新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1419、2013/02/26 00:00 https://www.shinginza.com/qa-sarakin.htm

【破産・弁護士からの債務整理の受任通知は否認権行使の要件である支払い停止に該当するか・最高裁平成24年10月19日判決】

質問:私は,Yに対し金銭を貸し付けていたところ,先日,Yの代理人という弁護士から,Yの依頼により同人の債務整理を受任した旨の受任通知書が届きました。もっとも,その後,Y本人から貸付金の一部を弁済する旨の申出があったので,私はこれを受けました。しばらくして,裁判所からYにつき破産手続が開始した旨の通知書が届き,さらに破産管財人という人から弁済金相当額の支払を求める通知書が届きました。私が弁済を受けた当時は,先の受任通知書を受領したのみで,かつ,同書面には特に破産を申し立てる予定であるなどの記載はなかったのですが,私は,破産管財人に対し,弁済金相当額を支払わなければならないのでしょうか。



回答:
1.破産手続きが開始された場合,管財人は,破産者が支払不能になった後にした行為は,債権者が,その行為の当時,支払不能であったこと又は支払の停止があったことを知っていた場合,破産手続開始後,破産財団のために否認することができます(破産法162条1項1号イ)。支払の停止があった後は,支払不能であったものと推定されます(同条3項)。
2.ご相談の場合,管財人はYの代理人弁護士からの受任通知を,「支払い停止」と判断し,否認権を行使してYのしたあなたへの返済を否認し,返済としては無効であるから受領した金員の返還を求めているのです。そこで,問題は弁護士からの受任通知が「支払の停止」に当たるか否かという点です。
3.弁護士からの債務整理の受任通知が支払い停止にあたるか否かについて,受任通知の内容や債務者の属性にもよりますが,破産の申立をする,という文言が記載されている場合は当然支払い停止に該当しますし,そのような文言がないとしても,支払能力を欠くために一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないことが,少なくとも黙示的に外部に表示されているような通知書であれば支払い停止に該当するものと判断されます(最高裁平成24年10月19日判決)。ご相談の場合,結論は,具体的な事情によって異なりますが,一般的には支払いの停止,と考えて良いでしょう。
4.関連事例集1360番,1342番,1341番,1282番,1218番,1146番,1068番,1020番,938番,843番,841番,804番,802番,717番,562番,515番,510番,463番,455番,426番,374番,323番,322番,226番,65番,34番,9番参照。     

解説:

(破産法の趣旨)
 解釈の指針となる破産制度の趣旨をまず説明します。破産(免責)とは,支払不能等により自分の財産,信用では総債権者に対して約束に従った弁済ができなくなった債務者の財産(又は相続財産)に関する清算手続きおよび免責手続きをいいますが(破産法2条1項),その目的は,債務者(破産者)の早期の経済的再起更生と債権者に対する残余財産の公正,平等,迅速な弁済の2つです。その目的を実現するため手続きは適正,公平,迅速,低廉に行う必要があります(破産法1条)。なぜ破産,免責手続きがあるのかといえば,自由で公正な社会経済秩序を建設し,個人の尊厳保障のためです(法の支配の理念,憲法13条)。我が国は,自由主義経済体制をとり自由競争を基本としていますから構造的に勝者,敗者が生まれ,その差は資本,財力の集中拡大とともに大きくなり恒常的不公正,不平等状態が出現する可能性を常に有しています。しかし,本来自由主義体制の原点,真の目的は,自由競争による公正公平な社会秩序建設に基づく個人の尊厳保障(法の支配の理念)にありますから,その手段である自由主義体制(法的には私的自治の原則)に内在する公平公正平等,信義誠実の原則(民法1条)が直ちに発動され,不平等状態は解消一掃されなければなりません。
 そこで,法は,なるべく早く債務者が再度自由競争に参加できるように従来の債務を減額,解消,整理する権利を国民(法人)に認めています。したがって,債務整理を求める権利は法が認めた単なる恩恵ではなく,国民が経済的に個人の尊厳を守るために保持する当然の権利です。その権利内容は,債務者がその経済状態により再起更生しやすいように種々の制度が用意されているのです。

