新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.795、2008/8/22 15:38 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm

[家事,連帯保証債務の相続]

質問:連帯保証債務はどのように相続されるのか教えてください。先日,父が亡くなりました。父は地元では有名なスーパーマーケットを経営していましたが,過労がたたってか,まだまだこれからというときに急死してしまいました。相続人は,母,長兄,次兄,末の妹(=私)です。相続財産は,父のスーパーの株式,父が会社に賃貸していたスーパーの敷地,預貯金などですが,銀行からの借金もあります。会社が銀行から1億5000万円の借入れをした際に社長である父がその連帯保証人になっていたのです。会社を継ぐ長兄が株式やスーパーの敷地を相続する代わりに連帯保証債務も全部引き受けると言っていますが,そのようなことは可能なのでしょうか。私が連帯保証債務を負わなくて済む方法はあるでしょうか。

回答:
1億5000万円の連帯保証債務は,母が7500万円,兄妹3名が2500万円ずつ相続します。相続人は,その相続額の範囲内で会社の連帯保証人になります。共同相続人間で債務を誰が相続するかを決めても,それは共同相続人間の内輪の約束にしかならず,銀行には対抗(主張)できません。債務を一切相続したくなければ,積極財産の相続も諦めて相続放棄するのが大原則ですが,本件の場合,銀行との交渉の余地も一応あるでしょう。

解説:
【金銭債務は当然に分割して承継される】
相続財産のうち可分債権(分割可能な債権)は,法律上当然に分割され,共同相続人がその相続分に応じて権利を承継します(民法899条,最高裁昭和29年4月8日判決,当事例集782番参照)。これと同じことが可分債務についてもいえ,金銭債務は可分債務なので,法律上当然に分割され,共同相続人が相続分に応じて義務を承継します。

【連帯保証債務の相続――分割承継説・判例から】
連帯保証債務も金銭債務です。学問上は,連帯債務について,相続という偶然の事情により債権を弱めるべきでないなどの理由から,相続人各自が全額について連帯債務を負うと解するべきとの考え方(非分割承継説)もあります。しかし,判例・実務上は,可分債務である以上相続分に従って分割され,各相続人は承継した範囲で連帯債務者となるとする考え方(分割承継説)で固まっています。とすれば,連帯保証債務についても,連帯債務の場合と同様に解されると見るべきです。したがって,冒頭の回答のとおり,連帯保証債務は相続分に従って分割され,各相続人は,それぞれ分割して承継した額の限度で会社を連帯保証することになるのです。

≪最高裁昭和34年6月19日判決≫
連帯債務は,数人の債務者が同一内容の給付につき各独立に全部の給付をなすべき債務を負担しているのであり,各債務は債権の確保及び満足という共同の目的を達する手段として相互に関連結合しているが,なお,可分なること通常の金銭債務と同様である。ところで,債務者が死亡し,相続人が数人ある場合に,被相続人の金銭債務その他の可分債務は,法律上当然分割され,各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと解すべきであるから(大審院昭和五年(ク)第一二三六号,同年一二月四日決定,民集九巻一一一八頁,最高裁昭和二七年(オ)第一一一九号,同二九年四月八日第一小法廷判決,民集八巻八一九頁参照),連帯債務者の一人が死亡した場合においても,その相続人らは,被相続人の債務の分割されたものを承継し,各自その承継した範囲において,本来の債務者とともに連帯債務者となると解するのが相当である。

【共同相続人間で債務引受をする遺産分割協議の効力】
長兄が連帯保証債務を全部引き受け,あなたが連帯保証人から抜けるという遺産分割協議をすることはできるでしょうか。まず,債権者である銀行に対する関係ではできません。上記のような合意は,あなたが負うべき債務を長兄が引き受け,あなたが債務を負担しなくなるものなので,免責的債務引受と呼ばれます。免責的債務引受は,債権者の債権回収可能性の点で債権者にとって重大な影響が及ぶ恐れがあるため,この合意が有効に成立するためには債権者の合意・同意が必要です。裁判例も相続債務は遺産分割協議の対象にはならないとしています。したがって,銀行が債務引受に同意せず,連帯保証債務の履行を求めてきた場合,あなたは長兄との上記合意を主張してこれを拒むことはできません。他方,あなたと長兄の間における内部的な求償契約としては,有効と考えられます。債権者との関係では対抗できないものの,連帯保証人間の内部合意としてならば,負担部分をどう割り振るかは自由に決めることができます。したがって,上記のような遺産分割協議をしておけば,あなたが銀行からの請求に応じて支払った場合,長兄に対して求償することができます。この求償に債権者の同意は不要です。

≪大阪高裁昭和31年10月9日決定≫
被相続人の負債即ち相続債務は,それが可分のものであれば,相続開始と同時に,当然共同相続人に,その相続分に応じて分割承継せられるのであり,また不可分のものであつても,これを特定の相続人の負担とするのは,債務の引受として債権者の承諾なき以上効力を生じない関係にあるのであるから,遺産分割の対象たる相続財産中には,相続債務は含まれないものというべきである。

≪東京高裁昭和37年4月13日決定≫
遺産分割の対象となるものは,被相続人の有していた積極財産だけであり,被相続人が負担していた消極財産たる金銭債務の如きは相続開始と同時に共同相続人にその相続分に応じて当然分割承継されると解せられ,遺産分割によって分配せられるものでない。

【債権者である銀行との交渉の可能性】
前記のとおり,銀行の同意が得られない限り,あなたが連帯保証人から抜けることはできません。そして,通常,銀行がそのような同意をしてくれることはないでしょう。しかし,銀行としても連帯保証債務が相続によって細分化されてしまうことは望まない場合があるといえます。もともと,銀行は,当初の連帯保証人(被相続人・前社長である父)の経営能力・資力を引き当てにしていたのでしょう。とすれば,経営権とその他の相続財産が共同相続人のうち特定の者に相当程度集中し,その者が法定相続分の割合を超えて連帯保証をしてくれるのであれば,引き替えに一部の相続人を連帯保証人から外すとすることも,銀行にとっても決して悪い話ではありません。

したがって,あなたの相続する財産が法定相続分よりもかなり少なく,経営権(株式)を含む相続財産の大部分を相続する後継者が連帯保証債務の全額を引き受けてもよいという状況であれば,銀行と話し合いをしてみる価値はあるといえるでしょう。被相続人の相続財産の状況や,各相続人の固有財産などを分析し,銀行に提案のメリットを理解してもらうよう説得する必要がありますから,こうした交渉をご検討の場合は,弁護士にご相談・ご依頼なさることをお勧めします。また,今回は被相続人が急になくなられてしまったケースであるため,やむを得ず相続開始後のご相談となってしまいましたが,円滑な企業の継承を図るためにも,社長の元気なうちに検討しておくことが賢明といえます。

【参照法令】

≪民法≫
(共同相続の効力) 第899条 各共同相続人は,その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。

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