新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1384、2012/12/06 10:45 https://www.shinginza.com/qa-seikyu.htm

【民事・支払督促に対する異議申し立て・最高裁昭和36年6月16日判決】

質問:私は以前,ある消費者金融会社からお金を借りていました。借りた分のお金は全部返済したはずなので,ずっと支払いをせずにいましたが,昨日,簡易裁判所から,その消費者金融会社から申し立てられたということで支払督促という名前の書面が送られてきました。借りたお金は返済したはずなので,この支払督促は特に対応しなくても大丈夫でしょうか。

回答:
1.支払督促は,債権者(本件では消費者金融会社)の主張が記載されているにすぎないものです。
2.しかし,これに反論せずに放置しておくと,支払督促の内容が正しいことを前提とし,債権者に対して,債務者(本件ではあなた)の財産に強制執行できる権利が付与されることになってしまいます。
3.したがって,支払督促の内容に間違いがあるのであれば,督促異議を申し立てて,債権者の主張にしっかり反論する必要があるといえます。
4.とりあえず,書面が送られてきた簡易裁判所に書面を持参して相談するのが良いでしょう。日中は仕事で裁判所に行けないという場合は法律事務所に相談することも可能です。
5.関連事例集論文988番、746番、151番参照。


解説:
1 支払督促とは
(1)支払督促の意義
 支払督促とは,金銭の支払等を目的とする請求について,債権者の申立てにより裁判所の書記官が発する督促(民事訴訟法(以下「法」といいます。)382条本文),督促手続というものの一環として行われています。
 この督促手続とは,金銭の支払等を目的とする請求権に関し,債権者の主張を債務者が争わないことを根拠に,その実質的審理を経ないで,簡易迅速かつ経済的に債権者に債務名義(強制執行をするための根拠)を取得させる略式手続のことをいいます。督促手続を利用し,相手方が争わない場合には,訴訟によらなくても簡易迅速に強制執行を実現できる債務名義を獲得できることになります(民事執行法22条4号参照)。
 あなたが受けた支払督促は,消費者金融会社の主張のみが記載されており,裁判所がその内容を証拠等をもとに精査して認めたものではありません。ただ,債権者の申立書に記載されたことが事実とするなら債権があると判断しただけです。しかし,支払督促を放置してしまうと,以下で述べますように,支払督促による強制執行の可能性が発生してしまいます。

(2)支払督促による執行の可能性
 支払督促の申立書を審査して適式なものと認めたときは,裁判所の書記官が,審尋(債務者の言い分を聞く手続)をすることなく,支払督促を発付します(法386条1項)。その後,支払督促は債務者にその正本が送達されることになります(法388条2項)。
 債務者に対して支払督促の送達があってから,債務者からの異議の申し立てがないまま2週間が経過しますと,債権者は支払督促に仮執行宣言を付するよう申し立てることができます(法391条1項本文)。仮執行宣言が発付されたときは,支払督促に対して執行力が付与されることになりますので,債務者の有する財産に対して強制執行がされる可能性が発生することになります。
 あなたに送られてきた支払督促も,2週間(正確には郵便を受け取った翌日から14日間)が経過すると,消費者金融会社が仮執行宣言を付するように申立てをする可能性があり,この仮執行宣言が付されますと,あなたの財産に強制執行を行う執行力が認められることになってしまいます。支払督促に異議申立てがないと,支払督促は確定判決と同一の効力を有することになりますので(法396条),理由のないと思われる支払督促に対しては,自らの反論を行うことが必要不可欠です。

2 督促異議を行う必要性
(1)督促異議の意義
 では,支払督促に対してはどのように反論すればよいのでしょうか。
 債務者は,支払督促に対して,これを発した裁判所書記官の所属する簡易裁判所に不服申立てすることができることとされています(法386条2項)。この申立てを「督促異議」といいます。