 大きく分けると債務者の財産をすべて一旦清算し,残余財産を分配してゼロからスタートする破産 (清算方式の内整理)と,従来の財産を解体分配せずに,従来の財産を利用して再起を図る再生型(再起型内整理,特定調停,民事再生,会社更生法)に分かれます。唯,債権の減縮,免除が安易に行われると契約は守られなければならないという自由主義経済(私的自治の原則)の根底が崩れる危険があり,債務者の残余財産の確保,管理,分配(破産財団の充実)は厳格,公正,平等,迅速低廉に行われます。従って,破産の目的を実現するため破産法上特別な規定を用意しています。破産手続開始決定(破産法30条)があった後は,裁判所が破産債権を調査し(破産法116条),破産管財人が分配の原資となる破産財団を調査し(破産法83条),これを金銭に換価し(破産法184条),配当表(破産法196条)に従って債権者に分配していくというのが手続の原則になります。
 破産債権者としては,債権者集会(破産法135条)に参加し,裁判所が作成する債権者一覧表に異議を出し,破産管財人が作成する破産財団の財産目録や,配当表に記載された債権額などについて異議を述べて公平な分配を求めていくことができます。さらに免責手続きについても意見を陳述することができます(法251条1項)。しかし,分配のもとになる財産(破産財団)の確保が十分でなければ債権者は適正,公平な弁済を受ける機会を事実上失うことになります。そこで,破産法の趣旨から本来自由であるべき破産宣告前でも破産財団の充実確保のため破産者の将来破産財団を形成する財産の処分を一定の要件のもとに制限しています。これが「否認」制度です。以上から,支払い停止という要件の解釈も適正,公平な配当と債務者の再起更生という観点から,破産財団の充実と本来許されるべき債権者の権利行使の利益考量から行われます。

1 破産管財人と否認権
(1) 破産管財人
 破産管財人とは,破産手続において破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利を有する者をいいます(破産法2条12号)。
 裁判所が選任し(同法74条),通常は弁護士の中から選任されます。
 破産管財人は様々な権限を有しますが,その大きなものとして否認権があります。

(2) 否認権
ア 意義
 否認権とは,破産手続開始決定前になされた破産者の行為,またはこれと同視される第三者の行為の効力を覆滅させるものです。否認権は破産管財人に専属します。
イ 類型
 否認権は,大きく詐害行為否認と偏頗行為否認という2つの類型に分けられます。
(ア) 詐害行為否認は,破産者の責任財産を絶対的に減少させる行為(詐害行為)を,債権者を害するような形でした場合に,その効力を覆滅させるものです。これには,@時期を問わず,詐害行為,破産者の害意及び受益者の悪意を要件とする類型(破産法160条1項1号)と,A支払停止・破産手続開始申立て後であること,詐害行為及び受益者の悪意を要件とする類型(同項2号)とがあります。
 なお,詐害行為否認の特則として,相当の対価を得てした財産の処分行為についても,財産種類の変更による隠匿等の処分のおそれ,隠匿等の処分の意思及び相手方の悪意の3要件いずれもがある場合には,否認の対象となります(同法161条1項)。さらに特殊類型として,無償行為否認(同法160条3項)があります。

(イ) 偏頗行為否認は,支払不能・破産手続開始申立てから破産手続開始までの時期に,既存の債務について担保を供与したり債務を消滅させたりする行為をした場合に,その効力を覆滅させるものです。そのような時期に,特定債権者のみを偏って利するような行為をした場合には,破産債権者にとって有害なもの(公平性から許されません。)として否認の対象とするものです。支払不能後又は破産手続開始申立て後であること,既存債務についてされた担保供与又は債務消滅に関する行為であること及び受益者の悪意が要件となります(同法162条1項1号)。
 また,非義務偏頗行為否認という特則もあり,以上のような偏頗行為が破産者の義務に属していないような場合には,支払不能前30日以内の行為であっても否認の対象となります(同項2号)。

