の販売価格が適正なものであるかどうかは、その取得原価との関係で一律に判断し得るものではないと考えられる。
 そして、本件売買契約当時、本件土地付近の地区の他の分譲住宅の譲渡対価に比して本件マンションの譲渡対価が著しく高額であった等の事情も認めるに足りる証拠がない本件においては、本件マンションとその譲渡対価との間に、暴利行為を基礎づける程度の対価的不均衡が生じていたと認めることはできない(なお、右説示は、前記一5中段の説示と実質上同旨の部分を含む。)。
2 次に、原告らは、本件売買契約が、国家に準じる圧倒的な巨大組織である公団から、一消費者、一市民であるところの各原告に対して、譲渡対価等の交渉を全く許さない状況の下に、一方的に契約内容を提示されて締結されたものであることに鑑みれば、公団が、弱者的地位にある原告らの窮迫、軽率、無経験に乗じて契約したものと評価し得る旨主張する。
 しかしながら、前記一4(一)のとおり、住宅分譲が公団が独占的に行っているものではなく、その意味で住宅を購入しようとしている者にとって公団は住宅分譲業者の選択肢の一つであって、各購入者は民間企業等他の分譲業者による住宅分譲と比較、対照しつつ、譲渡対価等の契約条件を十分検討した上自由意思により本件売買契約を締結することができることからすれば、公団が、弱者的地位にある原告らの窮迫、軽率、無経験に乗じて契約したとする原告らの右主張は認めがたいというほかない。
3 以上より、公団が、本件売買契約にあたり自己の給付に比べて著しく不当に大きな財産的利益を反対給付として受け、弱者的地位にある原告らの窮迫、軽率、無経験に乗じて契約したとする原告らの主張には理由がない。」

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