新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1209、2012/1/11 12:40 https://www.shinginza.com/qa-fudousan.htm

【建物賃貸借契約に関する更新拒絶の判断基準・東京高裁平成12年3月23日民事部判決】

質問:私は,現在,都内にアパートの一室(1K)を借りて暮らしています。現在住んでいるアパートは,賃料月額7万円,賃貸期間を2年と定めて入居しました。その後,2年が経過するたびに,同様の賃貸条件での更新を3回ほどしていて,現在,入居してから7年が経ちます。今まで,賃料を滞納したことはありません。しかし,先日,大家さんから,「このアパートは築30年と古いし,この前まとまったお金が入ったから,アパートを建て直したい。そのために今回更新した契約の賃借期間2年が経過したら退去してほしい。アパートの建て直しに資金が必要なので,立退料は払いません。」という文書が届きました。私には,勤め先の会社が近く,家賃も安くて貯金もそれなりに貯めることができるため,このアパートを出ていきたくありません。確かに,アパートは古いのですが,人が住むことは十分可能な状態です。大家さん自身は,このアパートのほかに一戸建ての建物を所有してそこで暮らしており,大家さんやその家族がこのアパートに住む予定があるわけでもありません。今回のようなケースでは,私は,アパートを出ていかなくてはいけないのでしょうか。

回答:
1.相談者の方は,期間満了後,すぐにアパートを出ていく必要はありません。
2.仮にアパートを出ていくとしても,期間の猶予や立退料の請求をすることができます。
3.事務所事例集526番参照。

解説:
第1 借地借家法の適用
1 民法上の賃貸借の規定の適用
  相談者の方がアパート(以下「本件アパート」といいます。)の一室を借りている契約は,民法上の賃貸借(民法601条)契約に該当し,相談者の方(以下,単に「賃借人」といいます。)と大家さん(以下「賃貸人」といいます。)との間で,本件アパートの一室を目的物とし,賃借期間を2年間とする賃貸借契約を締結したことになります(以下「本件賃貸借契約」といいます。)。

2 民法の原則,大正10年旧借家法,平成3年借地借家法成立の経過
  所有権の絶対性(憲法29条,私有財産制),契約自由の原則からは,契約内容は当事者の意思に任されるはずです。ただ,建物の賃貸借の契約については,立場の弱い(後述のように生活の基盤でありながら大家に比較して経済力,情報力等が劣り住居確保が困難。)借主を保護する必要があるため,同契約の更新,効力等に関し,旧借家法を経て借地借家法に特別の定めが存在します(借地借家法(以下「法」といいます。)1条)。したがって,同法に特別の規定がある場合には,民法ではなく,最終的に借地借家法(平成4年8月以後の賃貸借契約。)の適用があることになります。
  すなわち,本件は,期間の定めがある契約ですから,契約自由の原則により当事者が何も意思表示をしない場合又は再合意ができない場合には,期間満了により契約が終了するはずです。しかし,建物賃貸借は,賃借人の生活の基盤であり,新たな借家を確保することは困難ですから経済的に弱者である賃借人にとりこのような結論は公平,妥当性を欠くことは明らかです。そこで,民法は,619条で救済していますが,この規定だけでは借家人を保護できないことは明白です。賃貸人の事後の異議があれば,契約は終了してしまうからです。そこで旧借家法を経て,借地借家法により最終的に賃借人の救済を図る種々の対策が採られています。

第2 民法上の更新拒絶に要求される要件
1 更新拒絶の通知の必要性
(1)民法上の原則
  民法における賃貸借では,賃貸借契約の更新の推定(黙示の更新)が規定されています(民法619条1項)。この規定は,a賃借期間満了後も賃借人が賃借物の使用収益を継続し,b賃貸人がその事実を知って,c相当期間経過した後も異議を述べなかった場合には,賃貸借契約の更新の合意を推定するものです。
  ただ,この規定による更新の推定を受けるためには,上記aからcまでの事実を賃借人が証明する必要があります。そして,上記事実について,cの事実のように,賃貸人が異議を述べなかったことといった,事実の不存在という証明の困難な事実まで証明する責任を負うため,本規定の更新の推定を受けることが簡単であるとはいえません。又,期間満了後に大家さんが異議を述べれば,契約は終了してしまいます。

