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No.900、2009/7/31 15:46 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm

【相続・遺留分の放棄手続き・遺産の分散化を防ぐ方法・平成20年成立中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律】

質問:私は,父・母・弟の4人家族で,父が株式会社を経営しており,中小企業ですが会社を引き継ぐ予定の長男です。円滑に会社を引き継ぐため,父の持つ株式など全ての財産を私に集中するようにしたいのですが,どうしたらいいのか分からず,家族で悩んでいます。よい方法があれば教えて下さい。なお,他に相続人はいません。

回答:
1.共同相続の大原則から、お父さんが亡くなった後,@お母さんと弟さんを説得し,相続放棄をしてもらう。A相続人全員で,遺産分割協議を行い,あなたに全財産が相続することとする,などの方法が考えられますが、相続開始後の対策でありあまり有効ではありません。
2.次に,お父さんが,あなたに全財産を相続させる旨の遺言を作成し,相続開始後,お母さんと弟さんが遺留分を主張しない,という方法もあります。しかし,これも相続開始後の対応であり他の相続人が同意しなければ,8分の3は他の相続人に帰属するので会社の経営引き継ぎは不安定になります。
3.又、効果的だと考えられるのは,お母さんと弟さんに,相続開始前に遺留分の放棄をする旨を家庭裁判所に申し出てもらい,その許可をもらった上で,お父さんに全財産をあなたに,との遺言を作成してもらうことだと思われます。遺留分の放棄については放棄を求める理由、説得、遺留分放棄に対する代償が必要でしょうが、父が死亡する前から代償等について具体的話はできない場合も多いと思います。以上、どの方法の場合でも,何らかの対価の支払いをすることが一般的なようです。
4.さらに相続開始前の対策として、平成20年、相続に関し中小企業の円滑な承継者への事業移転を図るため、遺留分の特例、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律が成立しました。相続開始前の対策であり、遺留分権利者善意の合意、経済産業大臣の確認、家庭裁判所の許可等必要ですが、企業継続のためこの手続きを利用されてはどうでしょうか。
5.事例集873番を参考にしてください。

解説:
1.お父さんが亡くなった場合,法定相続分は,お母さんが2分の1,残りの2分の1を兄弟で2分の1ずつ分けることになります(民法900条)。おそらくお父さんは,経営する会社の株式をお持ちでしょうから,このままですと株式がお母さんと兄弟2人の3人に分散することになります。他の財産も同様です。ただ,これは,あくまで法定相続分がこうなるというだけの話であって,必ずそうしなければならないというものではありません。長男であるあなたに相続財産を集中させる方法はいくつかあります。@相続開始後,お母さんと弟さんが家庭裁判所に対し相続放棄を申し出る(民法938条以下)。A相続開始後,お母さん,あなた,弟さんの相続人3人で遺産分割協議を行い,あなたが全財産を相続することとする(民法906条以下)。Bお父さんが,あなたに全財産を相続させるとの遺言を作成し,お母さんと弟さんが,相続開始後,遺留分を主張しない,というものなどが考えられると思います。これらの方法は,どれも相続開始後に行う方法です。もちろん,ご相談のように,財産は全て長男に,ということで話が事前についているのであれば,どの方法でも円滑に行われる場合がほとんどではないかと思われます。しかし,場合によっては,思わぬところから,お母さんまたは弟さんが借金を作ってしまい,相続開始後,やはり自分も財産が欲しい,と言い出す場合も考えられなくはありません。このような場合に備え,もっとも有効だと考えられるのは,相続開始前の遺留分の放棄です。

