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No.1237|犯罪を犯してしまった時

警察による保護の違法性|保護の要件および所持品検査の可否

行政警察活動|警察官は、犯罪行為が行われていなくても身体拘束・所持品検査をすることができるか|保護(警察官職務執行法3条)の要件|大阪地裁平成5年7月12日判決

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文
  6. 参照判例

質問

深夜、飲食店でお酒に酔って店員と言い争いになり、暴れていたら警察を呼ばれました。酔っていたのでよく覚えていませんが、気づいたら警察官数名に無理やりパトカーに乗せられ、そのまま警察署まで連行されました。

その後何時間も帰してもらえず、持ち物も一度取上げられて中身を調べられました。お財布の中身まで出された形跡があります。

このようなことは、違法ではないのですか。

回答

1 警察署に連れて行かれたことは、警察官職務執行法3条の「保護」として、適法と思われます。保護の目的を達成するため、必要な限度の有形力を行使すること(パトカーに同乗させる行為)や、危険物の所持の有無や身元を確認するため所持品の検査をすること、貴重品の紛失損壊を防ぐために一次預かりをすることも、適法です。ただ拘束時間は原則24時間(但し、やむを得ない場合裁判官の許可状があれば延長も可能。最大5日。)を超えることができませんから、帰宅を許されないようであれば、家族を通じ弁護人の依頼を行ってください。通常家族の身元引受があれば帰宅を許されるでしょう。

2 泥酔の場合は、拘束後通常12時間乃至15時間程度経過すれば、身柄解放の必要があるでしょう。

3 その他関連する事例集はこちらをご覧ください。

解説

1 警察官職務執行法

警察は、個人の生命・身体・財産の保護、犯罪の予防・捜査、交通取締その他公共の安全と秩序の維持に当たることをその責務としています(警察法2条1項)。このような活動は、ときに国民の権利や自由とぶつかり合うことが避けられませんが、ぶつかり合う場合には必ず適正な法律の根拠が必要です。

憲法31条、適正手続の保障は、制度趣旨から刑事裁判だけでなくその捜査段階にも及びます。自由主義国家は、法の支配の理念から近代立憲主義(三権分立、基本的人権保障、法治主義)により成り立っており、刑事事件における生命、人身の自由は必要不可欠のもので適正手続の保障は理論的に当然の規定です。国民は、本来生まれながらに自由であり、その制限は自ら選んで立法府による適正な法律によらなければ制限されません。その趣旨に従い、犯罪の嫌疑のある者を逮捕すること(刑事訴訟法199条1項)や、証拠物を差し押さえること(同法218条1項)などは、いずれも法律の規定に厳格に則って行われます。刑事訴訟法は、犯罪捜査のための各種強制的手段とその要件を詳細に法定しています。

一方、特定の犯罪が発生している場合に限らなくても、警察官がその職務を適切に遂行するため、一定の範囲で、国民の権利や自由を制限する行為が必要となることがあります。そのような行為を予め法律で定めたのが、警察官職務執行法であるといえます(警職法1条)。生命、人身の自由は、犯罪の場合に限らず、適正な法律によらなければ制限されませんから、警察官職務執行法も内容において当然適正なものでなければいけません。従って、当該条文の解釈、および該当性があるかどうかは条文の趣旨、当該行為の態様、場所、時間、当事者の言動等から総合的に判断することになります。

警察官職務執行法が定めるのは、職務質問(同法2条)、保護(3条)、避難等の措置(4条)、警告・制止(5条)、立入り(6条)、武器の使用(7条)があります。いずれも、高度の緊急性があって直ちに目的を実現する必要が高いという特徴があります。 ここでは、同法3条の保護の制度を説明します。

2 保護

警職法3条により、一定の場合に市民を「保護」することができます。保護とは対象者を一時的に警察署や病院等の安全な場所に移動させ隔離することで、その目的は、自傷他害を防止して公共の安全と個人の生命・身体・財産を守ることです。保護の要件がある場合、保護することは警察官の権限であると同時に、職務でもあります(3条1項)。

保護の要件は、①異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して下記2類型のいずれかに該当することが明らかであり、かつ、②応急の救護を要すると信ずるに足りる相当な理由のあることです。実際は、①の要件がある場合、②の要件もあると判断されることが多いと思われます。

