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No.1413、2013/02/15 10:33 https://www.shinginza.com/qa-syounen.htm

【生徒に対する行政処分・公立高校の転学命令の効力・退学との関係・対応策・東京地裁平成20年10月17日判決】

質問:私の息子は現在,公立高校1年生(15歳)です。先日,学校の売店のジュースを万引きしたということで、転学を命じられました。息子は今の学校にいたいと言っていますが、無理でしょうか。どのように対応するのが子供のために一番良いのでしょうか。

回答:
1 学校の転学の命令は、転学勧告と言われ強制力はありませんからこれに応じる義務はありません。
2 しかし、転学勧告を単に拒否するだけでは、退学処分を受ける可能性があります。まずは学校側と良く話し合い、問題点を明らかにし学校に対して、在学しながら改善できることを納得してもらうよう努力する必要があります。
3 それでも、学校が転学勧告を撤回しない場合は、退学処分が適法に行われる事案か否かを検討し、退学処分もやむを得ないと判断される場合は転学勧告を受け入れた方が良いでしょう。転校手続きが円滑に行われるからです。しかし、退学処分は重過ぎるということであれば、転学勧告に応じる必要はありません。
4 当面の具体策としては、万引きは窃盗犯ですから、売店側(学校の直接経営か、出入り業者かにより相手側が異なります。)に謝罪して、被害を填補し少年事件になることを回避しなければいけません。学校側に、親権者と共に校内規則、法規遵守の誓約書、謝罪文を提出することが不可欠です。自分でできなければ付添人(弁護士)が必要です。私立高校の場合も同様に考えられます。
5 関連事例集1343番、1325番,1303番,1085番,1102番,1079番,1042番,850番,158番参照。

解説:
1 あなたのお子様が置かれている状況について
(1)ジュースを持ち去った行為について
   あなたのお子様は,売店の店長が管理しているジュースを,店長の意思に反して自己の占有に移しています。かかる行為については,「他人の財物」を「窃取」したものとして,窃盗罪(刑法235条)が成立します。
(2)学校が下した措置について
   本件において,高校側は,「お子さんに転学を申し渡します。」と述べています。かかる措置は転学勧告などといわれています。
   転学勧告は,強制力を伴うものではなく,転学の勧め,要は「転学を行ってはどうか」という高校側からの打診に過ぎません。かかる場合,転学勧告に応じるということであれば,校長先生間で連絡を取り合うなどして学校側が適切な転学先(とはいえ,現在通学中の高校よりは学力が劣る転学先が多いといえます)を提示し,学生は転学試験を受けた上で転学を行う,という流れになることが考えられます。

2 高校の処分に関する一般的説明
(1)処分の根拠
   高等学校においては,私立公立を問わず,学校教育法による規制が及んでおり(学校教育法1条),その中で,懲戒処分に関する規定が定められています。すなわち,学校教育法11条では,「校長及び教員は,教育上必要があると認めるときは,文部科学大臣の定めるところにより,児童,生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし,体罰を加えることはできない。」,そして同施行規則26条1項において,「校長及び教員が児童等に懲戒を加えるに当つては,児童等の心身の発達に応ずる等教育上必要な配慮をしなければならない」と規定しています。ここに,校長先生と教員の懲戒権の根拠を見出すことができます。学校側としては,懲戒処分を行う場合には,「教育上の必要性」という実体要件と,「教育上必要な配慮」を行うという手続要件が課されていることになります。ちなみに,「教員」とは,主幹教諭,指導教諭,教諭,助教諭,養護教諭,養護助教諭,栄養教諭及び講師を意味します(教育職員免許法2条1項)。

   そして,懲戒処分のうち,退学,停学及び訓告を行う権限については,校長にのみ与えられています(学校教育法施行規則26条2項)。これら3つの懲戒処分は,生徒本人の身分に制限を加える重大な処分となるため,学校の責任者たる校長に限り,懲戒権を授権したものと解されます。特に退学を行う場合には,@性行不良で改善の見込がないと認められる者,A学力劣等で成業の見込がないと認められる者,B正当の理由がなくて出席常でない者,C学校の秩序を乱し,その他学生又は生徒としての本分に反した者に対してのみ行えることになっており,要件が限られています(学校教育法施行規則26条3項)。学校の校則によっては,Cを具体化した校則を設けているものも見受けられます。公立小学校や中学校においては,退学処分を行うことはできません(学校教育法施行規則26条3項)。義務教育である以上,当然のことといえます。