2.ここで少し遺留分について,説明しておきたいと思います。遺留分とは,被相続人の生前処分または死因贈与によっても奪われることのない相続人に留保された相続財産の一定割合のことをいいます(民法1028条)。この遺留分制度は,相続人の生活保障の要請から,被相続人の財産処分の自由を,一定限度で制約する制度です。つまり,遺留分は,相続開始以前における被相続人の財産処分の自由までも奪うものでなく,遺留分を侵害する被相続人の処分があっても,当然には無効とならず,一定限度で取り戻すことができるにすぎない制度となっているのです(遺留分減殺請求権(民法1031条))。これは,残された相続人の生活の安定や家族財産の公平な分配という要請がある反面,被相続人の個人財産処分の自由や取引の安全という要請も考慮しなければならないことから,両者を調和して制度化されています。もともと我が国の私法関係は,私的自治の原則と私有財産制により構成されており,私有財産制の内容は理論的に死亡後の財産処分の自由も認めることになります。従って,遺言優先の原則が基本となり,本来遺産の本来の所有者である被相続人は,誰にどれだけの贈与,遺贈をなすか全く自由意思で決めることができるのです。しかし,遺産形成についての相続人の精神的寄与,遺産で生活してきた遺族の期待権を無視することはできませんので,例外的に一定割合の請求権、すなわち、請求の意思表示をしたときに権利を認める形成権を遺族に認めました。これが遺留分請求権です。例外的権利ですので,取引の安全,権利関係の早期確定のため除斥期間(時効期間ではありませんから中断もありません。)も1年と短期間になっています(民法1042条)。

3.話が少し逸れましたが,遺留分は1つの財産権として放棄することが認められています。相続権は,遺言がない限り相続人が平等に権利を有し,相続開始前に放棄することは許されません。戦前の家制度,長男子単独相続を廃止して家庭内の権利関係を平等に扱い個人の尊厳を守ろうとする新憲法13条,24条の趣旨に基づいています。しかし,遺留分請求権は,相続に関する権利であっても私有財産制の例外的権利であり,家庭裁判所の許可を条件に放棄を認めています。相続開始後の遺留分の放棄については,本人が自由になし得ますが,相続開始前の遺留分の放棄については被相続人による強制が考えられるため,家庭裁判所の許可が必要とされています(民法1043条1項)。ただ,遺留分を放棄しても,減殺請求権が行使できなくなるだけで,相続ができなくなるわけではありません。
ご相談の,あなた1人が全財産を相続するという目的を達成するためには,お母さんと弟に遺留分を放棄していただき,放棄についての家庭裁判所の許可をもらった上で,お父さんに,あなたに全財産を相続させるという内容の遺言を残してもらえばよいでしょう。また,家庭裁判所の許可が得られない場合もあり得ます。家庭裁判所は,@遺留分の放棄が本人の意思に基づくものであるか,A放棄に必要性・合理性が認められるか,B放棄に代償性があるかどうか,などから許可をするか否かの判断をしているようです。代償性とは,放棄をする代わりに一定の財産をいただくということです。そうすると,相続開始後,他の相続人が翻意し,自己の相続権を主張してきた場合,ある程度の対価を交付することで,相続放棄,遺産分割協議,遺留分放棄に納得してもらうことが考えられますが,相続開始前の遺留分放棄についてもある程度対価が必要となることがあるようです。むしろ,対価の支払う場合が一般的かもしれません。しかし、相続が開始する前から遺産についての処分を話しあうというのも、父親の手前難しい点もあると思います。さらに、問題の株式を対価の対象とするようなことになれば経営の引き継ぎは円満に行きません。

4.(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律)そこで,遺留分の特例として,中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律が平成20年に成立しました。この法律の趣旨は,相続が開始する前から遺留分権利者全員の話し合いにより中小企業の円滑な承継を実現するために制定されました。相続について当該株式に関する贈与を遺留分の対象から外し株式の分散化を防ぎ,手続き上も遺留分の放棄と異なり個別的に申し立てることが不要となり,後継者が事業を分割することなく円滑に承継し,公正な経済社会秩序を維持しようとするものです。遺留分請求権は,私有財産制の例外的権利であり,相続開始前に当該権利により利益をうけるものの,合意により対象となる財産の範囲を変更することを認めています。
(手続)民法の例外を認め他の遺留分権利者の利益を保護しなければならないので,事前に遺留分権利者全員との合意(同4条),経済産業大臣の確認(同7条)を経て,家庭裁判所の許可(同8条)が手続き上必要となります。
(遺留分権利者の利益確保)当該株式を遺留分の対象から除外することにより,他の遺留分権利者に不利益が生じますので調整の必要があり、手続きに付随して他の遺留分権利者に対する財産の贈与も遺留分の対象にしないという取り決めをすることができます(同6
条)。