類型1:精神錯乱又は泥酔のため、自己又は他人の生命、身体、財産に危害を及ぼすおそれのある者

類型2:迷い子、病人、負傷者等で適当な保護者を伴わず、応急の救護を要すると認められる者(本人がこれを拒んだ場合を除く。)

類型1の泥酔とは、医学的な意味での泥酔と異なり、社会通念上、深酔いしている状態で、正常な判断能力や意思能力を欠く程度の状態であれば足りると解されています(大阪地裁平成5年7月12日判決)。

本件では、深夜に飲酒し、警察が来た時の状況もよく記憶していないほど酒に酔っていたようですので、泥酔の状態にあったと考えられます。また、店員と言い争ったり、店内で暴れるなど、自傷他害の危険も認められる状況だったと思われます。したがって、保護の要件は満たしていたと考えられ、警察署に連れて行かれたことは適法です。

3 保護に伴う有形力行使

保護に際して、一切の有形力行使が許されなかったとしたら、たとえば公共の場で暴れる異常者を取り押さえることもできず、保護の制度はその意味を失ってしまいます。そこで、保護に際しては、自傷他害の防止という目的を達成するため、必要最小限度の有形力の行使は許されると解されます。

たとえば、言うことを聞かない要保護者を殴りつけて従わせるようなことは、必要な限度を超えており、違法となりますが(東京高等裁判所昭和56年2月19日判決)、足取りの覚束ない泥酔者の両脇を警察官二人で支え、パトカーに乗せる程度の有形力の行使は、適法と考えられます(大阪地裁平成5年7月12日判決)。

4 所持品の検査等

警察官は、保護を行った場合、速やかに家族等に連絡し、引き取りの手配をしなければなりません(警職法3条2項)。そのためには、本人の氏名や住所等を知り、家族の連絡先を調べなければなりません。本人が任意にこれらを明らかにできる状態に無い場合、所持品の中からこれらが判明する場合が多いので、必要な限度で所持品の検査をすることは許されると考えられます。

また、本人の状態によっては、刃物や劇物等の危険物の所持が疑われる場合もあり、そのような場合には所持品を検査して一時的に取り上げる等の措置をしなければ、保護の目的が達成できない場合もありえます。したがって、危険防止の目的での所持品検査も、必要な限度で許されると考えられます。

一方、現金や宝飾品等の貴重品は、他人に奪われたり、損壊してしまうおそれがあり、これも要保護者に代わって一次的に保管してやることが財産保護の見地から必要となることもあります。

保護を実施する上で必要となるこれらの措置は、法律では規定されていませんが、各都道府県の訓令等の形で、運用上ルール化されています。東京都の訓令を掲載しますので、参考にご覧ください。

以上

関連事例集

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参照条文
警察法

2条1項 警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもってその責務とする。

警察官職務執行法

第一条 この法律は、警察官が警察法 (昭和二十九年法律第百六十二号)に規定する個人の生命、身体及び財産の保護、犯罪の予防、公安の維持並びに他の法令の執行等の職権職務を忠実に遂行するために、必要な手段を定めることを目的とする。
2 この法律に規定する手段は、前項の目的のため必要な最小の限度において用いるべきものであつて、いやしくもその濫用にわたるようなことがあつてはならない。

(質問)
第二条 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。
2 その場で前項の質問をすることが本人に対して不利であり、又は交通の妨害になると認められる場合においては、質問するため、その者に附近の警察署、派出所又は駐在所に同行することを求めることができる。
3 前二項に規定する者は、刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない。
4 警察官は、刑事訴訟に関する法律により逮捕されている者については、その身体について凶器を所持しているかどうかを調べることができる。

