新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.800、2008/10/14 17:07 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm

【民事・相続・遺言執行者がいる場合相続人全員の合意で遺言の内容に反する遺産分割ができるか】

質問:父が亡くなりました。母はすでに亡くなっていますので、相続人は私と妹の二人だけです。遺産は1000万円の預金ですが、遺言が出てきました。遺言は、1000万円の預金を、姉600万円、妹300万円で分け、残りの100万円は、お世話になったAさんに贈与する。遺言執行者をB弁護士に指定する。という内容でした。姉妹で相談したところ、姉妹は400万円ずつ、Aさんには200万円という金額で話がまとまりそうです。遺言の内容とは違うことになりますが、遺言に関係ある人間が全員納得しているということになるわけですが、このようなことが可能なのでしょうか?また、B弁護士にまだ父が亡くなったことを報告していませんが、報告しなくてはならないのでしょうか?B弁護士から上記のような遺産分割を反対されることはありますか?

回答:相続人であるあなた方姉妹両名とAさん全員の同意があれば、遺言と異なる遺産分割ができます。但し、それはあくまで遺産分割ですから1000万円の預金を相続人である姉妹がどのように相続するかという分割方法を決めることになります。Aさんに渡す200万円は姉妹両名からの贈与ということになってしまいます(姉妹で、600万と400万円ずつ相続し、600万円相続した人が200万円Aさんに贈与するということももちろん可能です)。なお、遺言執行者は、遺産について一定の権限を持っていますので、きちんと報告しておく方が良いでしょう。

解説:本件の問題の理解には、相続、遺言の制度について知っておく必要があります。これらの点についてはホームぺージに詳しい説明がありますので参考にしてください。さらに、遺言執行者について理解しておいたほうが良いでしょう。そこで、遺言執行者の地位について前もってご説明します。どうして遺言執行者という制度が必要なのでしょうか。私有財産制による遺言自由、優先の原則に基づき遺言者の財産処分等の最終意思を忠実に実行するためです。遺言があれば、遺言の内容に従って相続人、受遺者(相続人以外で遺贈された人)が分割、実行すればいいはずです。しかし、遺言の内容は遺言により当然効力も生じるものもありますが(相続分の指定、分割禁止等)、遺言の内容を具体的に実行に移す行為が必要なものもありますし、遺産の占有者である相続人が遺言通りに実行しない場合も考えられます。例えば、相続人以外の人に遺贈する(民法964条)といっても利害関係を有する相続人が履行するかどうか確実ではありません。その他死後認知(民法781条2項、戸籍法64)、相続人の廃除(法893条)等がその例です。そこで遺言内容の実行に不安であれば、遺言者は自由に遺言執行者を遺言で選任することもできますし(法1006条)、裁判所も利害関係人の請求により遺言執行者の選任を認めているのです(法1010条)。従って、遺言執行者の地位、根拠はすでにこの世には存在しない本来の遺産の所有者である遺言者の最終意思に求めることができます。執行者の地位はこのように重要な地位ですから、相続人といえども遺言執行者を無視して遺言執行を妨げる一切の行為ができないのです(法1015条)。しかし、遺言執行者が選任されたとき肝心の遺言者は死亡により全ての権利を失い、相続開始時から相続人が遺産の権利者、主体となりますから(法896条、909条)、遺言執行者は全相続人の代理人となるのです(法1015条)。

そこで、遺言執行は、遺言者の意思を優先すべきか、全相続人の意思を優先すべきかが問題になるのですが、その答えは全相続人の意思に従うことになります(個別相続人ではありません)。一見遺言者、被相続人の意思を無視し執行者の地位に矛盾するようにも思いますが、遺言自由、優先の原則は遺産をどう処分するかということであり、相続によりその遺産の実質的所有者となった具体的相続人の処分意思まで拘束することはできません。理論的に相続開始により遺産の共有者となった相続人は、私有財産制、財産処分の自由の大原則により自由に遺産分割協議ができ全相続人が同意する限り遺言内容に反する取り決めが可能なのです。その根拠は、遺産分割において寄与分、遺留分等相続人のあらゆる事情を考慮し最終的に決められていくことからも明らかです(法906条、904条の2、1028条)。勿論、個々の相続人は、被相続人の最終意思を無視して他の権利者(相続人)の利益を侵害することはできませんから、勝手に遺言に反する処分取り決めはできません。相続・遺言執行の規定は以上の趣旨に従い解釈されることになります。

1.以上の点を前提に本件について具体的に説明します。遺言がある場合に、相続人および遺贈の相手方全員の同意によって、遺言と異なる遺産分割ができるでしょうか。遺言は、亡くなった人が生前の自分の財産を死後どのように処分するか決めることができる制度です。とすると、遺言があるのに相続人が遺言と異なる財産の処分を決めることは遺言制度を無視することになるようにも思われます。しかし、遺贈(遺言で相続人以外の人に財産をあげる場合)の場合、遺贈を受ける人はこれを拒否することができます。同様に、相続人の意思も尊重され相続の放棄という制度も認められています。そこで、相続人全員が遺言と異なる相続分での分割を希望すれば、遺言と異なる分割の協議も有効と考えられます。仮に遺言とおりの分割しかできないとしても、いったん遺言の内容を実現した上で、再度譲渡することもできてしまうわけですから、相続人や受遺者全員の同意があるにもかかわらず、無理に遺言の内容を実現する必要もないと考えることができるからです(再度の譲渡とすると贈与税が課税されてしまうので、法律上は可能でも税金対策としては問題が生じてしまいます。)。

