新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1103、2011/5/17 16:43

【民事・騙されて振込みを行った場合預金口座組み戻しはできるか】

質問:息子が架空請求の被害に遭い、犯人に指定された口座に20万円を振り込んでしまいました。すぐに気がついて銀行に連絡したところ、組戻しという方法があるが、窓口でしか手続きできないと言われました。夜だったため、朝一番で窓口で手続きをしましたが、結局間に合わず、20万円は取戻せませんでした。すぐに銀行に連絡したのに、被害を防止できなかったことに納得がいきません。銀行の責任を問うことはできませんか。

回答:
1.銀行がどのような場合に振込みの取消(組戻し)を行うかは、各銀行が約款で定めています。通常は、窓口で組戻依頼書等を作成提出しなければ組戻しを行わない扱いとしており、それ以外の方法で振込みの取消をしてもらうことは不可能といわざるをえないでしょう。残念ですが、本件の被害については犯人の責任を追及するしかありません。警察への被害届はすぐに行ってください。
2.なお、振り込め詐欺救済法により犯罪に利用された預金口座の凍結が行われることになり、その口座に金員が残っていればその口座からの支払いが可能となりますが、その場合は届出があった被害額に応じて分配金ということになります。この場合は送金先の金融機関にもその旨連絡しかつ警察に被害届を出す必要があります。また、これは犯人の責任の追及の一形態と考えられますので、以下組戻しに限って説明します。
3.法律相談事例集キーワード検索で952番745番694番を参照してください。

解説:
1.振込送金の法的性質
 振込みをストップする方法である「組戻し」の可否が本件のポイントになりますが、そもそも振込みとは何か、整理してみましょう。
 振込みとは、相手の銀行口座に宛ててお金を払い込むことです。お金の動きを見てみると、まず振込みをしようとするAが資金を用意し、B銀行の窓口やATM等で、C銀行のD名義口座に宛てて振込みの依頼をします。振込依頼を受けたB銀行は、C銀行に振込を通知し、銀行間の為替システムを通じて資金を移動します。C銀行は振込みの通知を受け取った時点でDの口座へ入金の処理をし、Dはお金を引き出すことができるようになります。このように、振込みとは、銀行間の為替システムを利用した送金の手段ということができます。Aを振込依頼人、B銀行を仕向銀行、C銀行を被仕向銀行、Dを受取人とよびます。

2.誤振込の場合の法律関係
 上記のお金の流れにおいて、C銀行が振込み通知を受け取ってDの口座に入金の処理をした場合、入金されたお金はDの預金の一部になることが前提となっています。つまり、振込みにより入金されたお金については、Dの預金債権が成立するということです。これはCとDの間の預金契約によりそのように定められているためです。
 では、Aが間違ってDに振込みしてしまった誤振込の場合でも、その点は同じなのでしょうか。判例があります。
 判例の事件は、ある会社が家賃を振込みで支払おうとして、誤って全く別の会社の口座に振り込んでしまったところ、たまたまその会社にお金を貸していた債権者が振込先の口座を差し押さえてしまい、間違って振り込んだ分が戻ってこなくなったというケースでした。
 このケースについて、第一審と控訴審の裁判所は、誤振込の場合は受取人の預金債権は成立しないから差押えも空振りになるとして、間違った振込みをした会社を保護する判断をしました。しかし最高裁は、誤振込の場合にも受取人の預金債権は成立するという判断を示しました(最高裁平成8年4月26日判決)。その理由は、預金成立の根拠となる預金契約には、振込みがあった場合には入金すると定められているだけで、誤振込の場合を除外するような規定がないことと、振込みは安全・安価・迅速な送金手段であって、大量かつスムーズな取引を実現するために、銀行がいちいち振込みに正当な原因関係があるかどうかをチェックしない仕組みをとっているから、ということにありました。ただ、預金債権が成立するからといって、受取人が自由にお金を使っていいということにはなりません。正当な原因関係がない誤振込の場合、受取人は法律上の原因なく預金債権を利得したことになり、振込依頼人に対し不当利得返還義務を負います(民法703条)。また、誤振込であることを知りながら、そのことを秘して預金を引き出した場合、銀行に対する詐欺罪が成立します(最高裁平成15年3月12日決定)。しかし、預金債権が成立する以上、第三者が差押えをすることは妨げられず、このケースにおける誤振込をした会社は、保護されないという結論になりました。