5.成立して間もない法律ですから、不安であればお近くの法律事務所へご相談なさってみるのがよろしいかと思います。

<参照条文>
民法
(遺産の分割の基準)
第九百六条 遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
(遺産の分割の協議又は審判等)
第九百七条 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。
2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。
3 前項の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。
(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)
第九百八条 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
(遺産の分割の効力)
第九百九条 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)
第九百十条 相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。
(共同相続人間の担保責任)
第九百十一条 各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保の責任を負う。
(遺産の分割によって受けた債権についての担保責任)
第九百十二条 各共同相続人は、その相続分に応じ、他の共同相続人が遺産の分割によって受けた債権について、その分割の時における債務者の資力を担保する。
2 弁済期に至らない債権及び停止条件付きの債権については、各共同相続人は、弁済をすべき時における債務者の資力を担保する。
(資力のない共同相続人がある場合の担保責任の分担)
第九百十三条 担保の責任を負う共同相続人中に償還をする資力のない者があるときは、その償還することができない部分は、求償者及び他の資力のある者が、それぞれその相続分に応じて分担する。ただし、求償者に過失があるときは、他の共同相続人に対して分担を請求することができない。
(遺言による担保責任の定め)
第九百十四条 前三条の規定は、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、適用しない。
(相続の放棄の方式)
第九百三十八条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
(相続の放棄をした者による管理)
第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
2 第六百四十五条、第六百四十六条、第六百五十条第一項及び第二項並びに第九百十八条第二項及び第三項の規定は、前項の場合について準用する。
第千二十八条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
 一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
 二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一
(遺贈又は贈与の減殺請求)
第千三十一条 遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。
(減殺請求権の期間の制限)
第千四十二条  減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
(遺留分の放棄)
第千四十三条 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
2 共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。