2.このように考えるとして、遺言執行者がいる場合民法の次の規定との関係が問題となります。
民法第1013条  遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
遺言と異なる分割は遺言執行者の執行を妨げる相続財の処分行為に当たるのでないか、という疑問です。遺言執行者は、相続財産を管理する権限を持ち、遺言の内容を実現することを責務としています。したがって、相続人は遺言執行者の執行業務を妨害できないとされているのです。しかし、遺言執行者がいる場合といない場合とで、遺言と異なる遺産の分割ができるか否か結論に違いがあるのは誰が見てもおかしいことでしょう。そこで、遺言執行者の有無にかかわらず、遺言と異なる遺産分割は可能と考えられます。遺言執行者と言えども、遺留分を侵害する遺言があった場合に、遺留分減殺請求をされてしまえば、遺留分を考慮した(遺言とは異なる)遺産分割をせざるを得ないこと、利害関係人の利益にも反しないからです。他方、遺言執行者の責任という面からも遺言と異なる割合での遺産分割について、遺言執行者が同意することはできる(責務に反しない)と考えられています。

3.民法では、被相続人の死亡と同時に相続財産は被相続人から相続人に移転することになっています。そのため、遺言執行者は、相続人の代理人として相続財産を遺言に従って分割するという責任を負うことになります(1015条)。相続人の代理人ですから、相続人の意見を無視することはできないはずです。他方で遺言に従って分割するという責任を負っている訳ですから一部の相続人の意見に従う必要はないことになります。このような民法の規定を総合的に考えると、相続人は遺言に従って遺言を執行する遺言執行者の仕事を妨害することはできないが、相続人全員の一致した意見には遺言執行者は従うことになる、ということになります。この点に関し、東京高裁裁判例平成11年2月17日では、遺言執行者に無断で遺産分割協議を済ませてしまった相続人に対し、遺言執行者が遺産分割協議の無効を主張した事件において、遺言執行者について訴えの利益なしとして請求を退けています。この裁判例では、遺言執行者に無断で遺産分割協議がおこなわれても、遺言執行者の同意がない、という理由だけでは、無効を主張することはできないという判断が示されています。

4.以上のように遺言と異なる遺産分割は可能として、なお、遺言執行者がいる場合、その旨の連絡をしたほうが良いのか疑問が残ります。遺言執行者は執行者に就任する場合承諾して初めて執行者になります。但し、遺言執行者は執行者に遺言執行者の就任前でも、民法1013条「遺言執行者がある場合」にあたるとする判例があります(昭和62年4月23日)。とすると、法律上必要というわけではありませんが、トラブルを避けるという意味で、遺言に記載された遺言執行者には相続が発生したことを直ちに連絡し、その際遺言と異なる分割をしたい旨連絡した方が良いでしょう。遺言執行者も、利害関係人全員が同意しているのに、遺言の内容を無理に押し進めることはしないでしょう。

≪条文参照≫

(認知の方式)
第七百八十一条  認知は、戸籍法 の定めるところにより届け出ることによってする。
2  認知は、遺言によっても、することができる。
(遺言による推定相続人の廃除)
第八百九十三条  被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
(相続の一般的効力)
第八百九十六条  相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
(寄与分)
第九百四条の二  共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
2  前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
3  寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
4  第二項の請求は、第九百七条第二項の規定による請求があった場合又は第九百十条に規定する場合にすることができる。
第三節 遺産の分割
(遺産の分割の基準)
第九百六条  遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
(遺産の分割の協議又は審判等)
第九百七条  共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。
2  遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。
3  前項の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。
(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)
第九百八条  被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
(遺産の分割の効力)
第九百九条  遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
第九百六十四条  遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。ただし、遺留分に関する規定に違反することができない。
第九百八十五条  遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
2  遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。
第九百八十六条  受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。
2  遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
第千六条  遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。
2  遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その指定をして、これを相続人に通知しなければならない。
3  遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは、遅滞なくその旨を相続人に通知しなければならない。
第千七条  遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。
第千八条  相続人その他の利害関係人は、遺言執行者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に就職を承諾するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、遺言執行者が、その期間内に相続人に対して確答をしないときは、就職を承諾したものとみなす。
2  遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。
第千十二条  遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2  第六百四十四条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。
第千十三条  遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
第千十五条  遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。
第千二十条  第六百五十四条及び第六百五十五条の規定は、遺言執行者の任務が終了した場合について準用する。
第千二十一条  遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とする。ただし、これによって遺留分を減ずることができない。
第八章 遺留分
(遺留分の帰属及びその割合)
第千二十八条  兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一  直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二  前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一

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