(保護)
第三条 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して次の各号のいずれかに該当することが明らかであり、かつ、応急の救護を要すると信ずるに足りる相当な理由のある者を発見したときは、取りあえず警察署、病院、救護施設等の適当な場所において、これを保護しなければならない。
一 精神錯乱又は泥酔のため、自己又は他人の生命、身体又は財産に危害を及ぼすおそれのある者
二 迷い子、病人、負傷者等で適当な保護者を伴わず、応急の救護を要すると認められる者(本人がこれを拒んだ場合を除く。)
2 前項の措置をとつた場合においては、警察官は、できるだけすみやかに、その者の家族、知人その他の関係者にこれを通知し、その者の引取方について必要な手配をしなければならない。責任ある家族、知人等が見つからないときは、すみやかにその事件を適当な公衆保健若しくは公共福祉のための機関又はこの種の者の処置について法令により責任を負う他の公の機関に、その事件を引き継がなければならない。
3 第一項の規定による警察の保護は、二十四時間をこえてはならない。但し、引き続き保護することを承認する簡易裁判所(当該保護をした警察官の属する警察署所在地を管轄する簡易裁判所をいう。以下同じ。)の裁判官の許可状のある場合は、この限りでない。
4 前項但書の許可状は、警察官の請求に基き、裁判官において已むを得ない事情があると認めた場合に限り、これを発するものとし、その延長に係る期間は、通じて五日をこえてはならない。この許可状には已むを得ないと認められる事情を明記しなければならない。
5 警察官は、第一項の規定により警察で保護をした者の氏名、住所、保護の理由、保護及び引渡の時日並びに引渡先を毎週簡易裁判所に通知しなければならない。

(避難等の措置)
第四条 警察官は、人の生命若しくは身体に危険を及ぼし、又は財産に重大な損害を及ぼす虞のある天災、事変、工作物の損壊、交通事故、危険物の爆発、狂犬、奔馬の類等の出現、極端な雑踏等危険な事態がある場合においては、その場に居合わせた者、その事物の管理者その他関係者に必要な警告を発し、及び特に急を要する場合においては、危害を受ける虞のある者に対し、その場の危害を避けしめるために必要な限度でこれを引き留め、若しくは避難させ、又はその場に居合わせた者、その事物の管理者その他関係者に対し、危害防止のため通常必要と認められる措置をとることを命じ、又は自らその措置をとることができる。
2 前項の規定により警察官がとつた処置については、順序を経て所属の公安委員会にこれを報告しなければならない。この場合において、公安委員会は他の公の機関に対し、その後の処置について必要と認める協力を求めるため適当な措置をとらなければならない。

(犯罪の予防及び制止)
第五条 警察官は、犯罪がまさに行われようとするのを認めたときは、その予防のため関係者に必要な警告を発し、又、もしその行為により人の生命若しくは身体に危険が及び、又は財産に重大な損害を受ける虞があつて、急を要する場合においては、その行為を制止することができる。

(立入)
第六条 警察官は、前二条に規定する危険な事態が発生し、人の生命、身体又は財産に対し危害が切迫した場合において、その危害を予防し、損害の拡大を防ぎ、又は被害者を救助するため、已むを得ないと認めるときは、合理的に必要と判断される限度において他人の土地、建物又は船車の中に立ち入ることができる。
2 興行場、旅館、料理屋、駅その他多数の客の来集する場所の管理者又はこれに準ずる者は、その公開時間中において、警察官が犯罪の予防又は人の生命、身体若しくは財産に対する危害予防のため、その場所に立ち入ることを要求した場合においては、正当の理由なくして、これを拒むことができない。
3 警察官は、前二項の規定による立入に際しては、みだりに関係者の正当な業務を妨害してはならない。
4 警察官は、第一項又は第二項の規定による立入に際して、その場所の管理者又はこれに準ずる者から要求された場合には、その理由を告げ、且つ、その身分を示す証票を呈示しなければならない。

(武器の使用)
第七条 警察官は、犯人の逮捕若しくは逃走の防止、自己若しくは他人に対する防護又は公務執行に対する抵抗の抑止のため必要であると認める相当な理由のある場合においては、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器を使用することができる。但し、刑法 (明治四十年法律第四十五号)第三十六条 (正当防衛)若しくは同法第三十七条 (緊急避難)に該当する場合又は左の各号の一に該当する場合を除いては、人に危害を与えてはならない。
一 死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁こにあたる兇悪な罪を現に犯し、若しくは既に犯したと疑うに足りる充分な理由のある者がその者に対する警察官の職務の執行に対して抵抗し、若しくは逃亡しようとするとき又は第三者がその者を逃がそうとして警察官に抵抗するとき、これを防ぎ、又は逮捕するために他に手段がないと警察官において信ずるに足りる相当な理由のある場合。
二 逮捕状により逮捕する際又は勾引状若しくは勾留状を執行する際その本人がその者に対する警察官の職務の執行に対して抵抗し、若しくは逃亡しようとするとき又は第三者がその者を逃がそうとして警察官に抵抗するとき、これを防ぎ、又は逮捕するために他に手段がないと警察官において信ずるに足りる相当な理由のある場合。