(2)督促異議の効果
ア 仮執行宣言前の督促異議
 債務者が,仮執行宣言前に適法な督促異議の申立てをすると,支払督促は,その督促異議の限度で効力を失うことになります(法390条)。
 ただ,督促異議を出せば終わるというわけでもありません。適法な異議申立てがあったときは,督促手続から通常訴訟に移行することになります(法395条)。すなわち,督促異議は,督促手続を排除して,通常訴訟による審判を求める旨の債務者の対抗手段となりますが,逆にいえば,通常訴訟の中で支払督促の内容の当否について審理されることになるのです。
 督促異議が申し立てられますと,簡易裁判所は異議申し立ての適否を調査します。督促異議の申立てが不適法であると認めるときは,決定でこれを却下されてしまいます。不適法となる場合は主に2週間という期間が経過してしまった場合と考えられます。通常は期間内に,裁判所から送られてきた書面に同付されている督促異議申立書に必要事項を記載して署名捺印して裁判所に提出すれば不適法として却下されることはありません。心配であれば裁判所に持参して,受け付けの担当書記官に間違いがないことを確認して提出するのが良いでしょう。

イ 仮執行宣言後の督促異議
 仮執行宣言が付された支払督促に対しても,一定の場合には督促異議を申し立てることができます。この場合,送達後2週間の不変期間内に督促異議の申立てをすることができますが,これを経過したときは申し立てることができないことになり支払督促は確定します(法393条)。
 ただ,仮執行宣言後に適法な異議を申し立てると支払督促の確定は阻止されますが,仮執行宣言の執行力が当然に失効するわけではなく,執行停止の裁判(法403条1項3号,4号)を求める必要がありますので,注意が必要です。支払督促は確定せず,通常訴訟の手続きに移りますが,仮執行宣言により支払督促は確定しなくても執行力があることになり,強制執行が可能となってしまうのです。

(3)通常訴訟移行後の手続
 適法な異議により,支払督促の申立ては訴えの提起とみなされることになります。督促手続とその後の訴訟手続とは連続した一体的な手続といえます。通常訴訟における審判の対象は,支払督促に記載されていた本来の請求の当否であって,督促異議の当否ではありません。ただし,仮執行宣言後の場合には,仮執行宣言付支払督促という債務名義がすでに存在していることが考慮されますので,これが支払督促と符合しないときは,請求の当否だけでなく,仮執行宣言付支払督促の全部又は一部について取消し,変更が宣言されることになります(最高裁昭和36年6月16日判決)。
 通常訴訟に移行したときには,すでに訴状が提出されているのと同じ状態ですから,後日裁判所から裁判の期日を指定する書面が郵送されます。また,裁判所からの郵便物には訴状に代わる準備書面という書面が同封され,それに対する答弁書を提出するように指示する書面が同封されています。督促異議を申し立てた債務者は,通常訴訟では被告と呼ばれます。裁判の期日が開かれる1週間前を目安に,通常の訴訟と同様,答弁書を提出しておく方がよいと考えられます。答弁書には,支払督促に記載されている請求の趣旨に対する答弁,請求の原因という項目にある事実の認否(当該事実の存在を認めるのか,否認するのか)に加え,自らの主張をまとめた被告の主張を記載することが望ましいです。
 なお,答弁書は第1回目の裁判の当日に裁判所に持参してい提出することも可能ですが,万一のことを考え事前に裁判所に提出しておいた方が良いでしょう。答弁書も出さずに裁判を欠席すると欠席判決といって1回目の裁判で終結し次回判決ということもありますから注意が必要です。

(4)本件における対応
 あなたの場合,支払督促が到着したばかりなので,支払督促に記載されている請求について疑問があれば,支払督促を発した裁判所書記官が所属する簡易裁判所に対し,早急に督促異議を申し立てる必要があります。仮執行宣言が付されてしまうと,督促異議のほかに執行停止の裁判を求める必要も生じますので,仮執行宣言が付される前の2週間以内に,督促異議を申し立てる方がよいと思われます。
 督促異議後は通常訴訟となりますので,請求の当否について法律的に主張する必要が生じます。あなたの場合,借りたことに間違いはないということであれば,消費者金融会社とすれば,契約書等の証拠書類は準備されているでしょうから,あなたが弁済をしたという事実(これを「抗弁」といいます。)を主張立証する必要があります。領収書や銀行の送金の記録等証拠として提出する必要があります。
 このように請求内容について法律的な反論を行う必要がある場合も多いことから,支払督促が送られてきた場合には,督促異議後の見込み等も含めてアドバイスを聞いた方がよいので,お近くの弁護士に相談されることが望ましいと思われます。

