新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1185、2011/11/22 12:15 https://www.shinginza.com/seinen-kouken.htm

【民事・任意後見制度と法定後見制度の違い】

質問:私は現在健康ですが、将来痴呆症などで自分の財産管理が十分にできなくなったときのことを考えると不安です。何か方法はありますか?

回答:
1.任意後見契約、という制度があります(任意後見契約に関する法律1条以下)。これは、将来、精神上の障害により判断能力が十分でなくなったときのために、本人が信頼できる人と、自己の生活・療養監護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部について代理権を付与する委任契約を事前に結び、実際に判断能力が不十分な状態になったときに、任意後見人に法律行為をしてもらう、という制度です。具体的には、預金通帳からの金銭の出し入れや、不動産賃貸借契約の締結や、賃料の収受、管理会社との連絡、不動産の修繕のための請負契約の締結など、継続的に必要な全ての法律行為を代理してもらうことができます。
2.なお、法定成年後見人という制度がありますが(民法7条以下)、これは本人の判断能力が不十分となった後で後見人を選任する制度ですから、誰が後見人になるか本人が決めて置きたいという場合は任意後見契約を締結しておく必要があります。任意後見契約制度と法定(成年)後見制度(補佐、補助制度を含む)を総称して成年後見制度ということができます。概念が平成11年の法改正によりややこしくなりましたので注意してください。
3.当事務所事例集論文:1065番775番196番参照。

解説:

(任意後見契約制度の趣旨)
  簡単に言うと意思能力の不十分な人を保護し、且取引の安全をも保護する制度です。ただ、意思能力が不十分になる前からその準備をしておく制度で、法定後見制度とは違いますので注意してください。法定後見制度の他にどうしてこのような制度が必要なのでしょうか。私的自治の原則を実質的に保障し取引の安全を保護するためです。日本の法体系の理念は個人の尊厳の保障(憲法13条)にあるのですが、そのための具体的制度は私有財産制度(憲法29条)とこれを側面から保障する私的自治の大原則です。私的自治の原則の中心は、契約自由の原則と過失責任主義であり、その大前提は勿論各人の意思能力、法律行為能力の完全性です。意思能力が不十分な人が、どのような法律行為、不法行為を行ってもその結果に法的責任を問うことは出来ないのです(民法712条、意思自治の原則)。従って、適正公平な取引社会を保証するためには意思能力が不十分である者を前もって制度的に保護する必要がありますし(法律行為の無効、取消等により)、又、個人責任の原則から自分の生活は自らが守らなければならないからといって、意思能力が不十分となり自らの財産、生活環境の保持、維持が出来ないものを放置する事は個人の尊厳、生存権、私有財産制の実質的保障の面から許されません。

  更には、意思能力が不十分な者と取引に関与する相手方が不測の損害を蒙らないように配慮する必要もあります(公示制度の充実、後見登記等に関する法律)。そこで、国家は、以上の事態に対応すべく、このような国民の財産関係に例外的に介入し(自由主義は基本的に国民の財産関係に介入しません)、国民の私有財産制度を実質的に保障するために法定成年後見制度の他意思能力が不十分になる前から制度を事前に用意し、裁判所の監督の下意思能力の不十分な者の財産、生活環境を保全維持継続しかつ、公示制度等により取引の相手方をも保護しようとしています。任意後見契約制度は従来の禁治産者等の後見制度をさらに整備し充実したものです。

第1 (任意後見契約についての、手続について説明します。)

  まず、あなたに判断能力が十分にあるうちに、あなたの財産管理を任せられる人を選び、その人とよく話し合って、@後見事務の全部または一部を委託し、その委託に関する事務について代理権を付与することA任意後見監督人が選任されたときから効力が発生すること、の2点を内容とする委任契約を、公証役場へ行き、公正証書によって締結します。(任意後見契約に関する法律2条1号・2号)。公証人が本人の意思を確認して公正証書を作成する必要がありますから、必ず公正証書にする必要があります。費用は、後で説明する登記の費用と含めて1万7000円程度です。また、任意後見人に付与する代理権の範囲は、委任契約ですから、任意後見受任者との話し合いにより自由に決めることができます。

