新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1206、2012/1/8 15:55 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm

【親族・行方不明の妻との離婚訴訟と公示送達・公示送達が濫用された場合の被告の救済・再審事由・訴訟行為の追完】

質問:妻が男性と不倫関係になり,そのまま家を出て行ってしまい,今どこでどうしているかが全く分からない状態になってしまいました。そのような状況が1年以上経過しました。私は,将来的には別の女性との結婚も考えていきたいのですが,妻とはまだ離婚ができていません。離婚をするにはまず調停を申し立てる必要があると聞いたことがあるのですが,妻の行方が分からない状態ではどうすればよいのでしょうか。また,行方が不明でも離婚の訴訟ができるのでしょうか。

回答
1.この場合は例外的に,離婚調停の申立てをせずに,離婚訴訟を起こすことができると考えられます。そして,相手の所在が不明の場合でも,公示送達という方法により,離婚訴訟手続を進めることができます。
2.公示送達に関し参考法律相談事例集キーワード検索:1147番965番964番911番910番909番666番478番参照。特に666番を参考にしてください。

解説:
1(調停前置主義の原則と例外)
  協議離婚が成立しない場合には,法的手続による離婚を検討することになりますが,原則として,いきなり離婚訴訟を提起することはできず,まずは家庭裁判所へ離婚調停を申し立てることが必要です(調停前置主義,家事審判法18条)。調停を経ずに訴えを起こすと,裁判所により調停に付されることになります。夫婦関係の清算は金銭的問題のように理論的に割り切れるものではなく,複雑な人間関係が背景としてありますので,判決で強制的に解決するよりも,まず裁判所がなかに入り当事者の話し合いによる解決が当事者の真意にも合致することになり,結果的に公平,適正で迅速,低廉な解決にもつながる可能性があるからです。
  調停の場で,中立的な立場の調停委員会(裁判官である家事審判官1名及び民間から選ばれた調停委員2名以上で構成されます。)を介して,まずは相手と話合いをすることにより,妥協点を見出すことができ,自主的かつ柔軟な解決が図られることが期待されるのです。
  しかし,相手方が行方不明の場合や心神喪失の状態にある場合など,調停による解決は不可能なことが明白ですから,そのような場合は裁判所が事件を調停に付すことが適当でないと認めることにより,調停を経ずに離婚訴訟を提起することができます(同条2項但書)。相手方と話し合うことができないことが明らかな場合には,調停のメリットである話合いによる自主的解決を図ることができないため,訴訟経済上からもいきなり離婚訴訟を提起できることになるのです。

2(公示送達の申立て)
  離婚訴訟を提起すると,通常は,相手方の住所等や就業場所(民事訴訟法103条)に訴状が送達されることとなります(民訴法138条1項)。訴えられた被告に対して訴訟に参加する機会を与えて,反論の機会等を保障する必要があるからです。もっとも,相手方の住所等も就業場所も不明である場合には,訴状の送達ができないこととなります。  この場合に,訴状の送達ができないという理由で訴訟手続を利用できないこととなると,今度は,訴えた原告の方の権利を実現できなくなってしまいます。自力救済を禁止して私的紛争を強制公権的に解決する権限を裁判所が独占しているので(憲法76条,裁判所の司法権の独占),訴状が届かないからと言って裁判権を放棄することはできません。
  そこで,この場合に,公示送達の申立てをするという方法があります(民訴法110条)。具体的には,相手方の住所等の送達場所が不明であるなどの場合に,裁判所書記官が訴状等の送達すべき書類を保管し,いつでも送達を受けるべき者に交付する旨を裁判所の掲示場に掲示するもので,掲示を始めた日から2週間が経過した時点で相手方に送達されたのと同じ効力が生じるという手続です(民訴法110条〜112条)。
  この公示送達により相手方へ訴状の送達がされたのと同じ効力が生じたことで,実際に相手方が裁判に出席しなくても訴訟手続が進行していくことになります。裁判離婚が認められるためには,民法に定める離婚原因(民法770条1項)があることが必要ですので,不貞行為(同項1号)ないし悪意の遺棄(同項2号)があったという主張が認められれば,裁判上離婚が成立することになります。

3.(公示送達の手続き効果) 
(1)公示送達が認められるには,住所等や就業先の調査により,本当に相手方の所在が不明であるということを裁判所書記官(送達の事務を取り扱うのは裁判官ではなく裁判所書記官となります。民訴法98条2項。)が認める必要があります。公示送達は,相手の意見を一切聞かずになされるものであるため,私的紛争の公平で,適正な解決という観点から簡単に認められるものではありません。また公示送達が認められ訴訟が進められる場合も,証人尋問や原告の本人尋問が必ず行われ離婚を求める原告の主張に理由があるのか慎重に審理されることになりますので,法律の専門家である弁護士に相談してみることをお勧めいたします。