<参考文献>

裁判所職員総合研修所監修『民事訴訟法講義案(改訂補訂版)』司法協会
鬼追明夫・加島宏監修『書式と理論で民事手続(新版)』日本評論社

<参考条文>

民事訴訟法
(支払督促の要件)
第三百八十二条  金銭その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求については,裁判所書記官は,債権者の申立てにより,支払督促を発することができる。ただし,日本において公示送達によらないでこれを送達することができる場合に限る。(支払督促の申立て)
第三百八十三条  支払督促の申立ては,債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に対してする。
2  次の各号に掲げる請求についての支払督促の申立ては,それぞれ当該各号に定める地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に対してもすることができる。
一  事務所又は営業所を有する者に対する請求でその事務所又は営業所における業務に関するもの 当該事務所又は営業所の所在地
二  手形又は小切手による金銭の支払の請求及びこれに附帯する請求 手形又は小切手の支払地
(訴えに関する規定の準用)
第三百八十四条  支払督促の申立てには,その性質に反しない限り,訴えに関する規定を準用する。
(支払督促の発付等)
第三百八十六条  支払督促は,債務者を審尋しないで発する。
2  債務者は,支払督促に対し,これを発した裁判所書記官の所属する簡易裁判所に督促異議の申立てをすることができる。
(支払督促の送達)
第三百八十八条  支払督促は,債務者に送達しなければならない。
2  支払督促の効力は,債務者に送達された時に生ずる。
3  債権者が申し出た場所に債務者の住所,居所,営業所若しくは事務所又は就業場所がないため,支払督促を送達することができないときは,裁判所書記官は,その旨を債権者に通知しなければならない。この場合において,債権者が通知を受けた日から二月の不変期間内にその申出に係る場所以外の送達をすべき場所の申出をしないときは,支払督促の申立てを取り下げたものとみなす。
(仮執行の宣言前の督促異議)
第三百九十条  仮執行の宣言前に適法な督促異議の申立てがあったときは,支払督促は,その督促異議の限度で効力を失う。
(仮執行の宣言)
第三百九十一条  債務者が支払督促の送達を受けた日から二週間以内に督促異議の申立てをしないときは,裁判所書記官は,債権者の申立てにより,支払督促に手続の費用額を付記して仮執行の宣言をしなければならない。ただし,その宣言前に督促異議の申立てがあったときは,この限りでない。
2  仮執行の宣言は,支払督促に記載し,これを当事者に送達しなければならない。ただし,債権者の同意があるときは,当該債権者に対しては,当該記載をした支払督促を送付することをもって,送達に代えることができる。
3  第三百八十五条第二項及び第三項の規定は,第一項の申立てを却下する処分及びこれに対する異議の申立てについて準用する。
4  前項の異議の申立てについての裁判に対しては,即時抗告をすることができる。
5  第二百六十条及び第三百八十八条第二項の規定は,第一項の仮執行の宣言について準用する。
(仮執行の宣言後の督促異議)
第三百九十三条  仮執行の宣言を付した支払督促の送達を受けた日から二週間の不変期間を経過したときは,債務者は,その支払督促に対し,督促異議の申立てをすることができない。
(督促異議の却下)
第三百九十四条  簡易裁判所は,督促異議を不適法であると認めるときは,督促異議に係る請求が地方裁判所の管轄に属する場合においても,決定で,その督促異議を却下しなければならない。
2  前項の決定に対しては,即時抗告をすることができる。
(督促異議の申立てによる訴訟への移行)
第三百九十五条  適法な督促異議の申立てがあったときは,督促異議に係る請求については,その目的の価額に従い,支払督促の申立ての時に,支払督促を発した裁判所書記官の所属する簡易裁判所又はその所在地を管轄する地方裁判所に訴えの提起があったものとみなす。この場合においては,督促手続の費用は,訴訟費用の一部とする。
(支払督促の効力)
第三百九十六条  仮執行の宣言を付した支払督促に対し督促異議の申立てがないとき,又は督促異議の申立てを却下する決定が確定したときは,支払督促は,確定判決と同一の効力を有する。
第八編 執行停止
(執行停止の裁判)
第四百三条  次に掲げる場合には,裁判所は,申立てにより,決定で,担保を立てさせて,若しくは立てさせないで強制執行の一時の停止を命じ,又はこれとともに,担保を立てて強制執行の開始若しくは続行をすべき旨を命じ,若しくは担保を立てさせて既にした執行処分の取消しを命ずることができる。ただし,強制執行の開始又は続行をすべき旨の命令は,第三号から第六号までに掲げる場合に限り,することができる。
一  第三百二十七条第一項(第三百八十条第二項において準用する場合を含む。次条において同じ。)の上告又は再審の訴えの提起があった場合において,不服の理由として主張した事情が法律上理由があるとみえ,事実上の点につき疎明があり,かつ,執行により償うことができない損害が生ずるおそれがあることにつき疎明があったとき。
二  仮執行の宣言を付した判決に対する上告の提起又は上告受理の申立てがあった場合において,原判決の破棄の原因となるべき事情及び執行により償うことができない損害を生ずるおそれがあることにつき疎明があったとき。
三  仮執行の宣言を付した判決に対する控訴の提起又は仮執行の宣言を付した支払督促に対する督促異議の申立て(次号の控訴の提起及び督促異議の申立てを除く。)があった場合において,原判決若しくは支払督促の取消し若しくは変更の原因となるべき事情がないとはいえないこと又は執行により著しい損害を生ずるおそれがあることにつき疎明があったとき。
四  手形又は小切手による金銭の支払の請求及びこれに附帯する法定利率による損害賠償の請求について,仮執行の宣言を付した判決に対する控訴の提起又は仮執行の宣言を付した支払督促に対する督促異議の申立てがあった場合において,原判決又は支払督促の取消し又は変更の原因となるべき事情につき疎明があったとき。
五  仮執行の宣言を付した手形訴訟若しくは小切手訴訟の判決に対する異議の申立て又は仮執行の宣言を付した少額訴訟の判決に対する異議の申立てがあった場合において,原判決の取消し又は変更の原因となるべき事情につき疎明があったとき。
六  第百十七条第一項の訴えの提起があった場合において,変更のため主張した事情が法律上理由があるとみえ,かつ,事実上の点につき疎明があったとき。
2  前項に規定する申立てについての裁判に対しては,不服を申し立てることができない。
(原裁判所による裁判)
第四百四条  第三百二十七条第一項の上告の提起,仮執行の宣言を付した判決に対する上告の提起若しくは上告受理の申立て又は仮執行の宣言を付した判決に対する控訴の提起があった場合において,訴訟記録が原裁判所に存するときは,その裁判所が,前条第一項に規定する申立てについての裁判をする。
2  前項の規定は,仮執行の宣言を付した支払督促に対する督促異議の申立てがあった場合について準用する。
(担保の提供)
第四百五条  この編の規定により担保を立てる場合において,供託をするには,担保を立てるべきことを命じた裁判所又は執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所にしなければならない。
2  第七十六条,第七十七条,第七十九条及び第八十条の規定は,前項の担保について準用する。

