新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.890、2009/6/24 9:53 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

【刑事・動物愛護法】

質問:自分の隣に住む人は、自分が飼っている犬に日常的に蹴るなどの暴力を加え、先日ついに殺してしまいました。自分のものとはいえ、生き物を殺すなんてあまりにひどいと思います。このような行為は法律上の問題はないのでしょうか?

回答:自分が、飼っている犬に日常的に蹴るなどの暴力を加え、最終的に殺害してしまった行為は愛護動物をみだりに殺傷した行為に該当し動物虐待罪が成立します。法定刑は1年以下の懲役または100万円以下の罰金です。捜査機関に刑事告発(刑事訴訟法239条)することができます。

解説:
1.最近のペットの飼育家庭の増加により、ペットに関するトラブル相談は増加しております。また、無責任な飼い主によるペットのトラブルもよく相談を受けます。動物は、法律的にはあくまで物として扱われます。従いまして、原則として、飼い主は自分のペットを自己の所有物として自由に管理処分することが出来るものと考えられてきました。よって、従来は自己所有物であるペットを殺害してもなんら問題はないことになりました。しかし、ペットは所有物であっても、命のある生物であり、それを虐待することは許されることではないとの世論が高まり、動物の生命を尊重し、動物を愛護すべきであるとの考え方が広く社会に認められるようになりました。このような考え方を法律的にも保護する価値があるとの見地から動物愛護の精神を保護するために「動物の愛護及び管理に関する法律」(通称:動物愛護法、以下、「動物愛護法」といいます)が制定されました。我が国もアジアに属し、歴史的にも無益な殺生を禁ずる仏教などの東洋的な考え方の影響を受けていることが底流にあるとも言えます。

この法律は、動物の虐待の防止、動物の適正な取扱いその他動物の愛護に関する事項を定めて国民の間に動物を愛護する気風を招来し、生命の尊重、友愛及び平和の情操の涵養に資するとともに、動物の管理に関する事項を定めて動物による人の生命、身体及び財産に対する侵害を防止することを目的としています(動物愛護法1条)。動物の権利を認めるということは現代市民法の考え方からすると無理なのですが、ペットや家畜動物を愛護しようとする人々の気持ちを保護しようという趣旨です。ですから、後でも説明しますが、野生動物は動物愛護法の対象にはなっていません。野生動物の保護は、愛護動物を大切にするという社会人の気持ちを守るということではなく、自然環境の保護という別の見地から鳥獣保護法という法律によって定められています。なお、国際的には、「ラムサール条約」や「ワシントン条約」により、水鳥や絶滅危惧種の保護が図られています。このような見地から、動物愛護法は、基本原則として、動物が命あるものであることにかんがみ、何人も、動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならないと規定しています(動物愛護法2条)。

2.以上のような基本的な理念のもとに具体的に規定されたものが動物虐待罪です(動物愛護法44条)。すなわち、@愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は、1年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処するものとし、A愛護動物に対し、みだりに給餌又は給水をやめることにより衰弱させる等の虐待を行った者は、50万円以下の罰金に処するものとし、B愛護動物を遺棄した者は、50万円以下の罰金に処するものとされています。基本原則として、すべての動物への殺傷の禁止を宣言していますが、犯罪として刑罰をもって殺傷を規制している対象は、愛護動物として法律で規定した範囲に限定を加えています。愛護動物とは、@牛、馬、豚、めん羊、やぎ、犬、ねこ、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる、A前号に掲げるものを除くほか、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するものです。@に属する動物に関しては、人の占有があるか否かを問わず愛護動物とされます。自分が飼育占有している場合ももちろん含まれます。

これらの種類の動物は人々に親しまれているもので、人の助けがなければ生きていけない種類の動物であるので、飼い主がいるか否かを問わず保護をしようという趣旨で規定されました。従いまして、完全に野生のものは含まれないと考えられています(野生動物については鳥獣保護法という法律で保護しています)。@に掲げられている動物以外のもので、人が占有している哺乳類、鳥類、爬虫類は愛護動物になります。ここでいう占有は、動物に対して事実上の支配関係があることをいい、飼育している場合はもちろんですが、一時的に預かっている場合等も含まれます。なお、現時点での動物飼育の環境および社会の通念から、魚類と両生類は含まれていません。この点は、条文で「哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するもの」と明記してあるので魚類や両生類は含まれないと、解釈するしかありません。この条文は刑罰を科している規定ですので限定的に解釈するしかないのです。今後、蛇や蛙がペットとして多くの人に飼われるようになると、これらの動物の虐待も禁じられるかもしれません。その場合は、法律の条文を改正する必要があります。