(2)そこで大正10年成立の旧借家法は,民法の規定を修正し,まず,賃借人保護のため,契約終了前に異議を述べないと法定更新されることにしました(旧借家法2条,期間満了前6ヶ月以上前の通知,これはそのまま新借地借家法に引き継がれました。)。当時は,勿論建物賃借物件がかなり不足していた背景があります。ただし,事前に異議を述べると,契約は更新されないことになりますが,これでは結局賃借人の保護としては不十分なことは明らかです。そこで,昭和16年改正追加の旧借家法1条の2により異議を主張するためには,正当事由が必要となりました。しかし,その正当事由とは抽象的に規定されていますから,解釈上問題がありました。これに対応し,新借地借家法はその内容を具体的に明らかにしています。

(3)借地借家法(平成3年10月成立 平成4年8月1日施行)による修正
  繰り返しになりますが,建物賃貸借契約については,借地借家法に特別の定めが置かれ,賃借人の保護を図っています。すなわち,建物の賃貸借について期間の定めがある場合において,当事者が期間の満了の1年前から6月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知をしなかったときは,従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなすとされています(法26条1項本文,旧借家法2条と同じ)。したがって,賃借人は,賃貸人からの更新拒絶の通知を上記期間内に受けない限り,賃貸借契約の更新を拒絶されないということになります。
  ただし,更新拒絶の通知は,無制限に認めると借家人の保護が図れませんので,旧借家法のように,当然正当事由が必要であり,さらにその内容を具体的に明らかにして,解釈上の紛糾を避け,賃貸人,賃借人の具体的利益考量を行い実質的賃借人の保護を図っています。このような,賃借人の保護規定は賃貸人の私有財産制との利益調和によることは当然ですから,その時々の社会情況によって内容が変化することはやむを得ません。

2 正当事由の必要性
(1)正当事由の要素
  さらに,上記更新拒絶の通知は,何の理由もなく行えば認められるというものではありません。
  建物の賃貸人による更新拒絶の通知は,@建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか,A建物の賃貸借に関する従前の経過,B建物の利用状況及びC建物の現況並びにD建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して,正当な事由があると認められる場合でなければ,することができないとされています(法28条)。

(2)正当事由の要素
ア 総論
  正当事由の有無は,上記@の「建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情」,すなわち,当事者双方の使用の必要性が主たる判断基準とされています。そのうえで,その他の要素であるAからDまでの要素,すなわち,賃貸借に関する従前の経過,建物の利用状況,建物の現況,立退料等の提供を総合考慮して決定されるものとされています。以下では,各要素について具体的に検討していきます。

イ 各論
@「建物の使用を必要とする事情」
  この判断要素では,当該建物における居住の必要性,営業の必要性,第三者の使用の必要性,建物売却の必要性,借地明渡しの必要性等が考慮されることになるとされています。
  本件では,居住の必要性,建替えの必要性を考えることになると思われます。これについて,賃借人は,経済的に切迫しておらず,代わりのアパートを見つけることがそれほど困難にない状況にあるとすれば,賃借人が本件アパートからの退去によって生活の基盤を失うとまではいえず,賃借人の居住の必要性は,それほど高くないと考えられます。他方,賃貸人も,現在一戸建ての建物に暮らしていて,居住状態が手狭であるといった事情もないと考えられますから,賃貸人の居住の必要性は低いと考えられます。
  また,賃貸人及びその家族が本件アパートに住む予定もないことから,第三者の使用の必要性もないといえます。問題となるのはアパートの老朽化による建替えの必要性が考えられます。アパートの具体的状況にもよりますが,老朽化のため空き室が相当数に及んでいる場合など建て替えの必要性が認められ更新拒絶の正当事由が認められることもあります。
  当事者双方に建物使用の必要性に差があまりないと考えられる場合は,本要素だけでは正当事由の判断がつかないことになります。その場合は,そのほかの事情を踏まえて正当事由の有無が決せられることになると考えられます。

東京高裁平成12年3月23日民事部判決 (建物明渡請求控訴事件)