  任意後見人には、自然人だけでなく、法人も選任することができます。しかし、財産を管理する訳ですから未成年者や、破産者等はなれないという制限があります。また、複数の後見人を選任することもできます。したがって、例えば、財産管理を司法書士に、身上看護を社会福祉協議会に、という選任方法も認められます。
  ただし、任意後見契約に盛り込むことのできる行為は、法律行為に限られますので、介護などの事実行為は除外されますし、本人の意思が確認される必要のある婚姻等身分関係、本人の意思表示・同意・承諾などが必要な行為は除外されます。また、入院・施設入所の強制については、任意代理人が代理でおこなうことができません。
  任意後見契約が締結されると、本人及び任意後見受任者の氏名・住所、権限行使に関する定めなどが登記されます(後見登記等に関する法律第5条)。将来意思能力が不十分である者と取引をする第三者が、当該行為について無効等を主張されることを防ぎ第三者の利益を保護するためです。この登記がなされると、任意後見の手続きが完了します。

第2 (次に、実際に判断能力が不十分な状態になった場合の手続について説明いたします。)

 (1)本人の住所地の家庭裁判所に、任意後見人監督人選任の申立てをします。申立てができるのは、本人・配偶者・四親等以内の親族・任意後見受任者などです。
申立てに必要な費用は、@収入印紙800円分 A登記印紙2000円分 B連絡用の郵便切手(家庭裁判所に確認)です。

  申立てに必要な書類は、@申立書1通(家庭裁判所にあります) A申立人の戸籍謄本1通 B本人の戸籍謄本、戸籍の附票、成年後見登記事項証明書、診断書、各1通 C任意後見監督人候補者の戸籍謄本、住民票、身分証明書、成年後見登記事項証明書、各1通 です。

  家庭裁判所によって任意後見人監督人が選任されると、任意後見が開始されます。

  任意後見人は、家庭裁判所に定期的に後見事務の報告をする義務がありますし、毎年決算書の提出も義務付けられていますし、後見監督人のチェックも受けることになります。任意後見人の事務処理の適正さが確保されているといえます。

 (2)任意後見契約は、基本的に委任契約になりますので、何時でも解除できるのが原則です(任意後見契約法9条、民法651条)。後見監督人選任後は本人の意思能力が不十分であり任意被後見人保護のため家庭裁判所の許可が必要です。

 (3)任意後見人は、信頼できる方であれば、友人や家族でも構いません。しかし、任意後見契約の内容によっては、弁護士や司法書士など、専門家に相談してみることをお勧めいたします。