2 支払の停止と受任通知
(1) 支払の停止
 支払の停止とは,支払能力を欠くために,弁済期にある債務を一般的かつ継続的に弁済できない旨を外部に表示する債務者の行為をいいます。そして,これは支払不能を推定させる事実とされます(破産法15条2項)。ここで,支払不能とは,債務者が,支払能力を欠くために,その債務のうち弁済期にあるものにつき,一般的かつ継続的に弁済することができない状態(同法2条11号)をいい,破産手続開始の原因とされます(同法15条1項)。
 支払の停止の例としては,手形の不渡り,弁護士からの債務整理の受任通知,夜逃げなどが挙げられます。

(2) 受任通知
ア 支払の停止の例として弁護士からの債務整理の受任通知が挙げられます(前記(1)参照)が,債務整理と一口に言っても,これには破産手続のほか民事再生手続や裁判所外の手続である任意整理も含まれるため,特に債務整理の方針が記載されていないような場合でも,支払の停止に当たるのでしょうか。

イ この点が問題となった事案において,最高裁平成24年10月19日判決は,以下のように述べます。
 「破産法162条1項1号イ及び3項にいう『支払の停止』とは,債務者が,支払能力を欠くために一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないと考えて,その旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為をいうものと解される(最高裁昭和…60年2月14日第一小法廷判決…参照)。
 これを本件についてみると,本件通知には,債務者であるAが,自らの債務の支払の猶予又は減免等についての事務である債務整理を,法律事務の専門家である弁護士らに委任した旨の記載がされており,また,Aの代理人である当該弁護士らが,債権者一般に宛てて債務者等への連絡及び取立て行為の中止を求めるなどAの債務につき統一的かつ公平な弁済を図ろうとしている旨をうかがわせる記載がされていたというのである。そして,Aが単なる給与所得者であり広く事業を営む者ではないという本件の事情を考慮すると,上記各記載のある本件通知には,Aが自己破産を予定している旨が明示されていなくても,Aが支払能力を欠くために一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないことが,少なくとも黙示的に外部に表示されているとみるのが相当である。
 そうすると,Aの代理人である本件弁護士らが債権者一般に対して本件通知を送付した行為は,破産法162条1項1号イ及び3項にいう『支払の停止』に当たるというべきである。」

ウ 本判決は,「本件債務整理開始通知は,その記載内容に照らすと,弁護士が破産申立てを受任した旨の記載はなく,債務の具体的内容や債務整理の方針の記載もないもので,弁護士が債務整理を受任したことを示すにとどまるから,これをもって債務者が資力欠乏のため弁済期の到来した債務について,一般的かつ継続的に弁済をすることができないと考えてその旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為ということはできないというべきである。」と判示した原審(東京高判平22.11.18)を破棄したものです。
 弁護士が債務整理を受任してその通知を出す段階では債務の全体像が明確でなく方針も定まっていないため,その内容は,債務整理受任の報告と,債務者等への連絡及び取立て行為の中止要請にとどまることが多いです。もっとも,債務者が単なる給与所得者である場合は,その多くが清算方向での処理,特に破産の申立てに進むことに鑑みると,債務整理の受任通知は「債務者が,支払能力を欠くために一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないと考えて,その旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為」というのが自然でしょうから,本事案における本判決の結論は相当であるといえます。

