警察による保護の違法性|保護の要件および所持品検査の可否

行政警察活動|警察官は、犯罪行為が行われていなくても身体拘束・所持品検査をすることができるか|保護(警察官職務執行法3条)の要件|大阪地裁平成5年7月12日判決

質問

深夜、飲食店でお酒に酔って店員と言い争いになり、暴れていたら警察を呼ばれました。酔っていたのでよく覚えていませんが、気づいたら警察官数名に無理やりパトカーに乗せられ、そのまま警察署まで連行されました。

その後何時間も帰してもらえず、持ち物も一度取上げられて中身を調べられました。お財布の中身まで出された形跡があります。

このようなことは、違法ではないのですか。

回答

1 警察署に連れて行かれたことは、警察官職務執行法3条の「保護」として、適法と思われます。保護の目的を達成するため、必要な限度の有形力を行使すること(パトカーに同乗させる行為)や、危険物の所持の有無や身元を確認するため所持品の検査をすること、貴重品の紛失損壊を防ぐために一次預かりをすることも、適法です。ただ拘束時間は原則24時間(但し、やむを得ない場合裁判官の許可状があれば延長も可能。最大5日。)を超えることができませんから、帰宅を許されないようであれば、家族を通じ弁護人の依頼を行ってください。通常家族の身元引受があれば帰宅を許されるでしょう。

2 泥酔の場合は、拘束後通常12時間乃至15時間程度経過すれば、身柄解放の必要があるでしょう。

3 その他関連する事例集はこちらをご覧ください。

解説

1 警察官職務執行法

警察は、個人の生命・身体・財産の保護、犯罪の予防・捜査、交通取締その他公共の安全と秩序の維持に当たることをその責務としています(警察法2条1項)。このような活動は、ときに国民の権利や自由とぶつかり合うことが避けられませんが、ぶつかり合う場合には必ず適正な法律の根拠が必要です。

憲法31条、適正手続の保障は、制度趣旨から刑事裁判だけでなくその捜査段階にも及びます。自由主義国家は、法の支配の理念から近代立憲主義(三権分立、基本的人権保障、法治主義)により成り立っており、刑事事件における生命、人身の自由は必要不可欠のもので適正手続の保障は理論的に当然の規定です。国民は、本来生まれながらに自由であり、その制限は自ら選んで立法府による適正な法律によらなければ制限されません。その趣旨に従い、犯罪の嫌疑のある者を逮捕すること(刑事訴訟法199条1項)や、証拠物を差し押さえること(同法218条1項)などは、いずれも法律の規定に厳格に則って行われます。刑事訴訟法は、犯罪捜査のための各種強制的手段とその要件を詳細に法定しています。

一方、特定の犯罪が発生している場合に限らなくても、警察官がその職務を適切に遂行するため、一定の範囲で、国民の権利や自由を制限する行為が必要となることがあります。そのような行為を予め法律で定めたのが、警察官職務執行法であるといえます(警職法1条)。生命、人身の自由は、犯罪の場合に限らず、適正な法律によらなければ制限されませんから、警察官職務執行法も内容において当然適正なものでなければいけません。従って、当該条文の解釈、および該当性があるかどうかは条文の趣旨、当該行為の態様、場所、時間、当事者の言動等から総合的に判断することになります。

警察官職務執行法が定めるのは、職務質問(同法2条)、保護(3条)、避難等の措置(4条)、警告・制止(5条)、立入り(6条)、武器の使用(7条)があります。いずれも、高度の緊急性があって直ちに目的を実現する必要が高いという特徴があります。 ここでは、同法3条の保護の制度を説明します。

2 保護

警職法3条により、一定の場合に市民を「保護」することができます。保護とは対象者を一時的に警察署や病院等の安全な場所に移動させ隔離することで、その目的は、自傷他害を防止して公共の安全と個人の生命・身体・財産を守ることです。保護の要件がある場合、保護することは警察官の権限であると同時に、職務でもあります(3条1項)。

保護の要件は、①異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して下記2類型のいずれかに該当することが明らかであり、かつ、②応急の救護を要すると信ずるに足りる相当な理由のあることです。実際は、①の要件がある場合、②の要件もあると判断されることが多いと思われます。

類型1:精神錯乱又は泥酔のため、自己又は他人の生命、身体、財産に危害を及ぼすおそれのある者

類型2:迷い子、病人、負傷者等で適当な保護者を伴わず、応急の救護を要すると認められる者(本人がこれを拒んだ場合を除く。)