中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律
(平成二十年五月十六日法律第三十三号)
 第一章 総則(第一条・第二条)
 第二章 遺留分に関する民法の特例(第三条―第十一条)
 第三章 支援措置(第十二条―第十五条)
 第四章 雑則(第十六条)
 附則
   第一章 総則
(目的)
第一条  この法律は、多様な事業の分野において特色ある事業活動を行い、多様な就業の機会を提供すること等により我が国の経済の基盤を形成している中小企業について、代表者の死亡等に起因する経営の承継がその事業活動の継続に影響を及ぼすことにかんがみ、遺留分に関し民法 (明治二十九年法律第八十九号)の特例を定めるとともに、中小企業者が必要とする資金の供給の円滑化等の支援措置を講ずることにより、中小企業における経営の承継の円滑化を図り、もって中小企業の事業活動の継続に資することを目的とする。
(定義)
第二条  この法律において「中小企業者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。
一  資本金の額又は出資の総額が三億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が三百人以下の会社及び個人であって、製造業、建設業、運輸業その他の業種(次号から第四号までに掲げる業種及び第五号の政令で定める業種を除く。)に属する事業を主たる事業として営むもの
二  資本金の額又は出資の総額が一億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が百人以下の会社及び個人であって、卸売業(第五号の政令で定める業種を除く。)に属する事業を主たる事業として営むもの
三  資本金の額又は出資の総額が五千万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が百人以下の会社及び個人であって、サービス業(第五号の政令で定める業種を除く。)に属する事業を主たる事業として営むもの
四  資本金の額又は出資の総額が五千万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が五十人以下の会社及び個人であって、小売業(次号の政令で定める業種を除く。)に属する事業を主たる事業として営むもの
五  資本金の額又は出資の総額がその業種ごとに政令で定める金額以下の会社並びに常時使用する従業員の数がその業種ごとに政令で定める数以下の会社及び個人であって、その政令で定める業種に属する事業を主たる事業として営むもの
   第二章 遺留分に関する民法 の特例
(定義)
第三条  この章において「特例中小企業者」とは、中小企業者のうち、一定期間以上継続して事業を行っているものとして経済産業省令で定める要件に該当する会社(金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第二条第十六項に規定する金融商品取引所に上場されている株式又は同法第六十七条の十一第一項の店頭売買有価証券登録原簿に登録されている株式を発行している株式会社を除く。)をいう。
2  この章において「旧代表者」とは、特例中小企業者の代表者であった者(代表者である者を含む。)であって、その推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者のうち被相続人の兄弟姉妹及びこれらの者の子以外のものに限る。以下同じ。)のうち少なくとも一人に対して当該特例中小企業者の株式等(株式(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株式を除く。)又は持分をいう。以下同じ。)の贈与をしたものをいう。
3  この章において「後継者」とは、旧代表者の推定相続人のうち、当該旧代表者から当該特例中小企業者の株式等の贈与を受けた者又は当該贈与を受けた者から当該株式等を相続、遺贈若しくは贈与により取得した者であって、当該特例中小企業者の総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。以下同じ。)又は総社員の議決権の過半数を有し、かつ、当該特例中小企業者の代表者であるものをいう。
(後継者が取得した株式等に関する遺留分の算定に係る合意等)
第四条  旧代表者の推定相続人は、そのうちの一人が後継者である場合には、その全員の合意をもって、書面により、次に掲げる内容の定めをすることができる。ただし、当該後継者が所有する当該特例中小企業者の株式等のうち当該定めに係るものを除いたものに係る議決権の数が総株主又は総社員の議決権の百分の五十を超える数となる場合は、この限りでない。
一  当該後継者が当該旧代表者からの贈与又は当該贈与を受けた旧代表者の推定相続人からの相続、遺贈若しくは贈与により取得した当該特例中小企業者の株式等の全部又は一部について、その価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しないこと。
二  前号に規定する株式等の全部又は一部について、遺留分を算定するための財産の価額に算入すべき価額を当該合意の時における価額(弁護士、弁護士法人、公認会計士(公認会計士法(昭和二十三年法律第百三号)第十六条の二第五項に規定する外国公認会計士を含む。)、監査法人、税理士又は税理士法人がその時における相当な価額として証明をしたものに限る。)とすること。
2  次に掲げる者は、前項第二号に規定する証明をすることができない。
一  旧代表者
二  後継者
三  業務の停止の処分を受け、その停止の期間を経過しない者
四  弁護士法人、監査法人又は税理士法人であって、その社員の半数以上が第一号又は第二号に掲げる者のいずれかに該当するもの