   本件のように,高等学校において懲戒処分を行う場合,「教育上必要な配慮」以外に必要な手続要件はありません。各教員が行える懲戒処分(例えば,体罰にあたらない程度であることを前提に,遅刻した生徒に対して居残り清掃をさせる,成績が芳しくない生徒に対して課題を出す等)であれば,基本的には各教員の判断において行うことが可能です。ちなみに,大学の場合は,退学や休学といった学生の在学関係に影響がある事項については,教授会の審議を経る必要がありますが(同施行規則144条),大学以外の学校においてはそのような規定はなく,仮に退学や停学処分を行う場合であっても,職員会議を開くことなく校長の独断により行うことが可能です。ただし,実際の教育現場では,校長が生徒に対して懲戒処分を行う場合には,事前に職員会議を開き,教員らの意見を斟酌する作業が行われていることが一般的であるとされています。生徒を現場で見ているのは校長ではなく各教員らであり,判断に慎重を期すという意味でも,適切な運用実態であると評価できます。

(2)懲戒処分の裁量について
   上記のとおり,高等学校においては,校長及び各教員らには懲戒権が与えられています。懲戒権については,教育上の必要性があれば認められることになりますが,事案に応じて,適切な懲戒処分が選択される必要があります。被処分者たる学生の状況を把握しているのはまさに学校そのものですから,学生に対する校長の懲戒処分については裁量が認められており,「その決定が全く事実上の根拠に基かないと認められる場合であるか、もしくは社会観念上著しく妥当を欠き懲戒権者に任された裁量権の範囲を超えるものと認められる場合を除き、懲戒権者の裁量に任されているものと解するのが相当である。」とされています(最高裁昭和29年7月30日判決,最高裁昭和49年7月19日判決)。   これが,校長の懲戒処分に対する裁判所の一般的な考え方ですが,退学処分に関しては,学校側に裁量があるとしつつも,学生の身分を剥奪する重大な措置であることを理由に,「当該学生に改善の見込みがなく,これを学外に排除することが教育上やむをえないと認められる場合にかぎって退学処分をすべきである」という趣旨から,処分事由を限定的に列挙しており,退学処分を行うに当たっては,他の処分と比較して特に慎重な配慮を要する」とも述べており,退学処分においては裁量の範囲を一定程度制限しているように思われます(最高裁昭和49年7月19日判決)。生徒に対する退学は行政処分の一つですから処分権限者に合理的裁量権が認められその逸脱を制限するという基本的考えがその他の行政処分と同様に取られています。これは、学校運営は国民の信託によるものであり、行政の適正、合理性、教育性、迅速性の表れと評価することができます。

3 あなたが採るべき行動
(1)お子様に対する最適な手段の検討
   まずは,お子様の将来にとってどのような手段が最も適切なのかを,学校,お子様自身,両親,親戚などと話し合うことが大切でしょう。
(2)転学が妥当だという結論に至った場合
   高校側も,転学先の見込みがないにもかかわらず,安易に転学勧告を出すわけではありません。通常,高校間でやり取りを行い,いくつかの転学先候補を用意されていることが多く,転学先は自分で探すようにということはないと思われます。ただし,転学先は,現在通学中の高校よりは学力レベル等環境がおもわしくない可能性が高く,提示された転学先候補が本当にお子様の将来にとって適切な措置なのか,慎重な検討が必要でしょう。
(3)学校に残りたいとの結論に至った場合
 ア 上述のとおり,転学勧告というものはあくまで「転学の勧め」でしかないので,こちら側が応じたくないということであれば拒否することは可能です。学校によっては,転学勧告には強制力がないものであるにもかかわらず,あたかも勧告に従う義務があるかのような前提で話を進めてくる場合があるので,これに惑わされてはいけません。
   ただし,学校,しかも公立高校ということであれば,適切な理由もなく転学勧告を出すなどということは通常は考えにくいところがあります。平常時におけるお子様の学校での生活態度,学校成績等,本件行為以外にも芳しくない行動がないかを検討する必要があります。

 イ ここで,お子様を学校に残したいという結論に至った場合,学校に対して復学したい意向を伝え,転学勧告には応じられない旨の意思表示を行う必要があります。しかし,学校側の心理としては,非違行為があった場合にはまず訓告や停学処分を検討するはずであり,ここで転学勧告を出すということは,学校としては当該学生がその学校に適していない,すなわち学生が学校に残ることには否定的な考え方であることが多いです。そのため,お子様の属性によっては,高校は,転学勧告に応じない場合の予備的措置として退学勧告や退学処分をも検討している可能性が十分に考えられます。