(2)(被告の救済)公示送達による裁判は,被告の意見を一切聞かず,反論の機会を与えないまま行われるので,被告に不公平で酷ではないかと言う疑問があるかも知れません。しかし,被告側は,自らの住所を公的に明らかにせず,事実上裁判所の強制,公権的な紛争解決機能を事実上失わせている責任もあり,あながち不公平であると断言することはできません。日本の統治権に服するものは,公的権力(司法権)の行使を受忍する義務があり,その範囲で住所又は居所を明らかにする法的義務が課せられることになります。ただ,原告側の公示送達が権利濫用となるような事情(例えば原告が被告の住所等を了知していた場合。)があれば,一定の救済(再審,訴訟行為の追完)が考えられます。後記判例参照。

4.(関連判例)
(1)横浜地裁昭和51(カ)1号,昭和53年9月6日判決 ( 婚姻無効請求再審事件)
  再審事由 民訴338条1項3号(旧民訴420条1項3号)は,代理権を有しないものの訴訟行為により本人に不利益を与えることはできないと言う無権代理の趣旨に基づくものであり,不当な公示送達(被告の住所を知っていた場合や重過失により被告の住所を調べなかった場合)により不利益をこうむった被告も自らの意見を裁判上主張できなかったのであるから同様に保護されることになると言うものです。妥当な判決でしょう。ただ,判決は再審事由を認定していません。

 判旨抜粋
 「公示送達の制度は,受送達者たる当事者の側において実際上送達の事実を了知し難く,従ってその訴訟追行を行ない難いことを当然予想している制度であり,そのため,公示送達手続による審理にあたっては,通常の送達手続による審理において受送達者の欠席により被ることのあるべき不利益が除外されているのであるから,過失なく公示送達を了知しなかったため,訴訟追行の機会が奪われたとしても,公示送達の制度が設けられている趣旨からして,これをもって直ちに同号の再審事由に該当すると解することは相当ではない。しかしながら,公示送達は,送達名宛人の所在不明により訴訟上の書類の送達ができず,訴訟手続の進行が不能になるのを避けるための最後の,補充的な送達制度であり,従って,当事者が,相手方の送達場所を知っていながら公示送達の申立をなし,又は,送達場所を知ろうとすれば容易に知ることができたのに重大な過失により知らずに公示送達の申立をなし,公示送達の許可を得たうえ,勝訴判決を得たという場合のように,公示送達制度が本来予定していた実質的要件を欠くような場合にまで,過失なくして公示送達を了知しえず,そのため訴訟追行の機会が与えられなかった当事者に再審による不服申立を拒むのは酷に失するというべきであり,右のような場合には,民事訴訟法四二〇条一項三号を根拠に再審の訴を提起しうるものと解するのが相当である。」  

(2)東京高裁昭和46(ネ)3165号
  昭和48年9月5日判決 ( 離婚請求控訴事件)
  この判決は,原告が,被告の住所を知っているにもかかわらず,公示送達を利用しても,公示送達は有効である。しかし,被告側に過失がないので控訴期間後の控訴を訴訟行為の追完として認めています(民訴97条)。民事訴訟の理想は,適正公平の理念により支配されており,妥当な解釈でしょう。

(判決抜粋)

 (一)控訴人は,公示送達の方法による控訴人に対する原判決の送達は無効であると主張する。しかしながら,公示送達に関する当事者の申立が裁判長(一人制の裁判所の場合にあつてはこれを構成する裁判官)により許可された場合においては,公示送達の要件に欠けるところがあつたとしても,右許可に基づいてなされた公示送達は有効であると解するのを相当とする。原審における控訴人に対する各公示送達は,昭和四六年四月一四日付書面をもつて被控訴代理人からなされた申立を原審裁判所の裁判官が許可したことに基づいてなされたものであることが原審記録により明かである。してみると,前記公示送達の方法によつてなされた控訴人に対する原判決の送達はこれを無効であると解すべきではなく,民事訴訟法第一八〇条第一項但書の規定により上記認定のごとく原判決正本の掲示を始めた日の翌日であることが明らかである昭和四六年七月二日にその効力を生じた(原審記録中原判決に関する公示送達報告書に送達の日が昭和四六年七月三日と記載されているのは正確ではない。)ものというべきである。
  本件控訴が昭和四六年一二月八日に提起されたものであることは,その控訴状に押捺された受付印の日付によつて明らかである。さすれば,本件控訴は,原判決が前記のとおり控訴人に有効に公示送達された日より二週間の不変期間を経過した後に提起されたものといわなければならない。