類型1の泥酔とは、医学的な意味での泥酔と異なり、社会通念上、深酔いしている状態で、正常な判断能力や意思能力を欠く程度の状態であれば足りると解されています(大阪地裁平成5年7月12日判決)。

本件では、深夜に飲酒し、警察が来た時の状況もよく記憶していないほど酒に酔っていたようですので、泥酔の状態にあったと考えられます。また、店員と言い争ったり、店内で暴れるなど、自傷他害の危険も認められる状況だったと思われます。したがって、保護の要件は満たしていたと考えられ、警察署に連れて行かれたことは適法です。

3 保護に伴う有形力行使

保護に際して、一切の有形力行使が許されなかったとしたら、たとえば公共の場で暴れる異常者を取り押さえることもできず、保護の制度はその意味を失ってしまいます。そこで、保護に際しては、自傷他害の防止という目的を達成するため、必要最小限度の有形力の行使は許されると解されます。

たとえば、言うことを聞かない要保護者を殴りつけて従わせるようなことは、必要な限度を超えており、違法となりますが(東京高等裁判所昭和56年2月19日判決)、足取りの覚束ない泥酔者の両脇を警察官二人で支え、パトカーに乗せる程度の有形力の行使は、適法と考えられます(大阪地裁平成5年7月12日判決)。

4 所持品の検査等

警察官は、保護を行った場合、速やかに家族等に連絡し、引き取りの手配をしなければなりません(警職法3条2項)。そのためには、本人の氏名や住所等を知り、家族の連絡先を調べなければなりません。本人が任意にこれらを明らかにできる状態に無い場合、所持品の中からこれらが判明する場合が多いので、必要な限度で所持品の検査をすることは許されると考えられます。

また、本人の状態によっては、刃物や劇物等の危険物の所持が疑われる場合もあり、そのような場合には所持品を検査して一時的に取り上げる等の措置をしなければ、保護の目的が達成できない場合もありえます。したがって、危険防止の目的での所持品検査も、必要な限度で許されると考えられます。

一方、現金や宝飾品等の貴重品は、他人に奪われたり、損壊してしまうおそれがあり、これも要保護者に代わって一次的に保管してやることが財産保護の見地から必要となることもあります。

保護を実施する上で必要となるこれらの措置は、法律では規定されていませんが、各都道府県の訓令等の形で、運用上ルール化されています。東京都の訓令を掲載しますので、参考にご覧ください。

以上

関連事例集

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参考条文

判例

参照判例
大阪地裁平成5年7月12日判決

『法三条一項一号にいう「でい酔」とは、医学的な意味での「でい酔」とは異なり、社会通念上深酔いした状態と認められ、正常な判断能力、意思能力を欠く程度に酔った状態であれば足りると解されるところ、前記認定の事実に照らせば、原告は、保護開始当時、「でい酔」していたものであり、同条一項一号の「でい酔のため、自己又は他人の生命、身体又は財産に危害を及ぼす虞のある者」に該当する状態にあったと認めるのが相当である。」

「警察官は、法三条一項一号に基づき「でい酔」者の保護をした場合において、本人が「でい酔」状態を脱し、正常な判断能力、意思能力を回復したと認められる場合には、可及的速やかに保護を解除して、その身体の自由の拘束を解くべきであり、もし、右回復があったにもかかわらず、相当時間内に保護の解除をしない場合には、以後の保護の継続は、必要な限度を越える保護措置として違法性を帯びるものといわなければならない。」

「原告は、一三日午後八時一五分ころ派出所に同行され、午後八時三五分ころに保護室に入室したのであるから、特段の事情のない限り、約一二時間位経過した翌一四日午前九時前後ころには酔いは相当程度醒めて、「でい酔」状態を脱するものと考えられるところ、それ以上に酔いの程度や判断能力の回復具合を確認しようとせず、漫然と保護を継続した点は、その前後の前記認定の原告の言動を考慮しても、問題であるといわざるを得ない。

右の点及び前記認定の本件事実関係に照せば、原告は、遅くとも一四日午前九時前後ころには「でい酔」状態を脱し、正常な判断能力、意思能力を回復していたものと考えられるから、当時の保護室の担当警察官は、どんなに遅くとも正午までには保護を解除すべきであったというべきである。しかるに、右警察官は、原告の粗野な言動や反抗的態度をもって未だ酔いが醒めていないとの軽率な判断をしたものといわざるを得ない。』

と判断し、警察官の身柄解放が遅れている点(保護され12時間から15時間経過すれば泥酔状態は解消されたが、17時間30分経過後解放。)を指摘している。5万円の慰謝料を結果的に認めています。