 この最高裁判例のケースの当事者は、うっかり誤振込をしてしまった振込依頼人と誤振込であることを知らずに差押えをした債権者という、にわかには優先順位をつけがたい二者でした。仮にたとえば、被仕向銀行や差押え債権者があらかじめ誤振込であることを知っていた場合には、異なる結論になる可能性も考えられます(被仕向銀行自身が受取人の債権者であるケースで、被仕向銀行が組戻しの依頼を受けたにもかかわらず、誤振込された預金を相殺して債権回収したケースについて、振込依頼人は被仕向銀行に対して不当利得返還請求できると判断した名古屋高裁平成17年3月17日判決参照。)。
 ただ、少なくとも、被仕向銀行が誤振込であることを知らない間に受取人が預金を引き出せば、被仕向銀行が引出しに応じることは預金契約に基づいた当然の義務履行であり、そのことについて何ら責任を問われないという点は確立しているといえます。

3.組戻しの意義
 組戻しは、振込みをした後でそれを取消すことですが、銀行によって若干の用語の違いもあります(被仕向銀行での入金処理までされてしまった後の取消の場合のみ組戻しと呼ぶ銀行もあるようです。)。いずれにしても振込みの取消について共通していえることは、振込み自体が振込依頼人と仕向銀行との間の契約であるため、その成立後に振込みを取消すことは振込依頼人の一存でできるものではなく、約款等であらかじめ合意された条件の下でのみできるということです。法律的には準委任契約の解除(民法651条)の性質を持つとしても、約款によりその行使条件が制限されていると解すべきだと思います。そして、通常、約款により、組戻しをするためには窓口に備え付けてある組戻し依頼書に記入し、提出する必要があると定められています。また、振込金が受取人の口座に入金される前であれば組戻しにより返金できるが、入金されてしまうと受取人の同意がなければ返金できないというのが銀行実務です。この点も、入金後は返金が保証できないというような形で、通常は約款に記載されています。
 したがって、銀行があらかじめ定めている手続きに従わなければ、組戻しをしてもらうことはできず、誤振込とわかっていてもどうしようもないというのが現状です。理想としては、各銀行が詐欺被害対策の一環として、組戻しとはいかないまでも預金を分離して凍結することができればよいと思いますが、逆に被害報告が誤報だった場合の責任等を考えると、難しいのかもしれません。一番悪いのは詐欺犯であり、取締りが強く望まれるところですが、振込みの利用者も被害に遭わないよう、まずは自分で最大限注意しなければなりません。

≪参照条文≫

民法
651条1項 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
703条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

≪参照判例≫

 最高裁平成8年4月26日判決(抄)
   1 振込依頼人から受取人の銀行の普通預金口座に振込みがあったときは、振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係が存在するか否かにかかわらず、受取人と銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立し、受取人が銀行に対して右金額相当の普通預金債権を取得するものと解するのが相当である。けだし、前記普通預金規定には、振込みがあった場合にはこれを預金口座に受け入れるという趣旨の定めがあるだけで、受取人と銀行との間の普通預金契約の成否を振込依頼人と受取人との間の振込みの原因となる法律関係の有無に懸からせていることをうかがわせる定めは置かれていないし、振込みは、銀行間及び銀行店舗間の送金手続を通して安全、安価、迅速に資金を移動する手段であって、多数かつ多額の資金移動を円滑に処理するため、その仲介に当たる銀行が各資金移動の原因となる法律関係の存否、内容等を関知することなくこれを遂行する仕組みが採られているからである。
   2  また、振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係が存在しないにかかわらず、振込みによって受取人が振込金額相当の預金債権を取得したときは、振込依頼人は、受取人に対し、右同額の不当利得返還請求権を有することがあるにとどまり、右預金債権の譲渡を妨げる権利を取得するわけではないから、受取人の債権者がした右預金債権に対する強制執行の不許を求めることはできないというべきである。
   3  これを本件についてみるに、前記事実関係の下では、透信は、富士銀行に対し、本件振込みに係る普通預金債権を取得したものというべきである。そして、振込依頼人である被上告人と受取人である透信との間に本件振込みの原因となる法律関係は何ら存在しなかったとしても、被上告人は、透信に対し、右同額の不当利得返還請求権を取得し得るにとどまり、本件預金債権の譲渡を妨げる権利を有するとはいえないから、本件預金債権に対してされた強制執行の不許を求めることはできない。