40年経過したアパートをマンションにするための立ち退きについて,借家権価格の算定ではなく,引越料その他の移転実費と転居後の賃料と現賃料の差額の一,二年分程度の範囲内の金額(200万円)を基準として認めています。妥当な判断でしょう。

判決抜粋
「本件共同住宅が建築されてから四〇年を経過していること及び本件共同住宅が存する土地の地理的条件からすると,被控訴人が本件共同住宅及び隣接する建物の改築計画を持つことには十分な合理性がある。そして,控訴人らの本件建物の使用の必要性は,住居とすることに尽きている。そのような場合の立退料としては,引越料その他の移転実費と転居後の賃料と現賃料の差額の一,二年分程度の範囲内の金額が,移転のための資金の一部を補填するものとして認められるべきものである。それ以上に,高額な敷地権価格と僅かな建物価格の合計額を基に,これに一定割合を乗じて算出されるいわゆる借家権価格によって立退料を算出するのは,正当事由があり賃貸借が終了するのに,あたかも賃借権が存在するかのような前提に立って立退料を算定するもので,思考として一貫性を欠き相当ではない。被控訴人は,昭和六三年一〇月以降賃料を据え置くなどの措置を採り,また,控訴人らが本件建物より高額な賃料の住居に移転するために当面必要な資金として十分と思われる立退料二〇〇万円を提供する意思を示している。これらの賃料の据え置きと立退料の提供は,正当事由の補完たりうるのであって,被控訴人の解約申入れには正当の事由があり,解約の申入れは,その効力を生じたものというべきである。そして,被控訴人の明渡しの請求を権利の濫用ということはできない。

東京高裁平成12年12月14日判決 (建物明渡請求控訴事件)
債務支払いのための土地建物(台東区上野,借地)譲渡についての立退き料算定は,引越料その他の移転実費と一定期間の転居後の賃料と現賃料との差額が,算定基礎となっています。他に賃貸物件の流通が以前より豊富で正当事由の範囲は広く解釈されているようでその範囲で賃借人を保護しています。

判決抜粋
「3 立退料の金額について
 控訴人は,立退料として五〇〇万円の提供を申し出ており,最終的な金額は裁判所の判断に任せると述べている(原審における平成一一年九月二日付け準備書面第二)。 
 そこで,立退料の金額について検討する。
 控訴人と被控訴人らとの間の賃貸借は,それぞれの前主ないし前々主からの期間を通算すると,五〇年以上にも及んでいる。したがって,賃貸借の目的は十分達したともいいうるものである。
 被控訴人らが本件建物を使用する必要性のうち,住居としての必要性についてみれば,引越料その他の移転実費と一定期間の転居後の賃料と現賃料との差額が,必要性を補填するものとして認められるべきものである。また,店舗としての必要性についてみると,本件建物の一階店舗部分にかけた改装工事費と一定期間の所得の補償が,必要性を補填するものとして認められるべきものである。
 これ以上に,高額な敷地権価格とわずかな建物価格の合計額を基に,これに一定割合を乗じて算出されるいわゆる借家権価格によって立退料を算出するのは,正当事由があり賃貸借が終了するのに,あたかも賃借権が存在するかのような前提に立って立退料を算定するもので,思考として一貫性を欠き相当ではない。
 先のような観点から算定すると,立退料としては,六〇〇万円を上回ることはないものと認められる(改装工事費のうち二四〇万円(一部は償却済みでありその残額)と一〇〇万円の所得の二年分に移転実費(四〇万円),賃料差額を一か月五万円としてその二年分(一二〇万円)を合計したものである。)。」
 
A「建物の賃貸借に関する従前の経過」
この判断要素では,借家関係設定の事情・基礎,その基礎たる事情の変更,賃料の相当性,当事者間の信頼関係の存否,契約当初の権利金や更新料の授受の有無や額,設定以来の期間の長短等が問題となります。
借家関係設定の事情等として,例えば,取り壊してアパートを新築する具体的な予定のあることを知って賃借したといったものがあれば,正当事由が認められやすくなります。
また,賃借人の賃料不払い,無断転貸,劣悪な保安管理等の不信行為があった場合にも,賃貸人に有利な事情となり,正当事由が認められる可能性が高まります。
しかし,本件では上記のような事情はないようなので,この判断要素が,正当事由を認める方向に働くとはいえないと考えられます。