 (二)控訴人は,予備的に,民事訴訟法第一五九条の規定に基づく訴訟行為の追完により本件控訴は適法とされるべきものであると主張する。
  公示送達が適法になされたときに,受送達者がその事実を了知しないで不変期間を徒過したとはいえ,その不知につき過失がないものと認められる場合においては,その者のために訴訟行為の追完を許すべきものであると解するのが相当である。ところで,受送達者が相手方(公示送達申立人)の権利行使のためにする訴の提起を妨げる目的をもつて所在を晦らましたために公示送達を余儀なくされた場合には,受送達者に過失がないとはいえないけれども,公示送達申立人において相手方(訴において被告とされるべき者)の住所を知りながらこれを不明であると称して公示送達を実施させた場合には,受送達者に過失はないものというべきである。

[参照条文]

家事審判法
第十八条  前条の規定により調停を行うことができる事件について訴を提起しようとする者は,まず家庭裁判所に調停の申立をしなければならない。
2  前項の事件について調停の申立をすることなく訴を提起した場合には,裁判所は,その事件を家庭裁判所の調停に付しなければならない。但し,裁判所が事件を調停に付することを適当でないと認めるときは,この限りでない。

民事訴訟法
(期間の伸縮及び付加期間)
第九十六条  裁判所は,法定の期間又はその定めた期間を伸長し,又は短縮することができる。ただし,不変期間については,この限りでない。
2  不変期間については,裁判所は,遠隔の地に住所又は居所を有する者のために付加期間を定めることができる。
( 訴訟行為の追完 )
第九十七条  当事者がその責めに帰することができない事由により不変期間を遵守することができなかった場合には,その事由が消滅した後一週間以内に限り,不変期間内にすべき 訴訟行為の追完☆ をすることができる。ただし,外国に在る当事者については,この期間は,二月とする。
2  前項の期間については,前条第一項本文の規定は,適用しない。
(職権送達の原則等)
第九十八条  送達は,特別の定めがある場合を除き,職権でする。
2  送達に関する事務は,裁判所書記官が取り扱う。
(送達場所)
第百三条  送達は,送達を受けるべき者の住所,居所,営業所又は事務所(以下この節において「住所等」という。)においてする。ただし,法定代理人に対する送達は,本人の営業所又は事務所においてもすることができる。
2  前項に定める場所が知れないとき,又はその場所において送達をするのに支障があるときは,送達は,送達を受けるべき者が雇用,委任その他の法律上の行為に基づき就業する他人の住所等(以下「就業場所」という。)においてすることができる。送達を受けるべき者(次条第一項に規定する者を除く。)が就業場所において送達を受ける旨の申述をしたときも,同様とする。
(公示送達の要件)
第百十条  次に掲げる場合には,裁判所書記官は,申立てにより,公示送達をすることができる。
一  当事者の住所,居所その他送達をすべき場所が知れない場合
二  第百七条第一項の規定により送達をすることができない場合
三  外国においてすべき送達について,第百八条の規定によることができず,又はこれによっても送達をすることができないと認めるべき場合
四  第百八条の規定により外国の管轄官庁に嘱託を発した後六月を経過してもその送達を証する書面の送付がない場合
2  前項の場合において,裁判所は,訴訟の遅滞を避けるため必要があると認めるときは,申立てがないときであっても,裁判所書記官に公示送達をすべきことを命ずることができる。
3  同一の当事者に対する二回目以降の公示送達は,職権でする。ただし,第一項第四号に掲げる場合は,この限りでない。
(公示送達の方法)
第百十一条  公示送達は,裁判所書記官が送達すべき書類を保管し,いつでも送達を受けるべき者に交付すべき旨を裁判所の掲示場に掲示してする。
(公示送達の効力発生の時期)
第百十二条  公示送達は,前条の規定による掲示を始めた日から二週間を経過することによって,その効力を生ずる。ただし,第百十条第三項の公示送達は,掲示を始めた日の翌日にその効力を生ずる。
2  外国においてすべき送達についてした公示送達にあっては,前項の期間は,六週間とする。
3  前二項の期間は,短縮することができない。
(訴状の送達)
第百三十八条  訴状は,被告に送達しなければならない。
2  前条の規定は,訴状の送達をすることができない場合(訴状の送達に必要な費用を予納しない場合を含む。)について準用する。
第四編 再審
(再審の事由)
第三百三十八条  次に掲げる事由がある場合には,確定した終局判決に対し,再審の訴えをもって,不服を申し立てることができる。ただし,当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき,又はこれを知りながら主張しなかったときは,この限りでない。
一  法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。
二  法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
三  法定代理権,訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。

民法
(裁判上の離婚)
第七百七十条  夫婦の一方は,次に掲げる場合に限り,離婚の訴えを提起することができる。
一  配偶者に不貞な行為があったとき。
二  配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三  配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四  配偶者が強度の精神病にかかり,回復の見込みがないとき。
五  その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2  裁判所は,前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても,一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは,離婚の請求を棄却することができる。

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