虐待行為の類型としては、@殺傷行為、A給餌又は給水行為をやめること、B遺棄行為の3類型が禁止されています。前2類型に関しては、法は「みだりに」行う行為を禁止しています。みだりにという文言は、あいまいですので解釈、あてはめという点でしばしば問題となります。初めに説明した通り、愛護動物を虐待する行為を禁止しているのは動物そのものを保護する目的ではなく、動物を愛するという社会一般人の考え方や気持ちを保護しようとすることから虐待行為を全部禁止するということはできないためです。殺人罪の場合は「人を殺した」ということで、みだりに人を殺したなどという規定はされていないことを考えれば理解できるでしょう。従って、単に当該行為の必要性や苦痛の有無だけでなく、目的の正当性、手段の相当性、周囲の状況など総合的に考慮して社会通念により判断することになります。具体的に問題とされた事例は下記のようなものです。@夫婦喧嘩の腹いせに、ねこの首を中華包丁で切断した行為、A団地の8階から犬を投げ落として殺した行為、Bねこをとらばさみで捕らえて、その足を植木ばさみで切断した行為などです(財団法人日本動物愛護協会「動物の保護及び管理に関する法律―あらましー」9頁)。

3.ただ、動物愛護法の適用にあたっては、慎重な判断がなされるべきであるといえます。動物愛護の精神は重要ですが、あくまでも動物愛護に関する公序良俗の維持が本法律の目的趣旨であり、個々の動物に人間と同様の権利を認めたものではないと考えられています。動物は食用などのために人間に利用されている現実もありますし、場合によっては公衆衛生上駆除する必要もあります。また、飼い主の個々具体的な経済事情なども考慮する必要があります。形式的にすべての動物への加害行為を虐待として刑罰を科すると社会生活の円滑を阻害する危険性があるといえます。よって、本件法律の運用においては、現実の社会常識、環境、風習、宗教観、倫理観、刑罰の重大性を総合的考慮して、個々具体的に慎重な判断がなされるべきでしょう。

4.本件の隣人の行為について検討します。自分がかっている犬に日常的に蹴るなどの暴力を加え、最終的に殺害してしまった行為について、正当な理由がなく殺害する行為は社会通念上許されるものではないので、愛護動物をみだりに殺傷した行為に該当します。よって、動物虐待罪が成立します。しかし、実際に刑罰を科す処分をすべきかどうかに関しては、前記の運用の理念から、行為の具体的な態様、社会的な影響などを考慮して社会通念に照らして慎重な判断がなされる必要があるでしょう。ただ、かかる判断は警察、検察が行うべきものですので、目撃した隣人としては、警察に届出をするとよいでしょう。

《参照条文》

動物の愛護及び管理に関する法律
(目的)
第一条  この法律は、動物の虐待の防止、動物の適正な取扱いその他動物の愛護に関する事項を定めて国民の間に動物を愛護する気風を招来し、生命尊重、友愛及び平和の情操の涵養に資するとともに、動物の管理に関する事項を定めて動物による人の生命、身体及び財産に対する侵害を防止することを目的とする。
(基本原則)
第二条  動物が命あるものであることにかんがみ、何人も、動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない。
(普及啓発)
第三条  国及び地方公共団体は、動物の愛護と適正な飼養に関し、前条の趣旨にのつとり、相互に連携を図りつつ、学校、地域、家庭等における教育活動、広報活動等を通じて普及啓発を図るように努めなければならない。
第四十四条  愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
2  愛護動物に対し、みだりに給餌又は給水をやめることにより衰弱させる等の虐待を行つた者は、五十万円以下の罰金に処する。
3  愛護動物を遺棄した者は、五十万円以下の罰金に処する。
4  前三項において「愛護動物」とは、次の各号に掲げる動物をいう。
一  牛、馬、豚、めん羊、やぎ、犬、ねこ、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる
二  前号に掲げるものを除くほか、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するもの

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