 もっとも,須藤正彦裁判官補足意見の「一定規模以上の企業,特に,多額の債務を負い経営難に陥ったが,有用な経営資源があるなどの理由により,再建計画が策定され窮境の解消が図られるような債務整理の場合において,金融機関等に『一時停止』の通知等がされたりするときは,『支払の停止』の肯定には慎重さが要求されよう。…たやすく『支払の停止』が認められると,運転資金等の追加融資をした後に随時弁済を受けたことが否定されるおそれがあることになり,追加融資も差し控えられ,結局再建の途が閉ざされることにもなりかねない。」との悩みを軽視することはできません。債務者の再起更生という観点から注意を促しています。
 弁護士からの債務整理の受任通知は支払の停止に当たると,一般に考えられてきました。しかし,本判決は,受任通知=支払の停止という単純なあてはめで済ますことなく,具体的事情を考慮して結論を導くことにより,むしろ弁護士からの債務整理の受任通知が支払の停止に当たらない場合の可能性を示唆した点に意義があると考えます。

<参考判例>

最高裁平成24年10月19日判決
主文
原判決を破棄する。
被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は,被上告人の負担とする。
理由
上告人の上告受理申立て理由(第4を除く。)について
1 本件は,破産者が破産手続開始の申立て前にした債務の弁済につき,破産管財人である上告人が,破産法162条1項1号の規定により否認権を行使して,当該弁済を受けた債権者である被上告人に対し,弁済金相当額等の支払を求める事案である。争点は,破産者の代理人である弁護士が被上告人を含む債権者一般に対して債務整理開始通知を送付した行為が,破産法162条1項1号イ及び3項にいう「支払の停止」に当たるか否かである。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 東京都の職員であるAは,平成21年1月18日,弁護士法人B法律事務所に対し,債務整理を委任し,同法律事務所の弁護士ら(以下「本件弁護士ら」という。)は,その頃,Aの代理人として,Aに対して金銭を貸し付けていた被上告人を含む債権者一般に対し,債務整理開始通知(以下「本件通知」という。)を送付した。
本件通知には,債権者一般に宛てて,「当職らは,この度,後記債務者から依頼を受け,同人の債務整理の任に当たることになりました。」,「今後,債務者や家族,保証人への連絡や取立行為は中止願います。」などと記載され,Aが債務者として表示されていた。もっとも,本件通知には,Aの債務に関する具体的な内容や債務整理の方針は記載されておらず,本件弁護士らがAの自己破産の申立てにつき受任した旨も記載されていなかった。
(2) Aは,平成21年2月15日から同年7月15日までの間,被上告人に対し,合計17万円の債務を弁済した。
(3) Aは,平成21年8月5日,破産手続開始の決定を受けた。
3 原審は,本件通知を送付した行為は破産法162条1項1号イ又は3項にいう「支払の停止」には当たらないと判断して,上告人の請求を棄却した。
4 しかしながら,原審の上記3の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
破産法162条1項1号イ及び3項にいう「支払の停止」とは,債務者が,支払能力を欠くために一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないと考えて,その旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為をいうものと解される(最高裁昭和59年(オ)第467号同60年2月14日第一小法廷判決・裁判集民事144号109頁参照)。
これを本件についてみると,本件通知には,債務者であるAが,自らの債務の支払の猶予又は減免等についての事務である債務整理を,法律事務の専門家である弁護士らに委任した旨の記載がされており,また,Aの代理人である当該弁護士らが,債権者一般に宛てて債務者等への連絡及び取立て行為の中止を求めるなどAの債務につき統一的かつ公平な弁済を図ろうとしている旨をうかがわせる記載がされていたというのである。そして,Aが単なる給与所得者であり広く事業を営む者ではないという本件の事情を考慮すると,上記各記載のある本件通知には,Aが自己破産を予定している旨が明示されていなくても,Aが支払能力を欠くために一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないことが,少なくとも黙示的に外部に表示されているとみるのが相当である。
そうすると,Aの代理人である本件弁護士らが債権者一般に対して本件通知を送付した行為は,破産法162条1項1号イ及び3項にいう「支払の停止」に当たるというべきである。
5 これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,上記事実関係及び上記4に説示したところによれば,上告人の請求には理由があり,これを認容した第1審判決は正当であるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官須藤正彦の補足意見がある。