 名古屋高裁平成17年3月17日判決(抄)
 他方、上記振込みは、振込依頼人が、仕向銀行に対して仕向銀行と被仕向銀行との間の(受取人の預金口座に入金するための)為替取引を委任する契約であり、振込依頼人は、上記準委任契約を解除し、被仕向銀行から仕向銀行に振込金の送金(返還)手続(いわゆる組戻し)をすることができる。この組戻しについては、振込みの場合には、振込金が受取人の預金口座に入金記帳されるまでは、委任事務が終了しておらず、いつでも組戻しをすることができるが、既に受取人の預金口座に振込金が入金記帳されている場合には、委任事務が終了しているので、原則として組戻しができないものの、受取人がこれを承諾するときには組戻しができるとするのが銀行実務であり、控訴人も同様の取扱いをしている(原審証人甲)。
(中略)
 そうすると、振込依頼人が受取人との間の振込みの原因となる法律関係を欠くにもかかわらず、誤って受取人の預金口座に振込みを仕向銀行に依頼し、いわゆる誤振込みにより受取人の被仕向銀行の当座預金口座に入金記帳された場合、原則として、受取人の被仕向銀行の当座預金口座に入金記帳されることにより、振込依頼人と受取人との間の振込みの原因となる法律関係の存否とは関係なく、受取人と被仕向銀行との間に当座預金契約が成立することになり、振込依頼人の誤振込みにより、直ちに被仕向銀行に振込金額相当の利得が生じたものとはいえない。しかしながら、振込依頼人が、誤振込みを理由に、仕向銀行に組戻しを依頼し、受取人も、振込依頼人の誤振込みによる入金であることを認めて、被仕向銀行による返還を承諾している場合には、受取人において、振込依頼人の誤振込みによる入金を拒否(あるいは、上記当座預金口座に記帳された振込金額相当の預金を事実上放棄)する意思表示をするものと解することができ、他方で、被仕向銀行においても、受取人が当該振込金額相当の預金債権を権利行使することは考えられず〔なお、誤った振込みがあることを知った受取人が、その情を秘して預金の払戻しを請求することは、詐欺罪の欺罔行為に当たり、また、誤った振込みの有無に関する錯誤に当たるというべきであるから、錯誤に陥った銀行窓口係員から受取人が預金の払戻しを受けた場合には、詐欺罪が成立する(最高裁平成15年3月12日第二小法廷決定・金融法務事情1697号49頁)。〕、このままの状態では振込金の返還先が存在しないことになり、同銀行に利得が生じたのと同様の結果になること、さらに、被仕向銀行が、誤振込みであることを知っている場合には、銀行間及び銀行店舗間の多数かつ多額の資金移動の円滑な処理の面からの保護を考慮することは必ずしも必要でなく、かつ、振込依頼人と受取人間の原因関係をめぐる紛争に被仕向銀行を巻き込み、対応困難な立場に置くこともなく(なお、受取人、被仕向銀行共に誤振込みであることを知っている場合には、間違って振込みをした者に不利益を負わせるのが公平であるともいえない。)、個別的な組戻し手続をとることを妨げるものではないことからすれば、以上のような場合にあっては、上記のとおり、受取人と被仕向銀行との間に振込金額相当の(当座)預金契約が成立したとしても、正義、公平の観念に照らし、その法的処理において、実質はこれが成立していないのと同様に構成し、振込依頼人が誤振込みを理由とする振込金相当額の返還を求める不当利得返還請求においては、振込依頼人の損失によって被仕向銀行に当該振込金相当額の利得が生じたものとして、組戻しの方法をとるまでもなく、振込依頼人への直接の返還義務を認めるのが相当である。けだし、受取人が、振込金について預金債権を有しないことを認めており、被仕向銀行には組戻しを拒む正当な理由がないのに、誤振込みをした振込依頼人は、受取人に対する不当利得返還請求権(受取人に上記預金債権が成立し、他方、振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係を欠くことから、受取人に法律上の原因なく利得が生じることになる。)の行使しかできないとすると、受取人としては、常に被仕向銀行に対する預金債権を行使せざるを得なくなり(しかも、当座預金口座の場合には当座取引の終了が必要となる。)、いたずらに紛争の解決を迂遠なものとし、実質的に保護すべき関係にないものを保護する結果となり、無用な混乱を招くものといえる。

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