民事執行法
(債務名義)
第二十二条  強制執行は,次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。 一  確定判決
二  仮執行の宣言を付した判決
三  抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては,確定したものに限る。)
三の二  仮執行の宣言を付した損害賠償命令
四  仮執行の宣言を付した支払督促
四の二  訴訟費用若しくは和解の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分又は第四十二条第四項に規定する執行費用及び返還すべき金銭の額を定める裁判所書記官の処分(後者の処分にあつては,確定したものに限る。)
五  金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で,債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)
六  確定した執行判決のある外国裁判所の判決
六の二  確定した執行決定のある仲裁判断
七  確定判決と同一の効力を有するもの(第三号に掲げる裁判を除く。)

<参考判例>

最判昭和36年6月16日
おもうに,仮執行宣言付支払命令に対する異議は,仮執行宣言前の支払命令に対する異議と同様,単に督促手続を排し通常訴訟手続による審判を求めるものと解すべきであるから,異議申立により移行した訴訟においては督促手続におけると同一の請求についてその当否を審判すべきものである。ただ,督促手続とその後の通常訴訟とは一体をなすものであり,また仮執行宣言付支払命令については民訴四三七条のような規定がないから,同法一九八条の適用等の関係上通常訴訟においてなさるべき判決において仮執行宣言付支払命令の取消,変更または認可を宣言するのが相当である。
 本件一審判決をみるに,請求の当否について審判していることは明らかであるが,単に請求どおりの給付を命ずるのみで仮執行の宣言をしていないところからみて,さきになされた仮執行宣言付支払命令はこれを取消す趣旨であると解すべく,また原判決は右の趣旨の一審判決を維持して控訴を棄却したものと解される。 
 しからば,本件においては所論のように二個の債務名義が重複して存在することはなく,所論は結局右と異る見解に立脚して原判決の違法を主張するものであつて採用できない。


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