裁判官須藤正彦の補足意見は,次のとおりである。
私は法廷意見に賛同するものであるが,判旨の射程に関連して以下のとおり私見を付加しておきたい。
法廷意見は,消費者金融業者等に対して多額の債務を負担している個人や極めて小規模な企業についてはよく当てはまると思われる。このような場合,通常は,専ら清算を前提とし,後に破産手続が開始されることが相当程度に予想されることからもそのようにいえよう。
これに対して,一定規模以上の企業,特に,多額の債務を負い経営難に陥ったが,有用な経営資源があるなどの理由により,再建計画が策定され窮境の解消が図られるような債務整理の場合において,金融機関等に「一時停止」の通知等がされたりするときは,「支払の停止」の肯定には慎重さが要求されよう。このようなときは,合理的で実現可能性が高く,金融機関等との間で合意に達する蓋然性が高い再建計画が策定,提示されて,これに基づく弁済が予定され,したがって,一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないとはいえないことも少なくないからである。たやすく「支払の停止」が認められると,運転資金等の追加融資をした後に随時弁済を受けたことが否定されるおそれがあることになり,追加融資も差し控えられ,結局再建の途が閉ざされることにもなりかねない。反面,再建計画が,合理性あるいは実現可能性が到底認められないような場合には,むしろ,倒産必至であることを表示したものといえ,後日の否認や相殺禁止による公平な処理という見地からしても,一般的かつ継続的に債務の支払をすることができない旨を表示したものとみる余地もあるのではないかと思われる。
このように,一定規模以上の企業の私的整理のような場合の「支払の停止」については,一概に決め難い事情がある。このことは,既に自明のこととも思われるが,事柄の重要性に鑑み,念のため指摘しておく次第である。