3  旧代表者の推定相続人は、第一項の規定による合意をする際に、併せて、その全員の合意をもって、書面により、次に掲げる場合に後継者以外の推定相続人がとることができる措置に関する定めをしなければならない。
一  当該後継者が第一項の規定による合意の対象とした株式等を処分する行為をした場合
二  旧代表者の生存中に当該後継者が当該特例中小企業者の代表者として経営に従事しなくなった場合
(後継者が取得した株式等以外の財産に関する遺留分の算定に係る合意等)
第五条  旧代表者の推定相続人は、前条第一項の規定による合意をする際に、併せて、その全員の合意をもって、書面により、後継者が当該旧代表者からの贈与又は当該贈与を受けた旧代表者の推定相続人からの相続、遺贈若しくは贈与により取得した財産(当該特例中小企業者の株式等を除く。)の全部又は一部について、その価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しない旨の定めをすることができる。
第六条  旧代表者の推定相続人が、第四条第一項の規定による合意をする際に、併せて、その全員の合意をもって、当該推定相続人間の衡平を図るための措置に関する定めをする場合においては、当該定めは、書面によってしなければならない。
2  旧代表者の推定相続人は、前項の規定による合意として、後継者以外の推定相続人が当該旧代表者からの贈与又は当該贈与を受けた旧代表者の推定相続人からの相続、遺贈若しくは贈与により取得した財産の全部又は一部について、その価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しない旨の定めをすることができる。
(経済産業大臣の確認)
第七条  第四条第一項の規定による合意(前二条の規定による合意をした場合にあっては、同項及び前二条の規定による合意。以下この条において同じ。)をした後継者は、次の各号のいずれにも該当することについて、経済産業大臣の確認を受けることができる。一  当該合意が当該特例中小企業者の経営の承継の円滑化を図るためにされたものであること。
二  申請をした者が当該合意をした日において後継者であったこと。
三  当該合意をした日において、当該後継者が所有する当該特例中小企業者の株式等のうち当該合意の対象とした株式等を除いたものに係る議決権の数が総株主又は総社員の議決権の百分の五十以下の数であったこと。
四  第四条第三項の規定による合意をしていること。
2  前項の確認の申請は、経済産業省令で定めるところにより、第四条第一項の規定による合意をした日から一月以内に、次に掲げる書類を添付した申請書を経済産業大臣に提出してしなければならない。
一  当該合意の当事者の全員の署名又は記名押印のある次に掲げる書面
イ 当該合意に関する書面
ロ 当該合意の当事者の全員が当該特例中小企業者の経営の承継の円滑化を図るために当該合意をした旨の記載がある書面
二  第四条第一項第二号に掲げる内容の定めをした場合においては、同号に規定する証明を記載した書面
三  前二号に掲げるもののほか、経済産業省令で定める書類
3  第四条第一項の規定による合意をした後継者が死亡したときは、その相続人は、第一項の確認を受けることができない。
4  経済産業大臣は、第一項の確認を受けた者について、偽りその他不正の手段によりその確認を受けたことが判明したときは、その確認を取り消すことができる。
(家庭裁判所の許可)
第八条  第四条第一項の規定による合意(第五条又は第六条第二項の規定による合意をした場合にあっては、第四条第一項及び第五条又は第六条第二項の規定による合意)は、前条第一項の確認を受けた者が当該確認を受けた日から一月以内にした申立てにより、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
2  家庭裁判所は、前項に規定する合意が当事者の全員の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを許可することができない。
3  前条第一項の確認を受けた者が死亡したときは、その相続人は、第一項の許可を受けることができない。
(合意の効力)
第九条  前条第一項の許可があった場合には、民法第千二十九条第一項の規定及び同法第千四十四条において準用する同法第九百三条第一項の規定にかかわらず、第四条第一項第一号に掲げる内容の定めに係る株式等並びに第五条及び第六条第二項の規定による合意に係る財産の価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しないものとする。
2  前条第一項の許可があった場合における第四条第一項第二号に掲げる内容の定めに係る株式等について遺留分を算定するための財産の価額に算入すべき価額は、当該定めをした価額とする。
3  前二項の規定にかかわらず、前条第一項に規定する合意は、旧代表者がした遺贈及び贈与について、当該合意の当事者(民法第八百八十七条第二項(同条第三項において準用する場合を含む。)の規定により当該旧代表者の相続人となる者(次条第四号において「代襲者」という。)を含む。次条第三号において同じ。)以外の者に対してする減殺に影響を及ぼさない。
(合意の効力の消滅)
第十条  第八条第一項に規定する合意は、次に掲げる事由が生じたときは、その効力を失う。
一  第七条第一項の確認が取り消されたこと。
二  旧代表者の生存中に後継者が死亡し、又は後見開始若しくは保佐開始の審判を受けたこと。
三  当該合意の当事者以外の者が新たに旧代表者の推定相続人となったこと。
四  当該合意の当事者の代襲者が旧代表者の養子となったこと。
(家事審判法の適用)
第十一条  第八条第一項の許可は、家事審判法(昭和二十二年法律第百五十二号)の適用については、同法第九条第一項甲類に掲げる事項とみなす。
   第三章 支援措置
(経済産業大臣の認定)
第十二条  次の各号に掲げる者は、当該各号に該当することについて、経済産業大臣の認定を受けることができる。