B「建物の利用状況」
この判断要素では,賃借人が契約の目的に従って建物を適法かつ有効に使用収益しているかどうか借家人が他に建物を所有し賃借していて当該建物をあまり利用していないかどうかを考慮します。建物の利用の仕方が当該建物の構造・規模等から考えて効率的でない又は収益性が低い場合も含むとも考えられます。
もっとも,この判断要素は,A「建物の賃貸借に関する従前の経過」やC「建物の現況」と重なる部分も多く,B「建物の利用状況」を正当事由の一判断基準とする意味はあまりないと考えられることもあるため,本要素以外の要素において,本要件も踏まえた判断をすることとします。

C「建物の現況」
この判断要素では,建物の物理的状況,すなわち,建替えの必要性が生ずるに至っていることを考えることになります。具体的には,建物が老朽化している状況のほか,社会的・経済的効用を失っている場合も考慮されることになります。
例えば,建物が朽廃に迫っているときであれば,倒壊の危険,衛生の悪さ等の事情も考慮され,賃貸人に自己使用の必要性がなくても直ちに正当事由が認められることが多いといわれています。
しかし,本件のように,朽廃に近いということもできず,建物の再利用契約も特に結ばれていないようであれば,賃貸人が,取壊し・新築の必要性や自己使用の必要性を主張立証しなければならないと考えられており,立退料等のその他の事情によりこれが補完されることもあります。取壊し・新築の必要性が特にあるとはいえず,上述したように,自己使用の必要性もないと考えられる上,立退料の支払いもないということであれば,この要素が正当事由を認める方向に働くとはいえません。

D「財産上の給付」
通常は金銭であり,主に,立退料として支払われる金銭がこれに当たり,立退料の中には,移転経費,借家権価格,営業補償等が含まれることもあります。そのほか,代替家屋も財産上の給付に含まれます。

@からCまでの要素で正当事由が肯定されない場合でも,財産上の給付を行うことにより,正当事由が認められる場合があります。ただし,本要素もあくまで補完的なものであるため,@からCの要素が弱い場合には,高い立退料の支払うとしても,正当事由が認められないことはあります。
正当事由が認められる可能性が低い場合は,賃貸人としては,高額な立退料を支払うことで正当事由を認められる可能性があるだけだと考えられます。立退料の支払いを拒否するようであれば,本要素による正当事由に対する補完はされないこととなります。

ウ 小括
 以上のように,@からCの要素により正当事由が認められることが無いと判断できれば,Dの要素による補完もないことから,賃借人は,本件アパートを出ていかなくてもよい可能性が高いことになります。もっとも,建物の賃貸人が解約申入れ後に立退料等の提供を申し出た場合においても,その提供金員を参酌して当初の解約申入れの正当事由を判断することができるとされているため(最高裁平成3年3月22日判決),更新拒絶の本件においても,今後,高額の立退料の提案がされた場合には,正当事由が認められる可能性があると考えられます。その場合には,立退料の額に納得がいけば,これを受け取って立ち退くことも一つの選択肢かもしれません。
 このように,正当事由の有無は,様々な事実を総合して法的評価が下されるものであるため,わずかに事案が異なれば,結論も大きく変わる可能性があります。正当事由の有無が問題になる場合には,弁護士等の法律家に相談することをお勧めいたします。

(3)法定更新・遅滞なき異議の必要性
  さらに,上記更新拒絶の通知が行われた場合であっても,建物の賃貸借の期間が満了した後,建物の賃借人が使用を継続する場合において,建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときも,従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなすとされています(法26条2項,同条1項本文)。
  そこで,賃借人としては,仮に正当事由が存在し,建物の賃貸借期間が満了した後も,当該建物の使用を継続していたことを証明することで,更新拒絶に反論することができます。これに対し,賃貸人としては,遅滞なく異議を述べた場合に限り,更新拒絶の効力発生を主張できるということになります。
  ただし,法定更新がされた場合,その期間は定めがないものとされることから(法26条2項,同条1項ただし書),これ以降,賃貸人は,解約申入れ(この場合も解約の申し入れに正当事由が必要なことは変わりありません。)により賃貸借契約を解除できることになるため,注意が必要です。