 ウ ここで学校に残らせるために学校と協議する場合において,学校が退学処分をも検討しているか否かは,協議をこちらに有利に進めていくためにはとても大切な事情です。すなわち,退学処分を法律上有効になしえない場合であれば,転学勧告を拒否する場合,学校側としてもどこかの段階で訓戒や停学処分等に切り替えたうえで,最終的には復学を認めざるを得ません。高校側が,違法と分かっていながら,退学処分を行うということは考えにくいです。他方,退学処分を法律上有効になしうる事案であれば,ただ闇雲に勧告を拒否するだけではやがて退学処分へと切り替えられてしまう場合があります。退学処分ということになれば,今後のお子様の人生において大きな傷がつくことになり,さらには退学後に自力で新たな高校を探すことには大きな支障が生じることになります。
   そのため,学校と有利に交渉を進めるためには,まずは法律上退学処分を有効になしうる事案か否かを見極めることが大切であるといえるでしょう。

(4)退学処分を有効になしうるか否かの判断基準
   上述のとおり,最高裁は,学校側の懲戒処分については広範な裁量権を認めていますが,退学処分については裁量があることを認めつつも若干の制約がある,という解釈が可能です。いかなる場合に退学処分が校長の裁量権の範囲を逸脱すると考えているかについては数多く存在する裁判例を検討することが必要ですが,参考までに,下記裁判例をご紹介します。

  ア 東京高裁平成4年3月19日判決(修徳学園事件,違法事案)
    運転免許の取得及びバイク通学が禁止されている私立高校において,@バイク通学を行ったために教師からバイクに乗らないように指導を受ける,A@の指導を受けた後に免許不携帯でバイクに数回乗車する,B両親がバイク禁止の校則を遵守させる旨の誓約を行っている中での非違行為が行われている(両親の監督能力に疑問があるということでしょう),などの事情の下,高校から退学勧告が行われ,それに従わなかったために退学処分がなされた事案です。
    かかる処分に対し裁判所は,両親と実質的な懇談を開いた事情が見受けられないこと,バイクの問題以外に注意を受けたことがないこと,学校への出席状況は悪くなかったこと,免許を学校に任意提出の上バイク自体は処分したこと,などといった事情から,退学処分は違法であると判断しました。

  イ 大阪地裁平成20年9月25日判決(違法事案)
    「明く,浄く,直く」を校訓とする私立女子高校に在籍していた原告が,@被害生徒の頭髪を掴む行為を行った(なお,他の生徒に制止された際,被害生徒の腹を蹴ろうとした。しかし,制止した生徒に引っ張られたため届かなかった),A被害生徒が頭髪を掴まれた際に頭部を机にぶつけられたと教師に証言していることに対し(最終的に,裁判所は頭部をぶつけた事実は認められないと判断しています),「殴っていない」「あの女死ねばいいのに」「被害妄想するな」「お前の顔を見てる方が吐き気する」などとブログに書き込んでいること,B学校指導に反してピアスを装着し,指導を受けた,C携帯電話の持ち込みが禁止されているにもかかわらず携帯電話を持ち込んだ,D学校指定のソックスを着用せずに登校し,生活指導教師が注意をしようとしたところ,その場から逃げだし,その後ようやく指導がなされた,F学業成績がほぼ最下位に近い,などという理由から,退学処分を行った事案です。
    かかる処分に対し裁判所は,懲戒処分に付すこと自体は理由があるとしつつも,@の態様は一方的かつ執拗なものとまでは言えないこと,過去に懲戒処分歴がないこと,過去の指導歴のほとんどが一学年のときのものであること(退学処分は,卒業の3,4か月前に行われました),学力が低いこと等については教育指導を続けることにつき著しい支障が生じるものとは言えない,などという理由から,退学処分は違法であると判断しました。