<参考条文>

破産法
(定義)
第2条 この法律において「破産手続」とは,次章以下(第12章を除く。)に定めるところにより,債務者の財産又は相続財産若しくは信託財産を清算する手続をいう。
2 この法律において「破産事件」とは,破産手続に係る事件をいう。
3 この法律において「破産裁判所」とは,破産事件が係属している地方裁判所をいう。
4 この法律において「破産者」とは,債務者であって,第30条第1項の規定により破産手続開始の決定がされているものをいう。
5 この法律において「破産債権」とは,破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権(第97条各号に掲げる債権を含む。)であって,財団債権に該当しないものをいう。
6 この法律において「破産債権者」とは,破産債権を有する債権者をいう。
7 この法律において「財団債権」とは,破産手続によらないで破産財団から随時弁済を受けることができる債権をいう。
8 この法律において「財団債権者」とは,財団債権を有する債権者をいう。
9 この法律において「別除権」とは,破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき特別の先取特権,質権又は抵当権を有する者がこれらの権利の目的である財産について第65条第1項の規定により行使することができる権利をいう。
10 この法律において「別除権者」とは,別除権を有する者をいう。
11 この法律において「支払不能」とは,債務者が,支払能力を欠くために,その債務のうち弁済期にあるものにつき,一般的かつ継続的に弁済することができない状態(信託財産の破産にあっては,受託者が,信託財産による支払能力を欠くために,信託財産責任負担債務(信託法(平成18年法律第108号)第2条第9項に規定する信託財産責任負担債務をいう。以下同じ。)のうち弁済期にあるものにつき,一般的かつ継続的に弁済することができない状態)をいう。
12 この法律において「破産管財人」とは,破産手続において破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利を有する者をいう。
13 この法律において「保全管理人」とは,第91条第1項の規定により債務者の財産に関し管理を命じられた者をいう。
14 この法律において「破産財団」とは,破産者の財産又は相続財産若しくは信託財産であって,破産手続において破産管財人にその管理及び処分をする権利が専属するものをいう。
(破産手続開始の原因)
第15条 債務者が支払不能にあるときは,裁判所は,第30条第1項の規定に基づき,申立てにより,決定で,破産手続を開始する。
2 債務者が支払を停止したときは,支払不能にあるものと推定する。
(破産管財人の選任)
第74条 破産管財人は,裁判所が選任する。
2 法人は,破産管財人となることができる。
(破産債権者を害する行為の否認)
第160条 次に掲げる行為(担保の供与又は債務の消滅に関する行為を除く。)は,破産手続開始後,破産財団のために否認することができる。
一 破産者が破産債権者を害することを知ってした行為。ただし,これによって利益を受けた者が,その行為の当時,破産債権者を害する事実を知らなかったときは,この限りでない。
二 破産者が支払の停止又は破産手続開始の申立て(以下この節において「支払の停止等」という。)があった後にした破産債権者を害する行為。ただし,これによって利益を受けた者が,その行為の当時,支払の停止等があったこと及び破産債権者を害する事実を知らなかったときは,この限りでない。
2 破産者がした債務の消滅に関する行為であって,債権者の受けた給付の価額が当該行為によって消滅した債務の額より過大であるものは,前項各号に掲げる要件のいずれかに該当するときは,破産手続開始後,その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分に限り,破産財団のために否認することができる。
3 破産者が支払の停止等があった後又はその前6月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は,破産手続開始後,破産財団のために否認することができる。
(相当の対価を得てした財産の処分行為の否認)
第161条 破産者が,その有する財産を処分する行為をした場合において,その行為の相手方から相当の対価を取得しているときは,その行為は,次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り,破産手続開始後,破産財団のために否認することができる。
一 当該行為が,不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により,破産者において隠匿,無償の供与その他の破産債権者を害する処分(以下この条並びに第168条第2項及び第3項において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
二 破産者が,当該行為の当時,対価として取得した金銭その他の財産について,隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
三 相手方が,当該行為の当時,破産者が前号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。
2 前項の規定の適用については,当該行為の相手方が次に掲げる者のいずれかであるときは,その相手方は,当該行為の当時,破産者が同項第2号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたものと推定する。
一 破産者が法人である場合のその理事,取締役,執行役,監事,監査役,清算人又はこれらに準ずる者
二 破産者が法人である場合にその破産者について次のイからハまでに掲げる者のいずれかに該当する者
イ 破産者である株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者
ロ 破産者である株式会社の総株主の議決権の過半数を子株式会社又は親法人及び子株式会社が有する場合における当該親法人
ハ 株式会社以外の法人が破産者である場合におけるイ又はロに掲げる者に準ずる者
三 破産者の親族又は同居者
(特定の債権者に対する担保の供与等の否認)
第162条 次に掲げる行為(既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為に限る。)は,破産手続開始後,破産財団のために否認することができる。
一 破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした行為。ただし,債権者が,その行為の当時,次のイ又はロに掲げる区分に応じ,それぞれ当該イ又はロに定める事実を知っていた場合に限る。
イ 当該行為が支払不能になった後にされたものである場合 支払不能であったこと又は支払の停止があったこと。
ロ 当該行為が破産手続開始の申立てがあった後にされたものである場合 破産手続開始の申立てがあったこと。
二 破産者の義務に属せず,又はその時期が破産者の義務に属しない行為であって,支払不能になる前30日以内にされたもの。ただし,債権者がその行為の当時他の破産債権者を害する事実を知らなかったときは,この限りでない。
2 前項第1号の規定の適用については,次に掲げる場合には,債権者は,同号に掲げる行為の当時,同号イ又はロに掲げる場合の区分に応じ,それぞれ当該イ又はロに定める事実(同号イに掲げる場合にあっては,支払不能であったこと及び支払の停止があったこと)を知っていたものと推定する。
一 債権者が前条第2項各号に掲げる者のいずれかである場合
二 前項第1号に掲げる行為が破産者の義務に属せず,又はその方法若しくは時期が破産者の義務に属しないものである場合
3 第1項各号の規定の適用については,支払の停止(破産手続開始の申立て前1年以内のものに限る。)があった後は,支払不能であったものと推定する。

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る