第3 まとめ
  以上のように,賃借人は,賃貸人から更新拒絶の通知を1年前から6か月前までの間に受けなかった場合には,更新拒絶が認められません。また,そのような通知を受けていたとしても,正当事由が認められず,更新拒絶には理由がない可能性が高いです。さらに,正当事由が存在し,建物の賃貸借期間が満了しても,当該建物の使用を継続して賃貸人から遅滞なく異議が述べられなければ,賃借人は,本件アパートを出ていかなくてもよいことになります。
  一般的には立退き料(引っ越し代,転居先の契約費用,家賃の差額の数年分)として相当な金額を受領して転居することが多いようです。

<参考条文>

民法
(賃貸借)
第六百一条  賃貸借は,当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し,相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって,その効力を生ずる。
(賃貸借の更新の推定等)
第六百十九条  賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合において,賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは,従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する。この場合において,各当事者は,第六百十七条の規定により解約の申入れをすることができる。
2  従前の賃貸借について当事者が担保を供していたときは,その担保は,期間の満了によって消滅する。ただし,敷金については,この限りでない。

借地借家法
(趣旨)
第一条  この法律は,建物の所有を目的とする地上権及び土地の賃借権の存続期間,効力等並びに建物の賃貸借の契約の更新,効力等に関し特別の定めをするとともに,借地条件の変更等の裁判手続に関し必要な事項を定めるものとする。
(建物賃貸借契約の更新等)
第二十六条  建物の賃貸借について期間の定めがある場合において,当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは,従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし,その期間は,定めがないものとする。
2  前項の通知をした場合であっても,建物の賃貸借の期間が満了した後建物の賃借人が使用を継続する場合において,建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときも,同項と同様とする。
3  建物の転貸借がされている場合においては,建物の転借人がする建物の使用の継続を建物の賃借人がする建物の使用の継続とみなして,建物の賃借人と賃貸人との間について前項の規定を適用する。
(解約による建物賃貸借の終了)
第二十七条  建物の賃貸人が賃貸借の解約の申入れをした場合においては,建物の賃貸借は,解約の申入れの日から六月を経過することによって終了する。
2  前条第二項及び第三項の規定は,建物の賃貸借が解約の申入れによって終了した場合に準用する。
(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
第二十八条  建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは,建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか,建物の賃貸借に関する従前の経過,建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して,正当の事由があると認められる場合でなければ,することができない。

<参考判例>

最高裁平成3年3月22日判決
建物の賃貸人が解約の申入れをした場合において,その申入時に借家法一条ノ二に規定する正当事由が存するときは,申入後六か月を経過することにより当該建物の賃貸借契約は終了するところ,賃貸人が解約申入後に立退料等の金員の提供を申し出た場合又は解約申入時に申し出ていた右金員の増額を申し出た場合においても,右の提供又は増額に係る金員を参酌して当初の解約申入れの正当事由を判断することができると解するのが相当である。けだし,立退料等の金員は,解約申入時における賃貸人及び賃借人双方の事情を比較衡量した結果,建物の明渡しに伴う利害得失を調整するために支払われるものである上,賃貸人は,解約の申入れをするに当たって,無条件に明渡しを求め得るものと考えている場合も少なくないこと,右金員の提供を申し出る場合にも,その額を具体的に判断して申し出ることも困難であること,裁判所が相当とする額の金員の支払により正当事由が具備されるならばこれを提供する用意がある旨の申出も認められていること,立退料等の金員として相当な額が具体的に判明するのは建物明渡請求訴訟の審理を通じてであること,さらに,右金員によって建物の明渡しに伴う賃貸人及び賃借人双方の利害得失が実際に調整されるのは,賃貸人が右金員の提供を申し出た時ではなく,建物の明渡しと引換えに賃借人が右金員の支払を受ける時であることなどにかんがみれば,解約申入後にされた立退料等の金員の提供又は増額の申出であっても,これを当初の解約の申入れの正当事由を判断するに当たって参酌するのが合理的であるからである。

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