  ウ 札幌地裁昭和52年8月23日判決(適法事案)
    過去に一度も懲戒処分を受けたことがない原告が,@体育の授業に遅刻したために教師から注意を受け,反抗的態度をとった,A授業態度が悪かったために教師から注意を受けたところ,反抗的態度をとり改めなかった,BAの件につき職員室に呼び出され,再度注意を受けたものの,「自分だけ騒いでいるのではない」などという態度であった,C授業態度が悪いために教師から注意を受けたところ,「勝手だろ。やるか。」などという暴言を吐いた,D乗船実習において,船舶内の食堂冷蔵庫にあった缶ビールを1缶盗んだ,E授業中に教師から受けた注意に対し,「うるさいな。何だこの野郎。何ならやってもいいんだぜ」などという態度をとった,F授業妨害の目的で,教卓をひっくり返したうえで同級生に指示してストーブのデレッキを熱しさせ,同デレッキをひっくり返してある教卓の上に置かせたところ,その後教師が教室に入り教卓を直そうとしたところ,同デレッキを掴み,指に火傷を負った(教師を火傷させる目的の下,行われた行動です。なお,別の日に一度同様のことを企てたものの,デレッキの熱し方が足りずに失敗しています。),などという数多くの行動とったとして,退学処分が行われた事案です。
    かかる処分に対し裁判所は,Fの行為について「教師を侮辱する悪質かつ危険な暴力行為」を主導的に行ったものであること及び原告が学校の内外でも素行が悪いことを理由に,被告が一度も懲戒処分を受けたことがないことを考慮しても,Fが特に悪質性の高い行為だと評価し,やむを得ない結果として退学処分を適法と認めました。このような事案に対しては、早急なる謝罪、被害弁償、規則遵守の誓約書を提出したかどうかも影響するものと考えられます。

  エ 東京地裁平成20年10月17日判決(適法事案)
    私立高校に通う原告が,@修学旅行中に軽トラックから車と家の鍵が付いたキーホルダーを窃取し,A@に対して訓戒及び3日間の停学処分に付された,B校内マラソン大会において,自己のゼッケンと他の生徒のゼッケンを付け替えて参加し(なお,ゼッケンを付け替えた生徒からゼッケンの返還を求められたがこれに応じなかった),CBに対して5日間の停学処分に付すとともに,原告の母からは誓約書を,原告からは反省文を提出させた,Dホームルーム中に教師を蹴ったが,当該教師に対して謝罪をすることはなかった,EDに対して反省が見受けられなければ退学処分に付することを前提とした無期停学処分を行い,FEの約1か月後に退学処分が行われた事案です。
    かかる処分に対し,裁判所は,原告が,1年以内に3回の懲戒処分を受けていること,特にDについては教師に対する一方的な暴行であって悪質であること,その後教師に対する謝罪もないこと(事件後の対策として重要です。),Dの件を両親に報告するように指示を受けていたにもかかわらずそれさえ行っていないこと,などの理由から,退学処分は適法と認めました。

  オ 裁判例の分析
  @事案に応じた判断を行う必要がある
   各裁判例は,「当該学生に改善の見込みがなく,これを学外に排除することが教育上やむをえないと認められる場合」に該当するか否かにつき,個別事案に応じた判断を行っています。そのため,この事実があれば確実に退学処分の適否が決まると,いうメルクマールは存在しません。あくまで,今後,高校として当該学生の指導教育を続けていくことが可能か否かという観点から,個別的な判断が行われていると言えます。
    とはいえ,個別事案において,改善の見込みの有無について,大きく取り上げている事情があるので,以下,説明します。

  A過去に懲戒処分が行われているか否か
   最高裁が述べているのは「改善の見込みがない」というものです。すなわち,「改善の見込みが全くないとは言えない」「改善の見込みがあるのかないのかわからない」といった場合は,退学処分は行えないということになります。この点,退学処分は最も重い処分ですから,高校側としても,まずはそれよりも軽い処分を検討する必要があり,それでは足りないと考えられる場合にのみ退学処分は適法とされます。その判断資料として,過去に訓戒や停学といった退学よりも軽い懲戒処分が行われているか否か,というのは重要な判断要素となります。過去に一度は高校から懲戒処分が下されているにもかかわらず,再度問題を起こしたということであれば,もはや高校側には当該学生を改善する術もなく,退学という最終手段を採らざるをえないという判断が合理的といいやすいです。
    この裏を返せば,一度目の懲戒処分が退学処分という場合,対象行為の違法性が特に高い場合でなければ,退学処分が違法となりやすいということが言えます。違法事案とされたアイは,一度も懲戒処分に付されたことがないケースであり,適法事案とされたエは,過去に2度の懲戒処分を経たにもかかわらず,最後は教師に暴行を働いているものです。ウについては,過去に懲戒処分を経ていないものの,教師に対して火傷を負わせるべく2度も試みるという極めて悪質な行為に出た事案です。