(他の法令による職権職務)
第八条 警察官は、この法律の規定によるの外、刑事訴訟その他に関する法令及び警察の規則による職権職務を遂行すべきものとする。

警視庁保護取扱規程

第11条1項 精神錯乱者、でい酔者及びでい酔に至らないめいてい者を保護するに当っては、事故を防止するため必要な限度において、その者が自己又は他人の生命、身体又は財産に危害を及ぼすおそれのある物を所持しているか否かを確かめ、これらの物を所持しているときは、これを保管するものとする。また、現金、有価証券その他貴重品で本人に所持させておくことによりこれを破損又は紛失するおそれのある場合もなるべく預かるようにするものとする。

第16条 保護した精神錯乱者、でい酔者及びで酔に至らないめいてい者の引渡し又は引継は、次の各号により措置しなければならない。
(1) 精神錯乱者については、人相、特徴、所持品、言動等により所在不明若しくは病院逃走のため手配中の者であるか否かについて調査する等その身元の発見に努め、身元が判明した時は、すみやかに家族等に引き渡すものとし、家族等に引き渡すことができないときは、関係機関に引き継ぐものとする。
(2) でい酔者及びでい酔に至らないめいてい者については所持品、言動等により、その身元の発見に努め、身元が判明した時は、すみやかに家族等に引き渡すものとする。なお家族等に引き渡すことができない者については、救護の必要がなくなったときに、すみやかに保護解除の措置をとるものとする。

参照判例
大阪地裁平成5年7月12日判決

『法三条一項一号にいう「でい酔」とは、医学的な意味での「でい酔」とは異なり、社会通念上深酔いした状態と認められ、正常な判断能力、意思能力を欠く程度に酔った状態であれば足りると解されるところ、前記認定の事実に照らせば、原告は、保護開始当時、「でい酔」していたものであり、同条一項一号の「でい酔のため、自己又は他人の生命、身体又は財産に危害を及ぼす虞のある者」に該当する状態にあったと認めるのが相当である。」

「警察官は、法三条一項一号に基づき「でい酔」者の保護をした場合において、本人が「でい酔」状態を脱し、正常な判断能力、意思能力を回復したと認められる場合には、可及的速やかに保護を解除して、その身体の自由の拘束を解くべきであり、もし、右回復があったにもかかわらず、相当時間内に保護の解除をしない場合には、以後の保護の継続は、必要な限度を越える保護措置として違法性を帯びるものといわなければならない。」

「原告は、一三日午後八時一五分ころ派出所に同行され、午後八時三五分ころに保護室に入室したのであるから、特段の事情のない限り、約一二時間位経過した翌一四日午前九時前後ころには酔いは相当程度醒めて、「でい酔」状態を脱するものと考えられるところ、それ以上に酔いの程度や判断能力の回復具合を確認しようとせず、漫然と保護を継続した点は、その前後の前記認定の原告の言動を考慮しても、問題であるといわざるを得ない。

右の点及び前記認定の本件事実関係に照せば、原告は、遅くとも一四日午前九時前後ころには「でい酔」状態を脱し、正常な判断能力、意思能力を回復していたものと考えられるから、当時の保護室の担当警察官は、どんなに遅くとも正午までには保護を解除すべきであったというべきである。しかるに、右警察官は、原告の粗野な言動や反抗的態度をもって未だ酔いが醒めていないとの軽率な判断をしたものといわざるを得ない。』

と判断し、警察官の身柄解放が遅れている点(保護され12時間から15時間経過すれば泥酔状態は解消されたが、17時間30分経過後解放。)を指摘している。5万円の慰謝料を結果的に認めています。