≪条文参照≫

任意後見契約に関する法律
第一条  この法律は、任意後見契約の方式、効力等に関し特別の定めをするとともに、任意後見人に対する監督に関し必要な事項を定めるものとする。
第二条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号の定めるところによる。
一  任意後見契約 委任者が、受任者に対し、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約であって、第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる旨の定めのあるものをいう。
二  本人 任意後見契約の委任者をいう。
三  任意後見受任者 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任される前における任意後見契約の受任者をいう。
四  任意後見人 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された後における任意後見契約の受任者をいう。
(任意後見契約の方式)
第三条  任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならない。
(任意後見監督人の選任)
第四条  任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により、任意後見監督人を選任する。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
一  本人が未成年者であるとき。
二  本人が成年被後見人、被保佐人又は被補助人である場合において、当該本人に係る後見、保佐又は補助を継続することが本人の利益のため特に必要であると認めるとき。
三  任意後見受任者が次に掲げる者であるとき。
イ 民法 (明治二十九年法律第八十九号)第八百四十七条 各号(第四号を除く。)に掲げる者
ロ 本人に対して訴訟をし、又はした者及びその配偶者並びに直系血族
ハ 不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者
2  前項の規定により任意後見監督人を選任する場合において、本人が成年被後見人、被保佐人又は被補助人であるときは、家庭裁判所は、当該本人に係る後見開始、保佐開始又は補助開始の審判(以下「後見開始の審判等」と総称する。)を取り消さなければならない。
3  第一項の規定により本人以外の者の請求により任意後見監督人を選任するには、あらかじめ本人の同意がなければならない。ただし、本人がその意思を表示することができないときは、この限りでない。
4  任意後見監督人が欠けた場合には、家庭裁判所は、本人、その親族若しくは任意後見人の請求により、又は職権で、任意後見監督人を選任する。
5  任意後見監督人が選任されている場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項に掲げる者の請求により、又は職権で、更に任意後見監督人を選任することができる。
(任意後見監督人の欠格事由)
第五条  任意後見受任者又は任意後見人の配偶者、直系血族及び兄弟姉妹は、任意後見監督人となることができない。
(本人の意思の尊重等)
第六条  任意後見人は、第二条第一号に規定する委託に係る事務(以下「任意後見人の事務」という。)を行うに当たっては、本人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
(任意後見監督人の職務等)
第七条  任意後見監督人の職務は、次のとおりとする。
一  任意後見人の事務を監督すること。
二  任意後見人の事務に関し、家庭裁判所に定期的に報告をすること。
三  急迫の事情がある場合に、任意後見人の代理権の範囲内において、必要な処分をすること。
四  任意後見人又はその代表する者と本人との利益が相反する行為について本人を代表すること。
2  任意後見監督人は、いつでも、任意後見人に対し任意後見人の事務の報告を求め、又は任意後見人の事務若しくは本人の財産の状況を調査することができる。
3  家庭裁判所は、必要があると認めるときは、任意後見監督人に対し、任意後見人の事務に関する報告を求め、任意後見人の事務若しくは本人の財産の状況の調査を命じ、その他任意後見監督人の職務について必要な処分を命ずることができる。
4  民法第六百四十四条 、第六百五十四条、第六百五十五条、第八百四十三条第四項、第八百四十四条、第八百四十六条、第八百四十七条、第八百五十九条の二、第八百六十一条第二項及び第八百六十二条の規定は、任意後見監督人について準用する。
(任意後見人の解任)
第八条  任意後見人に不正な行為、著しい不行跡その他その任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は、任意後見監督人、本人、その親族又は検察官の請求により、任意後見人を解任することができる。
(任意後見契約の解除)
第九条  第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任される前においては、本人又は任意後見受任者は、いつでも、公証人の認証を受けた書面によって、任意後見契約を解除することができる。
2  第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された後においては、本人又は任意後見人は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、任意後見契約を解除することができる。
(後見、保佐及び補助との関係)
第十条  任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。
2  前項の場合における後見開始の審判等の請求は、任意後見受任者、任意後見人又は任意後見監督人もすることができる。
3  第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された後において本人が後見開始の審判等を受けたときは、任意後見契約は終了する。
(任意後見人の代理権の消滅の対抗要件)
第十一条  任意後見人の代理権の消滅は、登記をしなければ、善意の第三者に対抗することができない。
(家事審判法 の適用)
第十二条  家事審判法 (昭和二十二年法律第百五十二号)の適用に関しては、第四条第一項、第四項及び第五項の規定による任意後見監督人の選任、同条第二項の規定による後見開始の審判等の取消し、第七条第三項の規定による報告の徴収、調査命令その他任意後見監督人の職務に関する処分、同条第四項において準用する民法第八百四十四条 、第八百四十六条、第八百五十九条の二第一項及び第二項並びに第八百六十二条の規定による任意後見監督人の辞任についての許可、任意後見監督人の解任、任意後見監督人が数人ある場合におけるその権限の行使についての定め及びその取消し並びに任意後見監督人に対する報酬の付与、第八条の規定による任意後見人の解任並びに第九条第二項の規定による任意後見契約の解除についての許可は、家事審判法第九条第一項 甲類に掲げる事項とみなす。
(最高裁判所規則)
第十三条  この法律に定めるもののほか、任意後見契約に関する審判の手続に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。

民法
(委任の解除)
第六百五十一条  委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
2  当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。

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