  B処分対象行為について
   対象行為が重ければ重いほど,退学処分が適法となる可能性が高まることは当然のことです。
   この点,法律上,教員に懲戒権が与えられているとおり,高校生活においては,教員の指導の下で生活を行う必要があります。そのため,かかる教員に対する暴行行為については,特に重く判断される傾向があると考えてよいと思います。同じ暴行内容の場合,クラスメイトに対するものと,教員に対するものでは,後者の場合の方が重く判断されると言えます。
   また,バイク通学や指定の服装の未着用などのように,法律には違反していないものの,校則では禁じられているといった行為については,退学処分を直ちに適法と基礎づけるものとは言い難く,まずは生活指導や軽微な懲戒処分に付することが相当であると思われます。

  C保護者の対応について
   「改善の見込み」があるか否か,というのが退学処分の適法性のメルクマールです。その一要素として,当該学生の家庭環境,すなわち,保護者が当該学生の更生に向けてどれだけ真摯な姿勢を見せているか,というのも,退学処分の適法性を判断するにおいて,多少影響を及ぼす事情であると思われます。また,Aとも関連し,一度は保護者と教員らの面談の場が設けられていたか,という点も,一つポイントとなると思われます。具体的には、謝罪文、誓約書等の提出ということになります。

  D学業成績について
   「改善の見込み」という観点からすれば,学業成績は,良いに越したことはないでしょうが,進級する余地がないというレベルのものではない限り,退学処分の有効性に対してあまり影響を与えるものではないと思われます。

  カ 本件事案について
    過去の裁判例を見る限り,あなたのお子様は,過去に一度も懲戒処分を受けたことがなく,処分対象行為も窃盗という法律違反行為とはいえ,一瞬の気の迷いで100円のジュースを領得したにとどまることからすれば,まずは生活指導又は退学処分以外の懲戒処分に付することが相当だと思われます。今後,ご両親の真摯な対応(誓約書提出、被害弁償等)やお子様の反省文の提出など,事件後の早急なる対応、協議により更に情状をよくすることは可能ですので,ぜひとも続けるべきです。場合によって付添人との協議が必要です。
    すなわち,本件は有効に退学処分を行える事案ではないと思料されます。そのため,今後,転学勧告を拒否し,高校側と協議を続けていけば,高校としては復学を認めざるを得ない状況になると思われます。ただし,高校も考えもなしに転学勧告を行っているはずがありませんし,一度,職員会議で決定した処分を覆すのは手続き上も容易ではありません。学校側と協議するにおいても,とにかく転学したくないという頑なな態度をとるのではなく,学校側の言い分に対しても真摯に耳を傾けつつ,何がお子様の将来にとってベストなのか,検討する必要があるでしょう。お困りの時は是非専門的弁護士にご相談ください。

【参考条文】

<学校教育法>
第一条  この法律で,学校とは,幼稚園,小学校,中学校,高等学校,中等教育学校,特別支援学校,大学及び高等専門学校とする。
第十一条  校長及び教員は,教育上必要があると認めるときは,文部科学大臣の定めるところにより,児童,生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし,体罰を加えることはできない。

<学校教育法施行規則>
第二十六条  校長及び教員が児童等に懲戒を加えるに当つては,児童等の心身の発達に応ずる等教育上必要な配慮をしなければならない。
○2 懲戒のうち,退学,停学及び訓告の処分は,校長(大学にあつては,学長の委任を受けた学部長を含む。)が行う。
○3 前項の退学は,公立の小学校,中学校(学校教育法第七十一条 の規定により高等学校における教育と一貫した教育を施すもの(以下「併設型中学校」という。)を除く。)又は特別支援学校に在学する学齢児童又は学齢生徒を除き,次の各号のいずれかに該当する児童等に対して行うことができる。
一  性行不良で改善の見込がないと認められる者
二  学力劣等で成業の見込がないと認められる者
三  正当の理由がなくて出席常でない者
四  学校の秩序を乱し,その他学生又は生徒としての本分に反した者
○4 第二項の停学は,学齢児童又は学齢生徒に対しては,行うことができない。
第百四十四条  学生の入学,退学,転学,留学,休学及び卒業は,教授会の議を経て,学長が定める。

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