一  会社である中小企業者(金融商品取引法第二条第十六項 に規定する金融商品取引所に上場されている株式又は同法第六十七条の十一第一項 の店頭売買有価証券登録原簿に登録されている株式を発行している株式会社を除く。) 当該中小企業者における代表者の死亡等に起因する経営の承継に伴い、死亡したその代表者(代表者であった者を含む。)又は退任したその代表者の資産のうち当該中小企業者の事業の実施に不可欠なものを取得するために多額の費用を要することその他経済産業省令で定める事由が生じているため、当該中小企業者の事業活動の継続に支障が生じていると認められること。
二  個人である中小企業者 他の個人である中小企業者の死亡等に起因する当該他の個人である中小企業者が営んでいた事業の経営の承継に伴い、当該他の個人である中小企業者の資産のうち当該個人である中小企業者の事業の実施に不可欠なものを取得するために多額の費用を要することその他経済産業省令で定める事由が生じているため、当該個人である中小企業者の事業活動の継続に支障が生じていると認められること。
2  前項の認定に関し必要な事項は、経済産業省令で定める。
(中小企業信用保険法 の特例)
第十三条  中小企業信用保険法 (昭和二十五年法律第二百六十四号)第三条第一項 に規定する普通保険、同法第三条の二第一項 に規定する無担保保険又は同法第三条の三第一項 に規定する特別小口保険の保険関係であって、経営承継関連保証(同法第三条第一項 、第三条の二第一項又は第三条の三第一項に規定する債務の保証であって、前条第一項の認定を受けた中小企業者(以下「認定中小企業者」という。)の事業に必要な資金に係るものをいう。)を受けた認定中小企業者に係るものについての次の表の上欄に掲げる同法 の規定の適用については、これらの規定中同表の中欄に掲げる字句は、同表の下欄に掲げる字句とする。
第三条第一項保険価額の合計額が中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律第十三条に規定する経営承継関連保証(以下「経営承継関連保証」という。)に係る保険関係の保険価額の合計額とその他の保険関係の保険価額の合計額とがそれぞれ
第三条の二第一項及び第三条の三第一項保険価額の合計額が経営承継関連保証に係る保険関係の保険価額の合計額とその他の保険関係の保険価額の合計額とがそれぞれ第三条の二第三項当該借入金の額のうち経営承継関連保証及びその他の保証ごとに、それぞれ当該借入金の額のうち
当該債務者経営承継関連保証及びその他の保証ごとに、当該債務者
第三条の三第二項当該保証をした経営承継関連保証及びその他の保証ごとに、それぞれ当該保証をした
当該債務者経営承継関連保証及びその他の保証ごとに、当該債務者
(株式会社日本政策金融公庫法 及び沖縄振興開発金融公庫法 の特例)
第十四条  株式会社日本政策金融公庫又は沖縄振興開発金融公庫は、株式会社日本政策金融公庫法 (平成十九年法律第五十七号)第十一条 又は沖縄振興開発金融公庫法 (昭和四十七年法律第三十一号)第十九条 の規定にかかわらず、認定中小企業者(第十二条第一項第一号に掲げる中小企業者に限る。)の代表者に対し、当該代表者が相続により承継した債務であって当該認定中小企業者の事業の実施に不可欠な資産を担保とする借入れに係るものの弁済資金その他の当該代表者が必要とする資金であって当該認定中小企業者の事業活動の継続に必要なものとして経済産業省令で定めるもののうち別表の上欄に掲げる資金を貸し付けることができる。
2  前項の規定による別表の上欄に掲げる資金の貸付けは、株式会社日本政策金融公庫法 又は沖縄振興開発金融公庫法 の適用については、それぞれ同表の下欄に掲げる業務とみなす。
(指導及び助言)
第十五条  経済産業大臣は、中小企業者であって、その代表者の死亡等に起因する経営の承継に伴い、従業員数の減少を伴う事業の規模の縮小又は信用状態の低下等によって当該中小企業者の事業活動の継続に支障が生じることを防止するために、多様な分野における事業の展開、人材の育成及び資金の確保に計画的に取り組むことが特に必要かつ適切なものとして経済産業省令で定める要件に該当するものの経営に従事する者に対して、必要な指導及び助言を行うものとする。
   第四章 雑則
(権限の委任)
第十六条  この法律に規定する経済産業大臣の権限は、経済産業省令で定めるところにより、経済産業局長に委任することができる。
   附 則
(施行期日)
第一条  この法律は、平成二十年十月一日から施行する。ただし、第二章の規定は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(相続税の課税についての措置)
第二条  政府は、平成二十年度中に、中小企業における代表者の死亡等に起因する経営の承継に伴い、その事業活動の継続に支障が生じることを防止するため、相続税の課税について必要な措置を講ずるものとする。
(検討)
第三条  政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。
別表 (第十四条関係)
一 小口の資金株式会社日本政策金融公庫法第十一条第一項第一号の規定による同法別表第一第一号の下欄に掲げる資金の貸付けの業務又は沖縄振興開発金融公庫法第十九条第一項の業務
二 農林漁業の持続的かつ健全な発展に資する長期かつ低利の資金株式会社日本政策金融公庫法第十一条第一項第一号の規定による同法別表第一第八号の下欄のチ、ヲ若しくはタに掲げる資金の貸付けの業務又は沖縄振興開発金融公庫法第十九条第一項の業務
三 長期の資金(前号に掲げるものを除く。)株式会社日本政策金融公庫法第十一条第一項第一号の規定による同法別表第一第十四号の下欄に掲げる資金の貸付けの業務又は沖縄振興開発金融公庫法第十九条第一項の業務

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